都立高校受験本番を迎える君に贈るエール

2018年2月15日更新:
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 春一番、いよいよ入試本番を迎えます。

都立第一志望の君は、合格発表と共に訪れる啓蟄の喜びに向かって、この数年土の中で育んだ力を出し切る最後の時。
羽の先までしっかり力を出し切って、新しい世界に飛び立つための試練の日。

志望校の門をくぐる高揚する瞬間、試験会場でライバルに囲まれながら開始時間を待つ緊張のひと時、そして試験開始の合図と同時に表紙をめくり運命の試験問題と対面するその刹那。

その瞬間、どのような設問が目の前に現れても迷うことなくいつもの動作で試験に臨めるよう、試験前日は準備不足を数えて焦りを覚えるよりも、これまで取り組んだ努力の軌跡を自ら称えるように、親しんだ教材を感謝とともに読み返し、ゆっくりと気持ちと体調を整えることが大切ではないでしょうか。

 

都立入試の不確定性原理を越えて

 ある人、弓いることをならふに、もろ矢をたばさみて的に向かふ。師の言はく、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢をたのみて、初めの矢に等閑(なほざり)の心あり。毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ」といふ。わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。懈怠(けだい)の心、みづから知らずといへども、師これを知る。このいましめ、万事にわたるべし。」
出典:徒然草 第九十二段 

 

 都立高校入試は、小中学校入試や大学入試、どの入学試験とも違う。

学力の高い君も、お金に余裕のある君も、体力や精神力に自信のある君も、受けることができる学校は皆等しくたったの一校。

「この一矢に定むべし」

もろ矢をたばさみて的に向かうことが許されないその仕組みに、試験本番を前にした君は既にこの数か月、これまでの人生において自分自身が下す決断としては、おそらくは初めての、そして未来を左右する最も重大な選択の一つを、悩み苦しみながらも最後は自己責任で終えているはず。

希望する抑え校の合格を手にした君も、意中の抑えを確保することができなかった君も、そして初めから都立一本に集中して臨む君も、その誰もが第一志望への強い思いを込めて放つ合格への一矢。

「わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろそかにせんと思はんや。」

納得のいく抑え校を手にした君は、この戒めの気持ちを忘れず心の隙なく、手にした権利は本番に落ち着いて臨むためのお守りとして携え、

「初心の人、この一矢に定むべし」

都立一本で高校受験に臨む覚悟を決めた君や、残念ながらもう後のない君は、この古の「万事にわたる」教えの通り、一発必中の強い気持ちで試験に臨むことになる。

試験当日は、憧れの学校に初心よりぶれずに真直ぐ目標を定める者、置かれた状況を顧みて苦渋の決断で志望校を替えた者、内申点の不利を跳ね返すべく虎視眈々と逆転を狙う者、それぞれの思いと戦略が試験会場の中で交錯する。 


そしてそれぞれの思いを成し遂げるため、高い内申点を武器に決戦に挑む者と高い受験学力で逆転を狙う者が混在するが故に、都立高校入試は合格判定を特定しにくく、自らの目で受験番号を確かめるその瞬間までは、合格への憧れと不合格への恐れが重なり合いながらも合否不確かな状態が全ての受験生を等しく包み、結果を待つ者の志望校への思いの強さを募らせる。

そんな目に見えない不安に抗いながら、ひるむことなく自ら前に進む勇気を奮い立たせ、一生に一度しか経験することのない大切な試験に、最後まであきらめずに真摯に立ち向かう君。

都立高校受験に向かう君が、古の若武者が元服を迎えて初めて臨む戦場に立つが如く、並み居るライバルを間近に見て勇み立つ武者震いを抑えながら、試験本番の短い時間の中で一問一問目まぐるしく変わる戦況を前に、大小の葛藤や気持ちの起伏を乗り越えて君の夢をしっかり実現すことができればと、そう切に願います。


試験問題に対峙したその瞬間、喜びに気持ちが昂ぶり舞い上がったり、頭が真っ白になって何も手につかなくなるような場合は、少し目を閉じて、これまで続けた努力の軌跡と永い間見守ってくれた保護者や先生方への感謝の気持ちを想い出し、静かに目を開け改めて目の前の現実に立ち向かい、侮りもせず恐れもせず、従前定めた戦略に従って淡々と解答を進めていくことが、よい結果を引き寄せるのではないでしょうか。

そしてそのために、試験前日にはゆっくりお湯につかって気持ちと体をほぐし、十分な睡眠をとる。

公立中学校への入学を促して以来、難しい年頃の子供の成長を見守った保護者の方は、わが子の決断と力を信じ、試験当日の朝は、天下分け目の最後の決戦に向かう子供の背中を、いつもと変わらぬ優しいまなざしで送り出すのがよいのではないでしょうか。

 

日比谷高校受験生の君に贈るエール

 いま日比谷高校を目指す君は、志高く、そして勇気ある者でしょう。

日比谷高校に通う君は、良くも悪くも世間の耳目を集め、メディアやネットで持ち上げられたり叩かれたり、不特定多数の多くの関心に晒されることになります。

高校受験の中では、おそらく全国で最も注目される試験の一つであることに違いなく、そしてそれは同時に、最も厳しい試験の一つであるということ。

例年最終的な受験倍率は2倍前後、つまり合格は2人に1人、公立高校入試としては厳しい現実が君の心を打ち砕こうとして襲い掛かる。

そして、他の高校と大きく異なる点は、受験学力の想定上限がないこと。
学校側の志望取下げ指導や不足する内申点を苦にもせず、試験での逆転を狙って果敢に攻め込んでくる多くの兵が、高い内申点で身を包んだ輩の守りを崩しにかかる。

その下剋上の混沌とした様相が、おそらくは他の公立高校と比較して著しく高い。
それが現在の日比谷高校の不可視の合格点に隠された入試の特徴であり、入学後の強さの秘密の一つではないでしょうか。

だからこそ、日比谷を目指し、実際に出願し、本番を迎える君は、強い志と勇気を持つ者に違いありません。

 

都立高校受験に臨むために

 公立高校受験の特徴である悪名高い内申点制度は、世の中の現実世界を単純化した受験におけるスパイスのよう。

偏差値や、試験当日の点数だけで成否が決まる純粋な選考基準は、現実の世の中では、科学実験室のガラスケースの中にしか存在し得ない特殊解。
決して納得がいくことのない人事評価も、初めから結果の決まっている一般公募の選考会も、すべてが人間の主観的判断のなせる業。

そうした理不尽な世の中の体制や価値観に打ち克って、現在、志望校への挑戦切符を手にした君は、公立中学の門を叩いたあの日から、現実社会の縮図の中で過ごしたこの三年の間に大きな成長を遂げたことでしょう。

だから入試本番では自信をもって、自分の世界に浸ればいい。
他の誰かの合格戦術と、君が立てた合格への目標点はきっと全く違うはず。
試験会場で、誰かのペースに心を乱されることなく、自分の道を淡々と進めばいい。

そして今、混沌とした土の中からまさに新しい希望の世界に飛び立たんとする君が、試験を通じてうまく大空に羽ばたけるように、かつてわが子を見守った一人の保護者として、君にエールを贈ります。

試験当日の君の心を乱す伏兵は、東京の交通網かもしれません。
日々どこかで遅延や運休の発生する交通機関に、君の清く高らかな志がくじかれないよう、十分な余裕をもって出かけることを、父からの応援の言葉として、君に贈ります。

都立受験生の皆さん頑張れ!

ではまた次回。


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