学芸大附属高校と入学確約書

2020年1月9日更新:

東京学芸大附属高校時計台

東京学芸大附属高校時計台

 平成最後となった2019年度入試では、様々な混乱を引き起こしたとされる東京学芸大附属高校入試ですが、令和最初の2020年度入試はどのような状況となるのでしょう。

学芸大附属はいじめ事件以来毎年不安定な入試が続いていますから、この先次男の高校受験を控える保護者としては気になるところです。

10月上旬に学校説明会が行われ、令和2年度の生徒募集要項も公表された今、来春の入試動向について考えてみたいと思います。

 

2020年度 学芸大附属高校入試日程

 まずは令和初となる、2020年度入試スケジュールを確認します。

2020年度 東京学芸大附属高校入試日程変遷

2020年度 東京学芸大附属高校入試日程変遷

一覧を見ると理解できる通り、2020年度入試は基本的には2019年度入試スケジュールを踏襲しています。

日程上のマイナーチェンジとしては、

  • 合格発表当日に入学手続きが可能
  • 繰り上げ合格は合格発表翌日から都立合格発表後まで適宜実施
  • 入学オリエンテーションおよび保護者説明会を繰り上げ合格後に実施

といったところでしょうか。

昨年度、入試日程を見た瞬間に不備が認められた合格者オリエンテーションの実施時期について改善されるなど、昨年の反省に基づき微調整が行われています。

 

「入学確約書」の導入

 入試日程上は2019年入試を踏襲している一方、大きく異なるのが入学手続きの際に、保護者の署名・捺印入りの「入学確約書」の提出が新たに求められる点です。

学校側の意図としては、確約書の提出を義務付けることで、合格辞退者の抑制と入学者確定スキームの適正化を図ろうとしているのでしょう。

昨年度は学校ホームページや募集要項に、入学辞退を想定していない旨の、意図が不明確なメッセージを掲載したため却って受験生を混乱させる結果となりました。

学校が発信したメッセージに対して、入学辞退者が減ると考え正規合格者を絞った学校側に対し、それでも少なくはない入学辞退者が発生したことから手続きが混乱し、都立高校入試にも影響が及ぶ事態になってしまったようです。

本年度はそうした状況を避けるため、より明確で入学拘束性が期待できる「入学確約書」を導入したのだと思いますが、果たして学校側が望むような穏やかな状況は訪れるのでしょうか。

 

都立受験生の戸惑いと困惑

 個人的には、残念ながら2020年の学芸大附属入試は、入学確約書の導入によって新たな混乱や反感を招くのではないかと危惧しています。

理由は明確で、一般入試における入学確約書の導入は、学校側の都合が強いため、同校を第一志望とする生徒以外の一般受験生にとっては理解が得られにくい制度となるからです。

学芸大附属を第一志望とする受験生とその保護者にとっては、確かに歓迎すべき制度かもしれません。制度導入に対し積極的に支持する声もあるでしょう。

私立高校第一志望の受験生にとっても、それほど大きな影響はないでしょう。理由は単純で、私立高校の合格発表の方が、国立附属の入試日程よりも早いからです。

しかし少なくはない都立高校第一志望の受験生にとっては、今回の確約書の提出義務は戸惑いと困惑以外の何物でもありません。

何故ならば、学芸大附属を第一志望とする受験生は、何ら負い目を感じることなく都立高校を第二志望として受験できるのに対し、都立高校第一志望の受験生は同校を第二志望として受験することに対し、倫理的に制限されるに等しい状況が発生するからです。

結果的に、学芸大附属よりも後行程で入試が行われる都立第一志望の受験生を門前払いするに等しい制度であることから、同校を第二志望として受験したい受験生にとっては納得がいかない感情が芽生えるのではないでしょうか。

ラグビーワールドカップで日本中が共感したように、現在同校に必要なものは第一志望か第二志望かに関わりなく、入学を希望する者を温かく受け入れるノーサイドの精神だとむしろ感じます。

都内において優秀な生徒に適した学力上位の私立高校受験枠が減少する中にあって、高校受験を行う学校同士がお互い連携して協力すべき時期に、自校ファーストの精神を前面に押し出して臨むのは違和感を感じてしまいます。

学校選択の自由を受験生に提供する。

早期の信頼と人気の回復を目論む学校が行うべき近道は、入学確約による受験制限などではなく、どのような受験生に対しても快く門戸を開き自由な出入りを認めることではないかと思います。

 

入学確約書と受験生の苦悩

 入学確約書の導入は、学校側の意図とは関係なく、入試前から昨年以上の大きな困惑を、都立受験生とその周辺に生じさせる可能性が高いです。

都立第一志望で同校を第二志望としたい学生の苦悩はどれほどのものでしょう。

他の国立附属高校を受験する場合、男子であれば事実上対象は筑波大附属駒場と筑波大付属の2校しかありません。女子であればお茶ノ水女子という選択肢もありますが、いずれの高校も学芸大附属より一般入試枠が少なく難易度は高いという状況があり、多くの受験生にとっては回避策として積極的に手を伸ばすには至らない状況です。

そうした生徒にとって今回の確約書は、葛藤や苦悩を伴う心揺さぶられる倫理的問題を突きつけられることになるのではないかと感じます。

第二志望で学芸大附属を受験したい。でも合格しても都立第一志望であれば合格手続きはできない。それならば他の国立附属を受験すべきなのか、でも他に適当な国立附属が見当たらない。自分はどうしたらよいのか。

であれば合格した場合には入学手続きを行って、第一志望に合格した際にはこっそり入学辞退をすればよいのではないか。でも自分は学校や社会との約束を破り、他の受験生にも迷惑をかけることになる。それは自分にはできない、、、

私自身はこのような真面目で前向きな生徒にかける言葉を知りません。

一般入試なのに何故第二志望として受験することを制限されないといといけないのか。入学手続き後に辞退することに対し、何故引け目を負う立場とならなければならないのか。常識や倫理感への意識の高揚が、受験生の中に自ずと沸き上がることでしょう。

学校側が涼しい顔をしながら、少しでも入学意思のある受験生に対し、そのような苦悩を押し付けることが、果たして教育機関の取るべき健全な態度であるのか、考えるべき問題ではないかと思います。

 

魅力的な学芸大附属であるために

 仮に私自身が現在学芸大附属入試を仕切る立場であったなら、今とは全く逆の施策を打ち出します。つまり、”来るもの拒まず、去る者追わず”。ノーサイドの精神です。

具体的にはまず、入学手続き期間を2018年度までと同様に、都立高校入学手続きの後に設定します。

そうすることで、受験生は第一志望であっても第二志望であっても、安心して学芸大附属と都立高校を受験できるでしょう。合格状況により、好きな学校を選べばいい。

学芸大は国立附属普通科としては最大数の男女合わせて100人以上を受け入れる学校ですから、これには受験生と保護者だけでなく、中学の先生方や塾講師まで広く共感が得られることでしょう。そこにあるのは社会からの信頼と感謝です。

そのような大らかな態度によって、国立附属としての存在感や格の違いを見せつけることができるとともに、高校受験枠の削減に苦しむ受験生への理解や安心感を示すことで、学校への人気や信頼は自ずと早まるでしょう。

入学確約書のような対応は、これとは真逆の視野の狭い施策ではないかと心配します。

同校はもっと自らを信じ、そして受験生も学習塾もすべて信頼することが求められているのではないかと思います。

私自身は、高校受験を迎える次男が同校に合格できたらすごく嬉しいです。ずっとそういう対象の学校であってほしい。

でも今は少し残念な気持ちもあります。

それは国立大附属校が持つべき大らかさや自由さが、毎年少しずつ失われているのではないかと感じるからです。それは入試制度の変化にも如実に表れています。

ラグビー日本代表のように、より強くより魅力的な集団とするために、様々な思いを持つ受験生を受け入れて、多様な価値観と活力のある学校になってほしいと思います。

2020年度入試は、果たしてどのような結果となるのでしょうか。

もし仮に、学校側が期待するような入学辞退者のない状態に近い入試となったならば、それが本当に健全な状態であるか分かりません。

それは同校が受験生から積極的に選ばれた結果であるのか、受験生から回避された結果であるのか誰にも分からないからです。個人的には排他的な環境を作るよりも、生徒の自由に任せた自然な環境を目指す方が、教育機関としてはよい結果をもたらすような気がしてなりません。

いずれにしても、本当に学校が望むような入学辞退者のない入試が実現するのでしょうか。そしてその場合、それはあるべき入試環境といえるのでしょうか。

学校や塾ではどのように指導するのでしょうか。

検証すべき余地の多い入試になりそうです。

ではまた次回。

 

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