日比谷高校を志す君に贈る父の言葉

日比谷高校第一志望ながら、日比谷、開成、塾高のどこに入学すべきか、都立合格発表まで悩んだ父親が贈る、上をめざす君と家族を応援する徒然日記

APAに泊まったことはないが、南京大虐殺記念館を訪れたことはある

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 アパホテル国会議事堂前建設地から望む日比谷高校

 

 私は南京大虐殺博物館を訪れたことがあります。

 
5年ほど前のことだと記憶しています。
当時は中国との仕事が多く、出張や現地滞在時間も多い時期でした。
ずっと忘れていたのですが、最近のAPA報道で、この事実を思い出しました。

お話しするタイミングを探していましたが、都立高校出願が終了し、私立試験を明日に控えるこの隙間に、最近世間を騒がせるこの話題についてお話したいと思います。

 

施設を一人で訪問した理由

 この博物館の中国での正式名称は、『侵華日軍南京大屠殺遭難同胞紀念館』、日本ではほとんど馴染みがなく、いずれにしても日本人としては観光目的で立ち寄る施設ではなさそうです。

「そうだ、南京行こう。」

一文字違いで、意味するところも心情も風景も全く異なります。
こんなキャッチフレーズを想う日本人は皆無でしょう。
旅行代理店の店頭パンフレットにも、南京旅行という文字を見た記憶がありません。

どちらかというと、日本人にとっては近づくのが憚られるという心理的な距離感を伴う地域ではないでしょうか。

しかも当時はちょうど2010年から12年にかけて続く、中国国内での反日デモの拡大期。
普通の感覚だと、わざわざそんな場所に行くことはない、というところでしょう。

しかし私は、仕事で中国と関わり始めた頃から、密かに心に決めていたことがありました。それは、 


『南京に行くことがあったら、南京大虐殺記念館に行こう』


という思いです。

どこでそんな施設のことを認識したのかは覚えていませんが、とにかく中国との取引に関わって以来、潜在的にずっとそう思っていたのです。

歴史認識や国際関係の検証というよりも、自分が仕事やプライベートで付き合う国の人々の笑顔の深層にある、感情やモチベーションを理解したいと考えていたからです。

また同時に、中国で仕事をする以上は避けては通れない場所ではないか、という気負いのような感情もありました。

中国政府が歴史にどのような見解を持っているのか、そこがどのような意図を持つ施設なのか、そしてそこを訪れる一般的な中国人がどのような反応を示すかについて確認したいと思ったのです。

日ごろ優しく接してくれる一般の人々の、本音と建前ともいえる二重の深層心理の源泉がどこにあるのか、知りたいと思ったのです。

 

最初にそう意識してから何年も経ったある年に、最初で最後となるかもしれないような南京訪問のチャンスがやってきました。反日デモがくすぶる世の雰囲気の中でしたが、行かないという選択肢はありませんでした。 

その時私は、日本人一人でその施設を訪れました。

通訳兼務の現地スタッフと二人で南京を訪問しており、私から行こうと誘いましたが、一人で回りたいという気持ちが強かったため、施設の中では別行動としたのです。

それは、なかなか言葉に表現しにくい緊張のひと時。
受験開始の合図を待つ、あの瞬間の緊張とも異なります。
強いて例えると、潜入工作員の日常的な緊張感とはそのようなものでしょうか。
人々の中で本当の身分を潜めながら、目的を達成するのです。

その広大な敷地の中にいる日本人は私一人。
そんな自意識を胸に秘めながらのひと時です。

日本人の訪問を禁止する区域ではないはずなのに、施設に入るための手荷物検査の列に並んだ時から既に、「お前日本人か?」と聞かれたらどう答えようかと、内心穏やかならざる感情を抱きながら、一人無言で、写真を撮ることもなく黙々と、それでいて頭は冷静に見学していたことを覚えています。


 

記念館の明確な目的


 結論からいうと、この施設は300,000という数字を人々の意識に植付ける装置です。


原爆を通じて広く世界平和に訴えかけようという、広島平和祈念資料館(原爆記念館)とは、その名称も趣旨もだいぶ異なります。

ネット上の施設写真だけでは気づかないことですが、現地に立つと、とにかく入場してから退場するまで、『300,000』という無言のメッセージが必ず視線のどこかに意識されるよう、おそらく心理学的にも綿密に計算された効果的な形、巨大なオブジェだったり彫刻だったり、あるいはメッセージという形で配置され、訪問者の脳裏に焼きつくような仕掛けとなっているのです。


予備知識や歴史的先入観のない人間をこの施設にインプットすると、重苦しい展示物の通過儀礼を体験する中で、この数字に対して疑いのない歴史的事実として認識し、歴史の証言者としてアウトプットされるという装置です。

この施設を訪れることで、自分が歴史の生き証人のように自覚するのです。
だからこそ、国が国民の訪問を推奨する愛国施設に指定されているのでしょう。


この記念館は例えると、上野公園の国立科学博物館が丸ごとこのテーマと目的のために存在している、という感じでしょうか。

ただし上野の博物館入口にある巨大なシロナガスクジラのオブジェは、受難に叫ぶ巨大な人間の彫像に置き換わっており、その施設の性格を象徴しています。
建物のファサードは、国立西洋美術館を巨大にしたような意匠でしょうか、建築的にも立派な建物です。


教科書のような教育媒体による教育啓蒙活動の他に、こうした実習施設による体験活動により、自動車工場のベルトコンベアから吐き出される工業製品のように、今日も日本に対する特定の感情を移植された悪意なき一般市民が生み出されるのです。

逆に、こうした積極的な国家事業的啓蒙活動と比較すると、APA社長による自著の頒布活動は、活動規模も影響力も、あまりにささやかなことではないかと感じます。
一社会人から見ると、今回の中国政府の反応は、やはり立場を逸するほど過敏だと感じざるを得ません。

自国の主張に反するとはいえ、なぜ巨大な政府が、比較にもならない程小さな一民間企業の通常営業活動ににこれほど敏感に反応するのか、不思議です。


しかしながら、昨今の国際情勢やここに記載したような愛国啓蒙活動の状況を理解すると、その過剰な反応の理由の一端がぼんやり浮かんでくるように思うのです。

 

なぜ中国政府はかくもAPAに反応するのか?

 私は政治的な内容や歴史的な見解について論じるつもりはありませんし、今回の書籍は読んでいませんからコメントする立場にもありません。

あくまで報道に対するお茶の間判断にすぎませんが、個人的には、過剰ともいえる中国政府の反応の要因は、主に以下の2点にあるのではないかと感じています。

  • 国内プロパガンダ政策への脅威
  • アメリカ大統領選挙の結果

 

国内プロパガンダ政策への脅威

 中国政府はインターネット上の書込みやつぶやきを含め、思想や情報の囲い込みに対して莫大な予算と労力を投入していると思われます。
実際中国滞在中に、特定の検索キーワードが表示されないという事はよくありますし、グーグルなどへの制限も周知の通りです。

今回報道されているAPAの南京事件への疑義は、真偽は別にしてそれ自体は日本では周知の論点の一つであるし、より過激なネット上の情報だけでなく、街の本屋でも一般の方が手にすることができる範囲の情報です。 

では何が問題視されているのか?
それは、情報が提供される状況や仕組みにあるように思います。

つまり、APA社長個人の主義やホテルの営業姿勢に対する攻撃というよりは、APAの客室そのものが、中国政府から見た場合に、想定敵国の密室に仕掛けられたある種のプロパガンダ装置のように捉えられているのではないか。

中国の情報統制や学校、啓蒙施設での集団集約的なプロパガンダとは対照的に、ホテルの客室という、個別分散的に展開する洗脳装置として、アパホテルという箱を危険視しているのではないか、という気がします。


外国という、心理的に解放されたある種非日常の空間の中で、書籍を置くという消極的な発信方法であれ、中国政府が繊細にコントロールしている歴史認識に反する情報に、情報抵抗力のない無垢な一般国民が偶発的にでもアクセス可能という状況を危惧しているように思います。

中国国内で純粋培養された一般市民が、自分の生きる世界とは全く異なる価値観が存在するという事実や多様性をわずかでも意識する事自体が、政府にとって国家転覆の潜在的な脅威と感じているのではないかと思います。

どんなに堅牢で巨大なダムであっても、わずかなヘアクラックにより最終的には崩壊に至るように、中国政府は一点の曇りが発生し得る可能性そのものを強く危惧し、排除しようとしているのではないでしょうか。 

そういう意味で中国政府は、アパホテルに対し、自国民が回避すべき危険施設であり、長期的には排除すべき対象と認定したのかもしれません。

逆の見方をすると、中国政府はAPAが地道に取組む静かな啓蒙活動の手法に対して、最大限の高い評価を与えているということにもなるでしょう。

 

アメリカ大統領選の結果

 今更言うまでもなく、トランプ大統領は、中国国家主席が担ってきたイメージを全部一人で持って行ってしまいました。
トランプと比較すると、今や習国家主席はあまりに地味で目立たない存在のようです。


それはともかく、中国の過剰反応の背景には、永い歳月をかけて計画し、莫大な費用を投資してきたクリントン・ファミリーが突如失脚したことがあるように思います。

苛立っていると同時に、政府の戦略中枢内部は相当混乱しているのだと思います。

それがAPAに噛みつくという、余りにも小さいものを相手に騒ぎ立てるような分かり易い形で表に出てきているのではないでしょうか。
窮獅子鼠を噛むといったところでしょうか。

あるいはAPAの背後に、安倍首相の存在を感じているのかもしれません。


ですから、ちょうど始まったばかりの花粉症のように、まだしばらくは中国政府の過敏な反応は続くと思うのです。

明日からの日米首脳会談の状況によっては、北京の曇り空に危険な花粉が飛び散って、更にアレルギー反応が高まることがあるかもしれません。

 

 

日比谷高校とAPA

 日比谷高校とアパホテルとは、もちろん直接の利害関係はないでしょう。
しかし現在、日比谷高校正門近くに、APAグループのフラッグシップホテルが建設中ですので、2年後には日比谷の最寄りのホテルという存在となりそうです。

  

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キャピトル東急ホテルと山王森ビルの間、個人的には昨年の合格発表後の昼食の思い出が残る黒澤の正面に、2018年10月の開業を目指していますから、君が日比谷高校に入学した暁には、2年目の星陵祭や部活動が終わり、そろそろ大学受験を意識しようかという時期にオープンとなる見込みです。

日頃は静かな佇まいを残す護衛警察官の多い首相官邸下のこの通りも、その頃には出張者や旅行者の往来が激しくなっているかもしれません。

そして皮肉なことに、このアパホテル国会議事堂前の背後に鎮座する日枝神社を挟んだ外堀通りには、中国銀行(Bank of China)の東京支店が存在し、このホテルは中国人にとっては最も利便性の高いホテルの一つとなるでしょう。 

その頃の世界情勢が、どのように変わっているのか楽しみです。

 

さて、昨日2月8日に都立高校出願が終わりました。

日比谷高校の現在倍率は男子2.48倍、女子2.15倍で昨年よりも若干低下しています。
私立高校の結果発表を待って、来週14、15日に出願調整が入りますから、まだ確定倍率ではありませんが、現時点では内申点評価や特別枠廃止などの制度変更があった昨年と同様の傾向といえるでしょう。

PPAPやAPAなどと世間が騒がしいこの頃。
世界が激しく変わっていく中で、明日2月10日からいよいよ始まる私立本番に、変わらない万全の体調で臨むことができるようお祈りしています。

ではまた次回。

 

リオ・オリンピックで考える日本人であるという事