日比谷か開成か?両方合格したらどちらを選ぶか

2020年5月24日更新:

f:id:mommapapa:20171126150053j:plain

 「開成高校と日比谷高校の両方に受かったら、8割は日比谷に行きますね」。こう話すのは都内のある中学生向け進学塾の講師だ。

出典:日経ビジネスオンライン2018年3月20日

 

 都立第一志望の君が開成高校合格を目指して勉強するということ。
それは要するにこの1年間、高校の学習範囲を先取りで勉強したということ。

開成に合格すれば大いなる自信をもって都立本番に臨むことができるのはもちろん、万一残念な結果となった場合でも、今までの努力は無駄にはなりません。

自校作成問題となった現状では、内申点のマイナスを跳ね返す大いなるアドバンテージを持っていることになりますし、結果どの高校に進学しようとも、既に学習面でのスタートダッシュを切っている状態ですから、これまでの受験勉強は決して無駄にはならないのです。

日比谷か開成か、悩める君へ

 開成高校に合格した場合、そのまま開成高校に進学すべきか、日比谷を受けるべきかどうか、今では悩む受験生や保護者の方も多いのではないかと思います。

そんな悩みを見越したかのように、まさにその点について直球で答える公開討論がサンデー毎日主催で行われています。

『初対談 日比谷・武内彰校長vs.開成・柳沢幸雄校長 両校に「合格」したら、どちらを選ぶ?』

この討論会は「毎日小学生新聞創刊80周年特別座談会」として企画されたものです。

それにしても、これ程直接的なテーマを掲げた公開討論会が企画されたこと自体も驚きですが、何よりも、学校の優劣比較に繋がりかねない直接的な題名の座談会に、両校長が共に登壇を了承したという点に驚かされます。

日本における公立高校と私立一貫校を代表する二人の校長が、200人の保護者が直接見守る目の前でこのテーマについて議論する企画ですから見逃せません。

今回はこの驚くべき記事の内容を垣間見ながら、高校からの進学選択について考えてみたいと思います。

意外だった冒頭質問の結果

 この企画は本当に野心的で、参加者200人に異なる色のついたカードを持たせ、司会者の質問にどちらかの色で答えるという試みを行っています。

私が最も注目したのは、開始早々の質問です。

お子さんが両校に合格したら、どちらを選びますか。日比谷なら緑色、開成なら黄色を上げてください。

両校長を前にして、いきなり剛速球ストレートの質問です。

これほど明確な二者択一の人気投票的な状況に晒される経験は、人生においてなかなかないのではないでしょうか。

もしかすると、紙面に掲載するために要素のみ抽出した結果そういう表現に校正されたのかもしれませんが、社会的な立場ある両校長を前にした遠慮のない進め方に、読者の方がやきもきします。このような状況に晒されて、二人の心中いくばかりかです。

この質問は、開始直後の冒頭質問、まだ対談が始まる前に参加者の立ち位置を確認するためのものでしょう。
ですから保護者一般の認識を表す貴重な結果です。

・・・半々くらいですね。

私は正直この回答結果に驚きました。

小学生新聞を購読する家庭、しかもわざわざ今回の対談に参加する保護者というのは、教育に相当関心が高く、しかもそれなりの収入があると思われます。参加者の多くの家庭が中学受験により中高一貫校を志望しているのではないでしょうか。

実際後半の質問では、3年制の高校よりも中高一貫校がよいと答えた参加者が圧倒的多数です。

そのように中高一貫校を志向する家庭であっても、日比谷と開成の両方に合格した場合には、つまり仮に何らかの理由で高校受験に臨む状況になった場合には、半数が日比谷高校にわが子を進学させようと考えている。

しかもこの結果は、まだ何の追加情報もない段階の、参加した保護者が潜在的に抱く意見です。

中学受験を志向する家庭の中で、高校受験に臨むのであれば日比谷高校がベターと考えている家庭が半数存在することになります。

実際には参加者の大半は子に高校受験をさせる気持ちはなく、現在小学生の子供がいる家庭ということは、第一子であれば30代が中心、第二子以降であれば30代後半から40代、上に兄弟がいる場合でも、都立高校の情報について詳しい保護者はそれほどいないと思われます。

何よりこの親世代は、自分が物心ついた頃から開成が東大合格ナンバーワン。

都立は学校群制度がすっかり定着して、大学進学実績は私立が圧倒的優位の時代を過ごした、都立高校に対する評価の著しく低い世代のはず。

参加者のほとんどは、日比谷高校の東大合格者数が1桁であることがあたり前の時代の高校生。比較相手の開成は、自身の学生時代から、既に男子中学受験組の憧れの一つのはずです。

であるにも関わらず、半々に希望が別れるというのはいったいどういうことでしょう。個人的には、日比谷高校を選択する家庭がずいぶん多いなという素直な驚きを覚えました。

そしてこの驚きは、当の武内校長自身も感じたようです。自身が出版した著作の中でその時の思いが語られています。

教育内容については日比谷を支持する保護者が、予想以上に多い印象を受けました。
これには、当事者として感慨深いものがあります。なぜなら10~20年前の都立高低迷期には、開成を蹴って都立高に進む選択肢はない、といっても過言ではありませんでしたから。
出典:武内彰著/日比谷高校の奇跡

社会的認知度が高まった都立改革

 半数の保護者が日比谷高校を選択した理由の一つは、いわゆる都立高校改革が、子供を持つ家庭を中心に、広く社会に認知された結果ということができると思います。

そのフラッグシップたる都立日比谷高校。

都立躍進に言及される際、日比谷高校に対しては必ず「復活」の文字が伴います。

かつての圧倒的な存在、大学に進学する学生自体が限られた時代にあって、現在の灘、麻布、開成、筑駒どのブランドよりも強力なアイコンだった事実が、小学生を持つまだ若い保護者にとっても一般的な認識として根付いてきたのでしょう。

日比谷高校が背負ってきた社会的使命や、全国の高校を代表する歴史的背景への評価も、学歴やブランド好きの若い世代の保護者への急速な認知と受入れを推し進める要因の一つとなったことと思います。

公立に子供を通わせるのは抵抗があるけど、日比谷ならいいかも。そんな声なき声が聞こえてきそうな結果です。

若い親世代の意識も変わりつつある。

今回の冒頭質問の結果を見て、本当にそう実感しました。

個人的には都立でも私立でも、そして国立附属でも、好きな学校に行くのが一番良いと思います。どこが一番、という絶対的な評価などあるわけがありません。

日比谷が合う生徒もいれば、西高校がしっくりする生徒もいる。同様に開成が、または国立附属の方が合うという志向の多様性は健全な感情です。

ただ、中学受験を経験しない場合でも、都立上位校に進学することで、自主自立を確保しながら中高一貫進学校に対する学習進度のキャッチアップとリベラルアーツを両立し、高校ブランド力の獲得を実現することが可能になった現在の状況は、都内中学生の3/4を占める公立中学校の生徒にとっても社会にとっても喜ばしい状況だと思います。

2016年度は東京大学50人超えの速報を皮切りに、本ブログの開設に共鳴するかのように7月辺りから、日比谷高校の復活を印象付ける大手メディアの記事が目立ちました。

この1年は、特に都立高校に対する前向きな認知度が、一気に社会全体に広まった年ではないかと感じています。そして2017年は、その認知度が加速的に高まった年だといえるように思います。

兄貴分の武内校長、父である柳沢校長

 それにしても今回の企画で少し残念な点は、せっかく両校長が同席しているにもかかわらず、二人の直接的な会話が掲載されていないということです。

司会者の質問に二人がそれぞれの回答を返すという形式で進んだためか、お互い言葉も視線も合わせることがないような状況のように感じました。滅多にない機会なので、直接対談する姿を見たかったと正直思います。

同じ都内の学校であっても、都立と私立の関係者が同席して、例えば大学入試改革に対する課題について一緒に協議したり、もっと広く意見交換するという機会は日頃から無いものでしょうか。教育委員会は、そういうコミュニケーションの場を積極的に設けてもよいのではないかと思います。

いずれにしても日比谷の武内校長は、物事を数値化して評価・分析するとともに、自ら現場も取り仕切る代表取締役兼執行役員、生徒や教員を直接引っ張る兄貴タイプ。

開成の柳沢校長は、組織の進む方向性や教育理念を発信する会長兼代表取締役、生徒や教員を見守る父親タイプ、というような印象を持ちました。

この性質をよく表す質問があります。

「塾にはどの程度の人が通っていますか。」

  • 武内校長:3年生は1~2科目選んで通っている生徒が多いです。通塾している割合は3年79%、2年45%、1年25%です。
  • 柳沢校長:塾は弱点の補強に利用できますが、最初から勉強の仕方を学ぶと良い結果を招きません。自分に適した勉強の仕方を見つけ出す努力が必要です

日比谷高校では、毎年生徒に対して様々なアンケートを集計していますが、武内校長はその結果を把握分析し、教師や生徒への指導に活用しているように思います。

柳沢校長は、分が悪いと感じて一般論を述べたのか、あるいは具体的な数字については把握していないのか分かりませんが、質問に明確な回答を示してはいません。

これはどちらがいいという事ではなく、改革期にはリーダーシップを発揮して自ら組織を引っ張るキャプテンが必要であるし、評価の固まった安定期には、むしろ大きく構えて大勢を見守る存在が必要だという事例だと感じます。

そして校長のリーダーシップと共に、日比谷高校は東大京大での推薦入試の実施や大学入試改革に見られるような、新しい教育体系に向けた自己変革の途中にあると言えるでしょう。

直近の日比谷高校に子を通わせた親としては、短期的な大学合格実績による世間の評価がどうであれ、圧倒的な伝統と知名度を背景に、中高一貫進学校では実現が困難な、高校3年型に特化した充実した教育環境を、これからも提供し続けてほしいと思います。

新高入学はお得なコースか

開成は高校からの入学もあります。完全な中高一貫にする予定はありませんか?

柳沢校長:まったくありません...3年間で中高6年分を経験できる生徒にとって非常にお得なコースですから、やめるつもりは全くありません。

 

”お得”という部分についてはその意味が不明確ですが、中学校の行事はもちろん共有できない訳ですからそうした意味ではなさそうです。

卒業時には、教員でも新高生か旧高生かを区別できなくなります。

とも発言していることから、3年間を通じて中学入学組と同化しているという事かなと理解しました。あるいは学力面でのキャッチアップのことかもしれません。

ただし、別のインタビューで柳沢校長は、以下のようにも語っています。

開成で過ごす6年間で彼らの「世界一の能力」が培われると感じています(中略)

初めて参加する中学1年生も中学2年生の振る舞いをみて学びます。とにかく「先輩の背中を見て学ぶ」という「自主性」が6年間を通して身についていく(中略)

開成では意図的に高校3年生と中学1年生が交流する機会を多く設けています。

東洋経済オンライン:2012年11月19日

このインタビュー記事からは、開成の人間形成はやはり6年間が基本であり、特に中学3年間の礎の大切さを感じます。

高校からの入学を考える保護者にとっては、中高一貫校の優れた点をアピールする程、冷静な疑問や迷いを生じます。

そして開成OB代表の次の言葉は、開成卒業生の正直な気持ちを語っているでしょう。

開成は高校からも入れますが、基本的には中高一貫の男子校です。

NIKKEI STYLE:2016年12月5日

開成学園は得難い教育環境と仲間たちが待ち受ける学校だと思いますし、将来の学閥に興味のある保護者には堪らなく魅力的な学校かもしれません。しかし高校から進学するのであれば、別の価値判断があってもよいと感じます。

最終的には、親の世間に対する面子だとか第三者からの評価だとか、誰かのために進学するのではありませんから、君自身の思う道を選択すればよいと思います。

女子であれば、同様に慶應女子との間で揺れ動く気持ちが生じるのかもしれません。

開成にしても、慶應女子にしても、そしてその他の私立大学附属や国立附属にしても、どこを選んでも一長一短。

それぞれ良さも悪さもあるのですし、これらの高校に合格している家庭の多くは、基本的には私立無償化とは関係のない世帯のはずですから、まずは君の素直な希望を親にぶつければいいと感じます。

そして2017年11月26日。
日比谷・武内校長と開成・柳沢校長、そして学芸大附属高校の改革を任された大野校長によるパネルディスカッションが行われ参加しました。日本を代表する私立、国立、公立高校の校長が、お互いを尊重しながら教育を語る姿が印象的でした。

そこでは改めて、行きたい学校に行くのが一番だと実感する機会となりました。学校選びは他人基準ではなく、自分自身を信じることが最良の方法ではないでしょうか。

ではまた次回

サンデー毎日 日比谷 vs 開成