またまた週刊経済誌から高校特集が出ましたね。
今回は冒頭特集である卒業生の「厚み」について、東大など主要大学合格者の集計年度を、特に理由の説明もなく開成が東京大学合格数でトップに立った1983年以降の累計で比較しているなど、開成高校とのタイアップ記事かなと思わせる節もあります。
記事で紹介された開成人脈を見ると、卒業生全46人中、上記83年以降の卒業生が23人、それ以前の卒業生も23人、最古参は1961年卒ですし、政界・財界での主要メンバーは1960年、70年代卒業の方ですので、合格者集計は1960年代からの累計で示すか、または掲載するOBを集計年度に合わせた1983年以降の若い世代のみとする方が、どの高校に対しても中立的で自然だったように思います。
真意は別にして、今回は全国の高校を語る上での日比谷高校の立ち位置について考えてみましょう。
経済誌での教育特集は案外少ない
最近は「高校」をテーマにした記事が雑誌でもウェブでも多いように感じます。
そこで、今までどの程度の高校特集が組まれたかを確認するために、週刊ダイヤモンドおよび週刊東洋経済のバックナンバーの一面特集について全部確認してみました。
その結果は以下の通りです。
週刊ダイヤモンド:
2011~16年(6年分) 計244冊中
大学3、中高一貫校3、教育関係2
週刊東洋経済:
2002~16年(15年分) 計678冊中
大学13、中高一貫校3、教育関係5
確認できるバックナンバー分のみですが、過去に「高校」単独の特集が組まれたことは一度もありません。今年が初めてです。
経済紙だからでしょうか、概ね毎年特集が組まれる週刊東洋経済「本当に強い大学」を除いては、教育関連の記事そのものが多くありません。
毎年定期的に学校序列関連の特集記事が出ているような印象もありますが、実際は中高一貫校を含めても、週刊経済紙面上では高校をテーマにした内容はそれほど多くありません。
では何故今年になって突然、「高校」単体にスポットが当たるようになったのでしょうか?
そのきっかけは明らかですね。
日比谷高校の東京大学合格者が44年ぶりに50人を超えた事だと思います。
日比谷が戻り、役者が揃った
記事を書く側からすると、大学より高校の方が面白みがあるように思います。
高校はより地域に密着しており、しかも各都道府県それぞれの地域毎に漏れなく名門とそのライバル校が存在している。戦国時代の群雄割拠的な国盗り合戦の妙に近い感覚がありますから、全国の読者の興味を引きやすい。書く側もそれぞれの熱い思い入れがありそうです。
今回の特集記事を見ると、それが実感されます。
ただ今までは、その国盗り合戦的な記事が書けなかった。
書いても面白みに欠けてしまって、広い読者に訴求することができなかったわけです。
なぜなら全国紙にとって最大の市場である東京において、長らく中高一貫校と都立高校の進学実績の差がありすぎて、比較対象にならなかったから。
そのため、中高一貫校の中での優劣の議論を書くしかなかった。
中高一貫校となると東京や一部の都市圏の話題となり、全国的に見ると公立高校が主流である地域が多いことから、全国の高校を巻き込んだ話題の展開にまで発展させることができないということがあるでしょう。
そのため全国紙での特集が組まれなかった。
逆に地方の公立高校の状況だけを取り上げても、東京の子育て世代の読者が乗ってこないので、今一つ盛り上がりに欠ける。
ところが日比谷高校が力を取り戻すことによって、東京でも都立対中高一貫校と題した面白味のある記事が書けるようになった。
元来が歴史的にパワーも伝統もある足腰の強い日比谷高校ですから、両者の優劣を比較したり、どちらかを持ち上げてどちらかを叩くという味付けで、広い読者を惹きつけることができるようになった。
そして公立である日比谷が登場すると、それをベースに全国の公立高校の記事を波及して書くことができる。今回の全国特集のように。
つまり強い日比谷高校が存在することで、各地域の公立高校にもスポットライトを当て、より人間味のある細かい記事に発展させるがことができる。
日比谷の登場は、全国の公立高校を語る上での必要条件だったわけです。
今回記事の供給側も、高校をテーマにする面白味に改めて気づいたのかもしれません。
そういう意味では、日比谷高校が表舞台に戻ってくることを、社会が長い間潜在的に求めていたのだという事実に、マスコミを含めた多くの人が改めて気づいたのではないでしょうか。
周回遅れの日比谷高校の存在感
今回の特集のメインテーマの一つは、開成高校を筆頭に、都立学校群制度以降に積み上げた中高一貫校の実績の強調であることは確かです。日比谷高校はその実績の高さを確かめるベンチマーク的な位置づけですが、そのアウェイな条件設定での日比谷高校の存在を感じてみましょう。
全88ページの特集の本文に登場した、東京、大阪、名古屋における主要高校名の出現数を拾ってみました。
結果は以下の通りとなります。
- 開成 57
- 日比谷 32
- 灘 28
- 国立 22
- 麻布 21
- 東海 20
- 旭丘 12
- 渋幕 10
- 筑駒 8
- 北野 7
(太字は冒頭特集で編集部が注目した学校)
今回日比谷高校は、一貫校の実績の引き立て役ですが、登場回数を見ると、灘や麻布、筑波大附属駒場などよりも出現数が多くなっています。
名門中高一貫校を引き立てる上では、対立軸として日比谷高校が欠かせない存在になっていることが理解できます。
全国区の名門中高一貫校に対等にぶつけられる公立高校が他に存在しないのでしょう。
また都立国立(くにたち)高校も、その芸術面に強いという特色が取り上げられ、独自の存在感により登場数を伸ばしています。
東京都教育委員会も、学校群制度に見られるような画一的な全体主義を目指すイメージとは異なり、現在は都立の各高校がそれぞれ特色を持った学校であることを推奨しているため、都立高校は今後ますます個性豊かな面白い展開が期待できるのではないかと思います。この辺りのことは、また別の機会にお話しできればと思います。
尚、今回の特集で開成に次いで登場回数が多いのは、実は日比谷ではありません。
2位は福岡の修猷館高校で、本文だけで47回もその名が登場しています。
他の地方名門校の取り上げ方と比較して著しく情報量が多いので、こちらも何か恣意的な理由があるのかな、と思えるほどです。
受験生が本気で進学先を検討するこの時期に、首都圏向けの開成推しはともかく、地方での特定高校推しは、他の実力校に対して少し気の毒な気がします。
東京ガラパゴスと全国ブランド
さて、今回の特集のように全国的な視点で高校を俯瞰すると、もうひとつ面白いことに気が付きます。
それは、首都圏の教育市場も、実は東京地方のローカル市場であるという事実です。
私は地方出身の東京在住者ですが、東京で暮らすようになったのは今年日比谷に入った長男が幼稚園に入園する前ですから、生活基盤としてそれなりに長い間暮らしていることになります。
そして東京で生活して感じることは、東京とそれ以外の地域では全然違うということ。
例えば都心では、町の八百屋のような小さな小売店がずっと存続できるように、人口も市場の購買意欲も、情報の発信力も他の地域に比べて桁違いに違う。
東京で生まれ育つと、その恵まれた環境が当たり前であるが故に、その状況がそのまま全国に当てはまるように錯覚してしまう。
東京の環境や意識における、ある意味特殊なローカル性に気づかないわけです。
それは各地域に密着した産業であればより顕著ですし、そういう意味において教育市場にはそれが当てはまると感じます。
例えば東京で私立御三家とか新御三家という言葉がありますが、麻布、開成は全国的に認識があるとしても、もう一校は名前が出てきません。地方の方が聞いてもあまりピンと来ないでしょう。
妻に聞くと今も知らないと答える。
むしろ灘、と言う方が全国的にはしっくりくる。
東京に暮らす者にとって、高校浪人が発生するほどの地方の名門校の圧倒的なパワーを実感できないように、地方の方にとっても、やはり東京の学校事情については実感がなく、そもそも甲子園出場校のような関心はない。
しかし東京の保護者の方は、首都圏の有名校は全国的にも名高い名門校と盲目的に思って疑わない。
これが東京におけるローカル意識の一例です。
中学受験を経験しない我が家にとっても、東京の中高一貫校事情については地方の方に近い状況があります。
高校市場の店頭に並ばない商品なのですから、購入対象にはならない。
敢えて揶揄するような表現を借りれば、高校受験組にとっては、高校入学枠のない中高一貫校はガラパゴス高校、ガラコーです。
そして、全国をマーケットとして意識した場合の学校ブランドに対する認識の現実が、今回の特集にはっきり現れています。
先の記事本文への登場回数で太字の高校、
灘、開成、麻布、筑駒、渋幕そして日比谷
現在この6校を、全国レベルの視点で見た場合の大学進学校を象徴する学校であると、ダイヤモンド社の編集部は認識していることになります。
- 灘、開成、麻布は、名門私立中高一貫校の代表
- 筑波大附属駒場は、名門国立中高一貫校の代表
- 渋谷教育学園幕張は、今後、名門の仲間入りを狙う新興勢力の代表
- そして日比谷は、名門公立高校であり、全国の公立高校の代表
それぞれのカテゴリーを代表するアイコンとしての役割を担わせているわけです。
例えば、名古屋の東海高校も旭丘高校も、愛知県を代表する私立中高一貫校と公立高校の超名門伝統校なわけですが、全国に向けた今回の特集の中では、東海を「愛知の開成」、旭丘を「愛知県の日比谷高校」と表現しています。
地元の方からすると納得できない表現だとは思いますが、これも全国規模で見た場合の一つの現実です。
そして地方の方にとっては、渋幕という言葉に馴染みが薄いかもしれません。
現在は指名買いも多いでしょうが、この学校が進学校として成長した初期要因は、
- 千葉県にあり、東京、神奈川より入試解禁日が早いこと
- 高校入学枠がある事
が大きいのだろうと思います。
我が家は、行かない学校は受験しないという方針で受けていませんが、東京、神奈川の多くの頭脳が、本試験に先立ち試験慣れのために受けるのです。
そして新しい存在が、市場から継続的な評価を受けて認められた暁には、それは強力な既存ブランドとして認知され、再び社会的なニーズは満たされるのです。 結局は高校受験市場におけるプレーヤーの新旧交代が促されたという結果に終わる。それが数十年の時の流れの中で、静かに進むのではないでしょうか。
現に私立高校の序列の変動が着々と進行していることを、マスコミやネットの発信する大学合格実績や学校評価などの情報を通じて誰もが感じていることでしょう。
中高一貫進学校は、なぜグレートウォールを高々と築くのか? - 日比谷高校を志す君に贈る父の言葉
現在このようにして、全国ブランドとして登場する東京ローカル教育市場のプレーヤーの入れ替わりが進んでいるのです。
それでも日比谷を選択する理由
最近の記事で時々見かけるのは、就職面接の際に、大学だけでなく出身高校も意識されるということ。
実は先週日比谷高校で保護者会があったのですが、その際にも同様の話が学校からありました。
高校は、学年がせいぜい数百人規模の地域密着集団ですから、何千人規模で学生が所属する、1人1人のステータスが雑多な大学よりも、集団の個性や基礎能力の判断基準としては、より分かりやすいのでしょう。
同時に、同郷で同じ釜の飯を食った仲間、という強い結びつきも得やすい。
ですから高校を選ぶ際には、大学への進学実績だけではなく、OBの人脈や学校の社会的評価などを考慮するのが大切だ、だからどこを選択するのかは自明ですねと、今回の特集も暗に語っているわけです。
実は我が家では進学先を絞る際に、このOBの厚みも含めた高校の社会における影響力やブランド力はかなり意識しました。
最終的な判断を下す際に、まずは要素の異なる次の3校に絞りました。
- 高校専属公立進学校である日比谷高校
- 中高一貫私立進学校である開成高校
- 大学附属校である慶応義塾高校
例えば早稲田と慶応どちらを選択するかは、上記の3要素の選択とは異なる問題であるわけです。同じ要素の中のどの学校にするかという検討です。
そして上記3校は、選択軸を突き詰めれば、以下のたった2点に集約されます。
- 進学校か大学附属高か
- 高校専属校であるか、中高一貫校か
本来的には、3つ目の要素として、公立か私立かという要素もあるはずですが、東京の受験事情では 都立=高校専属校、私立=中高一貫校となりますから、検討要素が上記の2点となるのです。
最終的には当初からの第一志望通り、進学校であり、高校専属である日比谷高校を選びました。
その選択の理由は、もしかすると子供と親では異なるかもしれませんが、
- 高校入学生の自主自律の確保
- 高校からの進学実績
- ブランド力
- 卒業生の社会的人脈
- 学費
我が家にとっては、今回の特集である、4.社会的人脈(学校群制度以降で見た卒業生)を除けば、日比谷が勝ると判断したわけです。
ただ4にしても、学校創立以来の歴史的な人脈で見れば、どちらかに優劣をつけることができるような状況にはないわけですし、逆に本当に社会に出てからの人脈を優先的に考えるのであれば、むしろ大学受験などせずに、慶應義塾高校への進学を薦めるように思います。
そしてブランドについても、50年間放置しても腐らずに息を吹き返す鯛の大きさを、多くの方が驚きと羨望の眼差しをもって見つめている状況がある事を考えれば、それで十分ではないでしょうか。
記事中、日比谷の武内校長が具体的な数字で語っているように、年々開成高校合格者の日比谷入学数が増えている事実があります。
開成をはじめとする中高一貫進学校は中学から入るべき学校であって、高校から入学する魅力は、日比谷をはじめとする都立高校の比ではないと、冷静に判断する家庭が実際増えているのだと思います。
さて、11月も終わりに近づき、そろそろ真剣に志望校や受験校を検討する時期に入ってきました。
高校受験を経験する君にとっては、志望校をどこに設定するのか、しばらく悩ましい日々が続くことになるでしょう。
このところ更新がままならない状況が続いていますが、日比谷高校をはじめとする都立トップ校を目指す君や保護者の方を応援する情報を、ささやかながら引続き発信していこうと思います。
ではまた次回。
日経ダイヤモンド記事拾い読み オンライン版
もう一つの高校力にみる日比谷高校の実力
高校受験における開成高校進学の実態