東京学芸大学附属高校の変化とこれから

2019年3月13日更新:

学芸大学附属高校秋の説明会

学芸大学附属高校秋の説明会

 2018年10月に行われた、東京学芸大附属高校の秋の学校説明会に参加しました。

附高、つまり東京学芸大学附属高校は、2016年のいじめ事件報道以降、2017年度入試では定員割れを起こし、2018年度入試では逆に定員を大幅に上回る合格者を出すなど、この2年程、残念ながら安定しない入試が続いています。

そしておそらくは負の影響を改善すべく、2019年度入試では、今までにない大きな運用スケジュールの改定が行われています。これにより来春の高校入試では、多くの受験生が影響を受けることになりそうです。

今回は、入試制度の改訂という客観的な事実を中心に、学芸大附属高校の変化について考えてみたいと思います。

東京学芸大附属入試日程の変化

 まずは直近の入試日程の変化を確認します。

事件報道のあった2016年から4年間の入試日程を時系列に並べます。情報は附高が発行する生徒募集要項に記載された内容に基づきます。

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こうして日程を時系列に並べてみると、ここ2年の内に入試制度が大きく変わったことが理解できます。制度の変化を辿れば、学校側の考えていることが見えてくるように思います。

2016年入試、17年度入試

 2017年入試までは、従来通りのスキームとなっています。

いじめ報道がマスコミから配信されたのが2016年11月。2017年度の入試要項は10月付で公表されていますから、学校としては受験生の動向を見守るしかない中で実施された入試です。

その結果、2017年度はまさかの定員割れを起こしてしまいます。従来スキームでは繰上げ合格の仕組みがない制度運用ですから、定員が埋まらないことに対して適切な対応が取れないまま、入試が終了したのではないかと思います。

2018年度入試の変更点

 前年の定員割れと新しい常任校長着任の影響でしょうか。2018年度入試では、制度に明確な変化があります。

  • 面接の廃止
  • 調査書の得点明記
  • 繰上合格日程の明記

前年度の状況に対応すべく、繰上げ合格が入試要項上に明記されることとなりました。

この制度変更から垣間見えるのは、「入学者を選ぶ側の立場から、受験生に選ばれる側の立場として再出発する」という附高自身の決意の表れではないでしょうか。前年の定員割れは、関係者にとってそれだけ大きなインパクトがあったのでしょう。

そして面接の廃止は、繰上合格制度を導入するための必然的な措置と考えられます。

なぜならば、面接を必須としたところで、繰上合格者に対して面接を行い、その結果を加味して改めて合否を決定し、後日通知するという対応は現実的ではないからです。

長らく実施した面接を廃止することには内部でも賛否両論あったと思いますが、繰上げを運用に乗せる必要性と、もしかすると、面接で合格した生徒の中からいじめ問題が発生した事実があることから、面接の意義自体が問われたのかもしれません。

いずれにしても、これまで利用方法が不明だった調査書が得点化され、合否判定に明確に取り入れられることとなりました。

学力検査・調査書・面接を総合的に判断して、合格者を決定します。

出典:東京学芸大附属高校 平成29年度入試要項

従来はどのように調査書が扱われるか分からない要項でしたが、2018年度入試からは、

学力検査(500点満点)・調査書(3年間の評定を100点に換算)を総合的に判断して、合格者を決定します。

出典:東京学芸大附属高校 平成30年度入試要項

となり、ウエイトが示されています。ただし調査書点の運用については、

  • 調査書を100点に換算する方法
  • 600点の総合的な判断方法

には言及がなく、依然ブラックボックスのままです。

昨今の医学部入試で問題となっているような、得点評価に対する社会的不信感に配慮すれば、都立入試同様に得点化に関するルールをオープン化し、また得点開示にも踏み切った方が受験生や保護者の信頼を得られるように思います。

翌2019年の入試制度が更に大きな変化を見せたことから、この年の合格者の大幅な増加や入学者の定員超えは、学校が意図とした結果とは異なるものだったと言えそうです。

2019年度入試の変更点

 そして来年平成31年度入試では、従来の附高とは全く異なる入試日程が採用されることとなりました。

一言でいえば、都立高校を意識した入試日程ということだと思います。合格発表までは昨年と変わりありませんが、従来は都立高校合格発表後の3月上旬まで余裕のあった入学手続きが、来年度は附高合格発表の翌日に変わります。これにより、

  • 入学手続き締切  =都立入試<前日>
  • 繰上げ合格発表  =都立入試<当日>
  • オリエンテーション=都立入試<翌日>

となりますから、意識のレベルが尋常ではない気がします。

ただし、他の国立大学附属高校の場合は、むしろ過去より今回の附高の日程に近い入試スケジュールを採用していましたから、従来特殊だった日程について、他の国立附属に追従したという言い方ができるのかもしれません。

その結果、都立第一志望で先に学芸大附属高校に合格した受験生は、併願私立の場合と同様に、入学金を納めなければならなくなります。額としては56,400円の負担増です。 

繰上げ合格発表の時期を都立試験と合格発表の2回に設定しているのは、入学手続き後に辞退する生徒の存在を予め見越しているということになります。

ただ素直に思うことは、都立入試段階での繰上げ合格の発表は、それほど多くは出ないのではないかということです。つまり、最終的に合格辞退者が多く出るような場合でも、2月の時点で合格を辞退する受験生は多くないだろうということです。

その理由は以下の通りです。

附高合格者の内訳としては以下の構成が考えられます。

  • 附高第一志望者
  • 都立第一、附高第二志望者
  • 都立第一、私立第二志望者
  • 私立第一志望者

この内、2月の段階で入学手続きを辞退するのは、普通に考えると3番目と4番目の、私立高校を附高より上位志望とする受験生のみになるでしょう。

都立高校第一志望で附高を第二志望とする受験生は、附高の入学手続き締切り日が都立の結果発表前である以上、手続きを辞退することはないでしょう。あるとすれば金銭的に余裕のない家庭だと思いますが、その場合は初めから併願しないと思います。

来春の高校受験生にとって、附高と都立と私立高校のどの人気が高いのか定かではありませんが、合格者の中に都立第一志望の受験生が多く含まれる状況があるならば、結局は、昨年同様に都立合格発表後のタイミングで、やはり多くの辞退者が発生することになるのではないでしょうか。

入試要項のスケジュールでは、オリエンテーションと保護者会については、都立入試の翌日、つまり第1回繰上げ発表日の翌日に設定されています。

このスケジュールを見る限りでは、もしかすると学校側は、入学手続きを早めた今回の日程により、辞退者の大部分が入学手続き段階で確定すると考えているのかもしれませんが、個人的には先に理由を述べた通り、そうならない可能性が高いように思います。

第一志望の学校に入りたい

 説明会では、附高第一志望の生徒に入学してほしいという校長の言葉がありましたが、その気持ちは大高中小幼稚園、どの学校であれ、どの受験生であれ保護者であれ、同じ気持ちに決まっています。

しかし入試である以上、第一志望の学校に入学が叶うのは限られた生徒のみです。

現実には第一志望であってもなくても、入学可能性が残されている学校に対して辞退の含みを残したまま入学手続きを行うことは、受験生や保護者の立場としては自然な対応であり、自然な心理というものです。

受験にとって併願という行為は、高所で命綱を着けることと同義の切実な行為ですから、これはどの学校に対しても同じです。

もし学校の希望通り、第一志望の生徒のみに入学してほしいと考えるのであれば、都立高校入試当日に、本人が必ず参加しないといけないオリエンテーションや面接を設定することが考えられますが、学力の高い高校受験生にとっては今でさえ志望校になり得る学校が少ないと感じる中、そのような入試日程は、附高志望の生徒にとっても都立志望の生徒にとっても、受験校が減る歓迎されない結果となりますから、止めた方がよいと思います。

仮にそのような対応を行った場合、都立志望の受験生にとっては、まだ他の国立附属を狙う機会も残されていますが、附高志望の受験生にとっては都立の抑えがなくなることで、併願校は私立のみに限定されることを意味しますから動揺は大きいはずです。

学校側は、早く現在の状況を脱して辞退者の少ない状況に戻したい気持ちが強いと思いますが、強すぎる自校ファーストの考えはむしろ、大切にすべき附高愛の強い受験生を苦しめる矛盾した結果を引き起こしてしまうことを、冷静に見つめる必要があるように思います。

結局のところ、受験生の支持を回復せるためには、入試制度の見直しではなく、学校自らが信頼される存在になること以外にないのだと思います。 

2019年度入試結果について

 平成最後の入試では、入学辞退者は多くは出ないという判断の元に正規合格者を絞ったものの、実際には辞退者が多く発生することになったようです。結果的に、学校側と受験生の間には、現在も小さくはない意識の隔たりがあるということが浮き彫りになりました。

それに対する大野校長のマスコミへの発言を見る限りでは、それでも附高側はその状況を頑なに認めようとしていないように感じます。

学校側が10月に公表した文章「入学辞退について」を初めて目にした際は、出してはいけない文章を出してしまったという第一印象を持ちました。顧客側が混乱するのが必至なため、B to Cのビジネス世界であれば、絶対に出さない種類の文章です。

受験生と保護者が知りたい質問は、入学手続き後に「辞退できるか/できないか」の二者択一であることは明白にもかかわらず、学校側はそれには直接答えないばかりか、「辞退できる」とも「辞退できない」とも、文章を読む者の立場や心理状況などの違いによってどちらの解釈もできそうな文章を公表することで、出願期の多くの受験生と保護者の方を動揺させたに違いありません。

結果的に多くの附高第一志望者が、正規合格ではなく繰上げ合格となる状況は、健全な入試とは言えないように思います。学校側はもう少し、現実的な対応を検討した方がよいのではないでしょうか。

第三者から見た現在の学芸大附属高校は、もちろん受験生や生徒側には全く非はないものの、頑な自校ファーストに傾きすぎているきらいがあるように思います。

元来質の高い教育インフラを持っているはずの学校なのですから、焦らずに、もう少し大らかな態度で社会に向かうことができないものか、保護者としては少し残念な気がします。

来年度の入試では、どのような対応を行うつもりなのでしょうか。

 

その後の附高、これからの附高

 初めての附高訪問から丸3年。

2回目の訪問となった説明会での印象としては、都立戸山高校を退任した校長を迎えたからでしょうか、附高の都立重点校化が進んでいるという印象を強く持ちました。

そしていじめの再発を防ぐために、短期間の内に従来よりも管理体制が強化されたのではないかという印象です。

それはおそらくは、かつて附高で学んだ卒業生の方々は望まない方向であり、新しく附高を目指す受験生や保護者にとっては望む方向かもしれません。国立附属校改革が謳われる中で、今後どのような学校となっていくのでしょうか。

いずれにしても東京学芸大附属高校は、高校受験生を最大数受け入れる都内の国立大学附属高校として、魅力的な教育環境を確保してほしいと思います。

そして受験生の君自身は、塾の情報やネット上の誰かの意見、そして過去の事実ばかりに目を向けることなく、今そこにあるリアルな学校の状況を、自分の目でしっかりと確かめ評価することが大切だと思います。それはどの学校に対しても言えることです。

わが家のチビが高校受験の年を迎える数年後には、附高の新たな評価が定まっているに違いありません。2020年の大学入試改革を経たその新たな時代に、都内に数ある中学、高校それぞれの評価は、いったいどのようになっているのでしょうか。

まだしばらくは目が離せません。

ではまた次回。

 

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