2018年1月24日更新:
都立推薦入試の出願日は年明けの1月下旬。
推薦入試の受験を決心した君は、既に対策を始めているでしょうか、それとも、正月休みに集中して対策を行う予定でしょうか。あるいは、まだ出願について迷っているのでしょうか。
今回は推薦入試を決定するこの時期、冬休みの入試対策や実際の合否にも影響を与えると思われる、推薦を受験する君にとっての気になる話題、「平成29年度に日比谷高校はなぜ推薦入試の得点配分を突然変更したのか?」その理由について考えてみたいと思います。
小論文重視への状況を確認する
平成29年度10月に行われた学校説明会に出席した保護者の方からいただいた情報によると、学校説明会の中で、推薦入試の得点配分変更が行われる旨については簡単な言及あったものの、変更の理由など詳細の説明はなかったということです。
今回の得点配分変更は、学力試験における4教科内申点の換算変更や特別選抜枠の廃止など、都立高校入試の制度改定に伴う措置ではなく、あくまで学校側の独自判断によるものと思われますので、何らかの意図があるはずです。
理由を検証する前に、改めて平成29年度からの変更点を確認してみましょう。
日比谷高校・推薦得点配分
平成28年 平成29年
調 査 書 450(50) 450(50)
討論・面接 300(33)→ 200(22)
小 論 文 150(17)→ 250(28)
( )内は100点換算割合
国立高校・推薦得点配分
調 査 書 500(50)→ 450(50)
討論・面接 200(20)→ 150(17)
小 論 文 300(30) 300(33)
その他の進学指導重点校5校については、配分変更はありません。
その結果、進学指導重点校の推薦得点配分は以下の通りとなります。
平成29年度推薦得点配分(100点換算)
調査書 面接討論 小論文
日 比 谷 50 22(33) 28(17)
西 40 27 33(作文)
国 立 50 17(20) 33(30)
戸 山 50 25 25
青 山 50 17 33
八王子東 50 20 30
立 川 50 20 30
日比谷と国立の( )内は平成28年度
こうして並べてみると、平成28年度入試までは、進学指導重点校の内、日比谷高校だけが小論文よりも面接を重視する唯一の学校だったことが分かります。
これは、元より小論文重視だった他校と比較すると、特別なポリシーを感じるユニークな方針ですが、平成29年度より他校に追従するような配点となりました。
このことからも、得点配分変更には特別なメッセージが込められているように思いますが、なぜ日比谷高校は広くその意図を発信しないのでしょうか?
都立推薦全体の傾向を確認する
日比谷の状況を考える前に、基礎情報として、「普通教育を主とする」全ての学校について得点配分を調べてみました。普通教育校の推薦入試は全体105校で実施されています。
平成28年度 都立推薦入試得点配分傾向
配点の高い科目 面接 同配分 小論文
進学重点校 1(14) 1(14) 5(72)
進学特別推進校 0(0) 3(60) 2(40)
進学推進校 1(8) 11(84) 1(8)
一般校 55(70) 17(22) 8(10)
合計(全体) 57(54) 32(31) 16(15)
( )内は割合を示す。国際高校は上記に含みません
全ての普通科高校を並べると、推薦入試の得点傾向がはっきり理解できます。
学力の高いグループ程、小論文(または作文)の配点が討論・面接よりも高いのです。
つまり、論理的思考力をより重視しているということです。
いわゆる入試偏差値の高低により、これほど傾向が明確に現れるとは思いませんでしたが、こうした状況は直感的に理解できる種類のものでしょう。
興味深いのは、各高校独自の判断の結果としてこのような結果が生じていることです。
こうして比較してみると、平成28年度までの日比谷高校推薦入試が如何に孤高で特殊な状態だったかが理解できます。
都内学力最上位でありながら、頑なに人物優先の推薦入試を実施していたのですから。
そういう意味では、平成29年度から他の難関校同様に小論文重視となったことは、なんだか少し寂しい気がしないでもありません。
あるいは日比谷の次の50年への飛躍を象徴する出来事であるかもしれません。
いずれにしても105校の内、平成29年度に得点配分の変更を行った高校は3校のみ。日比谷、国立の他には一般校の千歳丘のみです。ちなみに千歳丘は面接重視から、面接と作文が同点に変わりますので、やはり論理的思考重視にシフトしたことになります。
推薦実施状況からみる変更の意味
学校が理由を公表しない以上、変更の真意は誰にも分かりませんが、幸いにも、その理由を垣間見ることができる公の資料が存在します。
平成29年度以降の都立高校入試を語る上で、1冊の非常に重要な報告書が7月28日付で東京都教育委員会より発表されています。
「平成29年度東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書」
この中には、既存の入試制度導入の理由をはじめ、制度の成果、改善課題などがまとめられています。
主な検討の論点は、平成28年度入試における以下の項目です。平成30年度 自校作成問題復活に見る、都立高校改革の行く先 - 日比谷高校を志す君に贈る父の言葉
- 都立入試実施状況
- 推薦入試検証
- 学力検査検証
- 答案の本人開示検証
- 不登校、中退対策検討
そうです、都立高校入試報告書です。
この中に、平成28年度に実施された推薦入試についての検証報告が記載されています。
報告書によると、平成28年度に推薦入試を実施した都立高校は168校に上るため、必ずしも進学指導重点校の状況に特化した報告ではないことになりますが、都立高校全般に共通した課題を垣間見ることができます。
この東京都教育委員会の公式見解となる報告書の内容を紐解きながら、日比谷高校推薦入試得点配分変更の理由を考えたいと思います。
推薦入試に対する学校長意見
推薦を行う側、受ける側それぞれ現行の推薦入試制度に対しての率直な意見が述べられています。早速見てみましょう。
高等学校長の主な意見
教育委員会が推薦実施校に対して行ったアンケートについて、回答数は168、つまりすべての校長から回答を得たことになります。
教育委員会は、この中から4項目に絞って、高等学校長の主な意見として報告書に記載しています。
そのうち2点は、推薦入試の目的が適切に行われている旨の前向きな評価となっている一方、課題として挙げた点は、
- 集団討論・個人面接の評価方法をより適切なものとし、さらに評価する側の評価基準が一定となるよう、校内で研修会などを通じて徹底していくことが大切
- 基礎的な学力を前提に、思考力や判断力などを評価するのであるからこそ、集団討論や小論文などのテーマを一層工夫しないと、真に実力のある生徒の確保につながらない
最初の課題は、「集団討論や面接」の客観的な評価の難しさを素直に認めています。
日比谷の場合、平成28年度は238人が推薦入試を受験していますから、同一の教職員が全ての受験生と個人面接を行うことは難しいでしょう。
異なる担当官の面接評価を一定に保つというのは、入試に限らず、スポーツ、音楽どの分野であれ、容易なことではありません。
そのために同時に複数の審査員を配置して客観性を確保しようとするわけですが、担当が変わることに対する根本的な解決でないことは同様です。
二つ目の課題については、日比谷高校をはじめとするトップ校では、後で述べるように集団討論や面接での得点差が付きにくい状況にあるようです。このため各校、校風にあった全く内容も形式も異なる独自のテーマを設定しています。
そして、次に挙げられた内容は、行政の報告書としてはなかなか刺激的です。
推薦入学生に関する高等学校長意見
<評価すべき点>
- 学校生活に意欲的、クラスの盛り上げ役、学校外教育活動への高い関心
- 部活動など特別活動において推薦入学生の方が意識が高い傾向
<改善すべき点>
- 成績上位者と下位者の二層に分かれることが多く、学力に不安がある場合、進級や卒業が危ぶまれることもある
- 学力検査入学生と比較して、学習意欲に欠ける生徒や学習進度についてこられないことがある
上記の回答は、日比谷高校や進学指導重点校の意見とは限りませんが、推薦入学の検査方法を考慮すれば、概ね上記のような傾向が現れるのは、特別なことではなく一般的な理解の範囲内と思います。
ただそれを、東京都教育委員会が公文書で明記して認めている点に意味があります。
推薦と学力試験の入学者について、特に学力面での乖離をいかに適切な範囲に収めるかという点は、都立高校全般に当てはまる課題であるということではないでしょうか。
推薦入試状況に対する中学校長意見
では次に、中学校側の評価を見てみましょう。
中学校長の意見としては、推薦入試の実施に伴い、自分の考えを積極的に相手に伝えるコミュニケーション能力の向上につながっているという前向きな意見が多い反面、
- 集団討論や作文など、準備の負担が増えるため、学力検査に支障があると考えて、推薦入試を避ける生徒が増える傾向にある
- 集団討論・個人面談がどのように評価されているのか、観点だけではわかりにくく不安な点がある
- 学力的に十分とは言えない受験者が推薦入試で合格してしまうという声があり、そうならないよう、小論文・作文を通じて思考力を評価することが大切
最後の意見は高校側ではなく、中学校側から発せられている点が興味深いです。
暗に高校側の選考評価が甘いと指摘していますが、そもそも該当する高校への推薦を行ったのは中学校側ですから、矛盾する意見のようにも感じますし、あるいは別の保護者からの妬み節のようにも聞こえます。
いずれにしても、中学校側から見た場合でも、推薦で合格する生徒の中には、学力的にその高校に見合わない生徒が含まれる傾向にあるという共通認識があるようです。
教育委員会意見
以上、問題点や改善点に焦点を当てて報告書を覗いてきましたが、最後に教育委員会の方針として次の意見が述べられます。
- 推薦入試の評価方法や評価基準の設定方法を検証するとともに、校内研修などにより教員一人一人の評価能力の向上を図る
- 受検者の多様な能力を評価し、社会に必要な力を有した者や自校の特色に合う者を適切に選抜できるよう、検査のテーマや内容に一層の工夫と改善を図る
最初の文章において教育委員会も、担当官に依存しない公正な一定の評価を確保することの難しさを課題として認めています。
小論文重視に込められた思い
では最後に、今回の課題である得点配分変更の理由について考えたいと思います。
これ以後の検証内容は、教育委員会の報告書が示した意見に基づく本ブログ独自の考察にすぎませんので、あくまで参考とお考え下さい。
平成29年度の推薦入試の配分変更は、受験生にとって推薦準備にも合否の判定のも大きな影響を及ぼす内容ですから、本来は日比谷高校自身が受験生と保護者に対して明確なメッセージとして伝えてほしい内容です。決して事務手続き上の軽微な変更ではないように思います。
逆に考えると、積極的に理由を公表しないのは、どちらかというと前向きな変更というよりは、現在および今後発生する問題点や課題を解消するための制度調整と考えるのが実際の動機に近いように思います。
そしてその内容については、これまでに参照した委員会の意見の中にすべて含まれているのです。
学力面からみた得点配分の変更
個人的には、得点変更の最大の理由は推薦合格者と学力試験合格者の学力面での乖離の是正にあると思います。
日比谷高校の推薦で合格する生徒の多くは内申45だと思いますが、内申満点の生徒であっても、日比谷の自校作成問題は簡単には解けません。
塾に通わない場合でも、十分なレベルの高い応用問題に対応しておかないと歯が立ちません。解けても時間が足りないのです。
日比谷高校の推薦合格枠は男女合計で63人、全体の2割ですから、決して少ない人数ではありません。
しかも年々試験で合格する生徒の入学時学力が上がってきていることから、先の学校長意見にあるような、入学後の学力差の問題が、実際課題として認識されていても決して不思議ではありません。
従来の得点配分の場合、素内申点と面接の結果で合否の大勢は決しますから、5教科が公立中学の定期テストレベルの受験準備でも、日比谷の推薦合格を実現する可能性は残されています。
これ自体は多様性という面から見ると決して悪いことではないですが、入学後に合格者本人が学力面で困難な状況に陥るのは、本来優秀な生徒であるからこそ、本人にとっても学校にとっても望ましい状況ではありません。
またそうした状況が発生してしまった場合、本人への影響だけだけでなく、校内の風紀その他様々な問題の原因となる可能性を含んでいます。
従って、人物重視の選考を引続き念頭に置きながらも、こうした学力面でのミスマッチをできる限り解消したいという想いが小論文重視への得点配分変更に繋がっているのではないかと思います。
日比谷高校の小論文は、理科社会と小論文の複合問題的な、今でいう都立中高一貫校の適性検査に近い内容ですから、論理的な思考能力や表現力と同時に、間接的ではありますが、筆記試験とは観点の異なるレベルの高い学力検査に通じると考えることができると思います。
評価の公平性から見た得点配分の変更
学校長意見で指摘されているもう一つの重要な点は、集団討論・面接の評価の公平性の問題です。
これに対する対応として、報告書には次のように記載されています。
『入学者選抜における透明性を担保するとともに、公平性・公正性を確保するために、学力検査の得点だけでなく、自己PRカード点、小論文・作文点、面接店及び実技検査点についても、平成16年度入学者選抜から開示することとした』
合格者も不合格者も、都立受験生は全て自分の得点を知ることができます。
これはつまり、状況により、学校側が得点に対する説明責任を求められることでもあります。
特に集団討論や面接を主として実施している推薦入試においては、この得点の公平性を担保することが実際には難しいと、学校長も教育委員会もはっきり認めています。
その点は、一般常識からも想定できる内容だろうと思います。
日比谷高校は、この点についても強く気にしているように思います。
集団討論・面接は、ビデオなどによる実施内容の共有化を図った上での採点は現実的ではありませんから、担当した教員の主観に評価が左右されることは排除できません。
これに対して小論文であれば、答案の事後採点になりますから、複数採点者間での情報共有や繰り返しの採点チェックも容易に対応することが可能であり、面接などと比較すると、より客観的な評価が実現しやすいと考えられます。
集団討論・面接では得点差が生じにくい
推薦入試にも大きくかかわる学校ポリシー『本校の期待する生徒の姿』には、日比谷高校が求める生徒を以下のように表現しています。特に推薦入試を受ける君は必ずチェックすべき内容です。
ここに示された、特に推薦入試において求められる要件、
- 出席状況が良好
- 良好な内申点
- 英検準2級に準ずる資格
- 生徒会、部活など役職
- 部活での優秀成績
- 論理的思考力や考察力、的確な表現力
日比谷高校の推薦を受験する生徒の多くが、これらの基準を十分満たしていると思うのです。そしてそれを裏付けるかのように、日比谷高校ホームページに掲載された、平成28年度推薦入試の全受験者の得点分布は以下の通りです。
グラフだと分かりにくい点があるので、一覧に落としてみました。
これを見ると、集団討論・面接では正規分布ではなく、300連満点中240点以上の高得点者が一定数存在し、ちょうど定員と同じ63人(26.5%)もいます。
逆に小論文は平均点を頂点に、きれいな正規分布をなしています。
これは日比谷の推薦受験生の多くは、先の期待する生徒像の求められる要件を満たす生徒が多く、面接などの人物評価では得点差が現れにくいという現実を表しているように思います。
集団討論・面接と小論文の得点割合が2:1の平成28年度の場合、この状況では小論文での逆転が生じにくいでしょう。
それはすなわち、小論文対策に時間を費やすのはもったいないという受験生心理の要因につながりやすく、学校が求める生徒の推薦入試へのチャレンジをむしろ回避させるという状況を生じていた可能性は否定できません。
この得点配分が逆転、つまり1:2に変更になることで、正規分布をなす小論文の得点を軸に、集団討論・面接の得点により合否の判定が変わるという、選抜方法としては適切な状況が生じるように思います。
日比谷高校推薦入試得点変更まとめ
これまで見てきた通り、東京都教育委員会報告書および平成28年推薦入試の実施状況から、平成29年度入試における変更の原因は、あくまで個人的な見解ではありますが、以下の通りだと考えます。
- 学力試験合格者との学力の乖離の是正
- 選抜評価への公平性・公正性の確保
- 適切な競争の確保
以上の結論をみると、受験生にとっては大きな変更には違いありませんが、日比谷高校にとっては制度のブラッシュアップ、より適切な選抜を実施するための評価方法のさじ加減という範疇にあるのかもしれません。
だから大々的に公表する必要はないのだと。
この、学校からの沈黙のメッセージをどう受け止めるのか。
学力の問題は受験時の問題であって、基本能力の高い君であれば、入学後の状況は努力次第ですからそれほど恐れる必要はないでしょう。
実際に平成28年度大学入試において、日比谷入学時には最下位層だった生徒が東大現役合格を果たしたという明るいニュースもあります。
「本稿の期待する生徒の姿」の通り、誠実に努力する決意と明確な目的意識をもって入学を果たした君であれば、スタート時点の学力に関わらず、最低でも現役で早慶というレベルに達するのは困難な事ではないでしょう。
いずれにしても、日比谷高校推薦入試を真摯に目指す志の高い君にとって、新しい評価点は一見的な受験生を吹き飛ばす、追い風であるように思います。
推薦入試に対し誠実に努力する決意をもって、臆することなく大海原に一人漕ぎ出さんとする君の元に、微笑みの女神の息吹が届きますように。
ではまた次回。
2017年2月25日追記:
2月18日付の朝日新聞デジタル版の記事で、都立国立高校の岸田校長が、推薦入試における小論文重視転換の理由を自らの言葉で述べています。
それによると、
受験知識を詰め込んだ子じゃなく、自分の言葉で論理的に表現できる子が欲しい。内申点は正直、学校間格差がある。かといって、面接は3人に2人は生徒会長のいい子ばかりで差が見えにくい。小論文は、あえて対策しづらい出題にし、欲しい生徒への思いをこめています。
ということです。
やはりトップ校の推薦入試を受ける内申点の高い生徒に対して、面接で差をつけるのは難しいと正直に告白しています。
そしてもう一つ、学校側は入試時点での瞬間風速的な受験学力よりも、学びとコミュニケーション素養をしっかり身に着けた生徒を求めているのだということです。
それは、東京大学が推薦入試に込めた思いと同じですね。
平成30年度日比谷高校 集団討論・個人面接の実施内容
「推薦に基づく選抜に関するQ&A」>>
東京大学が推薦入試に込めた思い
高内申点を取った悩める君に贈る
平成29年度推薦入試得点変更を知る