日比谷高校を志す君に贈る父の言葉

日比谷高校第一志望ながら、日比谷、開成、塾高のどこに入学すべきか、都立合格発表まで悩んだ父親が贈る、上をめざす君と家族を応援する徒然日記

私立無償化と都立定員割れとSociety5.0が示す高校の在り方

 平成30年度の都立高校入試では、全日制の定員割れに対して、悲観的な報道が発信されている印象を受けますが、保護者の立場からすると、私立高校無償化も、その影響を受ける形となった都立の定員割れも、どちらも都立第一志望の家庭にとっては前向きなニュースではないかと思います。

都立定員割れの実態

 昨年の入試状況を確認してみると、全日制高校の定員割れは以下の通りとなります。

平成30年度 都立高校最終入試結果
都立全体では、31,490人の募集人員に対して、例年通り45,216人という定員を大幅に上回る応募者がある中、第3次募集段階では433人の、最終的な入試結果としては409人、定員総数の1.3%の定員割れが発生しました。普通科に関しては、182人、0.7%の定員割れです。

一部の学校に定員割れが発生する一方で、私立や国立附属第一志望者を除いても、逆に毎年1万人規模の入学定員不足が存在しています。これはどうしたことでしょうか。

平成30年度に定員割れした都立高校は以下の通りです。 

H30都立三次募集状況

定員割れとなっている高校がどのようなものか、把握しやすいように各学校の入試偏差値目安を付記しました。

-10偏差値については、俗に高校受験の偏差値は、中学受験の偏差値+10と言われることから、中学受験との比較偏差値を示す参考値として付記しています。

この一覧を見ると、定員割れの学校は、中学受験でいうところの偏差値30台の学校がほとんどです。しかも、商業高校や工業高校などの専門課程が過半を占めています。

 

都立定員割れに対する保護者評価

 冷静に考えると、現在こうした偏差値下位の学校は、私立中学にしても私立大学にしても、定員割れの実態が都立高校以上に深刻な、学校の経営危機に直結する状況に陥っているのではないでしょうか。

だからこそ、文科省による首都圏私立大学定員抑制への行政介入が発生し、ある種の社会不安や先物取引としての大学附属校人気を招いている現状が発生しているわけです。

直近17日にも、平成31年度の大学入試は、入学定員厳格化の煽りを受けて難関私立大学志望者が減る「安全志向」というニュースが流れたばかりです。

そう考えると、都立の現状の定員割れは少子化時代における自然な社会状況の反映であるとも考えられます。どちらかというと、今まで定員割れが発生していなかったことが不思議なくらい、むしろ現状でさえ少ない状況といえるのではないでしょうか。

かつてドラマで一世を風靡した、ラグビーの名門伏見工業高校が、今年度別の工業高校と統廃合されて学校名が失われてしまった事実をみても、少子化に加え大学進学が当然のような風潮にある今の時代において、こうした高校での専門学科や偏差値下位の普通科に生徒が集まりにくいのは、時代の流れとしか言いようがない感があります。

逆に都立であるからこそ、専門学科の高校も廃校とならず、社会の要求に応えて学校を維持できているといえるでしょう。

そういう意味では、社会を下支えする仕組みとして、公立である都立高校が中学卒業生の進学調整弁として働く現状は、むしろ健全な状態ではないかと思います。

例えば、都立一択で専門学科に進むしかない成績の生徒が、私立高校無償化によって私立の普通科から大学進学の道が開かれるなど、生徒の進学先について選択の幅が増えたのであれば、都立の定員割れもまた、進学環境の充実、つまり広義の意味における学問の自由の保障の充実という観点において前向きな状況のように思います。

東京都教育員会にとっても、定員割れの現実を突きつけられることにより、生徒や保護者などの社会的ニーズの把握を含めた都立学校運営への明確なフィードバックとなりますから、求められる学校の在り方を考える上でのよい指標になるのではないでしょうか。

私立無償化は私立学校救済施策

 私立高校無償化は、経済的に負荷の高い家庭に対して進学先の選択肢を増やすという趣旨のように考えがちですが、実際には、最も無償化の恩恵に預かっているのは、経営不振の現実に怯える私立学校経営者だと思います。

高校無償化施策は、元々小池百合子都知事が都議会運営での公明党の支持を得るために撒いた政治的な意味合いが強い補助金だと認識していますが、結果的には生徒の確保に困難を感じる私立学校を救済する施策になっているのだと思います。

2000年に入り、都立高校の人気が回復した影響で、この20年、開成など一部の上位校を覗いては、中高一貫校はことごとく高校入学枠を廃止してきた経緯があります。

その一方で、上位校以外にも高校入学枠を残している私立学校はいくつもあります。

高校単独校はもちろんですが、その他にも、主に中学受験では学力上位の生徒の確保が困難なために、都立進学校に不合格となった相対的に勉強に前向きで成績の良い生徒を確保しようと考える一貫校があります。併願優遇を打ち出す学校の多くは、そうした学校に該当するのではないでしょうか。

特定の分野であれ、強いブランド力を持たない私立高校は、生徒の確保という点から見れば、昨今本当に苦しい状況に追い込まれていたものと思います。

そうした状況に対し、私立無償化は税金により生徒確保への直接的な後方支援をしてくれるわけですから、自力での生徒確保に困難な学校経営者にとっては、願ったり叶ったりの施策に違いありません。

少子化時代、私立の学校は生徒集めが大変だ。幸い正則学園高校は、近年、生徒が増加傾向でほっとしていたのだが、この騒ぎで大丈夫かと不安になる。
出典:2019年1月12日 深谷隆司の言いたい放題

年明けに教師のストライキ騒動があったこの私立高校後援会長の言葉は、生徒集めの困難さと、私立高校無償化の後押しを含む結果に対する率直な感想が現れています。

生徒数が自然減少してゆく現実社会の中で、自由競争に依らず行政の力によって学校を存続することの是非への議論は当然あるものと思いますが、現状では都立の定員割れは、低位の私立高校が生き残るためのサインを発信しているのだと思います。

 

私立無償化家計破綻に注意

 私立高校無償化によって進学選択肢の幅が増えたのはよいことだとした場合でも、公立高校への進学と比較して、やはり私立への進学は引き続き家計の負担が相当増加する事実については予め認識する必要があります。

ここでは具体的な例を挙げ、都立と私立進学の納入金の違いを比較してみましょう。

私立高校は、生徒確保に課題を抱える学校の例として先の正則学園高校を、その状況とは対照的に強力なブランド力で学生を自由に取捨選択する学校の例として慶應義塾高校を取り上げます。

各校のホームページ情報を中心に、必要な教育費を一覧に整理してみました。

都立・私立高校初年度最低必要額

現在、都民が高校進学に掛かる経費を考える際の注意点としては、世帯所得による助成金の適用有無が挙げられます。都内の高校生に関しては、世帯所得により上記3段階の授業料負担体系が存在します。

一覧の金額はあくまで最低限必要な金額となりますので、制服代や部活動その他の活動費用を含めると、実際には更に数十万円が必要となる点にも注意が必要です。

さて、一覧を確認すれば明らかなことですが、私立高校授業料無償化とは言ってみたものの、実際には学校によって大きな金額差が生じることが理解できます。

経済合理性からみても、生徒確保に課題を抱える学校は相対的に学費負担が低く、生徒が自然と集まる学校の費用は高いということになります。

都内に数ある私立進学校に関しては、この中間に分布するのではないでしょうか。実際私立無償の助成額は、私立高校全体の平均授業料に基づき算出されますから、平成30年現在、概ね年間45万円が、都内私立高校の平均的な授業料となります。

このため、経済的な理由から都立志望だった家庭に関しては、これらの現実について予め十分認識した上で進学先を決定する冷静さが求められます。

住宅ローン以上に、子の教育費には財布の紐が緩みがちですから、もちろん進学先の選択肢の幅が広がることはよいことだと思いますが、私立高校無償化が引き金となるような家計の圧迫には注意が必要です。

 

Society5.0と学科の在り方

 本文章を記載している1月18日に、文部科学省から『教育再生実行会議 第十一次提言 中間報告(案)』が公表されました。

この中では、現在の高校における普通科、専門学科、総合学科それぞれの改革方向性が提言されています。

新時代の高等学校は、Society5.0を生き抜く力を身に付けさせるとともに、新たな社会を牽引する人材や地域を分厚く支える人材の育成につなげていくことが必要である。

現在、生徒の約7割が在籍する普通科について、学習の方向性に基づいて学科を類型化すること等、普通科の在り方について、提言の取りまとめに向けて更に検討を深める。

その際、設置主体(公立・私立・国立)の特性や地域の実情等も踏まえ、それぞれが強みを発揮できるよう留意する。

また、多様性の確保に配慮しつつ、全ての生徒が、文系科目・理系科目のどちらかに偏重することなく両方をバランスよく学ぶ仕組みを構築する方策についても、提言の取りまとめに向けて更に検討を深める。

文部科学省:教育再生実行会議 中間報告(案)

内閣府「Society5.0とは」

出典:内閣府「Society5.0とは」

内閣府:Society5.0で実現する社会

出典:内閣府「Society5.0で実現する社会」

今後、都立高校の定員割れが示す社会的ニーズの変化の流れと、国が進める教育改革の流れが一つのうねりとなり、2020年以降、新しい時代の高等学校が姿を現すのでしょうか。 

一方で既に様々な自治体で、高校普通科内の専門コースの設置が進んでいます。

従来のような大学合格に向けた学力別のコースや文理分けのコースとは異なる、学びの専門性や興味に基づくクラス分けが、果たしてどのような形で現れ、社会からどのように評価されるのでしょうか。

わが家でも、現在小学生の次男が高校に進学する頃には、都立高校普通科の中でもそのような対応が進んでいるのでしょうか?

一人の保護者として、引き続き、高校の在り方について見つめていきたいと思います。

ではまた次回。

 

 私立無償化施策導入の理由

都立中高一貫校改革の中身

国立大附属校改革の中身
早稲田大学入試改革の中身

東京大学入試改革の中身