平成30年度 自校作成問題復活に見る、都立高校改革の行く先

グループ問題アンケート結果


  平成26年に導入された都立進学指導重点校入試におけるグループ作成問題について、2016年現在中学2年生の君が受験生となる平成30年度入試より、再び自校作成問題に戻ります

この情報は7月に公表されているため、既に多くの受験生が知る内容だと思います。

要するに各高校毎に独自の入試問題が課されるという当たり前の制度に戻るのですが、この制度変化を確認することで、今後の都立高校の方向性がしっかりと見えてきます。

今回は、今年度平成29年度入試にも影響を及ぼす東京都教育委員会が公表した資料に基づき、自校作成問題復活の背景と、その意味を確認したいと思います。

 

平成29年度都立高校入試検討会

 平成29年度以降の都立高校入試を語るうえで、1冊の非常に重要な報告書が7月28日付で東京都教育委員会より発表されています。以下の報告書です。

 「平成29年度東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書」

  http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/2016/pr160728c/besshi.pdf


これは、平成28年度入試の実施結果について、教育委員会が自ら検証、評価した報告書です。
この中には、既存の入試制度導入の理由をはじめ、制度の成果、改善課題などがまとめられています。

報告書をまとめる検討委員会は、構成や人選が適当であるかは別にして、以下のメンバーからなっています。

  • 行政 5名
  • 外部有識者 2名
  • 中学校保護者 1名
  • 高等学校保護者 1名
  • 中学校長 4名
  • 高等学校長 4名

主な検討の論点は、平成28年度入試における以下の項目です。

  • 都立入試実施状況
  • 推薦入試検証
  • 学力検査検証
  • グループ作成問題検証
  • 得点、答案の本人開示検証
  • 不登校、中退対策検討

行政の報告書にしては、意外に素直な反省の弁や突っ込んだ意見などが書かれており、なかなか興味深い内容です。

何より、今年1月~3月にかけて実施された都立推薦入試および学力試験の実施状況について、入試終了後の5月から直ちに検討委員会を5回も開き、わずか3か月足らずで50ページほどの報告書をまとめて発表に至るという、通常の行政スピードからすると猛烈に迅速な対応に驚かされます。

都立高校行政は、築地移転や五輪会場問題などの後手に回る取組とは対照的に、実績も一般的な都民の評価も高いため、担当者もだいぶやる気に満ち溢れているようです。

では早速、上記報告書に書かれた自校作成問題復活の理由と教育委員会の意図を通じ、各高校や実際に受験する家庭への影響について検証します。

 

グループ作成問題と自校作成問題

 受験年度を迎える前の君や保護者の方にとっては、あまり認識がないかも知れませんので、はじめに制度の違いについて簡単に説明します。

自校作成問題

 平成13年度から実施。22年までに15校に実施拡大。

  • 日比谷、戸山、青山、西、八王子東、立川、国立、新宿、隅田川、国分寺、
  • 白鷗、両国、富士、大泉、武蔵

 実施導入の目的は、

  • 中学指導要領内の基本的な内容について、知識・理解だけでなく、思考力、判断力、応用力、表現力の確認に重点を置いた問題を作成すること
  • 学力検査問題を通じて求める生徒の能力・適性を示し、特色ある学校としての校風や伝統を広く都民にメッセージを送ること

これはなかなか素晴らしい動機ではないですか。

つまり東京都教育委員会は、都立の各高校が画一的であることを良しとせず、各高校が個性的な校風や伝統を持った学校であることを強く推奨し、そのために入学試験を通じて受験生や都民全般にその旨を意思表示をしなさいという事です。

まさに学校群制度に伴う教育の画一化への決別です。

行政が公共教育に対して、個性を重視しろと指導するのは、ちょっと面白い。
みんなちがってみんないい、ですね。

では何故このような立場にあって、画一化への逆行とも捉えられたグループ作成問題の導入に至ったのでしょうか?

グループ作成問題 

 平成26年度から実施。3グループに分けて問題を作成。

  • 進学指導重点: 日比谷、戸山、青山、西、八王子東、立川、国立
  • 進学重視型 : 新宿、隅田川、国分寺
  • 中高一貫教育: 白鷗、両国、富士、大泉、武蔵

国語、数学、英語の問題が対象。社会、理科は都立共通問題を使用。
学校ごとに、一部独自問題の差し替えも認める。

実施のねらいは、

  • 問題作成能力の高い教師が集まり共同作成することで、学力検査問題の質の向上が期待できる
  • 各校の結果分析ノウハウを持ち寄り改善することで、結果分析の精度が向上し、入学時の生徒の学力をより的確に把握できる
  • 問題作成の情報の共有化により、教員の専門力の向上を図るとともに、各校への情報の還元により、国語、数学、英語の教科指導の充足が期待できる
  • 共通問題とすることにより、中学生の志望校の選択幅の拡大が期待できる

この報告書に記載された内容が正しければ、グループ化の狙いは決して画一化への回帰ではなく、むしろ全体のステップアップを目指すと共に、受験生の利便性を図るということで、あくまで前向きな動機があったのです。

ちょっと教育委員会の意図が伝わりにくいですが、受験生の選択幅の拡大というのは、グループ内のどの高校を狙う場合でも共通の受験対策をすればよいから、最終的な学力に応じた受験校の選択・変更が容易、ということです。

では次から、このグループ作成問題の実施状況を見ながら、自校作成問題へ回帰するに至った理由を見てみましょう。

 

グループ作成問題の反省点と自校作成問題の復活

 グループ作成問題への取組状況については、本ブログの趣旨から、進学指導重点校に絞って検証します。


問題差し替えの状況
  • 同一グループであっても受検者の学力実態は異なるため、
  • グループで作成した共通問題では、受検者の学力をきめ細かく評価することが十分にできず
  • 1教科につき大問1題は学校独自の問題へ差し替えが可能というルールを、多くの学校が活用している。

この問題差し替えの状況は、以下の一覧で確認できます。

 問題差し替え状況

差し替え差し替え状況凡例

この一覧を見れば一目瞭然、日比谷高校を筆頭に、実際多くの学校が独自問題への差し替えを行っています。
それにしても日比谷高校の状況を見ると、グループ問題導入の初年度から、何とかしてオリジナル問題の出題を継続したいという意思が伝わってきます。

こうした状況に対する、検討委員の意見は以下の通りです。

高等学校長の主な意見
  • 他校との共同作成では、簡単に集まることもできず、問題について全体での検討不足を感じる。
  • グループ内の学校で、問題の難易度をどのように合わせるかが最も大きな課題となり、問題の質的向上にはつながりづらい
  • 求める生徒を獲得するとともに、学校の特色を発揮するために学校独自の問題の差し替えを行わざるを得ない状況
  • 受験者の志望する学校は、グループ内で一貫しているわけではない。また、多くの学校で問題差し替えを行っていることから、統一の問題による選抜とは言えず、同一グループ内で志望変更しても、新たな準備が必要となる。

中学校長の主な意見
  • 問題の差し替えが多いということは、グループ共通の問題では受検者の学力をきめ細かく見ることができないことを表している。受検者の学力を各学校がしっかりと評価できるほうが良い。
  • 生徒は行きたい学校だから受検するのであって、グループ共通問題であるということが進路選択の要因になるとは思わない。
  • 重点校は差し替え問題の多さから、自校作成方式に戻した方が効果的

行きたい学校だから受験する。当たり前すぎるもっともな意見です。
一方で、次の外部有識者の意見は、ちょっと見逃せません。

外部有識者の意見
  • 社会と理科も自校作成を認めるといった、各学校のニーズに応じた自校作成体制を作る必要もある


委員会メンバーには、進学指導重点校の校長などは入っていませんが、みなさん冷静に制度の矛盾を指摘しているようです。

 

教育委員会まとめと入試の方向性

 上記のような状況に対して東京都教育委員会は、

『何よりも期待された、「中学生の志望校の選択幅拡大」については、中学校における進路指導との乖離が生じている』としている。

つまり、グループ作成問題の最大の狙いは、この受験生の利便性の拡大にあったと認めた上で、この点がうまく機能しなかったと反省しているわけです。

考えてみれば都教育委員会は、

  • 各校が個性的で特色ある学校になるという個別的な課題
  • グループ内で共通の試験問題を課すという集団的な方法

解決しようと試みたわけですから、矛盾が生じるのはむしろ当然の結果と言えるかもしれません。

一般的には学力の観点から、トップ校、二番手校、三番手校という呼称が存在していますから、共通グループをこの括りでもう少し細分化していれば、多少結果は違ったかも分かりませんが、いずれにしても、各高校が自分の個性を確保するために、自ら入試問題を作成するという至極当然の結論は変わらないでしょう。

ただし行政が、自ら実施した施策に対して過ちを認めて改善するというPDCA、つまり計画・実行・検証・改善が機能している点は評価に値すると思います。

そしてこの検証の結果、教育委員会は以下のような結論に至ります。

進学指導重点校、進学重視型高校の今後の方向性
  • 従来の自校作成に戻し、学校の特色や求める生徒を選抜できる問題を作成
  • 中学生に対する周知期間確保のため、平成30年度入試から実施
  • 中高一貫校はグループ作成問題を継続(現状も差し替えは行われていない)

 平成30年度から自校作成問題に戻ることは、都教育委員会のホームページでも謳われていますので、今更驚く情報ではないと思いますが、ただ一つ、先に記載した外部有識者の意見は大いに気になるところです。

理科、社会についても自校作成問題が導入されるのか?と。

もしこれが実施されると、進学重点校の受験対策は今までと全く異なります。
日比谷高校などでは、理科・社会も従来とは比較にならないほど深く考える入試問題へシフトするでしょうから、受験対策が全く違ってきます。

5教科とも独自作成問題になれば、これは一大事です。

そこでこの疑問を、直接東京都教育員会の担当部署に電話で問い合わせてみました

理科社会も自校作成問題になるのかと。

  • mommapapa:「平成30年度から、自校作成問題に戻ると公表されていますが、理科・社会も自校作成問題が適用されますか?」
  • 都教育委員会:「まだ詳細は決まっていませんが、以前の自校作成問題の際には3教科のみが対象だったので、その可能性が高いように思います。」

平成30年度入試に関しては、平成29年度に入試要綱が決定するため、自校作成問題に戻るという内容以外は何も決定していないのが正しい状況でしょう。

従って都の担当も、本来想像で回答してはいけないのですが、現時点では3教科のみが対象になるというのは、むしろ自然な流れでしょう。

ただし、報告書にわざわざ5教科自校作成問題への言及を記載していますから、以後の検討委員会の中で、5教科全てを自校作成問題とすることについての検討が具体的に取り上げられる可能性は高いとみるのが妥当だと思います。

その結果、例えば理科社会についても一部差し替えを行ってもよい、という結論に至るという可能性はゼロではありません

ただしその場合は受験生への影響が相当大きいですから、十分な準備期間は設けられるはずですので、必要以上に心配することはないと思います。

 

加速する都立高校の差別化

 今回は、特に自校作成問題に焦点を当てましたが、都立高校を目指す君にとっては、引き続き明るい話題が多いように思います。

その根底には、東京都教育委員会が、それぞれの都立高校に対して個性的な校風や伝統を持った学校であることを求めているという健全な方針があります

戸山高校が医学部進学コースを特設するように、各都立高校が、それぞれの特色を明確に掲げた学校運営や、それを求める生徒を募集する状況が今後更に進むでしょう。

偏差値だけで進学先を決めるのではなく、学力という縦軸と、運動、芸術、ファッション、国際交流、社会貢献など、自分の個性や将来への志向といった横軸にも合った学校を選択するという、健全な高校選択がより広がっていくことは、公立高校を志向する君にとっても、社会にとっても幸福な状況と言えるではありませんか。

そして我々保護者の社会的責務として、子供たちにとって適切な公共教育が実現するように、都立入試検討委員会の動向を継続して見守っていくことが求められます。

平成29年都立入試本番まであと2か月余り、グループ作成問題最終年度となる君たちの健闘をお祈りしています。

ではまた次回。

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