豊島岡女子学園の皮算用

豊島岡女子学園高校募集停止のお知らせ

画像出典:豊島岡女子学園ホームページ

 2019年6月15日付で、私立豊島岡女子学園は2022年度からの高校募集停止を発表しました。それに伴う中学入学枠の拡大は行わないようです。

同校の中学入試枠は240人、高校入学枠90人と合わせて、高校1学年の定員は330人ですから、実に高等学校1学年の3割近い人員を減らすことになります。

本件における女子受験生への影響については既に様々な議論があると思いますが、生徒数減少に対する学校への影響についての情報は見かけません。

そこで今回は、収支を通じてみた豊島岡女子学園の高校募集枠削減に対する学校への影響について考えたいと思います。

 

高校募集停止で年間2億円の収入減

 まずは高校入試の停止により、収入面でどの程度の影響が出るかを確認してみます。

同校の入試状況はホームページにしっかりと記載されています。

豊島岡女子学園高校2019年度入試結果

画像出典:豊島岡女子学園高校募集要項

この一覧をみると、高校入試の志願者、つまり受験料を納付した受験生は534人、合格者、つまり高校入学金を納付する可能性のある母数は273人であることが分かります。

そして同校の募集要項には、以下の通り3年間で必要となる学校納入金が明確に記載されています。

豊島岡女子<高校>納入金(2019年度)

豊島岡女子学園<高校>納入金一覧

画像出典:豊島岡女子学園高校募集要項

これらの情報から、豊島岡女子の高校入試における納入金の総額を試算することが可能となります。ちなみに、受験料は21千円です。

豊島岡女子学園 高入生納入金概要

豊島岡女子学園 高入生納入金概要

納入金額算定の前提として、高校合格者273人の2/3であり、定員90人の倍となる180人が入学金を納入すると仮定しています。尚、募集要項には入学辞退の際の入学金の返還については記載がありませんので、返金対応はないものとみなしています。

このように金額を弾いてみると、高校入試を行うことにより毎年概ね58百万円、3学年分の納入金と合わせて2億円が学校側に入ることが理解できます。

今回の高校募集停止では、この2億円の納入金を全て手放し追加の募集枠は設けないわけですから、学園の並々ならぬ覚悟があるものと思われます。

 

納入金の1/3を手放す覚悟

 では高校募集停止で手放す2億円は、学園にとってどれほどのインパクトがあるか確認してみましょう。

同校中学の入学定員は240人ですが、実際には以下の結果の通り、例年260人程度が入学している事実がありますので、中学入学1学年の人数は260人として考えます。

豊島岡女子学園中学入試結果

画像出典:豊島岡女子学園ホームページ

そして納入金額を算定するために、今度は中学受験向けの募集要項を確認します。

豊島岡女子<中学>納入金(2019年度)

画像出典:豊島岡女子学園中学募集要項

画像出典:豊島岡女子学園中学募集要項

この一覧からは、高校よりも中学の方が授業料が年間12千円高い点と、中学入学組が高校に進学する際に、改めて入学金と施設設備費が必要であることが理解できます。

以上から、中学入学組の豊島岡高校生の納入金は以下の通りとなります。

豊島岡女子学園高校 一貫生納入金概要

豊島岡女子学園高校 一貫生納入金概要

したがって、高校枠全体では以下のようになります。高校募集を停止することにより、実に高校全体の納入金の1/3を失うことになります。 

豊島岡女子学園高校 納入金総額概要

豊島岡女子学園高校 納入金総額概要

 

学園全体への収入減の影響

 では次に、中学校を含めた学園全体への影響を確認します。中学における納入金は、先に掲載した入試要項に基づきます。結果は以下の通りです。

豊島岡女子学園 中学生納入金概要

豊島岡女子学園 中学生納入金概要

したがって、2022年度からの高校募集停止における学園全体の納入金の減少額は、納入金額に変動がないとした場合、概ね以下の通りとなります。

豊島岡女子学園 高校停止納入金の推移

豊島岡女子学園 高校停止納入金の推移

高校募集停止の結果、現在年間11億円程度の納入金額が、2022年度より段階的に減少し、2024年度からは9億円程度に純減します。

この年間2億円、全体の18%の収入減は学校法人としても影響が小さくはなさそうです。民間企業であれば赤字に転落するインパクトがある大きな水準です。

高校停止で中学受験での人気や偏差値が高まったとしても、その評価は収入には何の影響もありません。学力が高い生徒が入学しても、低い生徒が入学しても、納入金額には影響しないからです。

一般的に、高校入学枠を削った分は中学入学枠を増やす対応が行われるのは、こうして納入金を確認してみれば当然のことのように思います。学園側にはそれ以外に、何か収支改善の有効な戦略でもあるのでしょうか。

 

学園創立130年記念に起きる何か

 これまで見てきて明らかなように、よほど潤沢な基金や寄付金、あるいは補助金の大幅な増額がない限り、学園は高校募集枠を縮小したまま収支が成り立つ状況とは考えにくいです。

高校90人2クラスを減らし、中高一貫生のみにすることで、現在よりも6年間の良好な学習環境が確保され、きめ細かい教育指導が実現するのではないかという期待があるのか、中学受験を考える方の反応は概ね好意的なようです。

もしそう期待しているのであれば、確実に年間納入金額の負担は上がるでしょう。

現在の学校規模は、ホームページによると以下の通りです。

豊島岡女子学園 学校概要

画像出典:豊島岡女子学園ホームページ

教職員その他の規模を変えずに学校環境を維持する場合、減少する2億円を1,596人(1,866-270人)で負担することになりますから、単純計算で生徒1人当たり年間12万円程度、月1万円程度の負担増になります。

これは微妙な判断のような気がします。

月1万円の増額であれば実行できない金額ではないと思いますが、保護者に受け入れられるでしょうか。

高入生が存在しなくなることにより、学校評価も保護者の気分も高まるのであれば、月1万円程度の負担の高まりも納得の範囲内でしょうか。

仮に増額を容認できないとすれば、教職員を減らすことになるでしょう。高校1学年2クラス、3学年全体で6クラス減るわけですから、教職員も10名程度、社会保険料その他の負担も含めてちょうど2億円程度の負担減となり収支がトントンになると考えられます。

その場合、人員的なゆとりが出るわけではないですが、一貫生のみに限定することで、学校経営の効率化が進み結果的に現在よりも面倒見のよい指導環境が実現できるという可能性はあるでしょう。

保護者の方はどちらを望まれるでしょう。

個人的には、学園側は他の施策を考えているのではないかという気がしています。その理由は高校募集停止を行うのが2022年、学園創立130周年記念に一致するからです。

教育環境を整えて、有名難関大学合格実績を伸ばすのも一つの考え方ですが、令和の新時代にせっかくですから、未来に向けた学園の新しい取り組みに期待したいところです。そうでなければ夢や期待が膨らみません。

豊島岡女子学園

画像出典:豊島岡女子学園ホームページ

「創立百二十余年 伝統を受け継ぎ、新しいチャレンジも

同校トップページには正に、その答えが暗示されています。実施する新しいチャレンジが何なのか、いずれにしてもこの1、2年の内に、学園は高校停止に代わる新しい施策を打ち出すことでしょう。

現時点で内部的に負担増額が告知されていないのであれば、単なる納入金の値上げでは終わらないように思います。あるいは、生徒数の削減や定年に伴う教職員の自然減に任せた学校規模の縮小だけでは、あまりに夢がないではありませんか。

豊島岡女子学園は、高校入学枠の削減分を次の飛躍の期待を込めてどのように前向きに使うのか、中学受験生や保護者の多くが期待を込めて見守っているに違いありません。

そして今後ますます、都内高校受験環境は変わっていくことと思います。

わが家の小学生のチビが高校入試を迎える頃には、どのような状況になっているのでしょうか。この先も、まだまだ目が離せません。

ではまた次回。

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