開成高校が高校入学募集を停止する日

2020年5月24日更新:

 諸行無常の響きあり。

2018年度開成中学校の入試では、国語で適性検査型の問題が出題され、受験業界では「開成ショック」と呼ばれ波紋を読んでいるのだとか。中学受験業界の王者であっても、時代の流れに従って変化が求められているのでしょう。

開成学園の変化といえば、工事が始まった新校舎建設と、そして何より高校受験業界で常々議論に挙がるのが、開成高校の入学募集枠の停止について。

学校側が高校募集枠の廃止を強く否定し続けているにもかかわらず、常にこの話題が持ち上がるのはなぜでしょうか?

高校入学枠の廃止も、突然発表される日がやってくるのでしょうか?

今回は、全国受験業界における最大関心事の一つである開成高校募集枠の是非についてお届けします。新たな開成高校ショックは起きるのでしょうか。

尚、本記事は、公に発信された客観的な情報の積み上げに基づく本ブログ独自の考察であり、開成学園の実際の運営方針とは直接の関係がない点を予めお断りしておきます。

 

開成高校は高校募集を止めない

 いきなりの結論ですが、開成高校は高校入学募集の停止を行いません。ざわつく外野を牽制するためでしょうか。2017年に入ると、柳沢校長本人も新聞のインタビューを通じて最低2回、高校募集停止をきっぱりと否定しています。

開成は高校からの入学もあります。完全な中高一貫にする予定はありませんか。 
柳沢「全くありません」

2017年1月22日:毎日新聞デジタル

 

中高一貫校でありながら、高校からも募集を続ける開成高校の柳沢幸雄校長に、理由を聞いた。――今年の高校入試で受験者が113人減りました。高校入試は続けられますか。

柳沢「国立大付属など他校の入試日程の変更で併願パターンが変化した結果だと思う。はっきりしているのは、高校入試はやめないということです。」

出典:2017年2月25日朝日新聞デジタル

長い間高校入試枠について沈黙を守ってきた学園側が、最近になってにわかに世間に向かって高校募集枠の廃止をしない旨について宣言し始めた理由は何でしょう?

また、これだけ校長本人がはっきりと廃止を否定しているにもかかわらず、引続き開成高校の入学枠削減が受験業界の話題となるのはなぜでしょう?

その答えは、平成から令和への時代の変わり目に見られた中高一貫校の高校入試の廃止の影響であり、また開成合格者の入学辞退数の増加にあるのではないかと想像します。

ただし、辞退者数の増減については公の資料がないこともあり、個人的にはどちらかというとネット上の流言の類に近い噂である旨の感覚がずっとありました。

ところが、SAPIX中学部が主催した2018年入試報告会では、開成、筑駒に合格した生徒の半分は日比谷や西高校に入学するのだと、塾側が保護者の前で明言していましたので、そうした流れはもはや一部の受験生のものではなく、上位層の中の確かな動向として存在するとの認識に至ったのです。

 

2021年高校募集に変化はあるか?

 そういう状況にあっても尚、高校募集枠を閉じることはないと学園側は断言していますが、仮に開成が高校枠を廃止するような何らかの変化があるとすると、それはいつ、どのようなタイミングでの発表になるでしょうか?

個人的にはある理由に基づき、明確な実施時期を意識しています。

それは、2021年度です。

もちろん、あくまで仮定にすぎませんが、東京オリンピックとなる2020年度が高校入学組の最終学年になる可能性がある。あるいは高校枠の廃止がないとしても、何らかの変化が発表される可能性がある。

そればなぜか?

それは2021年に、開成学園が創立150年を迎えるからです。

創立150周年に向け、高校校舎の建替えを進めており、この2021年が新校舎利用開始の年となる。

そしてその開成の未来を創ると題した150周年記念イベントの一環として、開成学園の未来に向けたメッセージ、つまり学校改革の要綱が発表される。

その中に、高校募集枠の再考も含めた様々な取組が盛り込まれるでしょう。

この150周年式典に合わせて実施する施策であれば、すべてが受け入れられる。

高校入試枠の廃止または縮小に対して、高校受験業界における敗退というネガティブな対応ではなく、未来の発展に向けた新しい自己変革であるということができる。

ですから逆に開成学園は、この2021年創立150周年に合わせて、高校入試枠にこだわらない、もっと世間の評価を集めるようなイノベーションに取り組むかもしれません。

例えば、高校枠を廃止したり定員の見直しを行うのであれば、その削減分はどこに振り向けるのか?

中学入試枠を拡大する可能性はもちろんあるとして、むしろ男女平等参画社会をリードする人材の育成のために、現在の高校入学枠の100名分の全部または一部を、女子枠として共学化することもないとは限らない。

そしてこのような改革を実施するかどうかは、実は現時点で既に決定している内容であるはずです。なぜならば、創立150周年事業の目玉として進められている新校舎建設において、学校が求める機能は設計内容にすべて反映されているからです。

女子トイレや更衣室が不足している状態では、共学化などできないわけです。

開成新校舎の基本設計は2015年9月に完成していますから、既にこの時点では、将来に向けた学校のあり方は大筋でまとまっていたことになります。

 

開成創立150周年記念事業

 開成学園が未来に向かってどのような教育活動を行うかは、新校舎の機能や図面を確認すれば全て理解できるはずです。

ただし、当然設計図書の公開はしていませんので詳細をつかむことはできません。それでも、計画の概要を説明した資料は、ホームページ上で一般に広く公開されています。

学校経営の規模を維持するために、高校400名定員を減少することは考えにくい。逆に中学定員を増やすのであれば、中学全体で100人x3学年=300人分の教室の増加が必要になる。

こうした運営方針は、建築設計にすべて反映されているはず。

仮に現在の高校入学枠男子100名を別用途に振り分けるとしたら、どのような可能性が考えられるでしょう。

  • 男子中学枠の増加
  • 女子中学枠の新設
  • 高校男女共学化
  • インターナショナル枠の設定
  • 上記の複合的実施

といったところでしょうか。
どれも21世紀の新しい開成学園として、社会に歓迎される意欲的な取り組みとなりそうです。

そこで、現在公開されている新校舎の設計概要を見ながら、上記の可能性について確認 してみます。

 

開成学園新校舎

 新校舎の概要は、開成ホームページ上に特設ページとして公開があります。

今回建て替えが行われるのは、普通教室棟、特別教室棟、体育館、南北本館、旧館となっています。中学校校舎は対象外です。

この内、学校機能を決定する施設面の現状校舎からの大きな変更として、以下の項目が挙げられます。

  • 諸室床面積の増加: 現在比+27%
  • 予備教室増加: 2室 → 6室
  • 大体育館拡大: 現在比+38%
  • 共用部増加(トイレ、廊下含む):現在比+43%
  • 中学校棟と高校棟との空中廊下接続

詳細が不明なので断定的なことは何も言えませんが、ただ上記の変更点を見ただけでも、先の高校入学枠の再編可能性に掲げた内容はどれも実現可能です。

中学枠の100名増加についても、一部学年を高校棟側に設置することになりますが、全体の床面積の増加もあり、予備教室6室を使えば純増分を受け入れられそうです。

現状生徒数は、中学900人+高校1,200人=2,100人。
中学枠を増やす場合、100人x3学年=300人増加の2,400人で約15%の総生徒数の増加ですから、今回の床面積増設や共用部の拡張で十分追従できるのではないでしょうか。

偶然か必然か、予備6教室は 50人x2クラスx3学年分とぴったり同じ数です。
また、中高教室棟を基準階で接続することで、学習環境の一体性を確保しようとしていますから、多少不便があっても非現実的な対応でもありません。

もちろん、真偽のほどは学校関係者のみ知るところでしょう。あるいは、現状では用途を限定せず、将来的な対応に柔軟に対応できるよう、上記のような機能を予めバッファとして持たせていのかもしれません。

 

未来の開物成務に向けた次の一歩

 開成学園は、2021年の記念の年に、次の未来への一歩として新校舎のハード面だけでなく、ソフト面のどんなイノベーションを我々に見せてくれるだろう。

大学入試改革の混迷だけでなく、新型コロナウィルスの発生により世界の常識が大きく変わる今、大きな変化のうねりは確実に訪れています。学校の開始そのものが9月となる可能性すら現実の課題として議論されています。

そのような中、開成の次の一手が、大げさに言うと教育関係に従事するすべての個人や団体に少なからず影響を及ぼすことになります。

特に、俗に2番手以下と言われる中高一貫校の学校経営者にとっては、開成学園の対応は直ちに自校の入学者の変化として現れますから、学校運営に直結する経営上の重要な外部要因の一つです。

東大合格No.1をいつまでも譲ることなく、時代をリードする常に新しい姿も同時に発信することが求められる。注目が高い分、なかなか難しい対応です。

 

進捗の遅れと2024年のメッセージ

 当初2021年に予定されていた真ん校舎の竣工は、オリンピックや様々な要因から2024年度にずれ込むことが決定しています。ですから遅くとも来るべき2024年には、開成高校の未来を創るメッセージが発信されることでしょう。

この際公益に資する教育機関の責任として、万一高校入学枠を廃止する事態となる場合には、少なくとも3年前には高校募集枠の停止が予め発表されるように思います。

そして2024年に高校入学募集を中止するのであれば、それは3年前の2021年度入試に向けた告知となる。

ただし現在、行われるはずだった大学入試英語民間試験や大学共通テストでの記述問題の実施は見送られ、東京オリンピックさえ延長となり、2021年に実施されるかさえ怪しい混沌とした世界となっています。

そのような中で、開成高校の高校入試はどのようになっていくのでしょうか。例え他校が入試を廃止しようとも、学園側が明言するように高校入試を継続的に実施し続けるのでしょうか。

この2020年に、高校入試の動向にも影響を及ぼす可能性がある動きがありました。

柳沢校長の退任です。

開成高校は高校入試を決してやめないと明言して憚らなかった校長の交代が、今後の入試に対する学園の方針の転換を暗示しているのでしょうか。

創立150周年を迎える2021年と新校舎竣工を迎える2024年に、コロナ後の新しい世界に向けた開成学園の未来への宣言がどのようなものであるのか、注目したいと思います。

ではまた次回。 

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