文京区誠之小学校 新校舎とアクティブラーニング

2019年6月23日更新:

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誠之小学校改築基本設計/出典:文京区ホームページ

 東京都教育モニターとして、文京区誠之小学校の授業を見学しました。

誠之小学校は明治8年開校の、あのアルマーニの制服で話題となった銀座の泰明小学校よりも古い歴史を誇る伝統小学校です。

誠之小の学区全体が、日比谷高校への合格上位に毎年名前を連ねる文京区第六中学校となっているなど、古くから教育熱心な保護者に絶大な人気を誇る小学校です。

そんな小学校がどのような授業を行っているのか、気になります。

 

マイクロ・ディベート

 1年から6年生まで様々な授業がある中で、今回特に注目したのは、

  • 5年生:「意見交換会」をしよう
  • 6年生:パネルディスカッションをしよう

という、新しい時代の授業と思しきコンテンツです。アクティブラーニング的な内容を彷彿させるその単元がどのようなものか、実際に覗いてみました。

5年生の意見交換会

 5年生3クラス全てにおいて同時に行われていた「意見交換会」は、いわゆるマイクロ・ディベートの授業でした。

わが家のチビが通う小学校も明治期に創立した伝統校であり、地域の教育モデル校となっていますが、公開授業でアクティブラーニング的な授業内容にお目にかかったことがないので興味津々です。

ちなみに、明治創立の小学校は23区だけでも100校近くも存在しますので、実はそれほど珍しくありません。誠之小学校よりも永い歴史を持つ小学校も多く存在します。

ディベートのテーマ

 まず、面白いと思ったのは、クラスによってテーマが異なることです。

  • 5年1組:旅行をするなら、国内がいいか 海外がいいか
  • 5年2組:休日に自然を楽しむなら、海がよいか山がよいか
  • 5年3組:夏休みに行くなら、海と山とどちらがよいか

「海か山か」というテーマはかぶっていますが、どれも小学生らしい身近な議題です。先生が予め設定しているのか、先生が提示した選択肢の中から生徒自身がが選択するのか、あるいはテーマを設定するところから学びとして自主的に生徒が動いているのか分かりませんが、なかなか興味深いテーマ設定だと感じました。

国内旅行か海外旅行か、というテーマが成り立つのは、都心にある小学校だからでしょうか、どこの学校でも設定可能な内容ではないように思いますので、このテーマ設定には地域らしさを感じました。

PPT + 電子黒板

 テーマ設定に微笑ましさを感じたディベートですが、授業が実際に始まると思わず「へぇー」と唸りたくなります。

どの学級も、パワーポイントで作成したプレゼン資料と、電子黒板機能となるスマートプロジェクタを駆使しながらのディベートが行われていたからです。

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電子黒板イメージ/画像出典:EPSONホームページ

PPT資料は生徒自らが作成したものでしょうか?

センスのない社会人が作ったプレゼン資料よりも、ずっとまともな構成です。先生が作ったのかな?とも思いましたが、それでは授業の意味が半減するので、やはり5年生が作ったのではないかと思います。先生に聞きそびれたのが残念です。

もし生徒がPPT資料を準備したとすると、おそらくその資料作成のために、パソコン授業との連携などもありそうです。その場合は、PC操作に親しむ先に、具体的な目標設定が繋がっているので、なかなか上手い構成だと思いました。

もうスマホ時代の今どきの小学生にとっては、文章作成だけでなく、プレゼン資料を作成することも特別な能力ではないのでしょう。隔世の念を感じます。

そしてプレゼン資料の出来もさることながら、それを電子黒板上で自由自在に操る生徒にも感心しました。

電子黒板と呼ぶのか、スマートプロジェクターと呼ぶのが適切か、正しい用語か分かりませんが、つまり、プロジェクターで投影した画面が、タッチパネルとして利用可能なプロジェクター設備です。

スクリーン上の資料をタッチしてページをめくる、動画を再生する、あるいはスクリーン上のストップウォッチを押して時計を止めたり進めたり、小学5年生が本当に当たり前のようにスマートデバイスを使いこなしているので驚きました。

 

慣れているディベートとICT

 学校公開で行われたディベートですが、第一印象は手慣れている、ということです。

昨今ICT(Information&Communication Technology)と呼ばれる、先の電子デバイスに加え、ディベート授業自体にもかなり慣れているという印象です。

公開授業で保護者に見せるためにかなり練習しているのでしょうか?もちろんそうした意識は多分にあると思いますが、議論自体は学芸会のように繰り返し同じことを行っているという感じではなく、自然な展開です。

例えば九段中等教育学校の小学生体験授業などでも、この小学校5、6年生のマイクロディベートが体験できるのですが、そこに参加する生徒はお互い初めて出会うこともあり、またディベート自体に不慣れなためか、どうしてもぎこちない展開になります。

むしろそうした状況の方が小学生にとっては自然な気がしますが、誠之小の生徒たちは、おそらく日頃からアクティブラーニングやICTの活用に親しんでいるのでしょう。保護者の見ている中でも気負いのない、自然体の授業です。

そして先生も口をはさみません。

生徒審判団の進行で肯定側、否定側の論証や質疑が進んでいきます。むしろ子供たちの突拍子もない議論の展開に、先生が面白がっているような余裕がありそうです。実際、小学生の議論を見ているのは、先入観がなく発想が豊かな分楽しいものです。

そして3クラスとも、ディベートそのものの構成は同じですが、机の並べ方やプロジェクターの使い方など、進め方はクラス毎に異なっており面白いと感じました。 

今回は、3つのクラスで同時に行われる授業を並行して見ましたので、ディベートそのものの展開や結論に対する評価はできませんが、小学生のアクティブラーニング授業の可能性については大いに感じることがありました。

わが家のチビの小学校でも、電子黒板とWi-Fiセットは何年か前に既に各教室に設置されていますが、誠之小学校のような積極的なアクティブラーニングへの活用は、まだまだ見習う部分が多いように思います。

教育の基本は、やはりハードである設備機器よりも、それを活用するソフト側である教師と生徒の課題なのでしょう。

文京区には他にも人気の小学校がたくさんありますが、どこも同じように新しい教育が進んでいるのでしょうか。

 

6年生のパネルディスカッション

 もう一つ別のアクティブラーニングとして、6年生の1クラスがパネルディスカッション形式の授業を行っていました。

テーマは2つ設定されていました。

  • テーマ1:未来で必要とされるロボットとは?
  • テーマ2:環境問題をこれからどうしていけばよいか?

5年生の課題が、議論に慣れるためのテーマ設定だとするならば、6年生は大人となり社会を担う立場となったときに求められる、社会的命題が取り上げられています。個人的には、日比谷高校の推薦入試で行われる、集団討論のテーマ設定に近いな、という気がしました。

  • 自動化されると良いと思うものは?

これは平成30年度の日比谷高校推薦入試の集団討論で出されたテーマです。誠之小 → 六中 → 日比谷高校 → 東大ということが、進学ルートの定番として昔から謳われることを考えると、もしかすると学校も本当に意識しているのかもしれません。

そして授業の中身とは別に、個人的に興味深いと感じたことの一つは、6年生のクラスの眼鏡の生徒を数えたところ、35人中ちょうど半分の17人が眼鏡をかけていたことです。やはり勉強が盛んな地域なのだなと、妙に納得しました。

 

ITCとアクティブラーニング

ITCの価値

 誠之小学校の授業を参観して感じたことは、私自身が感じていたITCやアクティブラーニングの概念が、少し変わったことです。

ICTと聞くと、これまではipadのような情報端末上に表示される、教科書や問題集のような印象を持っていました。通信添削大手各社が展開している、タブレット通信教育のような、端末と個人の1対1の学習イメージです。

そしてアクティブラーニングと聞くと、どちらかといえば英語の授業における対話中心の授業形態を思い浮かべていました。

今回の授業参観では、そんなステレオタイプな概念とは異なる授業を直接見学できて勉強になりました。ICTもそれ自体が強調されるものではなく、むしろ裏方として、生徒のより高い学習効果を陰で支える存在なのだと感じました。

例えば、先の電子黒板のような設備は圧倒的に便利です。

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電子黒板利用イメージ/画像出典:NECホームページ

教師が板書しながら、同時に写真や動画のような様々な視覚情報を、PCを介することなく黒板上で呼び出して授業を進めることができるからです。むしろチョークやマーカーでの物理的な板書ではなく、電子黒板上にデジタル情報としての文字を書き込むということが主流となるのかもしれません。専用のデジタル教科書や補助教材なども今後充実しそうです。

こうした流れは、生徒一人一人に専用端末を配布するよりも、従来通り生徒の目が教師に集中しやすいと同時に、学校がスマートフォンの利用を制限するような懸念した事態の発生も少ないように思います。

算数のグラフや面積のイメージを能動的に示したり、不足しがちな理科の実験映像を流したり、世界の産業や人々の暮らしを映したり、欠伸の出る授業も少しは減るかもしれません。

個人的にはこの電子黒板は、教師が使いこなせるかどうかは別にして、都道府県の教育委員会が予算を確保して、アナログの黒板に付随するサポート設備として、すべての学校に設置すべき設備だと思います。

アクティブラーニングの意味

 そしてディベート式の授業に関しては、賛否両論あるかと思いますが、既に個人がスマホのようなスマート端末、つまりある意味では既にR2-D2やC-3POのような個人専用の執事ロボットを携帯している時代には、やはり従来のような知識を蓄積する学習よりも、知識を活用するための、問題解決型の学習に切り替わるのは自然な方向性であろうと思います。

日比谷高校が推薦入試で行っているのは、公立中高一貫校型の適性検査問題をより総合的な観点でまとめた小論文と、ディベート授業に他なりません。日比谷の推薦入試は、時代が求める教育を、入試課題という表現の中に先取りした形で問われているのです。

もしかすると誠之小学校の生徒たちは、中学や高校の推薦入試に臨む際には、現時点あれば圧倒的なアドバンテージを持っているかもしれません。今回の授業見学だけから判断すると、日常の授業の中でそうした学びが行われているからです。

今後教育環境が大きく変わっていく予感の中で、将来全国の小学校で一般的に実施される授業の展開を、今回は先取りで見学することができたように思います。

 

ブランド学区と伝統人気学区

 誠之小学校は、屈指の人気を誇る学校の一つには違いありませんが、公立小移民でお馴染みのブランド小学校学区とは少し定義が異なるようです。

最近よく耳にするブランド学区の場合は、どちらかというと親の所得に重きを置いた概念のように思います。この場合、誠之小学校はこの概念から外れます。

住まいサーフィン2016年の調べによると、誠之小学校の親の平均年収は、文京区の中で第7位の900万円となっており、都心の中ではそれほど高くはありません。

ブランド学区で有名な千代田区番町小学校の平均年収は1,151万円、新築70㎡のマンション相場は誠之小学校区よりも3,500万円以上も高い状況があります。

個人的には、親の平均年収を手掛かりに居住エリアを選ぶよりも、親の年収はほどほどに、教育に関心の高い保護者の多い地域を選ぶ方が、多くの一般市民にとっては暮らしやすいのではないかという気がします。

日比父ブログで日比谷高校への進学中学という指標にこだわっているのは、難しいその答えを見つけるヒントが隠れているに違いないと考えているからです。

 

誠之小学校新校舎と転入時期

 今も変わらず人気の誠之小学校ですが、現在は校舎の建替えが進められており、仮設校舎で授業が行われています。

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新校舎の利用開始は、当初の予定では平成32年、2020年オリンピックイヤーの4月からとなっていましたが、2019年1月の『誠之小学校改築だより』では、Ⅰ期の工事完成が2020年末となっています。

文京区誠之小学校改築工事行程表

文京区誠之小学校改築工事行程表

もう今でも不動産相場は十分上がっていると思いますが、2021年度新学期に向けてどのような状況になるのでしょうか。仮設校舎を嫌って現在転居をためらっている保護者の方もあるかも分かりませんが、もしこのエリアに移ることを希望しているのであれば、むしろ仮設校舎であり、消費税が上がる前の今が合理的なチャンスかもしれません。

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誠之小学校新校舎グランド/出典:文京区ホームページ

そして最近は、公立小中学校といえども、私立と見まがうような美しく設備の充実した学校が増えているように思います。

誠之小の新校舎ができた暁には、ハード面でもソフト面でも、他の追従を許さないような、魅力的な学校環境が実現するのでしょうか。小学生の子を持つ保護者としては、建替え時期を迎える全国の多くの公立小中学校の校舎が、新しい時代に求められる、魅力的な学びの環境となることを願ってやみません。

誠之新校舎落成の際には、新しい学び舎を、この目で確かめてみたいなと思います。

ではまた次回。

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