都立一貫校改革と第二国際高校の設立

都立高校改革推進計画スケジュール

都立高校改革推進計画スケジュール

 2018年11月22日付で、東京都教育委員会から、『都立高校改革推進計画・新実施計画(第二次)(案)』が公開されています。

今回は、2019年から21年までの3カ年計画に関する方向性を示したものになり、広く都民の意見を聞きながら、3月までに最終的な計画を策定するという流れになります。

今回は、都教育委員会が都立高校をどのような学校にしていこうと考えているのか、本改革の影響を直接受ける小学生の子を持つ保護者として、特に一貫校と国際教育の動向を中心に確認したいと思います。

併設型一貫校の廃止・時期未定

  既に公表された方針ですのでご存知の方も多いと思いますが、併設型の都立中高一貫校は廃止になり、中等教育学校、つまり高校募集枠のない完全な中高一貫校に生まれ変わる旨の検討が告知されています。

現在の都立中高一貫校は以下の通りです。

(1)中等教育学校(中高完全一貫型)
  • 小石川中等教育学校
  • 桜修館中等教育学校
  • 立川国際中等教育学校
  • 南多摩中等教育学校
  • 三鷹中等教育学校
(2)併設型(高入枠がある中高分離型)
  • 白鷗高校・附属中学校
  • 両国高校・附属中学校
  • 武蔵高校・附属中学校
  • 富士高校・附属中学校
  • 大泉高校・附属中学校

この内 (2)の併設型5校について、高校募集枠の停止および中学入学枠の拡大、すなわち中等教育学校化が検討されることになります。

併設型中高一貫校の完全一貫校化計画

併設型中高一貫校の完全一貫校化計画

方針転換の理由は、簡潔に言い切ってしまうと次の2つだと思います。

  • 高校入学希望者が少ない
  • 一貫校のメリット最大化が困難

併設型中高一貫校の高校入試では、実際に毎年定員割れが散見される現状があります。

私立高校では、この20年ほどの間に高校募集の停止が進んだ現状がありますが、都立一貫校でも高校入学枠は人気がありません。

その理由は様々あると思いますが、やはり一貫校への高校入学は、マイナーな中途入学という心象が強いからではないかと思います。自らがメジャーな存在として、処女地で自分を自由に表現したいと思うのは、思春期の若者にとっては自然な感情です。

私立一貫校の場合、中学入学者が中心的な上顧客ですから、高校入学者に対して遠慮することなく、先取り授業をはじめ一貫教育を進める状況があると思います。高校入学者は受験の段階で、中学入学者の学力レベルに追いつく学力を自ら身に着けることが求められます。実際に開成高校の入試では、高校範囲の知識がないと太刀打ちできません。

ところが公立の場合、高校入試では中学学習要綱の範囲を超えた出題ができません。高校入学者の合流を前提としている以上、中学入学者に対しても、先取り授業が行い難いなど、保護者が一貫校に期待するような学習面での効果が上げにくいのだと思います。

このため併設型の都立一貫校は、学習面という部分だけで見れば、中学入学者に対しても、高校入学者に対しても、煮え切らない環境となってしまうのかもしれません。

いずれにしても、時期は明記されていませんが、都立一貫校は全ての学校が完全な一貫校となる方向で進んでいます。

立川国際小中高12年一貫化・2022年

 立川国際中等教育学校は附属小学校を設置し、2022年度開校予定で小中高12年間の一貫校となることが明言されています。

特色としては、小学1年生からの英語教育を通じ、高い語学力と国際感覚を身に着けるとしています。

こちらは2015年の11月に、既に全国初の公立小中高校一貫校として大々的に新聞報道などで告知された内容ですが、この3年間で具体的な準備を進めることになりそうです。

2017年4月に公開された検討委員会報告書によると、あくまで計画案ですが、次のようになります。

  • 開校予定 2022年4月
  • 設置場所
     隣接する曙グランドに小学校新設
  • 定員(全校生徒1,440人)
     附属小学校:1学年80(計480人)
     中等教育学校:1学年160(計960人)

立川国際附属小学校新設予定地

立川国際附属小学校予定地

ここで気になるのは、中学の入学枠は従来と変わっていませんので、結果的には中学からの入学枠を半分程度に減らすことになるのかということです。

その場合、先の併設型の中高一貫校が高校募集枠を廃止する方向にである中で、併設型の学校を新設するということに対し、若干の矛盾を感じます。

小学校1年生から英語教育を強化した附属小学校からの入学者と、3年生から英語教育が始まる一般小学校を卒業した中学からの新規入学者の学力差、特に語学習得状況をうまく合わせることができるのか、という課題が今から懸念されます。

気になる附属小学校への入学選抜については、以下のように書かれています。

  • 一次選抜: 抽選
  • 二次選抜: 適性検査(学力不問)
  • 三次選抜: 抽選

詳細は不明ですが、適性検査に関しては、「適性検査は学力を問わないものとし、学校が必要と考える一定の資質や能力をもつ者全員を通過者とする」と記載されています。どのような内容になるのでしょうか。

適性検査の前後に「抽選」があることから、幼稚園の内から受験対策を行っても必ずしも合格しないということになるのでしょうか。

その場合、適性検査が基本的な理解力を見るだけのものであれば、多くの応募者が殺到して実質抽選で決まる入試になりますから、6年間で学力上下差が相当生じることが予測されます。

「本校附属小学校から中等教育学校への進学については、本人の日常の成績等を基に、学校が進学者を決定する」とありますから、中学に上がれない生徒も一定数生じるでしょう。 

逆に適性検査が受験対策を行わないと通過できないレベルの内容であれば、前後に抽選があることで、必ずしも事前の努力が報われないことになり、悩ましさが残ります。

いずれにしても、現状ではすっきりしない建付けが残るような気がしますが、残り3年の設立準備期間中に、その辺りの課題をクリアするのでしょう。

都立(新)国際高校・時期未定

 国際教育については、立川と並行して、新しい国際高校の設置が謳われています。

設定場所は、三田線および南北線白金高輪駅の南西、旧東京都職員住宅の跡地です。

新国際高校予定地

新国際高校予定地

近隣には、桜田通りを挟んで対面する名門港区立高松中学校の他、旧高松宮邸やセイコー創業者などの大豪邸、八芳園、シェラトン都ホテルがあるなど、白金の名に恥じない一等地です。

最寄り駅の白金高輪の他に、泉岳寺駅や山手線新駅である高輪ゲートウェイ駅からも、若干距離はありますが通学可能な範囲です。

都立高輪国際高校とでも呼ぶべきこの新しい都立高校が開校する際には、現在の国際高校の人気ぶりもさることながら、立地の良さといい学校の性質といい、初年度からかなりの倍率になるように思います。

2017年3月に公開された検討委員会報告書によると、設立の概要は以下の通りです。 

  • 開校予定 未定
  • 設置場所
     旧東京都職員白金住宅跡地
  • 定員(全校生徒720人)
     1学年6学級 240人
  • 学科
    「理数教養系」と「語学教養系」の設置

当時の報告書では、理数教養系と語学教養系の2学科設置が明確に謳われていましたが、今回の改革計画ではその点については言及がなく、代わりに「リベラル・アーツ教育」など幅広い教養を基礎とし、海外の大学や教育研究機関との連携を強化する点が謳われています。

設置検討委員会の委員長は、小学校の英語教育に造詣の深い、上智大学言語教育研究センター教授の藤田保氏、委員には現国際高校の校長も含まれますから、外国人労働者の受入れによる社会の変化等も考慮しながら、社会に求められる国際教育学校を設立してほしいと思います。

特色と意義ある都立高校の充実

 これまで見てきたように、またここに記載していない内容も含めて、2020年東京オリンピックを通過点として、都立高校は、新設、改編、廃止と様々な変化を迎えます。

日比父ブログもそうですが、世間に出回る学校情報については、どちらかというと偏差値や大学合格実績を中心とした学力面での発信が中心となります。

一方で実際の都立高校は、進学指導を中心とした学力ピラミッド型の学校構成だけではなく、様々な特色を持った学校が存在しており、調べてみるとなかなか面白い状況があります。

一般にはあまり知られていないと思いますが、スポーツ競技での全国大会出場を目指す「スポーツ特別強化校」や、芸術分野での専門性を追求する「総合芸術高校」、各種産業科を擁した「専門高校」、小中学校での引きこもりや不登校経験者等を積極的に受け入れる「チャレンジスクール」など、少子化やグローバリズムなどの影響により、民間の学校経営者ではもはや維持することが難しい教育分野の充実を積極的に図っており、もっと一般に認知や評価をされてもよいのではないかとさえ感じます。

私立高校無償化の影響などによる都立高校の定員割れが事件として大々的に発信されるような風潮もありますが、実際には、進学指導校やチャレンジスクールなど、入学希望者が多いために入学が叶わない受験生が多数発生しているのが実情です。

このため個人的には、高校無償化も定員割れも、社会に求められる公教育の実践や充実を図るという観点から見れば、前向きな状況といえるのではないかと感じます。

希望する進学先へ過度なストレスなく進むことができる教育体系をつくること。経営不振による倒産リスクのない公立の強みを生かした、大学合格実績の向上だけではない、それぞれの学校の特徴や強みを明確に押し出した、特色ある教育体系を作ること。

公教育である都立高校には、社会の変化に柔軟に対応しながら、全国の公教育の充実を先導するリーダー的な学校として、国立附属よりは身近で小回りが利き、私立よりは安定性のある運営基盤を生かした、特色ある有意義で面白味のある学校づくりにチャレンジしていってもらいたいと思います。

小学生のわが家のチビが高校生となる頃には、現在よりももっと分かりやすく特色ある学校群が構成されていればよいなと思います。

都立高校の実際の状況やこれからの変化の方向性について、ネットや掲示板上で発信される不確かな情報に惑わされる前に、保護者の方も一度自分の目で確認されてはいかがでしょうか。

ではまた次回。

都立高校改革推進計画・骨子

新実施計画(第二次)(案)概要
新実施計画(第二次)(案)本文

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