入学到達点を意識した塾選びと受験マネジメント

2022年3月5日更新:

 都立高校受験に関しては、直近の2022年度入試において男女区別のないオープンな選抜へと段階的に移行するなど、数年毎に様々な入試制度の変更が発生します。

制度の在り方がどうであれ、公立高校入試の場合はいわゆる内申点が一定の幅を利かせることには変わりがなく、同時に受験生に求められる学力については時代を超えてより高く、より深くが求められるなど、複雑系の対応が求めたれることも確かです。

今回は、様々ある入試対策の中から、学力に応えるための学習塾の活用方法について考えます。

大切な入試ルールの把握

 中学受験や私立高校受験であれば、学力を向上させることがゴールまでの最短距離になると思います。この場合、地図上にコンパスはなくとも、進むべき方向は学力の向上という分かりやすい一本道。迷子になる暇さえありません。

ところが都立高校入試の場合、進むべき入試対策の方向性は多様化します。

つまり、いたずら好きの内申点が進むべき計画や羅針盤に狂いを与え、大海原のように広がる受験地図の中に、受験生を放り出してみせる。例えば次の図のように。

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赤い直線は日比谷高校の、青い破線は難関国立私立高校の合格ライン。見た目の通り、グラフの形状が全く異なります。

私立入試の破線は波線ともいうべき大海原と同じ真っ直ぐな水平線。水面上に顔を出すには、引かれたラインより上の学力を手に入れるしかない。

仮に図中の緑色の地点が現在の立ち位置だとすると、私立高校合格のためには、とにかく偏差値を上げていくことが合格への一本道。迷うことなどありません。

ところが都立の場合はそう単純な話ではない。 

このグラフで最も注目すべきは、赤いグラフが傾いているという事実です。 これが都立高校受験の極秘中の極秘情報です。
といっても、誰も隠しているわけではありませんが。

そして新たに日比谷高校を目指す受験生へ


都立入試の合格点は、試験当日の得点と内申点との総合評価で決まるため、合格ボーダーラインに傾きが生じます。つまり、合格点から手持ちの内申点を差し引いた得点が、学力試験の合格ボーダーになるということです。

このため同じ合格点といえども、多様な得点の獲得方法が存在するため、学力でみれば上下幅広いレンジの生徒が混在する事になります。このため、学力を上げるのか内申点を伸ばすのか、現在位置から合格ラインに向けた方向性も多様に存在するのです。

これから受験を迎えるスタート地点は、これまで手にした模試や学校の通信簿で客観的に把握可能だとしても、現在位置から舵を切るべきベクトルは、なかなか見極めるのが難しいことも確かです。

できれば、嵐が少なく順風満帆で、しかも効率の良い航路を選びたい。

どうせ勉強するなら、無駄なく合格への最大効果を発揮する最短距離を進みたいと誰しも思うもの。しかしそれがどの方角なのか、どこがその方向なのか、その道へ導くものが何なのか、すなわち何が最も効果的な勉強法なのか、誰も教えてくれません。

まさに大海原の中でポツンと一人ぼっち。方角の見方さえ分かりません。

受験進路に対して迷いが生じる時、心に強く響くのは、学習塾の華々しい合格実績や先輩たちの合格体験談。

でもそれらの情報は、現在の立ち位置や状況とは異なる誰かのたどった特殊解。その方法論が、君の受験を成功に導く航海図になるとは限りません。

ではどのようにして、自分の進むべき航路や信頼できる伴走者を見つけるのか?

わが子の高校受験と大学受験を通じて強く思うのは、塾選びから入らない、そして志望校に合格してからも後悔しない受験マネジメント。

「とにかく合格すればよいではなく、どのように合格したいのか」

を事前に考えること。

合格経路の多様な都立受験であればこそ、受験という大海に漕ぎ出す前のこの一考察が、結果の如何に関わらず、納得のいく受験で終わらせるために欠かせないスキームの一つではないかと思うのです。

では、どのように合格するとはどのようなことなのか?

具体的に考えてみましょう。

受験開始時点の立ち位置の確認

 さて、マネジメントというからには、もっと具体的な検討材料がほしいところ。

そこで先の図に、受験チャートとなり得る補足情報を落としてみましょう。ここでは具体的に日比谷高校を意識した数字を記載していますが、進学校であればその他の高校でも基本的には同じ考え方となります。

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まずは入試スタート地点の情報です。

この母集団の分布図は、公の統計に基づいた客観的な情報を描いたものではなく、あくまで個人が抱くイメージですので、参考情報である点を予めご理解の上ご覧いただく必要がありますが、入試に臨む段階の状況把握としては十分参考になる情報ではないかと感じます。

いずれにしても、こうして見える化すれば、大海原の中で見えないライバルと共に泳ぐ自分の立ち位置が少しは見えてくるでしょう。

グラフの軸線の数字は以下の通りです。

  • 縦軸:700点換算試験得点
    ( )内は元となる500点得点
  • 横軸:300点換算内申点
    ( )内は元となる45点内申点

この春受験生となる君は、中学3年生の学習を終えていないという意味において、一般的には合格ラインを下回る場所に位置する母集団の中に位置しているものと思います。

その場所からどのように成長して合格圏の上半分の殻の中に滑り込むのか、そのために受験勉強の進むべき矢印をどこに向けて引いたらよいのか、まずはじっくりグラフを眺めてみてください。

縦軸は実際の本番の試験で求められる得点になりますから、現状では誰もが合格ラインの下に並んでいるものと思います。

例えば日比谷高校受験生の内申平均点は、男子で概ね40~42、女子で41~43程度、グラフの中の緑の帯で示したラインとなります。

現在この範囲に位置する受験生であれば、無理なく赤線で表現された合格ラインを少し超えるあたりを狙うのか、あるいは内申点とは関係なく、青い破線で示した難関国私立合格想定ラインを到達点として定めるのかの選択が求められます。

まずはこのグラフに着目して、これまでの実績から想定される現在の立ち位置と、受験本番を迎える当日に到達したい目標地点について、直感的な答えでよいのでグラフの上に落とし込んでみてはいかがでしょうか。

そしてその二つを結んだ直線が、入試において進むべき進路となります。

塾選びの前にすべき入学目標選び

 現在の立ち位置と目標を定めた後に、次のグラフを見てみましょう。

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図は日比谷高校入試を想定した内容ですが、ここまで具体的な情報を落とし込めば、目標への到達距離と到達結果は想像しやすいはず。

中学生の君には少し厳しい現実が見え隠れする、でも受験の現実を反映した、入試到達点を考える上では必要な情報を与える図ではないでしょうか。

君は先の何もない図の上のどの位置に、ゴールを描いただろう。 

もちろん、この図は正確に何かを表現した図ではありません。ただ、日比谷高校受験を経験し、その後東大に現役合格した子を持つ親が抱く都内高校受験に対する印象であることには間違いありません。

そして入学後の学力的な目安をお伝えするために、誤解を恐れず入学時点における想定到達順位を記載してみました。

x軸方向の内申点は、入試におけるスパイスとでもいうべき調整軸。入学以降は意識することすらなくなります。

そして推薦入試やAO入試を利用しない限り、大学受験に臨む基準となるのはy軸方向の学力です。後から振り返れば、高校入試においてゴールに定めた学力が、大学入試におけるスタートとしての学力となります。

「入学時順位」というのは、内申も含めた1,000点満で順位づけされる合格点の序列ではなく、内申点の関係しない入学時の実質的な学力による想定校内順位を示します。入学試験で獲得した得点順位が、これに近いと思います。

学力の下限が赤い合格ラインよりも下に伸びているのは、入試学力に依存しない推薦入学者が2割存在するからです。

もちろん、推薦合格者の中にも学力上位の生徒もいるでしょうし、学力試験では合格が難しい生徒もいるでしょう。その点を意識しての表現です。

日比谷高校入学を通じた大学進学以降の将来の目標実現を目指す場合、受験目標を設定する上でも、入学後の自分の立ち位置を確認するためにも、こうした現実は把握した上で受験に臨んだ方がいい。その情報が、合格するだけではない、受験をしっかりコントロールするための検討材料となるはずです。

特に受験サポーターである保護者の方には、ぜひ認識してほしい情報です。 

今にして思えば、開成は合格しないでもよいので、もっと経済的で第一志望の日比谷高校に一直線に向かうような塾選択があったようにも思いますし、逆に都立入試問題レベルを超えた受験勉強を経験したからこそ、入学時点での心や学力面での余裕が生まれているとも言えます。

大失敗で大成功!? わが家の塾選び

今でこそこのような文章を書いている私自身は、受験生の保護者であった際には、受験マネジメントなどという言葉とは対極的な、入試制度にも学習塾毎の違いなどにも全く無知で無頓着な、受験生の親としては正に失格保護者だったのです。 

さて上記のような前置きを念頭に、塾選びについてお話しすると、結果オーライではありますが、本当に失敗組だと言えるのです。何が失敗かといって、中学入学時点で都立高校を絶対的な第一志望にしているにもかかわらず、何と早慶難関私立の合格実績を売りにしている塾を選択してしまったのです!
あまりに無知でした。

大失敗で大成功!? わが家の塾選び

わが家の高校受験は一言でいえば結果オーライ。

開成高校合格が初めから望んだ目標であったなら、わが家は高校受験勝ち組ともいえる結果です。しかし親の目から見た現実は、中学入学時点に想定した経路とは全く違ったものだったのです。

それはまるで知らない外国の地で乗るタクシーのように、大回りともいえる経路を進み、全く予期しない景色をドキドキ眺めながら、運賃も想定を大幅に上回りつつ、最終的には当初定めた目的地に到着したかのよう。

あるいはインドを目指しながら、図らずも新大陸にたどり着いたコロンブスのよう。

難易度も分からないまま日比谷高校合格という漠然とした目的地を掲げながら、高校受験の海を渡るための海図もなく、たまたま所属した塾の方針に翻弄され続けた受験だったのです。本当に毎日が落ち着かない日々の連続でした。 

そんな保護者が今描くことができるのは、日比谷高校合格においては、先に示した図にあるように、学力的には概ね上下3段階の到達点があるということ。そしてどの段階を目指すかによって、選ぶべき勉強方法も異なる事実。もちろん、学習塾の活用方法や受験教材選びもそれによって全く変わります。

わが家の希望と現実

 こうしてチャート図を眺めてみると、わが家が当初望んだのは、図の合格圏の右下の隅に位置する「都立重点校レベル」と書かれたエリアだったのだと気づきます。極端な話、日比谷以外のどこにも合格する必要はないと考えていたのです。

そしてそこを目指していたのなら、本来は都立高校合格を標榜する学習塾に通うべきだったでしょう。実際に強く誘われていたのです。そうすれば、塾の特待生として、塾代もすべて無料です。

ただしその受験勉強は、今にして思えば、子の潜在能力からみれば緊張感のないものになっていたでしょう。合格こそすれ、それが子にとってよい受験となりえたのかは分かりません。

大回りして高校受験界の雲の上を垣間見た経験が、例えば高校生の海外留学のような、新たな世界と経験をもたらしたことは間違いありません。それがなければ、3年後に東大を受験するという意識さえ芽生え赤ったかもしれません。

もちろん学習塾における上位クラスの乗船費用は、都立高校合格向けの定期航路の運行費用よりもかかるでしょう。

それらはどちらもあり得る選択肢。大切なのは、それが自ら望んだ結果であったかどうかです。

ここでお伝えしたいのは、塾が受験生たる君の航路や到達地を決めるのではなく、君が望んだ目標を実現するためのパートナーとして、塾をはじめ通信教材や家庭教師、あるいは独学といった方法論を選択する方が、きっと君の人生にとってもより建設的な受験になるということ。

それは上下どの位置を目指す場合にも言えること。

そして日比谷高校入学後も続く学生生活や、その後の人生を自分自身でコントロールするために、ここに掲げたチャート図を、よく眺めてほしい。

君はどのような目的で、どの場所に入学を果たしたいのかと。

能力も家庭事情も人それぞれ。どこが正解というものはありません。君自身がどこに向かいたいのかがあるだけ。そう思うのです。

学習塾とのミスマッチで受験期間を無駄に費やさないように、合格の後からそうした事実に気が付いて愕然としないように、君自身がどのような状態での入学を望むのか、受験生となるこの春に、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

合格のためではなく、入学のためを考える。一つの提案です。

広告の波に押し流されないために

 では最後に、これまでの情報に基づき設定した目標地にたどり着くための参考情報をお伝えしたいと思います。最後となる図をご覧ください。 

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この図の示すものは、先に見た到達点を実現するために、君が選択すべき選択肢を具体的に示したチャートです。

学習塾を意識したこの図は、通うべき塾のクラスに当たります。つまり、どの塾かではなく、どのクラスかを意識してほしい。 

自分の所属する塾のクラスから、毎年何人の合格者が出ているのか?
繰り返しになりますが、塾全体の合格実績を目当てに通塾しても意味がありません。

悩める君が塾に聞くべきたった2つのこと


塾の合格実績に惹かれたとしても、自分自身がその実績を出したクラスに所属しなければ意味がありません。 

そして塾や学習教材には、実質的な守備範囲がある。

「都立に強い」とか「難関私立に強い」とか、塾が打ち出すキャッチフレーズが示すように、それぞれの塾には得意不得意があり、どこに所属するかによって到達点が自ずと決まってくるということです。

最高偏差値を目指して受験学力の向上をひたすら目指すのか、内申点を確保しながら学力はそこそこに合格圏に滑り込ませようとする戦略なのか、選択するその塾のクラスによって、そこで学ぶ内容と進むべきルートは決まってしまう。それを自分自身が意識していようとしていまいと。

わが家の例で見れば、日比谷高校一択という気持ちで臨んだ高校受験にもかかわらず、何故だか難関私立向けの塾に入ってしまい、後から分かって愕然としたことには、結局長男は日比谷高校向けの受験勉強はしていなかったということ。

今にして思えば、その学習塾の上位クラスには、都立高校受験指導のためのノウハウなどなかったのです。ただ、望む学力を上回るプログラムが存在した。

日比谷高校に合格するという観点だけで見れば、試験本番で仮に数学を白紙答案で出していても、素内申が30そこそこしかなかったとしても合格圏に届いたほどの余裕の総得点で合格していたことを思えば、わが家の受験は最高に時間とお金を浪費したとも言えなくもなく、また逆に大学受験の結果を意識すれば、結果的に最高の状況に達する事が出来たとも言えなくもない。

結局わが家の高校受験マネジメントは初めから完全に破綻していたことになるのですが、大学受験まで意識した場合、結果的には成功を収めて事なきを得たのです。

君にはこの選択過程を、是非自らの意志で決定してほしい。

結果的にたどり着く場所に降り立つのではなく、自ら求める状態や家庭の事情に配慮しながら、目指すべき場所へ到達するために進むべき道やパートナーを自ら選択する。

もし仮に上を望む志と能力がありながら、家庭の事情でそれが叶わない場合でも、その事実を自ら意識して受験に臨むことで、より高い到達点と入学後の伸び代を密かに育むことが出来る。

家族旅行に旅立つ前には当たり前に行う経路選択や旅行会社の検討スキームを、学習塾や受験教材を選択する際にも適用することをお勧めしたい。

日比谷高校に合格するためではなく、目的をもって入学するために。 

日比谷高校を第1志望と定める場合、早慶3教科型に集中するのか、開成国立5教科型を目指すのか、これは後々の大学進学にも影響することですので、余裕のある段階で君自身の希望と家庭の方針をすり合わせるのがよいのではないでしょうか。

その後、長男の大学受験を通じて改めて思のは、与えられた条件の中で自らの選択した目標と勉強方法に対して一切迷いがないことの大切さ。思えば高校受験当時も、あれこれ悩み心配する親に対し、本人は全くブレなく受験勉強に集中していたのでした。

今でも、保護者の方からどの塾を選べばよいかという質問を受けることがあります。結局は、何を選択するのかよりも、自ら選んだその道を、最後まで信じる心が大切なのは間違いありません。

その様な心の持ちようを、これからもお伝えしたいと思います。

ではまた次回。