小石川躍進の秘密 ~日比谷高校との比較

2020年3月1日更新:

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 2017年11月3日の小石川中等教育学校の説明会では、親子合わせて1,000人程の参加者があり、受験生からの関心の高さが伺えました。

進学指導担当からは、平成29年度センター試験の7教科900点満点の小石川受験生平均点は、日比谷高校に次いで都立では2位と説明があり、進学面で日比谷高校を意識しているのだなと感じました。

都立受験界隈では、高校の日比谷、中高一貫校の小石川のように、それぞれの代表として比較されることの多い両校。

公立中高一貫校への受験を検討している家庭の中には、小石川に進学した方がよいのか、高校受験で日比谷に進学すべきなのかと悩む方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、都立受験第一志望の君が気になる、日比谷高校と小石川中等教育学校の共通点や東京都教育委員会が考える両校の役割などについて、日比父ブログの観点から比較してみたいと思います。

小石川は日比谷の中高一貫校

 日比谷高校を軸としてみた場合の所感ですが、現在の小石川中等教育学校は日比谷高校のカリキュラムを意識しながら、中高一貫校として再構築した学校と言えるように思います。

掲示板などで、日比谷高校は中高一貫校化すべきという意見を目にすることがありますが、東京都教育委員会は小石川という器を使って、既にそれを実行していたのです。

小石川開設準備室と東京都教育委員会は、小石川高校を中高一貫校化するにあたって、先行して改革成果が表れている日比谷高校のカリキュラムやシステムを参考にしたのではないでしょうか。

そして日比谷で実績が上がっているシステムの内、踏襲すべき点は踏襲し、中高一貫校にに馴染まない点は再構築して落とし込み、そして一貫校としてのメリットを最大限生かすためのプラスアルファを加えて小石川向けのカリキュラムとして運用したのではないかと感じます。

私はこの秋に複数回、小石川中等教育学校から直接説明を受ける機会を得ましたが、初めて学校説明を聞いた際には、カリキュラムを中心にあまりにも日比谷高校と共通する部分が多いため、思わず一人で笑ってしまいました。

日比谷高校の保護者や学校関係者が小石川のカリキュラムや仕組みについて聞く機会があれば、おそらくほぼ全員が同じだと感じるように思います。

日比谷高校をよく知るものから見ると、学びの根本部分についてそれほどまでに何もかもが共通しているのです。

武内校長の著書『日比谷高校の奇跡』には、日比谷高校の制度やシステムなどが余すことなく詳細に記載されていますから、小石川に通う生徒や保護者の方も、逆に日比谷のカリキュラムについて詳しく把握することができます。そしてこの本を読んでみると、小石川の仕組みと共通する内容が多いことに驚くのではないかと思います。

こうした状況は、東京都教育委員会が小石川設立の当初より、中高一貫校型日比谷高校の設立を意識していたものなのか、あるいは小石川設立メンバーの自主的な検討過程において、日比谷高校のカリキュラムやシステムを採用する形となったのか、あるいは偶然にも結果的に同じような仕組みとなったのかは私には分かりません。

ただ結果的に、日比谷高校と小石川中等教育校は、学びの土台部分の制度設計が近い、高校単独および中高一貫それぞれ別の形式の学校として存在することになったと言えるでしょう。

ではどのような共通点がみられるのか、具体的に見てみましょう。

日比谷と小石川カリキュラムの比較

 日比谷高校と小石川中等教育学校が同じであると感じる最大の理由は、学校の根幹をなす日々の授業カリキュラムにあります。具体的には、

日比谷高校授業
  • 1コマ45分 x1日7時間授業
  • 土日休日
小石川中等教育学校授業
  • 1コマ45分 x1日7時間授業
  • 土日休日

全く同じです。

全国的に中学高校での授業時間は50分6時間授業が主流。都立重点校の西、国立、戸山、青山なども、都立一貫校の桜修館も両国なども皆、50分授業を採用しています。

個人的にはこの時点で、日比谷と小石川は7割程度同じ学習制度を持つ学校だと断言してよいように感じてしまします。

そしてこの他にも、両校がが同じであると感じる共通点が実に多くあります。

もちろん小石川も、設立のベースとなった小石川高校と、その源泉として来年100周年を迎える府立五中の流れを汲む学校ですから、教育理念をはじめ創立当時から続く制度もあると思います。

ただ現在の学校制度は、一貫校として再スタートする際の十余年前に再設計したもの。失敗が許されない都立一貫校のフラッグシップ校であるために、現在数多ある有名校の制度を検証したことは間違いないでしょう。

小石川と日比谷の理念と共通点

 では改めて、日比谷高校と小石川の制度上の共通点を見てみましょう。

両校の共通点は様々ありますが、ここでは教育の根幹をなす理念とカリキュラムに絞って比較してみます。

1)教養主義

 両校とも、進学実績向上のための受験優先型カリキュラムではなく、国際社会で活躍するリーダーを育成するための素養として、受験科目に関わらず理化社会をはじめ全科目を履修する教養主義を標榜しています。

明らかな違いは、小石川が先取りにより主に4年間で行う内容を、日比谷高校では3年間で完結している点でしょう。

2)文理不分

 教養主義の実践として、両校とも高校3年生(6年生)になるまでは、文理クラス分けをしない点をアピールしています。高校2年生までは、芸術の選択科目などを除いては、必修科目として進学希望の文理関係なく、全員が同じ教科を学ぶのです。

3)SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)

 日比谷高校は今年、3期連続11年目となるSSH校に指定されました。小石川の場合も、昨年1年間のブランクはありましたが、今年に入って3期目となるSSH校として再出発しています。

小石川では総合的な学習を、「小石川フィロソフィー」と名付けて、SSHへの取組みを各学年継続授業として行っています。

4)グローバルマインド、グローバル10

 両校とも、グローバルリーダーの育成の旗印の下、4技能アクティブラーニング型の英語学習に力を入れています。小石川は独自の活動として、海外ステイや修学旅行など在校生全員に様々な海外体験プログラムを実施しています。

一方の日比谷では、東京都教育委員会が指定する東京グローバル10指定校として、ケンブリッジ英検の全員受験や有志選抜参加型の海外活動が行われています。

5)全クラス演劇

 その他の重要な共通点として、文化祭での全学年演劇があります。

3年生の秋の文化祭まで全力で演劇に取組み、終了後は受験に頭を切り替える。西、国立、日比谷などの都立トップ校はこの演劇文化を持っていますが、小石川も同様に演劇に取り組む文化を共有しています。

6)カリキュラム 

 改めて、両校共45分x1日7時間授業が基本となる日々の授業。

そして各学年における個々のカリキュラムも非常に近いものがあります。確認のため、ここでは高校課程での各学年の必修科目を比較してみます。

尚本情報は、学校説明会などで配布される両校の学校案内に掲載された内容です。

表の見方として、色付きのマスは科目内容および必修時間共全く同じ内容を示し、時間の赤字は主要5教科を、黒字は実習科目のそれぞれ1週間の履修時間を示します。

高1(4年)必修科目

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 日比谷と小石川の高校1年(4年生)の必修カリキュラムは、上記の通り非常に近いものがあります。異なるのは、概ね理科と社会の組合せのみといっていいでしょう。

理科については、日比谷高校は各教科を1年間でまとめて仕上げることに対し、小石川では一つの科目を複数年度に亘って学ぶという点が目立った違いでしょうか。

これは高校短期集中型の日比谷と、一貫ゆとり型の小石川の考え方の相違が現れたものといえるかもしれません。

小石川の数学Ⅰの時間が1単位短いのは、中学課程で先取をしているためでしょうか。

そして総合的な時間として、小石川では先に述べた「小石川フィロソフィー」と呼ばれる、各学年継続的なSSHへの取組みが行われます。

高2(5年)必修科目

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高校2年生(5年生)も、同様に大きな相違はなさそうです。

ただ日比谷では、芸術(美術、音楽、書道)を2年まで必修で行うのに対し、小石川では代わりに総合学習として先のSSHの取組みを行っています。

この点を見ると、日比谷高校は3年間という短い時間ながらも、芸術分野も含めたより全人的な教養に対しての造詣を求めているといえるかもしれません。

また高校1年生では同じであった必修科目時間は、小石川の方が週1時間少なくなっており、このことからも日比谷の教養主義への強い理念が伝わってきます。

高3(6年)必修科目

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高3(6年生)も、基本的に大きくな相違はない内容です。

ただし、体育と英語の必修時間がそれぞれ1時間ずつ小石川の方が短いため、週2時間分の必修科目が少ない状況です。 

週2時間程度の違いですが、このあたりはやはり日比谷の教養主義へのこだわりか、あるいは受験学年まで必修を引っ張らないという、中高一貫校のゆとりの成果なのか分かりません。

5教科必修科目まとめ

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 高校(後期課程)3年間では、日比谷高校の方が5科目必修時間が4単位多くなっています。内訳では、理科・社会がそれぞれ1単位、英語が2単位多い。

この3年間全体の必修授業時間の違いを見ると、両校の教養主義に対するそれぞれの考え方が見えてくるように思います。

つまり、日比谷高校はより総合的な教養を身に着けることを目的としているのに対し、小石川は学校が掲げる理数教育にやや重きを置いた素養を求めているのだと。

これはカリキュラム上では微々たる相違にしか過ぎませんが、理科と社会の必修時間の中に学校側のメッセージが込められているように思います。

必修時間からは、日比谷高校は物理、化学、生物を科学の基本に置いているのに対し、小石川は物理、化学を基本に置いているように思います。これは高々生物1単位だけの相違なのですが、この1単位に学校側の思いが反映されているのかもしれません。

同様に、日比谷は日本史と世界史を社会の素養と考えているのに対し、小石川は日本史を基礎的素養ととらえているのかもしれません。

また、小石川の方が数学Ⅰが短く数学Bが長い点、英語の必修単位が少ない点は、中学課程の科目毎の単位時間が確認できないのであくまで想像ですが、中学での先取り授業の結果ではないかと思います。

日比谷高校は、3年間という限られた時間の中で、中高一貫校を凌駕する全科目履修型のカリキュラムを採用していることが伺えます。 

小石川と日比谷の相違点 

 では次に、両校の相違点を見てみましょう。

冒頭に、小石川は日比谷を中高一貫校化した学校だと書きましたから、この違いを確認することで、一貫校化の利点が見えてくるように思います。

それは中高接続によって生じる余剰時間の差、つまり高校受験組が最も多忙となる中学3年時が、逆に一貫校生にとっては時間的にも心理的にも最もゆとりが生まれる状況が可能とするプログラムの差となって現れているように思います。具体的には、

  • 中学3年次生徒全員海外ホームステイ
  • 海外修学旅行

この2点が、中高一貫校化の恩恵を享受する取組みだろうと思います。

取組みの詳細はここには記載しませんが、国際協業のための英語4技能学習の重要性が叫ばれる昨今、こうした海外体験プログラムの存在は、受験生やその保護者の方にとっては非常に魅力的に映るものと思います。

これまで見てきた通り、小石川中等教育学校は後発の利を生かし、既に実績を残している都立高校や私立中高一貫校の良いとこどりをした、いわば後出しジャンケンのような学校だと考えられなくもありませんから、今後ともライバルたちを凌駕するような実績の向上は十分見込めることでしょう。

ただ、小石川が確実に受験界の頂点に登りつめるためには、ある一つのきっかけが鍵になるように思います。

都立小石川大躍進のカギ

 小石川中等教育学校は最後発にもかかわらず、というよりも先に述べた通り最後発だからこそ、短期間でライバルに伍すような進学実績を残す結果につながっているのだと思います。

そして実績はまだ伸びる余地が十分あると思いますが、今後受験業界で圧倒的なスターダムにのし上がるとすれば、あるイベントがきっかけになると思います。

それは、国立大学附属校の入試改革です。

仮に現在検討されているような国立附属中学の抽選入試が導入された場合、具体的には現在筑波大付属駒場中学を志向している家庭の目が小石川に向かうでしょう。

それはちょうど半世紀前の1967年、「日比谷潰し」と呼ばれた学校群制度をきっかけに、受験生が都立高校から国私立校に逃避した状況が再現されることとなり、国立附属の抽選入学制度は、東京では「筑駒潰し」と呼ばれることになるでしょう。

実際に国立附属入試改革が実行されれば、国立支持層が一気に小石川に流れて、偏差値面でも実績面でも、受験業界のトップに躍り出ることが決定的になるのではないかと思います。

都立小石川か都立日比谷か

 さて結局のところ、都立志向の受験生と保護者の方が一番気になる点は、中学から小石川を目指した方が良いのか、高校から日比谷を目指したほうが良いのか、ということではないでしょうか。

現在中学受験を考えており、日比谷高校という響きに強い憧れを抱いていない状況であれば、中学から小石川を狙うのが合理的であるように思います。

ただ君が、現在既に日比谷高校に強い憧れを抱いていたり、中学受験に向けて取組むことが困難な状況であるならば、中学受験には望むことなく真っすぐに高校受験を目指せばよいでしょう。日比谷高校は、小石川と比べても、他の有力国私立中高一貫校と比べても、積極的に選択する価値のある学校だと思います。

例えばわが家と同じように、中学受験よりも海外赴任を選択したのであれば、その得難い経験を持って日比谷高校に進むのは、それが例えどこの国であろうと、本当に意味のあることではないかと思います。

日比谷と小石川、この2校は東京都教育委員会を親とする、兄弟のような関係にあるのかもしれません。

兄である日比谷と弟である小石川。

両校を性格面から眺めてみれば、同じ環境で思春期を過ごす均質的な仲間の中でゆとりをもって過ごす6年間の中高一貫校と、3年間異なる環境で過ごした多様な背景を持つ生徒が刺激し合い短期間で駆け抜ける高校単独校の違い。

そしてそれぞれが持つ歴史や学校環境の相違。

中学校から小石川中等教育学校に進むべきか、高校から日比谷高校に進むべきか、都立学校群制度導入から半世紀を迎えた今、再び始まる歴史の大きなうねりの入口に、我々は立たされているのかもしれません。

ではまた次回。