桜修館と白鷗に行ってきました~都立中高一貫校比較

2018年6月5日更新:
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 日比谷高校で付き合いのある家族を見回すと、日比谷生+兄弟姉妹は都立中高一貫校という組合わせが結構いるように思います。

中学受験はしない家庭でも、将来のために小学生に求められる適切な学力を身に着けてほしいと考えるのが親心。
その場合、学習指導要領の範囲内の知識を用いて主体的に考える力が試される都立中高一貫校の適性検査が、小学校高学年を持つ家庭の一つの学習目標として捉えられるということがあるのではないでしょうか。

わが家にも中学受験勉強適齢期のチビがいますが、私立受験は特に考えていません。

理由の一つは、親から見た本人の適正でしょうか。
学校から帰ると、1秒でも時間が惜しいというように、文字通りランドセルを玄関に放り投げて外に飛び出していく毎日。
17時に街に鳴り響く帰宅誘導の音楽と共に、へとへとになって家に帰ってきます。
土曜ともなれば、母親が朝早く準備した弁当を持って家を出て、やはり夕方の音楽と共に家に戻る生活。まるでミツバチのように規則正しいお勤めです。

頭脳明晰な兄とは異なり、世代を超えたコミュニケーション能力の高さが持ち味の弟には、自分が 頭を回転させる事よりは、目的に合った頭脳を選択し利用することで、世の中で活躍できる人間に育ってほしいと考えています。

友人の父親から昭和的な子供と評されたわが家のチビは、都内では小学4年生ともなれば遊び脱落者が出る中で、遊び偏差値は抜群に高いように思います。今のところは様々な年代の仲間と一生懸命に遊び回ればよいという気持ちでいますが、最低限の学力は身に着けてほしいと願います。

そんな折に意識するのは、やはり21世紀型と言われる適性検査。
しかしその一方で、適性検査を課す都立中高一貫校の実態については全く知りません。

活字ではよく目にするまだ新しい制度の学校が、実際にはどのような環境の中で教育を行っているのか直接確かめてみようと思い、桜修館中等教育学校と白鷗高校・附属中学の説明会に出かけてみました。
受験に備えた学校視察というよりは、週末の妻とのランチデート先の確保という気軽で不純な訪問です。

それでも百聞は一見に如かず。
その場に身を置いてみればこそ、様々考えるよい機会となりました。

今回は、小学生を持つ多くの保護者の方が心のどこかで気になっている人気の都立中高一貫校2校について、日比父流の観点から見たその印象と、学校見学に実際に訪れることの大切さについて考えてみたいと思います。

桜修館と白鷗は似て非なる学校

 今回足で稼いだ確かな情報として分かったことは、当たり前のことですが、桜修館と白鷗は全く異なる学校なのだということ。

学校の考え方も環境も大きく違う。
それぞれ異なる環境の中で6年間を過ごすのですから、卒業時の人間像もかなり異なるのだろう、そう強く感じます。

それは、桜修館が高校募集のない中等教育学校であり、一方の白鷗が高校と中学がそれぞれ独立した併設型という学校形態の違いに起因するものだけではありません。 

両校を実際に訪問するまでは、創設者や創立目的となる宗教、設立団体の意思が強く反映される私立とは異なり、都立中高一貫校は設立形態や母体となった学校の違いによる特色はあるにしても、公立中学と同様に基本的な部分はどこも同じではないかと漠然と考えていたのです。

ところが実際はそうではなかった。
どちらも2時間に満たない程度の滞在時間でしかありませんでしたが、驚くほど違うという印象を強く感じたのです。

現在、都立高校が教育委員会から学校毎の特色を強く求められているように、都立中高一貫校もまた、高校が主体の学校であるならばそれは当然であるかもしれません。
都内に10校ある都立一貫校全てが、同様にそれぞれの個性を発揮しているのでしょう。

志望校選択時の学校訪問の重要性

 今回初めての学校を訪れたその印象は、第一志望であれ併願校であれ、入学する可能性が0ではない学校を、一度も訪問することなく文字情報だけで判断して出願することのリスクの大きさを再確認させるのに十分なものでした。

世間の学校評価や偏差値の高低、進学実績だけで志望校を選択することの愚かしさは、実際に学校を訪れた後に初めて気がつく種類のものです。
なぜなら学校間の相違を醸し出すものは、生徒を預かる器としての学校機能そのものだけにとどまらず、そこに至るまでの通学経路や周辺環境といった様々な要素が含まれた結果であるからです。

そして実際には、こうした周辺環境も含めた学校の持つ個性が、中学であれ高校であれ、子を預ける親としては、実は学校選択上の最も重要な要素の一つに違いないと感じるのです。

これまで度々の引っ越しを経験してきたわが家では、住まいを選択する際に、住居そのものの品質や経済性よりも、まずは立地や人々の暮らしを含めた周辺環境を重視しています。どちらかというと、家そのものよりも環境にお金を払っているといっても過言ではありません。

個人的には学校選びも、住まい選びと基本的には同じではないかと思います。

桜修館と白鷗の環境の違い

 今回強く感じたことは、この2校は対照的な雰囲気を持つ学校だということ。

もちろん、中等教育校と併設校という、対照的な学校運営方式を持つという事実に起因する点も多いと思います。

しかしそれ以上に、学校の所属する環境から醸し出されるもの、つまりそれぞれの学校が位置する目黒区と台東区という立地の違いが、そのまま学校の性格を形づくる大きな要素の一つであると感じます。

桜修館中等教育学校

 桜修館は、旧東京都立大学跡地に広がる目黒区の緑豊かな市民キャンパス内に位置する学校であり、1,200席を擁する区民ホールや区立図書館、公団という響きとは一線を画す洒落た外観を持つ都営住宅に隣接するなど、東急東横線沿線に広がる高級住宅街の一角を占める学校です。
東横線、目黒区、世田谷区、自由が丘、碑文谷といったキーワードが気になる保護者の琴線に触れる環境だと思います。

白鷗高校および附属中学

 一方の白鷗は、JR上野駅や地下鉄稲荷町、田原町が最寄りとなる東京下町に位置する学校であり、マンションや雑居ビルが立ち並ぶ中に忽然と現れる都市型の学校です。
郊外型の緑に囲まれた環境よりも、コンクリートに囲まれた都会の喧噪に惹かれ、江戸の下町風情を好み、上野、浅草、アメ横、隅田川、日本芸能といったキーワードを好む保護者にとっては訪れるのが楽しみな環境だと思います。

本当に対照的な環境があり面白い。
活字や写真からは伝わらない空気が、最寄り駅に降り立った瞬間から五感に伝わるリアルな実感があります。たとえ住所や周辺環境の特徴が記載してあったとしても、書籍や入試情報等からは全く感じることができない生の情報です。
同じ都立一貫校といえども、それぞれが全く異なる学校であることが理解できる、よい体験となりました。

どちらの学校環境が好ましいか、これは絶対的な答えなどありません。
各家庭の価値観や人生観に基づく判断ですから、周囲の評価は関係ないのです。

ただ一つ言えるのは、桜修館の環境を好む保護者が白鷗に子供を預けたり、逆に白鷗の環境を好む保護者が桜修館に子供を預けると、もしかすると保護者自身の価値観と学校環境とがミスマッチを起こし、潜在的なストレスを抱える可能性があるのではないかということです。

子供を預ける学校を、自分自身も心から好きになり応援できることが何より一番。
親子共々6年間もの長い付き合いになるのですから、周囲の評価をはじめ教育環境や卒業時の進学実績も大切には違いないですが、学校や保護者が持つ空気が一つの重要な要素ではないかと思うのです。
保護者の雰囲気も、学校見学に訪れたのならば自ずと分かるもの。

木を見て森を見ず。
進学先を選ぶ際に、学校機能や他社の評価に着目し過ぎることは、少し危険な学校選びに違いないと改めて強く感じました。

桜修館、白鷗の類似性と日比谷高校

 上記の通り、同じ都立中高一貫校であっても、桜修館と白鷗では異なる性格の学校だということが言えると思います。

ところが両校を日比谷高校と比較してみると、面白いことに今度はこの2校がむしろ似ていると感じてしまいます。

それはやはり都立の中高一貫校における設立形態の相違以上に、一貫校と高校単独校の相違の大きさが生み出す結果であるのかもしれません。

日比谷高校に子供を預ける親にとって一番戸惑う制度の違いは、高校2年生であるはずの生徒が、中等教育学校では5年生と呼ばれる点です。

中等教育学校である桜修館については、中学に相当する前期課程と高校に相当する後期課程の間に、明確な卒業式や通学キャンパスの変更などがないため、中学と高校の連続性がより顕著であるといえるでしょう。

誤解や批判を恐れずに記載すると、中学5年生となる一貫校の生徒よりも、高校2年生である日比谷高校の生徒の方が何処となくたくましい感じを受けます。

もしこの感覚が的を得ているとするならば、おそらくその要因は、一貫校の高校生が主として内部中学生からの持ち上がりであるのに対し、日比谷高校の生徒は、全員が背景の異なる集団から集まっているという事実に基づくものではないかと思います。

良くも悪くも一貫生は出生の知れた良質な中学から供給された高校生。
選抜サラブレッドです。

これに対して日比谷の場合は、何処の馬の骨かと比較する程に、生徒のバックボーンが豊かです。赤兎馬、悍馬、駄馬すべからく含むべし。
カラフルな集団です。

都内からの生徒という意味では、立地や環境面からも、おそらく日比谷高校の方が全都広い範囲から集まっているのではないかと思います。

また生徒の多様性という意味では、海外帰国生も地方出身の生徒も、どちらの学校にも多く在籍しているように思います。

異なるのは異文化で過ごした時期が、受験適齢期以前であったか以降であったかという点です。それは概ねゴールデンエイジが始まるとされる9歳の前と後ろに大別されるのですから、個人の人格形成には大きく影響するでしょう。
後天的な経験値となるかどうか別れるからです。

日比谷の生徒は、昔でいえば元服となる多感な年代に、本人や家庭の意思であったかどうかは別にして、3年間様々な環境の中で揉まれた経験値を持っています。
こうした点が、少しだけたくましさとなって現れるのかもしれません。

どちらも同年代の男女ですから、肉体的な成長に個体差以上の相違があるはずはありません。しかし確実に感じる日比谷高校と都立中高一貫校との空気の違い。
これは一貫校の保護者の方が日比谷を訪れた際にも感じることではないかと思います。

ユトリとハヤテ

 日比谷高校の場合には、学生生活の中にスピード感というか、風を切る音が聞こえるように感じるのです。特に動の前期と呼ばれる4月から9月までの前半部分は、凄まじい勢いで過ぎ去ります。

疾風怒濤。風を切る青春。

休む間もなく三日三晩荒れ狂い、あっという間に過ぎ去る嵐のような、一日一日の躍動感や緊張感が学校生活の中にみなぎっているように思います。
泣いても笑っても3年間。
息つく暇もないような、短距離型の学校環境なのでしょう。

対する桜修館や白鷗の雰囲気は、6年かけて大海原を進むような、時間を最大限有効に使うことができる学生生活。

余裕綽綽。ゆとりある青春。

学習も行事も、長期展望で取り組むことができる良好な環境です。ネット用語でDQNと表現される輩に悩まされる期間も少ないでしょう。
良くも悪くも6年間。
少数精鋭の仲間と長く過ごす、長距離型の学校環境ではないでしょうか。 

都立一貫校と日比谷の類似点

 私立や国立も含め、どの学校がよいか、どの環境が合うかは本人や保護者次第。
ただ、都内に暮らす教育熱心な保護者にとって、中学受験のカードを切らずにスルーするのはむしろ困難な選択であるかもしれません。目の前の権利を行使することが可能な立場にあって、それを手放すのはなかなか難しいことです。
そういう意味では、日比谷生の方が特殊な立場にあると言えるでしょう。

ただ一つ感じるのは、都立一貫校の適性検査と日比谷高校の推薦入試は、意図や方向性がとても近いこと。おそらく内申点を高く取れるという人間像も同じでしょう。
グローバルな視野に立ったリーダーを育成し、社会の公益に資する人材を育成するという観点も近いものがあります。

ですから都立中高一貫校と日比谷高校は、実は入る時期と在籍期間が異なるユトリさんとハヤテさん、教育委員会を親とする兄弟姉妹かいとこのような関係性であるかもしれません。

何時どちらに入学するのかは、個人の意志や能力といった自発的な内部要素以上に、家庭環境や時の運といった抗うことのできない外部要因が案外強いように思います。

いずれにしても強く感じることは、ネットや雑誌の情報に基づき考えるよりも、自分の足を運んで感じた情報を頼りに判断することの大切さ。なぜなら昨今目まぐるしく変わる学校環境であれば、活字で書かれた情報が現状を正しく反映しているとは限らないからです。

桜修館の授業公開に妻と訪れたのは2017年6月。
その後興味をもって都立一貫校に関する書籍を2冊読んでみました。

 『都立中高一貫校 10校の真実』河合敦 著

 『公立中高一貫校』小林公夫 著

この二つの書籍に共通して登場する学校が、都内で初めて設立された公立一貫校である白鷗高等学校・附属中学校です。

そして事実7月に訪れた現在の白鷗は、2013年の同時期に書かれた先の2冊の内容以上に、大学進学実績にこだわる学校に変化していると感じたのです。

白鷗は当初の理念に向かって飛べ

 今回の見学時に白鷗副校長の学校説明を聞く機会がありました。

先の書籍から、白鷗の特徴は日本文化への造詣にあるように思っていましたが、その点については一言触れる程度の言及しかありませんでした。

それよりも学習面、外国語教育の充実と大学進学実績の向上が話の中心でした。

都立中高一貫校の内、現在受験偏差値が他校と比較して低いという点については、かなり意識しているようでした。優秀な生徒を集めて大学進学実績を伸ばしたいという気持ちが強く伝わってきましたし、毎日の宿題がかなり多いという話もありました。
実際構内を歩いてみれば、大学進学を意識した情報発信が、日比谷と比較しても著しく高いと感じました。

白鷗も桜修館も、その他の都立一貫校も、既に開校から10年が経ち、学校環境も求める生徒像も少しずつ変わっていることでしょう。
小学生を持つ保護者としては、都立の中高一貫校が、私立の中堅進学校のような大学受験一辺倒に偏ってしまわないよう、当初掲げた教育理念や設立目的の実現と発展にこそ目を向けてほしいと願います。

それこそが、高校単独校では時間的制約から実現困難な教育であり、都立中高一貫校の存在意義だと思うのです。 

今回は、各学校の詳細をお伝えするのが第一の目的ではないため、ここでは個別の学校についてこれ以上の情報は記載しません。興味のある学校について、自分の目で確かめることをお勧めします。
実際に訪れてこそ感じることができる大切な情報は、多くあるものです。 


今回お伝えすべきことは、中学受験であれ高校受験であれ、出願する以上は一度はその学校を訪問すべきではないかという点です。

初夏から秋にかけては、大学も含めた多くの学校が見学会や説明会を開催していますから、夏休みの期間中、部活や塾の夏期講習の合間を縫って志望校に足を運んでみることを強くお勧めします。特に日比谷高校を受験する君にとっては、納得できる抑え校を見つけることが、受験の最後に迷いなく出願し、自信をもって試験に臨むための力になるのですから。

ではまた次回。