併願優遇制度と偏差値の上昇 ~人気進学校はこう作られる

2018年12月8日更新:

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 日比谷をはじめトップ校を目指す君にとっては、早稲田慶應を軸に、開成、国立附属といった有力校の中から実際にどこを受験するかという、前向きな志望校選定に意識が向きがちです。

しかし都立高校を目指す場合、実は一番大切でかつ一番困難な選択は、希望が叶わなかった万一の場合に通うことになる、抑え校をどこにするかということだと思います。

今回は、大切な抑え校選びを通じて体験した、中堅私立校が頭一歩抜け出すために行っていると感じる偏差値上昇対策や受験生対策の例を取り上げ、教育とビジネスの狭間で揺れ動く、受験業界の魑魅魍魎とした世界について考えてみたいと思います。

 

入学校の確保、高校入試の絶対条件

 高校受験にとって最も大切な点は、通う高校を確保することです。

公立中学が控える中学受験や浪人という身分が社会に認知されている大学受験と異なり、高校受験は受験校選定次第では本当に底なしのリスクがありますから、万一の場合、進学実績やブランドなどは二の次です。

無名であれ何であれ、とにかく通う学校がないという状況は、何としてでも避けなければならない緊急事態です。

だからこそ、それを避けるために中学受験しようとする家庭があったり、逆にそこを通過するからこそ得られる人生の経験値があることも確かです。

一般的には、合格確実性を求める場合には、「併願優遇」という、合格確約の代わりに、第一志望が不合格の際には必ず入学するという、学校を通じた公のバーター取引が利用されることが多いようですが、わが家はこの併願優遇は利用しませんでした。

理由は単純明快で、開成や早慶など、都立入学が叶わない場合の代替進学先として、受験したい高校がいくつかあったからです。

 

新興校が採用?塾型併願優遇制度

 わが家の受験においても、当然最後の砦となる抑え校を準備しました。

私立進学に強い関心がない家庭だからでしょうか、最終的に準備したその学校は、併願校の選定を始めるまでは名前さえ知らなかった中高一貫の私立高校です。

その学校は、併願校として学習塾が積極的に受験を勧めてきた私立校だったのですが、その受験はどのようだったかというと、以下の通りです。

未だに仕組みがよく分からないのですが、学習塾によると、塾内選抜試験や駿台模試などの特定模試の成績次第で、縛りのない併願優遇が得られる学校ということなのです。

要するに、学校側の基準要件を上回る模試などの実績があれば、合格内定ということらしいのです。

周りの情報を聞く限りでは、あの塾はあの私立への併願を勧められるなど、学習塾毎に提携している学校があるように当時は感じました。

塾型併願学校側のメリット

 実際に学校と特定の進学塾との優遇提携があるのか、あるいは受験生一般に広く開かれた優遇制度なのか分かりませんが、仮に特定の塾との間でこうした不文律の制度が確立しているとすると、

  • 学校側のメリット
     大学進学実績を稼いでくれる、指定の学習塾で鍛えられた高校受験成績上位生徒の安定的な供給を確保すること

が挙げられると思います。

塾から併願優遇として勧められたその学校は、近年、渋幕に続く新興進学校として名乗りを上げる、現在では中学受験での偏差値が急上昇しており、マスコミやメディアでもたびたび取り上げられる有名校です。

このため、塾との連携による難関校受験生供給のパイプラインが実際機能し、大学合格実績や後に続く受験生とその家族の評価を上げる事に大きく寄与している実態があるのではないかと感じます。

塾型併願塾側のメリット

 ではこの場合の塾側のメリットは何でしょう?

難関校合格を売りにする塾だからでしょうか、併願優遇が受けられる点は全く宣伝されていません。そういう意図ではないようです。金銭的な見返りでしょうか?

これはあくまでも個人的な想像ですが、おそらくは提携学校からの業務受託やポストの確保、あるいは経営そのものへの関与があるのではないかという気がします。

つまり、有力進学校としての地位を目指す新興勢力校の大学受験指南役としての包括コンサル契約であったり、理事、常勤および非常勤教師として提携学習塾からの人材を受け入れるということです。

いずれにしても、学校と塾との利害の一致がありそうです。

わが家はこの初めて聞く指定校?について調べ、実際に学校説明会にも足を運び、代表や教職員の言葉を聞き、校舎を確認し、公開授業や在校生から話を聞くというスキームを経て、結果的にその学校を抑え校として決めました。

塾の指導では、その学校の面談会に参加し、指定された模擬試験等の実績を提出し、一般入学試験を受けるという事を聞いていましたので、実際に入学相談会に出向いて行って学校の担当職員と面談を行い、資料を提出して帰りました。

そして実際にその学校の最上位コースを受験して合格したのですが、果たしてそれが塾がいうところの優遇制度のおかげなのか、一般受験生としての実力の結果であるのかは終に分からずじまいです。

なぜならば、塾から受けた指南通りに手続きを進め模試などの資料は提出したものの、学校側からは一言もそうした制度についてのサジェスチョンはなく、優遇制度についての言及もなかったのですから。

 

適切か不適切か、産学互助制度

 本記事を書く今頃になってはじめて感じることは、そもそも学校が募集要項に記載していない方法、今回記載したような方法で選抜を行うことが適切なことなのかどうかという素朴な疑問です。

現在では、国立大学でさえ国立大学法人として自ら稼ぐ力を求められている時代ですから、民間の私立学校が法律や公序良俗に反しない範囲で生徒を任意に選抜するということは自由競争社会の自然な姿の一つといえるかもしれません。

しかし同時に、学校はやはり公共性や社会資本的な意味合いの強い法人ですから、公平性やその他社会的に考慮すべき点があって然るべき点も確かです。現在では医学部入試に対する在り方に始まり、皇族の進学についてでさえ社会の目が厳しい状況にありますから尚更です。

塾から提案された優遇制度が、文科省や教育委員会の指導要綱に照らして適切かという点は判断する知見がありませんが、少なくともそのようなことが、学習塾を通じて受験生に提案されているという点は、ネット上の都市伝説の類ではなく、わが家が経験した一つの現実です。

例えば、中学受験向けの学習塾の説明会に参加してみれば、今後伸びるお勧めの私立一貫中学校として、特定校を強烈プッシュする状況を実際に体験します。

受験業界への抗体に乏しい保護者であれば、そうしたお勧め情報を本気で信じるのではないかと思うような、学習塾の巧みな情報戦略です。証券会社が行う推薦株式銘柄など、特定銘柄の価値を上げるために古くから行われている手法ではありますが、こうした塾と私立学校との連携は、中学高校に限らず全ての進学段階で見られる互助関係なのだと感じます。

おそらく、今後伸びるという言葉は、むしろ学習塾側が何らかの理由があって、今後人気や偏差値を伸ばしていくために応援している学校という意味でしょう。


想像ですが、わが家が体験したような併願優遇対応が社会的に不適切な範疇に位置するものだとするならば、おそらくこうした制度はいわゆる料亭会談的な紳士協定であって、塾と学校の覚書や打合せ記録などは存在せず、そもそも最終的には、そんなものはありませんと言って切り捨てる種類のものかもしれません。

逆にもしそうした制度が架空の産物であるならば、それを保護者や受験生に実際に斡旋している塾側は、自らの利益のために誤った情報を発信し、塾生に命綱のない危険な綱渡りをさせていることになりますから、それは生徒と保護者に対する明らかな背徳行為であり、ある種の詐欺的な行為と言えるでしょう。

そう考えると、塾と学校との提携優遇は、塾の案内する通り確かに存在すると考えるのが自然です。

とにかくこのようにして、よく分からないまま抑え校の受験は終了したのです。

 

新興進学校が設定すべき選抜方式

 当時は確実に合格できる抑え校の確保に頭が向いていたので気づかなかったのですが、実はその学校は一般試験日が前後2回あり、前期試験は有名校等と同じ日程ですが、後期試験日程は開成や国立附属高校など有力校の合格発表直後に行われます。
しかも、試験当日に出願が可能なのです。

つまり、例えば開成高校の受験結果を確認してから出願を決めることができる。
その学校よりも志望上位の高校に合格していれば受けずに終了、不合格であれば、試験当日に映画館でチケットを購入するように試験会場に足を運び、受験申し込みをしてそのまま受験するという事が可能だったのです。

これは受験生にとっては、なかなか都合のよい仕組みではないでしょうか。

その学校を抑え校と考えている受験生にとっては、受験料が無駄になることがないわけです。上位志望の有力高校の試験結果後に受験の有無を選択することができる、ずいぶん親切な制度のようにも感じます。

学校側は予め受験料を稼ぐことはできないわけですが、おそらくは、受験料という小銭稼ぎ以上の大きな効果が期待できるのだと思います。

つまり、おそらくは渋幕が享受したのと同じような効果を東京でも期待できる

渋谷学園幕張高校は、千葉県の受験解禁日が東京、神奈川よりも早いことで大きな利益を得ているはずです。

都立、国立、私立すべての高校受験生の先行併願校として、多くの受験料を得ると共に、第一志望に届かなかった優秀組の受け皿になっているわけです。

入試解禁日が千葉よりも遅い都内の中堅私立高校は、それを恨めしそうに指をくわえて眺めるしかない。

しかし、受験日を後ろに設定することはできる

ならば前納受験料は諦めて、主要私立受験で夢破れた受験生を拾うことはできる。
都立試験が後ろに控えているにしても、その時点では不合格が確定した優秀組の受け皿になることはできる。

残念ながら希望校合格に至らなかった受験生にとっては、非常事態に対するセーフネットとなるわけですから、感謝される。社会的な役割としても評価されるわけです。

当時は、試験当日に受験申し込みをして受験するという事実に対して少し違和感を覚えましたが、よくよく考えてみれば、受験生にも学校側にも利益のある受験方法の一つだと感じます。

上手いと思うのは、それが2次募集ではなく、あらかじめ募集要項に記載された正規試験だという事です。それなら受験生のプライドも保たれるし、当日思い立って電車にパッと乗るように気軽に受験する事もできる。

学校側としては、都立入試前の時点で他に有力校への入学切符のない、実力がありながら不運な生徒の受験を誘導する事が出来る。

高校受験の保護者としては、社会的にも財布にも優しい受験生のセーフネットとして、学校側は受験がうまく運ばなかった優秀層を効率よく受け止めるスパイダーネットとして、主要校合格発表日以降に行われる当日出願可能な受験日の設定は、受験生の不安を取り除く上でも、もっと広く行われればよいと思います。

 

学校評価に向けた偏差値の醸成

 塾と学校の提携併願優遇を利用した(つもりでいた)過程の中で一つ気づいた点は、その学校は非公式な併願優遇を実施している(はず)にもかかわらず、入試要項に記載された正式な入学定員は、たったの数十名程度だということです。

併願優遇を謳っている(はずの)割に定員が少ないというのは、違和感があります。

わが子が併願優遇(のつもりで)受けた平成28年度入試結果を見ると、合格者は定員の5倍近くいるのに対し、その3/4は入学していませんので、やはり大部分の受験生には併願校として位置付けられているようです。

この学校は中学、高校ともにホームページでも学校案内でも基本情報となる生徒数が記載されていませんので、高校から入学する生徒数を公式に確認する事ができませんが、高校入学の正規定員数は、高校受験実施私立校の中でも飛びぬけて少ない設定です。

これも個人的な見解ですが、この学校が高校入学定員を見かけ上絞ったり、著しく少ない定員を更に2回に分けて入試を実施しているのは、高校入学組には大学進学実績を稼ぐ一定レベル以上の学生のみを求めている点と、偏差値を高く維持したいからではないかと思います。

どんなに学力が高くても、定員がわずかな試験というのはちょっと心理的な抵抗を感じます。逆に言うと、プレミアム感を醸成できるという事でもあります。

実際には先述の通り、定員の5倍程度が合格し、大部分が入学を辞退するという事になりますので、学力上位の受験生にとってはそれほど狭き門ではないわけです。

わが家のように初めから万一の抑えとして受けている生徒が多いわけですからある意味当然の結果ですが、逆に学校側にはこれは都合がいい状況なのでしょう。

学習塾との優遇連携が行われる理由は、入学しない高い学力の合格者の確保という点にもあるように思います。理由は母集団の学力が上がれば偏差値も上がるからです。

このように新興校が高校入学枠を少なくしながらも、確かに実施している理由は、

  • 大学実績を稼ぐ即戦力の確保
  • 高い偏差値とブラント゛の醸成
  • 中学受験組へのイメージ戦略

という事があるのではないかと思います。もちろん個人的な想像です。
落ちない(つもりの)抑え校として受けたこの学校のクラスの高校偏差値は、日比谷高校とそれほど変わりません。

そしてその学校は、様々な対策が功を奏し、学校側が目標とする社会的地位を確立したのでしょう。2019年度入試からは、本科の高校受験を行わないことを発表しました。

 

志望校・併願校は五感を大切に

 本文章は、新興進学校の対応について批判を行っているわけではありません。

少子化の中、生徒獲得に生き残りをかけた中堅私立にとっては、世間や保護者の評価を得て認められることは重要な経営課題です。

ただし保護者としては、教育はもちろんのこと、青春を謳歌する環境整備もしっかり伴ってほしい。

一般的な商品と比較すると、学校というサービスに対する広報戦略は、自主規制以外の社会的法整備の枠の外にあるように感じます。ですから学校が目指していることや思いと、実際に実現している環境のギャップが生じやすい。グローバル人材を育成しますと謳っていることと、実際にそのような教育が行われていることとは違う。

教育が先か経営が先か、存続の危機に晒された学校法人にとっては、経営が先となるのは学校側の論理では自然な選択かもしれません。

教育は後からついてくる、と。

学校運営をビジネス的な側面から見れば、偏差値も大学合格実績も、一般企業の株価と同様に重要な経営指標の一つであり、それぞれの目標数値を設定して如何にそれを達成するかという検討は、あるべき企業戦略の一つであるかもしれません。

株価が上がれば企業評価も高まるように、偏差値や大学合格実績が上がれば学校の評価も注目度も高まる。そのように進学校の価値も高まるわけです。

日比谷高校をはじめとする官制学校が主流であった半世紀以上も前の時代、かつて灘も開成も新興勢力としてあの手この手で社会に頭角を現そうとしたことでしょう。

現代においても、教育者としての理念や良識を維持する適切な範囲の中で、様々な受験指標をマーケティング手法の一つとして扱う事は、むしろ経営者としては当然の対応かもしれません。ある学校を推奨する商業教育ライターの記事や雑誌やWEBの特集も、ブランド戦略の一環として学校側が発注する提携記事ということもある事でしょう。

君が学校評価を示す指標として目にする様々な情報は、教育という側面だけでは測ることのできない複雑な要素や人々の感情、そして企業戦略が重なり合った結果なのです。

受験生であり教育の受益者である君にとって、特定の団体や誰かの想いを反映した数字や評価ではなく、自ら足を運び、君自身の五感で選んだ学校の方がよく似合う。

ですから、たとえ入学可能性の低い抑え校だったとしても、数字の指標やネット上の情報という、他人目線の価値観だけで大切な青春時代を過ごす世界を決めることがないよう、出願前に必ず一度はその学校を訪れること。

それが受験する者にとって最低限の情報収集であり、受験先の学校に対する最低限のマナーでもあると認識し、すべての受験生がこれを実行するよう切に願ってやみません。

第一志望の出願前に、前向きな併願校だけでなく、万が一の抑え校を早目に選択準備する。それが高校受験を心理的に優位に進めるための対応の一つではないかと思います。
新たな受験生が、またそれぞれ納得のいく受験校選びができますように。

ではまた次回。


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