国立大学附属高校入試と内申点 ~国立附属校改革の理由

2022年3月22日更新:
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画像出典:筑波大付属駒場中・高等学校ホームページ

 都立高校の明確な内申点の取り扱いと異なり、応募要項を確認してもよく分からないのが国立附属高校入試における調査書や内申点の取り扱い。

個人的には国立附属は内申点をあまり加味しないという認識がありましたが、学芸大附属高校に大野常任校長が赴任した際、同校はその年から面接は行わず、調査書点をきちんと考慮した合否判定を行う旨発言していたこともあり、少し気になっていました。

志望校を決定するこの時期、5教科型入試に重点を置く君が志望校の一つとして受験する国立附属校がどのような配点ウエイトで合否判定を行うのかは、内申点の影響が都立と比べて相対的に低いとはいえ、外部中学生の募集定員が少ない狭き門であるが故に逆に気になるところ。

そこで今回は、今まで日比父ブログで取り上げることがなかった国立大学附属高校入試における内申点について検証すると共に、これからの国立附属校の在り方について考えてみたいと思います。

国立附属高校募集要項上の内申点

 都立高校入試の場合は、東京都教育委員会が定めた厳格なルールによって、内申点の得点換算ルールや学力試験との評価ウエイトが決められています。そしてその内容は、都教育委員会が毎年公表しています。

これに対して国立附属高校の場合は、内申点の扱いは各校毎に異なります。
学校説明会などの特別行事を除き、これを公的に確かめるための手段としては、各校の募集要項を確認することが唯一の方法だと思いますので、平成30年度入試向けの最新要項を確認してみました。

国立進学校の状況を都立高校との比較となるように一覧に並べています。

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この一覧を視覚化すると次の通りとなります。 

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同じ1,000点満点換算でグラフに描いてみると、都立と国立附属の内申点評価差が直感的に理解できます。
x軸方向に伸びるほど、つまり学芸大附属 ⇒ 筑波大附属 ⇒ 都立の順に内申点の影響が強まります。学芸大附属の調査書点は都立の概ね50%、筑波大附属は70%です。筑駒とお茶女は内申点の影響を0として記載しています。

逆にy軸方向に伸びるほど、学力重視となります。

そして、学校名の下に記した数字が、学力と調査書点で囲まれた四角形の面積に当たるのですが、この面積領域は合格生徒の多様性を示していることになるでしょう。

これを単純に見ると、内申点の高い受験生は都立が有利であると同時に、国立の場合は筑波大附属が有利に感じますが、実はそう簡単に結論付けはできません。

なぜならば、国立大附属高校の場合、先の一覧の備考欄に記載した通り、調査書点を入試得点化するルールが明示されていないからです。

保護者の立場として少し苛立ちと批判をもって記載すると、正直なところ、入試の運用方法を示すはずの応募要項を見ても、受験生がどのような基準で合否判定されるのか、正確なところはさっぱり理解できません。

国立附属の中で、調査書点の合否判定への反映に前向きと思われる筑波大附属と学芸大附属でさえ、配点ウエイトは確認できますが、どの時期のどの科目の内申点をどのように得点化するのか、あるいは内申点ではなく通学状況や学習態度などを点数評価しているのかという運用ルールは、少なくともどの学校の応募要項にもホームページ上にも公表されていないのです。もしかすると私が探し出せないだけなのかもしれませんが、そうではないでしょう。

仕方がないのでネット上に答えを求めても、当然ながら明確な答えは見つかりません。学校説明会では公表されるとか、調査書は合否ボーダーライン上の受験生しか考慮されないとか、真偽不明の情報に虚しくたどり着くばかりです。

情報開示遅れの国立大学附属校

 都立高校の入試情報の開示状況に慣れた者が見ると、国立大附属校のこの状況にはかなりの違和感を覚えます。どのような調査書の得点化ルールに基づき合否判定が下されているのか、受験生自身が理解できない仕組みになっているからです。

多少の皮肉を込めて表現すると、採用側の良きに計らえです。

この状況は、一般社会の目に晒された都立高校の明確な運用ルールに基づく入学試験と比べると、かなり前近代的な隠ぺい体質が残る運用方法のような印象を与えます。

都立の場合は、運用ルールが細かく公表されているだけでなく、合格発表後の得点開示制度がありますから、受験生や保護者一人一人が採点の妥当性をはじめ、受験校の採点内容やルールの遵守に対して目を光らせることが可能です。

受験生の得点情報は学習塾にも集まってきますから、各校合否判断の妥当性が検証されると共に、特に不合格となった生徒を中心に厳しいチェックを受けることになります。

現代はSNS等により一瞬で情報が共有される時代ですから、少しでも疑義があれば瞬く間に不備が明らかにされ、採点ミスといったニュースとして発信される環境です。

時折都立高校の採点ミスが受験シーズン最後の話題として登場しますが、国立附属校の状況を見る限り、採点ミスについてはネガティブなニュースという半面、同時に行政のディスクロジャー(情報開示)が進んだ状況を示す、相当健全な情報だと言えるのではないでしょうか。

なぜならば、一方の国立附属高校入試の場合は、採点の妥当性以前に、調査書点に絡む合否判定の判断基準さえ開示されていないからです。そしてこの状況は、制度運営する側から見れば、心地の良いものであるのは確かなはずです。

なにしろルールが非公開ということは、入試への対応状況や運営状況に対して、受験生を含む第三者からの批判の対象となるリスクが限りなく0に近いわけですから、採用側の思惑や主観が通用する下地があると言えるでしょう。

悪意を持って望む場合には、いかようにも合否の調整を行うことが可能であるし、善意をもってしても、採点ミスや集計ミスが生じて合否判定が入れ替わったとしても、闇の中に葬り去られたままということになりかねません。

そしてこの状況の異常さは、附属校の親であるはずの国立大学法人の状況に照らしてみればひときわ目立ちます。 

これまで世間の声はどこ吹く風、我が国の最高学府として孤高の立場を貫き公平中立を意識してきたはずの東京大学が、入学者の多様性確保に対し、なりふり構わぬ前向きな態度で取組みはじめたのは確かなようです。

東京大学中期計画と推薦入試

先の記事で紹介した通り、今では東京大学さえ自己改革の波にのみ込まれて情報開示が求められる時代。受験生への得点開示制度も実際に運用されています。

そうした中で、子である附属校がぬるま湯のままであり続ける現在の状況に、改革の波が押し寄せるのは必然的な流れと言えるでしょう。

国立附属改革有識者会議 

 夏ごろ、国立附属校の入学試験に抽選方式を導入するという局部的な情報で話題となったのが、文部科学省が設置する「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議」という長い名前の委員会です。

長すぎるので、以下「有識者会議」と呼ぶことにします。

ニュースでは、中学、高校受験に関わる附属中学高校の改革の話題が大きく発信されているようにも感じましたが、実際の有識者会議では、正式名称が示す通り、国立の教員養成機関を本来あるべき姿に正すという改革の方向性が話し合われています。

その一環の中での附属校改革なのですが、世間では中高受験入試改革のようなとらえ方が強いように思います。

有識者会議は、平成28年9月から平成29年8月までの1年間に11回の会議を実施し、最終会議となる平成29年8月29日付報告書として、今後の方向性をまとめています。

その中で、国立附属進学校に対して向けられた有識者の目には、次のように実際に厳しいものがあります。 

一部の附属学校は、いわゆるエリート校化し、そこに通う子供の資質能力の向上に力を注ぐあまり、教育実習生の受け入れ先としての機能を十分に果たしていない、あるいは、実験的・先導的な教育課題への取組や、地域の指導的・モデル的な取組が不十分と指摘されている。

出典:文科省/有識者会議・第8回 資料1

このような指摘を文科省がホームページ上で公開する理由は、国立附属校に本来求められる役割が、この有識者会議を通じて明確に再定義されたからに他なりません。

最終報告書には、国立大附属校のあるべき姿として次のように記載されています。

国立大学附属校の課題

 国立大附属校に対しては、4つの課題が指摘されています。

①在り方や役割の見直し

国立大学附属学校は、地域のモデル校としての役割が期待される一方、一般に入学者選考を行い、地域の公立学校とは児童・生徒の構成が異なっているために地域のモデル校にはなり得ないとの意見もあり、入学者選考の実施方法を含む国立大学附属学校の在り方や役割を改めて見直すことが必要である

出典:文科省/有識者会議・8月29日報告書

報告書のこの部分は、今後の国立附属校の入試を考える上での土台となるものです。文章中の下線は報告書のままですが、個人的にはその間の記載に注目しました。

つまり報告書では、国立附属学校は地域のモデル校となるために、児童・生徒の構成を地域の公立学校に近づける必要があると言っているからです。

要するに、私立進学校のように高偏差値の学生を集めるための選抜方法ではなく、地元公立中学に通う生徒層に近い環境が確保できる選抜を行うということです。話題が独り歩きしている感のある抽選方式の導入や、地域からの特別入学枠を設けるといった取り組みも、この方向性の具体化の一つの案でしょう。

実際、学芸大附属の大野校長は、同校も特定の背景を持つ生徒に対する特別入学枠を設けると明言していました。

②大学との連携

附属学校の中には、実験的・先導的な教育課題への取組の成果の普及が不十分な学校や、独自の関心に基づく教育・研究への意識が強いあまり、地域の公立学校に対するモデル的な取組が不十分で、大学によるガバナンスも十分に機能していない学校や、大学や教職大学院における教育・研究への貢献・協力が不十分な学校がある。大学のガバナンスを強化するとともに、校種を超えた教育・研究など、公立学校等では実施しにくい取組を率先して実施することが必要である。(以下省略)

出典:文科省/有識者会議・8月29日報告書

この文章は端的に言い換えると、附属校は本来大学所属の教育実験校であるはずなのに、親である大学との連携を断ち、自己利益の追及に走っていると批判しています。

ここでいう自己利益とは、大学合格実績を謳う進学校化のことであるのは明白ですが、そうではなく親大学の管理下で、教育実験の場として公共の利益に資することが改めて求められるという見解です。

③地域との連携

一部の附属学校は、域内の教育委員会との連携が不十分と指摘されており、教育委員会等との交流人事をほとんど行っていないために、教員構成が長年にわたって固定化し、地域のニーズに沿った柔軟な動きや、多様な観点からの生徒指導・保護者対応等の対応力に欠ける面がある。(以下省略)

出典:文科省/有識者会議・8月29日報告書

この文章は意味するところが分かりにくいですが、報告書全体から眺めてみると、国立附属校は実社会との接点が長期間気薄であったため、時代が求めるニーズからかけ離れてガラパゴス化しているとの指摘です。

具体的には先の入試に関する情報開示の遅れや、片親や共働き世代が参加しやすいPTAや入試対応の在り方など、地域社会に密着した学校であるべきとしています。

私立のように、教師が長期固定化されている状況への懸念も指摘されています。国立大附属高校の教師は、今や研究費の獲得に追われる大学教員などと比べて、むしろ居心地がよい恵まれた職場なのでしょうか。

④成果の還元

多くの附属学校が研究成果を研究紀要等の形でまとめて教育委員会等に提供しているが、研究テーマ自体が汎用性に欠けるものや、記述が詳細である一方でポイントが端的にわかりやすくなっていないものなど、地域の公立学校にとって活用しにくいものが多い現状がある。結果として、附属学校の教員がかける膨大な労力と時間の割に、その研究成果が地域や全国で十分に生かされていない

出典:文科省/有識者会議・8月29日報告書

この文章も、国立附属校があくまで教育実験校であり、その取り組み成果を地域社会に還元すべきであるにもかかわらず、それが実現できていない状況を指摘しています。つまり、文部科学省が国立附属校に求める役割と、附属校が実際に果たしている学校運営とのミスマッチが生じているということです。

そして有識者会議が指摘するそのミスマッチの最たるものが、附属校の進学校化ということでしょう。 

国立大学附属校の改革方向性

 今回は当初、国立附属高校入試における内申点の影響を検証しようと考えましたが、先に指摘した通り、調査書や内申点の扱いそのものが不明確なため結論を導けません。このため国立附属校を取り巻く改革の方向性について、引き続き考えます。

教員養成大学改革の目的

 有識者会議=文部科学省がまとめた報告書には、次のように書かれています。

 教員需要の減少期の到来の一方で、教員としての専門性の高度化が求められる今日、我が国の教員養成の中心的な役割を果たすべき国立教員養成大学・学部等が、限られた資源の中で、エビデンスに基づいて教員養成機能を着実に高め、我が国の学校教育全体の質の向上をリードすること。

出典:文科省/有識者会議・報告書(概要)

要するに、国立大学の教員養成学部、大学院が日本の教員養成機関を牽引する立場となる、逆に言うと現在はそうではないということになります。そして国立大学の教員養成機関が改めて教育界のリーダーとなるための具体策として、以下の大項目が掲げられています。

  • 教員養成機能の強化
  • 附属学校の存在意義の明確化と大学のガバナンス

「教員養成機能の強化」は大学側の取り組みであり、6つの項目から成っています。
ここで考えるべきは、二つ目の項目、附属校についてです。

附属校の存在意義とガバナンス

 大部分の学生や保護者の方が誤解しているのは、世間にセンセーショナルに報じられた国立附属中学高校に対する入試改革は、あくまで教員養成大学・大学院の機能の適正化の手段の一つとして挙げられた、具体策の一つに過ぎないということです。

ネット上の掲示板が大騒ぎするような、国立大学附属校の進学校化を悪とみなしてそれを狙い撃ちすることが主たる目的ではないということです。

そして先に掲げた4つの課題に対して国立附属校が取り組むべき項目として、A4用紙1枚にまとめられた報告書(概要)には大きく以下の3点が挙げられています。

  • 公私立とは異なる国立大学附属学校としての存在意義・役割・特色の明確化
  • 「入学者の選考―教育・研究―成果の還元」の有機的なつながりの明確化
  • 教職生活全体を見据えた教員研修に貢献する学校への機能強化と、校長の常勤化

そして報告書本体には、それらの課題を「中長期的」「早急」の2段階評価で10項目指摘しています。

【中長期的な方針】

 ①存在意義、成果の提供先・活用方法明確化

 ②多様な選考方法

 ③幅広い意味の「モデル」

 ④大学によるガバナンス

 ⑤教員研修に貢献する学校への機能強化

【早急に対応すべきこと】

 ①校長の常勤化

 ②教員の働き方改革のモデル提示

 ③地域住民等の参画を含む学校運営の改革

 ④成果の追跡と深化

 ⑤特色等の明確化のための仕組み

この中で、受験生やその保護者の方、卒業生などの関係者が特に気になるのは、中長期方針における②、つまり入学試験の在り方についてではないでしょうか。

選考方法の多様化

 半世紀前に事前の検証もなく突然導入された都立学校群制度同様に、国立附属校も同様の運命に翻弄されるのではないかと危惧する方々にとっての朗報は、入試制度改革に対する要求が、早急ではなく中長期的な方針の中に含まれることでしょう。

文科省が考える「中長期」の猶予期間がどれほどなのかは知見がありませんが、選考方法の多様性についてはかなり具体的な方法論を提示しています。

非教員養成系の大学に置かれている学校、あるいはいわゆるエリート校と呼ばれる学校についても同様に、すべての国立大学附属学校は、附属学校の本来の使命・役割に立ち返り、多様な入学者選考の方法を実施すべきである。

選考にあたっては、例えば、学力テスト等を課さず、抽選と教育実習の実施校かつ研究・実験校であることに賛同する保護者の事前同意の組み合わせのみで選考する方法や、学力テスト等を課す場合であっても、選考に占める学力テスト等の割合を下げることなど、各学校の特色に応じつつ、多様性の確保に配慮し、そのために必要な教育環境の整備も検討されるべきである。

併せて、同一の国立大学の附属学校間で、無試験ないしそれに近い形で進学が可能となる、いわゆる連絡進学あるいは内部進学と呼ばれる仕組みについても、各大学及び附属学校において、多様性及び公平性等の観点からの見直しが検討されるべきである。

出典:文科省/有識者会議・8月29日報告書

つまり、当日の試験の得点順位、一般的に言って受験偏差値順に合格者を決定する1軸評価入試に対しては、明確にNoと指摘しています。

上記2つの文章が示す内容は、具体的には正に都立高校が採用している内申点制度や推進入試を想定しているのかもしれません。そう考えると、学芸大附属高校が、都立高校校長を採用した理由にも頷けます。

そして個人的に引っかかったのが、3段目の文章です。

ここには国立大学附属校における内部進学に対する新たな措置への方向性が示されています。

この文章が意味するところは、私の読解力と報告書全体の趣旨からは、無試験での内部進学や、内部生向けの別枠試験を制限し、誰であっても一律外部生と同じ入学試験を課すという意味に解釈しました。

もしそうであるならば、文部科学省は大学附属校に対しては、小、中、高校全てにおいて一般入試を課そうと考えていることになります。その場合は進学校化した現状を打破する目的と、それ以上に地域への貢献や、実験校として各発達段階での適正サンプルとなる学生を確保するための手段ということになるでしょう。もちろんここでいう一般入試とは、学力試験とは限りません。

この場合、この選考方法の多様化が中長期方針に含まれるのは、社会的には都立学校群制度のような急激な変化による社会不安を生じさせないための配慮と考えられます。

しかしこの部分の解釈は、もしかすると上記の内容とは全く逆の、皇族の高校進学に対して世間で言われているような、異なる大学附属校間の内部進学を可能にする対応を示唆したものなのかもしれません。これが天皇継承者への配慮であるならば、中長期とはその年までにこの特別内部進学の制度を確立する、あるいはその時までは内部進学制度を温存するという意味になるでしょう。

2022年3月現在、この3段目の文章を改めて確認してみると、「見直し」というのは先の解釈とは意味が全く正反対だったのかもしれません。もしかすると、同一校ではなく他学校との間で提携入学制度を推進するべきという意味だったのかもしれません。

いずれにしても附属校は、あくまで教員養成大学の傘下にあり、大学・大学院の成果を検証するための場であるという認識が進んでいくでしょう。それが大学によるガバナンスの意味であるはずです。

教員研修に貢献する学校への機能強化

 個人的には入試制度の改革と並んで、中長期的方針の⑤に注目しました。

ここには附属校での教育実習の適用範囲について、現在一般に実施されている新卒生のための実習の場だけではなく、現役教師が教育実習を受ける場としての機能が盛り込まれているからです。

つまり今後の大学附属校は、新卒学生教師だけでなく、現役教師のOJTや地域交流を促すための授業の場を確保する狙いもあることになります。その狙いが、言葉は悪いですがポンコツ教師や心が病んだ教員の再教育やメンテナンスのための場なのか、あるいはエース級の教師がもたらす成果を収集して地域に還元するための場なのかは分かりません。ただ、こうした実験校としての役割が求められていることは確かです。

いずれにしても、都立や公立、場合によっては私立の先生方が、一定期間国立附属の小中高校にそれぞれ集まって、教育研修交流後に地域に戻って成果を還元する姿は、その狙いがうまく機能するならば、ちょっと素敵な取り組みになるかもしれません。

 

文科省の本気度はいかに 

 文部科学省が、今回取りまとめた改革を確実に前に進めるのであれば、各国立附属校は今後、受験進学校とは異なる役割と特色を自ら打ち出して宣言する必要性に迫られるでしょう。

そしてそれが、日本の教育の発展を支えるための真摯な内容であるのか、あるいは本来の役割から外れたエリート校という批判を逸らし、文科省の改革要求をうまく肩透かしにするための対処療法的な内容であるのかは分かりません。

いずれにしても、自らが掲げた存在意義の実現のために、今後「入学者の選考」を見直す動きが現れると共に、教育実習校としての位置づけの強化が進むことになります。
少なくとも報告書には、そのように明確に書かれています。

この中でも学芸大附属高校は、ちょうど1年前のいじめ事件を機に、現在先行して上記の改革を進めている立場にあると言えるでしょう。
都立戸山高校を退職した大野校長を現に常任校長に据え、学校の役割や特色の明確化と選抜方法の改定に前向きな意志が感じられることは確かなようです。

東京大学をはじめとする国立大学法人への改革指導や、平成29年度入試における首都圏私立大学への合格者数の厳格化、そして事ある毎に大きく取り上げられる2020年の大学入試改革など、昨今の文科省の教育改革は当初掲げた方向の実現性の濃淡は別にして、着実に進めていく印象があります。

ですから国立大学附属高校に対する改革も、内容実現性はともかく、まずは早急な対応を中心に中長期方向性に向かって親である大学側の指導の下に進んでいくのではないかと感じます。

東京大学教育学部附属中等教育学校

 受験生が憧れる東京大学に、附属校が存在する事実はあまり知られていません。

理由はこの学校が、進学校ではなく純粋な教育実験校だからです。そして報告書に書かれた文部科学省が求める大学附属校の真の姿は、この東大附属教育学校の姿が相当投影されているように思います。

そして特色ある国立大学附属校としては、こちらもあまり知られていませんが、

  • 東京芸術大学音楽部附属音楽高等学校
  • 東京工業大学附属科学技術高等学校

などがあります。

名前を見れば一目瞭然ですが、どれもその親となる大学は、それぞれの分野で大学受験生の憧れる一流校ばかりです。

そして2022年度の注目点は、東工大附属が持っていた東工大へ連携特別入試、要するに指定校推薦入学枠が廃止されることです。

実は東工大への指定進学を狙って一定の人気を誇ってきた同附属校も、今後は人気が低迷するかもしれません。この辺りも附属校改革のあおりの影響なのかもしれません。

更に同校は、JR田町駅前の慶應大学とは反対の真正面に位置する好立地を不動産投資のために手放すことが決定しています。2025年からは大岡山の東工大敷地内に併設されることとなります。

半世紀前、都立学校群制度導入の煽りを受けて超進学校化した国立大学附属校は、歴史の悪戯の中で今度は設立本来の趣旨を全うする実験校へと回帰するのでしょうか。 

ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。

世の中も学校も、歴史の大きなうねりの中で常に変わるもの。今正に教育改革の過渡期の中にある受験生の君は、変革の波や誰かの価値観に左右されない憧れの学校を、是非とも見つけてほしいと思います。

ではまた次回。

本記事の元となる有識者会議報告書

文部科学省 有識者会議報告書(概要)

文部科学省 有識者会議報告書(全文)

文科省が理想とする大学附属校か

東京大学教育学部附属中等教育学校