令和初の開催となる、第39回全国高等学校クイズ選手権の東京代表に、日比谷高校が選ばれました。
日比谷としては初の全国出場、というよりは、「クイズ研究同好会」が学校の部活動として正式発足した初年度に、しかも1年生チームでいきなり全国大会出場となり驚かされました。
日比谷クイズ研は、わが家の長男の同級生が自主サークルとして2017年に立ち上げた、活動を始めたばかりの新しい部活です。
クイズ研ができたという話を聞いた当時、正直に告白すると、クイズ人気に乗じて今更部活を立ち上げても、開成をはじめとする往年のクイズ伝統強豪校には太刀打ちできる訳がないのでむしろやめた方がいいのではないかと感じました。あるいは勝ち負けではなく、案外ミーハーな気持ちで始めたのかなと勝手に想像していました。
テレビ放送されているようなクイズで勝ち抜くためには、頭の良し悪しに関わらず、各校の部活に代々継承されるノウハウが重要で、そうした経験や蓄積がない組織がいくら頑張ってみたところで、短期間でトップに追いつくのは難しいだろうと高を括っていたからです。
しかも東京地区は全国のトップ中のトップ校が多数集まり、地方とは比較にならないほど参加者が多い超激戦区です。そのような状況の中で、勝負事として如何ほどの活躍ができるだろうかと疑問に感じていたのです。
しかしその想定は、大人の浅はかで打算に満ちた考えだったようです。
動機はどうであれ、若い高校生の純粋でひたむきな情熱の前には、部活後の短期集中で難関大学への合格を実現してみせるような状況と同じく、達成できない目標はないのでしょう。
目の覚める思いがしました。
35年前の高校生クイズ出場
長い間忘れていた事実ですが、私自身も35年近くも前、高校生の頃にまだ始まって間もない高校生クイズ大会に参加したことがあります。
本年度のクイズ予選は、スマホ上での全国一斉の予選大会となったようですが、携帯もパソコンもない(!)当時は、広いグランドか公園のような場所に大勢の高校生が集結し、主催者が読み上げる設問に応じて◯かXか、中央のロープを挟んで移動したように記憶しています。
クイズを研究しているわけでも雑学が豊富なわけでもない状況の中、せいぜい2、3問程度で失格になったのですが、その瞬間は、やっぱりなという諦めの気持ちや喪失感と同時に、夏の人気イベントに参加したという、満足感のような気持に包まれたことを覚えています。
当時は、小学生の頃から「アメリカ横断ウルトラクイズ」を毎年テレビにかじりつきながら夢中になって見ていたこともあり、今にして思えば第1次クイズブームといった空気が世の中に流れていたのではないかと感じます。
思い起こせば私自身、地味真面目系のアタック25やタイム・ショック、有名人が回答者となる連想クイズやクイズダービー、バラエティ系のぴったしカンカン、ドレミファ・ドンといった週一クイズ番組を、毎週欠かさず見ていたように思います。
あの頃は夏休みに、ウルトラクイズが始まるのを本当に楽しみにしていたことを今でも鮮明に覚えています。
ちなみに余談ですが、職場にはかつてウルトラクイズに出場してアメリカ本土に渡って勝ち進んだ同僚がおり、若い頃に初めてその話を聞いた際には、相手をまるで天才か英雄のように感じたものです。
現代の小中学生も、クイズに出演する東大生のことを、そのような羨望の眼差しで見つめているのかもしれません。
筑駒 vs 日比谷・2019東京代表戦
7月26日に実施された全国一斉スマホ予選の結果、東京都は筑波大付属駒場高校が1位、日比谷高校が2位となり、両校が東京都代表の座をかけた代表戦に進むこととなりました。
7月31日に行われた代表決定戦の詳細については情報がないため分かりませんが、結果的には日比谷高校が東京代表に選ばれたようです。
スマホ画面から分かるように、令和元年の高校生クイズ予選には、全国で2,749チームが参加しました。
そして東京都に目を向けると、少なくとも272チームが参加するなど、全国の1割以上は都内の高校が占めており、甲子園予選その他の競技同様の激戦ぶりがうかがえます。
高校生クイズ出題の傾向
予選で出題される問題については、番組ホームページで例題が公表されています。
この例題を見た際に、まじめな物理的設問であるのか、発想力の問題であるのか、なぞなぞに近い問題であるのか、クイズに慣れていない者にははっきりしない設問のような印象を受けます。
今年はスマホ上での設問および解答となりましたから、従来のクイズ問題よりも幅広い出題が可能であると同時に、単純な知識問題やうる覚えの知識であれば、短い時間ながら即スマホで検索して正確な解答を得るという対応も可能になったのではないでしょうか。
例えば予選本番の近似値クイズとして、以下のような知力と常識と想像力、そして検索力が試される問題が出題されています。
スマホであれば、様々な解答形式が準備できると同時に、通信環境さえ確保できれば世界中どこにいても、すべての参加者が公平な条件で一斉に参加することができますから、大学共通テストの英語4技能試験なども、そのような発想をベースに実施を検討すべきではないかと感じました。
AIとデジタル時代のクイズ形式は、電子デバイスの発展とともに、これまでの経験や蓄積が追い付かないほどの変化をもたらしていくのかもしれません。
案外クイズの出題も、知識や経験重視の従来型設問から、既知の事実を組み合わせたり応用したりする適正検査型設問に変わっていくのかもしれません。
もしかすると、過去の出題形式にとらわれない新しいタイプの設問傾向が、短期間での日比谷高校の上位入賞を可能としたのかもしれません。
全国1位のレベル感
東京都で出場する場合、予選7位であっても全国ではまだ35位にあるなど、地域によって選考レベルの差が大きく異なります。
そこでツイッター上に掲載されている最終順位確定画面情報から、各エリア予選1位の全国順位を拾って並べてみます。尚、下線は東京都の学校です。
- 全国3位/奈良県1位・東大寺学園
- 全国7位/東京都2位・日比谷
- 全国8位/山梨県1位・甲府南
- 全国11位/北海道1位・札幌西
- 全国12位/神奈川1位・サレジオ学院
- 全国15位/千葉県1位・***
- 全国19位/青森県1位・弘前
- 全国21位/和歌山1位・***
- 全国23位/千葉県2位・船橋
- 全国25位/東京都6位・学芸大附属
- 全国27位/愛知県2位・東海
- 全国35位/東京都7位・三田
- 全国37位/広島県1位・AICJ
- 全国45位/神奈川2位・横浜サイエンス
- 全国51位/熊本県1位・***
- 全国66位/東京都10位・立川
- 全国78位/東京都14位・早稲田学院
- 全国93位/静岡県1位・浜松学芸
- 全国104位/愛媛県1位・新居浜高専
- 全国134位/岡山県1位・***
情報が歯抜けながらこうして並べてみると、東京都内で上位に食い込むことが如何に難しいかということが、クイズを通してみても理解できるのではないでしょうか。
この傾向はおそらく、高校野球をはじめとする運動競技、受験その他の知的活動にも当てはまるのではないかと想像します。選挙での1票の格差があるように、全国大会では都道府県間の1位の格差が明確にあると考えられます。
現在東京は子どもの数が増ているのだとか。
東京への人材の集中という状況は、今回のクイズの数字からも垣間見えてくるようで興味深いです。
クイズ人気とこれからの教育
わが家でも人気のある「東大王」をはじめとする学生クイズ 番組に対しては、個人的には冷めた目を向けています。
AI熱花盛りの現代では、クイズ番組で展開される難問に頭をひねるおなじみの光景は、出演者の知性の高さを目の当たりにして感嘆するための演出というよりも、記憶媒体や演算処理装置としての人類の頭脳が、人工知能やコンピューターと比較して如何に不確かなものであるかを逆説的に示しているように映るからです。
しかし今回の高校生クイズ予選の結果や参加者の発信する情報を確認していると、そのような斜に構えた見方でクイズを眺めるよりも、一つの娯楽としてもっと気軽な気持ちで現在の状況を捉えてみるのが正しい向き合い方かなとも感じます。
テレビゲームがEスポーツとして世界的競技の地位を獲得したように、クイズもまた野球やサッカーと同じように、共通のルールに基づいた一つの表現手段としてあってもよいかと思うに至ります。
東大受験合格を目指した『東ロボくん』プロジェクトは、MARCHレベルの知識型大学入試に対しては合格点を獲得することができる一方、東大型の論述重視の設問を攻略することは難しいという結論を導きました。
クイズに関しても、どれほど難しい漢字の読みでも瞬時に正確な答えを導く電子辞書や電子百科事典そのものである人工知能であっても、知識ではなく言葉遊びや発想の柔軟性を求める設問に対しては、なかなか正解を返すのが難しい状況がありそうです。
そしてそれこそが、来るべきAI時代に求められる人類の役割であり、これからの教育や入試の目指す方向性なのかもしれないとぼんやりと思うのです。そうした方向性を、もしかするとクイズという形式が私たちに教えてくれているのかもしれません。
高校生クイズの全国大会はお盆に行われます。
果たして初出場の日比谷高校1年生チームは、どのような初々しい姿を見せてくれるのでしょうか。9月の放送が今から楽しみです。
ではまた次回。
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