日比谷高校を志す君に贈る父の言葉

日比谷高校第一志望ながら、日比谷、開成、塾高のどこに入学すべきか、都立合格発表まで悩んだ父親が贈る、上をめざす君と家族を応援する徒然日記

南京大虐殺記念館のプロパガンダとアパホテルのしたたかさ

2017年12月13日更新:

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写真出典:南京大虐殺記念館ホームページ

 南京大虐殺博物館を訪れたことがあります。

確か2011年だったかと記憶しています。
当時は中国との仕事が多く、出張や現地滞在時間も多い時期でした。ずっと忘れていたのですが、アパホテルの書籍問題報道で、久しぶりに思い出しました。

そして2017年の今、追悼式典の話題でこの南京大虐殺記念館の存在がメディアを通じて一般に大きく発信された時、ちょうど中国で反日運動が高まるさなかの記念館を一人で訪れた当時の感情がしみじみ思いだされるのです。

今回は、日本人観光客が訪れることが少ないこの特異な施設についてお話します。

 

大虐殺記念館を一人で訪れた理由

 この博物館の中国での正式名称は、『侵華日軍南京大屠殺遭難同胞紀念館』、日本語に直すならば「中国侵攻日本軍による南京大虐殺被害者同胞記念館」とでもなるでしょうか、これまで日本ではほとんど馴染みがなく、いずれにしても日本人としては観光目的で立ち寄る施設ではなさそうです。

「そうだ、南京行こう。」

一文字違いで、意味するところも心情も風景も全く異なります。こんなキャッチフレーズを想う日本人は皆無でしょう。
旅行代理店の店頭パンフレットにも、南京旅行という文字を見た記憶がありません。

どちらかというと、日本人にとっては近づくのが憚られるという心理的な距離感を伴う地域ではないでしょうか。ですから今回、この記念館の名前や存在が日本国内のニュースで大きく取り上げられた時、その施設を訪れたことのある私は驚きと戸惑いを感じたのです。

当時はちょうど2010年から12年にかけて続く、中国国内での反日デモの拡大期。
普通の感覚だと、わざわざそんな場所に行くことはない、というところでしょう。しかし私は仕事で中国と関わり始めた頃から、密かに心に決めていたことがありました。それは、 

『南京に行くことがあったら、南京大虐殺記念館に行こう』

という思いです。

どこでそんな施設のことを認識したのか覚えていませんが、とにかく中国との取引に関わって以来、潜在的にずっとそう考えていたのです。

歴史認識や国際関係の検証というよりも、自分が仕事やプライベートで付き合う国の人々の笑顔の深層にある、感情やモチベーションを理解したいと考えていたからです。
また同時に、中国で仕事をする以上は避けては通れない場所ではないか、という気負いのような感情もありました。

中国政府が歴史にどのような見解を持っているのか、そこがどのような意図を持つ施設なのか、そしてそこを訪れる一般的な中国人がどのような反応を示すかについて確かめてみたいと思ったのです。

日ごろ優しく接してくれる中国の一般の人々の、本音と建前ともいえる二重の深層心理の源泉がどこにあるのか、知りたいと思ったのです。

 

南京への突然の出張機会

 最初にそう意識してから何年も経ったある年に、最初で最後となるかもしれないような南京訪問のチャンスがやってきました。南京市内の大学で、プレゼンを行う機会が舞い込んだのです。反日デモがくすぶる世の雰囲気の中でしたが、行かないという選択肢はありませんでした。 

そしてついにその記念館を訪れたのです。
私は迷わず日本人一人でその施設を訪れました。

通訳兼務の現地スタッフと二人で南京を訪問しており、私から行こうと誘いましたが、一人で回りたいという気持ちが強かったため、施設の中では別行動としたのです。

それは、なかなか言葉に表現しにくい緊張のひと時。
受験開始の合図を待つ、あの瞬間の緊張とも異なります。
強いて例えると、潜入工作員の日常的な緊張感とはそのようなものでしょうか。人々の中で自分の本当の身分を潜めながら、目的を達成するのです。

その広大な敷地の中にいる日本人は私一人。
ただでさえ日本人が好んで訪れる場所ではなく、平日の施設自体が空いている時間帯でしたから間違いないでしょう。そんな自意識を胸に秘めながらのひと時です。

日本人の訪問を禁止する区域ではないはずなのに、施設に入るための手荷物検査の列に並んだ時から既に、「お前日本人か?」と聞かれたらどう答えようかと、内心穏やかならざる感情を抱きながら、一人無言で、写真を撮ることもなく黙々と、それでいて頭は冷静に見学していたことを覚えています。
 

記念館の明確な目的と存在意義

 結論からいうと、この施設は『300,000』という数字を人々の意識に植付ける装置に違いありません。

原爆を通じて広く世界平和に訴えかけようという、広島平和祈念資料館(原爆記念館)とは、その名称も趣旨もだいぶ異なります。

ネット上の施設写真だけでは気づかないことですが、現地に立つと、とにかく入場してから退場するまで、『300,000』という無言のメッセージが必ず視線のどこかに意識されるよう、おそらく心理学的にも綿密に計算された効果的な形、巨大なオブジェだったり彫刻だったり、あるいはメッセージという形で配置され、訪問者の脳裏に焼きつくような仕掛けとなっているのです。

予備知識や歴史的先入観のない人間をこの施設にインプットすると、重苦しい展示物の通過儀礼を体験する中で、この数字に対して疑いのない歴史的事実として認識し、歴史の証言者としてアウトプットされるという装置です。

この施設を訪れることで、自分が歴史の生き証人のように自覚するのです。だからこそ、国が国民の訪問を推奨する愛国施設に指定されているのでしょう。
この施設を例えると、上野公園の国立科学博物館が丸ごと南京大虐殺のプロパガンダを目的として存在している、という感じでしょうか。

ただし上野の博物館入口にある巨大なシロナガスクジラのオブジェは、受難に叫ぶ巨大な人間の彫像に置き換わっており、その施設の性格を象徴しています。
建物のファサードは、国立西洋美術館を巨大にしたような意匠でしょうか、建築的にも立派な建物です。


教科書のような教育媒体による教育啓蒙活動の他に、こうした実習施設による体験活動により、自動車工場のベルトコンベアから吐き出される工業製品のように、今日もまた日本に対する特定の感情を移植された悪意なき一般市民が生み出されるのです。

逆に、こうした積極的な国家事業的啓蒙活動と比較すると、アパホテル社長による自著の頒布活動は、活動規模も影響力も、あまりにささやかなことではないかと感じます。
一社会人から見ると、その書籍に対する中国政府の反応は、やはり立場を逸するほど過敏だと感じざるを得ません。

自国の主張に反するとはいえ、なぜ巨大な中国政府が、比較にもならない程小さな一民間企業の営業活動ににこれほど敏感に反応するのか、不思議なほどです。

しかしながら、当時からますます混迷する国際情勢や、ここに記載したような愛国啓蒙活動の状況を理解すると、その過剰な反応の理由の一端がぼんやり浮かんでくるように思うのです。 

中国政府がアパホテルに過敏な理由

 私は政治的な内容や歴史的な見解について論じるつもりはありませんし、今回のアパホテル客室に常備された問題の書籍は読んでいませんから、コメントする立場にはありません。

あくまで報道に対するお茶の間判断にすぎませんが、個人的には、過剰ともいえる中国政府の反応の要因は、主に以下の2点にあるのではないかと感じています。

  • 国内プロパガンダ政策への脅威
  • アメリカ大統領選挙の結果
国内プロパガンダ政策への脅威

 中国政府はインターネット上の書込みやつぶやきを含め、思想や情報の囲い込みに対して莫大な予算と労力を投入していることは周知通りです。そしてその監視の目は厳しくなるばかりのようです。
実際中国滞在中に、特定の検索キーワードが表示されないという事はよくありますし、グーグルなどへの制限も普通のことです。

報道されているAPAの南京事件への疑問は、真偽は別にしてそれ自体は日本では周知の論点の一つであるし、より過激なネット上の情報だけでなく、街の本屋でも一般の方が手にすることができる範囲の情報です。 

では何が問題視されているのか?
それは、一つは情報が提供される状況や仕組みにあるように思います。

つまり、APA社長個人の主義やホテルの営業姿勢に対する攻撃というよりは、アパホテルの客室そのものが、中国政府から見た場合に、想定敵国の密室に仕掛けられたある種の逆プロパガンダ装置のように捉えられているのではないか、ということです。

中国の情報統制や学校、啓蒙施設での集団集約的なプロパガンダとは対照的に、ホテルの客室という、小規模分散的に展開する洗脳装置として、アパホテルという箱を危険視しているのではないか、という気がします。

しかも外国という、心理的に解放されたある種非日常の空間の中で、書籍を置くという消極的な発信方法であれ、中国政府が繊細にコントロールしている歴史認識に反する情報に、情報抵抗力のない無垢な一般国民が偶発的にでもアクセス可能という状況を危惧しているのではないでしょうか。

中国国内で純粋培養された一般市民や、あるいは日常的に中国政府のプロパガンダに漠然と疑問を抱いている若い世代を中心に、自分の生きる世界とは全く異なる価値観が存在するという事実や多様性をわずかでも意識する事自体が、中国政府にとって国家転覆の潜在的な脅威と感じるのではないかと思います。

どんなに堅牢で巨大なダムであっても、わずかなヘアクラックにより最終的には崩壊に至るように、中国政府は一点の曇りが発生し得る可能性そのものを強く危惧し、排除しようとしているのではないでしょうか。 

そういう意味で中国政府は、アパホテルに対し、自国民が回避すべき危険施設であり、長期的には排除すべき対象と認定したのかもしれません。

逆の見方をすると、中国政府はAPAグループが地道に取組む静かな啓蒙活動の手法に対して、結果的に最大限の高い評価を与えているということにもなるでしょう。

 

アメリカ大統領選の結果

 今更言うまでもなく、トランプ大統領は、中国国家主席が担ってきた独裁的で横暴なイメージを全部一人で持って行ってしまいました。
トランプと比較すると、習国家主席はむしろ地味で目立たない存在のようです。

それはともかく、中国の過剰反応の背景には、永い歳月をかけて計画し、莫大な費用を投資してきたクリントン・ファミリーが突如失脚したことも一因のように思います。
苛立っていると同時に、政府の戦略中枢内部は相当混乱していたのだと思います。

それがその当時、アパホテルに噛みつくという、余りにも小さいものを相手に騒ぎ立てるような分かり易い形で表に出てきているのではないでしょうか。
窮獅子鼠を噛むといったところでしょうか。
あるいはAPAの背後に、日本政府の存在を感じていたのかもしれません。

 

したたかなアパグループ 

 それにしてもアパグループは、巨大な中国政府の営業妨害や内政干渉に対しても、結局一歩もひるむことなく、問題視された南京事件に対する中国政府の見解を否定する内容を掲載した書籍の撤去には応じませんでした。
その静かな啓蒙活動は今でも続いている、というよりは当時の騒動を利用してむしろ自らの立場や主張をホームページに堂々と掲載すらしています。

 弊社ホテル客室に設置している『本当の日本の歴史 理論近現代史』等について、南京大虐殺を否定するものだとして批判的に取り上げる動画がインターネット上にアップされたことをきっかけに、昨日からご意見やお問い合わせをいただいていますので、ここで弊社の見解を述べさせていただきます。

 ご指摘のあった書籍は、本当の日本の歴史を広く知っていただくことを目的として、弊社グループ代表の元谷外志雄が「藤誠志」のペンネームで月刊誌『Apple Town』に連載している社会時評エッセイを1年分まとめたものに、まえがきとして解説を付して制作したもので、日本語の他に、英語訳も付いています。

 本書籍の中の近現代史にかかわる部分については、いわゆる定説と言われるものに囚われず、著者が数多くの資料等を解析し、理論的に導き出した見解に基づいて書かれたものです。国によって歴史認識や歴史教育が異なることは認識していますが、本書籍は特定の国や国民を批判することを目的としたものではなく、あくまで事実に基づいて本当の歴史を知ることを目的としたものです。したがって、異なる立場の方から批判されたことを以って、本書籍を客室から撤去することは考えておりません。日本には言論の自由が保証されており、一方的な圧力によって主張を撤回するようなことは許されてはならないと考えます。なお、末尾に本書籍P6に記載しています、南京大虐殺に関する見解を掲載いたしますので、事実に基づいて本書籍の記載内容の誤りをご指摘いただけるのであれば、参考にさせていただきたいと考えています。(以下省略)

出典:APA GROUPニュースリリース

正直言って、中国政府や韓国政府が繰り広げる内政干渉や世界各地で行うロビー活動に対する日本政府の対応について、多くの日本人がむしろアパグループのような筋の通った毅然とした対応を潜在的に望んでいるのではないでしょうか。

 

日比谷高校とアパホテル

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アパホテル国会議事堂前建設地から望む日比谷高校


 日比谷高校とアパホテルとは、もちろん直接の利害関係はないでしょう。
しかし現在、日比谷高校正門近くに、APAグループのフラッグシップホテルが建設中ですので、来年には日比谷の最寄りのホテルという存在となりそうです。  

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キャピトル東急ホテルと山王森ビルの間、個人的には日比谷の合格発表後の昼食の思い出が残るレストラン黒澤の正面に、アパグループは2018年10月の開業を目指して旗艦ホテルの建設を進めています。
君が日比谷高校に入学した暁には、星陵祭が終わり、そろそろ勉強モードに切り替えようかという時期にオープンとなる見込みです。

日頃は静かな佇まいを残す護衛警察官の多い首相官邸下のこの通りも、アパ開業の頃には出張者や旅行者の往来が激しくなっているかもしれません。

そして皮肉なことに、このアパホテル国会議事堂前の背後に鎮座する日枝神社を挟んだ外堀通りには、上記地図にも記載がある通り、中国銀行(Bank of China)の東京支店が存在しますから、このホテルは中国人にとっては最も利便性の高いホテルの一つとなるでしょう。 その時期でもやはり、中国政府による危険施設指定は続くのでしょうか。

2017年12月13日の南京事件80周年式典では、習国家主席や幹部が日本政府への配慮を見せたという内容も一部報道されました。
日比谷高校近くにアパホテルが完成する頃、世界情勢や日本政府と中国政府、北朝鮮との関係がどのように変わっているのか楽しみです。

世界が激しく変わっていく中で、間もなく始まる試験本番に向けて、受験生の君は変わらない万全の体調で臨むことができるようお祈りしています。

ではまた次回。

リオ・オリンピックで考える日本人であること

子供たちと訪れた北朝鮮国境の旅

外国政府による静かなる日本侵攻への危惧