2021年10月2日更新:
岸田新総裁の出身校として、再び脚光を浴びる麹町中学校。
工藤前校長の教育改革に続き、その教育方針に注目が集まりそうですが、2021年10月現在、ホームページにはメディア取材お断りの案内が掲載されています。そして越境入学についても、2020年度より受け入れを行っていません。
そんな麹町中学校の現在の状況についてお伝えします。
小学校6年生の子どもがいる家庭には、年が明けるころになると地域の教育委員会から中学校就学に関する通知書が届きます。他学区への越境入学を希望する場合には、その旨を記載して教育委員会に通知する必要があります。
そのような中、2020年令和2年度から、千代田区立麹町中学は越境入学を受け入れないことが学校ホームページで公表されています。
中学受験を行わず、あるいは希望の中学に合格しなかった場合、麹町中に子を入学させようと考えていた保護者の方にとっては悲しいお知らせとなります。
麹町中の栄枯盛衰
長男が日比谷高校に入学した2016年当時、今思うとにわかには信じられませんが、麹町中学は世間ではまだまだノーマークの公立中学校でした。
でした、とはっきり断言できるのは、実はわが家も次男が麹町中学に進学する可能性についてかつて調べたことがあるからです。
長男に続いて次男も中学受験しない方針のわが家では、もちろん地元の公立中学へ行くことを前提として現在の学区をわざわざ選んで住んでいるわけですが、折角ならば中学から少し背伸びをするような環境に身を置くのもよいだろうという考えがあったため、その対象として同校についてもスクリーニングを行ったのでした。
往年の麹町中は、番町→麹町→日比谷→東大と謳われる通り、むしろ裕福な家庭の子息子女が積極的に通う中学校だったのだと思いますが、都立学校群制度導入により日比谷高校をはじめとする当時の名門高校が軒並み凋落したことに伴い、同中学校も中学受験が当然の時代背景の煽りを受けて、積極的に子を通わせるには足りない学校として鳴りを潜めたのだと思います。
今では教育界の寵児のような同校の工藤校長は、2016年当時、メディアのインタビューで次のように答えています。
かつて“エリートコースの常道”を形成していた公立校が目指すのは、単なる進学校としての地位奪還ではない。生徒一人ひとりが自律し、希望と誇りを持って社会に出ていく基盤をつくること。日本の中枢とも言えるこの地で、その期待に向けた取り組みはスタートを切ったばかりだ。
「いま、この学校は第2志望の学校になってしまった。それを第1志望の学校に返り咲かせたい」
というのが、校長の夢の一つでもあるそうだが、その日は案外近いのかもしれない。
出典:マチノコエ
現在でも千代田区民であれば、まだまだ多くの家庭が中学受験に向かう状況だと思いますが、少なくとも数年前の状況と比較すると、現在ではメディアの取材を断る必要があるほど注目度の高い公立中学校となっているのは確かです。
工藤校長の学校改革への取りみが多くの書籍やメディアで取り上げられるようになった結果、越境入学以前にまずは千代田区内の家庭が麹町中学に集中し始めます。
麹町中学を選択する家庭の増加
千代田区は、区民であればどの公立中学校へ通ってもよいという「自由選択制」を導入しています。これは2021年現在も同様です。
実際には区内の公立中学は2校しかないのですが、昨今の麹町人気を反映して以下のような状況になっています。
2019年10月15日現在、2020年度入学予定者の学校選択状況は以下の通り。
- 麹町中 :366人(88.2%)
- 神田一橋中: 49人(11.8%)
実に、千代田区民の9割近い家庭が麹町中学を選択する結果となっています。
私の記憶では、3、4年前であっても麹町がはっきり多いと分かる傾向はありましたが、これほど偏った数ではなかったと思いますので、学校への注目度が上がった結果、多少通学が遠くても同校に子どもを預けようと考える保護者の方が増加しているのだと思います。
地図から理解できる通り千代田区は、皇居をぐるりと囲んだ敷地からなる、心臓のような形をした、文字通り日本の心臓部にあたる行政区です。
ちょうど時計の9時方向に位置し、ブランド学区を多数抱える番町、麹町エリアの他に、12時方向に位置する神保町から御茶ノ水、神田方にかけても当然それなりの数の小学生が住んでいるはずですから、麹町中学への希望の集中は、各家庭の積極的な選択によるものだと考えられます。
ちなみに、麹町中学の学校規模は以下の通りです。
現状各学年4クラス、特別支援学級を含めた生徒総数が392人ですから、1学年は概ね130人程度。
先の麹町中学進路希望区民は1学年で366人いますから、完全なキャパオーバー。もちろん、その内の2/3は中学受験で抜けていくという前提があるのかもしれませんが、行政的には自由選択制の下で希望する生徒をきちんと受け入れることができるかどうか、気になるところだと思います。
不合格なら麹町中進学作戦の終焉
2019年までは通用したかもしれない、希望の中学受験が不合格になった場合には麹町中学校に子を預けるという戦略は、少なくとも千代田区民以外の家庭には通用しなくなります。
この作戦は以前からあったのだと思いますが、昨年タレント家庭の中学受験を密着取材したテレビ番組内で、希望の私立中学に不合格だったご子息が、最終的に抑えの私立中学ではなく麹町中学に越境入学するという選択をしたことで、その進学ルートの存在が一般に広く周知されることとなったのでしょう。
おそらくは、メディアで注目を集める工藤校長の学校改革への共感と共に、テレビ番組の影響もあり、中学受験するしないに関わらず同校に越境を希望する保護者の方がものすごく増えたのだと思います。
その結果、学校側も越境入学を公式にお断りする必要に迫られた。
学校の公式ホームページで正式に公表している以上、特定の家庭の子どもだけは越境を認めますという裏対応も、今のご時世では難しくなるだろうと思います。
ですから公平性を期すという意味では、一律越境を認めないという明確な線引きは、本当にそう対応されるのであれば判断が明確でよいと感じます。
千代田区内の中学2校間の人気の偏りが激しさを増し、お互いに健全な学校運営に支障が出るような場合には、もしかすると近い将来、学校自由選択制度自体がなくなってしまうのかもしれません。
大切な公立中学区選び
多くの教育関連メディアの発信する情報を見ていると、ブランド学区といった言葉と共に小学校区選択の重要性を煽るような記事が多くある中で、中学校区を選ぶということに観点を置いた情報は皆無であることに気づきます。
これはおそらく、受験業界や私立中学からの発注や広告で成り立つ教育関連メディアが必然的に陥る罠、つまり公立中学情報を販売用雑誌などで積極的に取り上げられない状況があると思うのですが、いずれにしても公立中学に関する良質な情報は、雑誌であれネットであれ、ほとんどお目にかかることができません。
だからこそ、日比父ブログのアクセス数が非常に高いのだと思いますが、それはともかく個人的には、公立中学校区選びは小学校区選び以上に大切ではないかと考えます。
もし仮に、抑えであったとしても麹町中学に子を越境させたいと一度でも考えたことがある保護者の方がいるとすれば、それはすなわち公立中学校区選びの重要性を自ら無意識の内に認識しているということになります。
要するに「麹町中学越境作戦」は、もちろんわが家のように中学受験はしないものの、少しでも環境の良い中学で子を学ばせたいと考える家庭はもちろん、意中の私立中学に合格できなかった場合の抑え、つまり私立中学あればどこでもいいとは考えない家庭にとって有力な第二の進学選択肢を示すものになります。
そしてその場合にここでいう「麹町中学」は、’納得のいく公立中学’という状況を伝えるためのアイコンのような存在であって、実際には必ずしも同校でなければならないという状況ばかりではないと思います。
特に日比父ブログの読者の方であれば、都内各地域に存在する有力公立中学校についてご存知のことと思います。
麹町中学よりも評価が高い公立中学は、評価の軸足をどこに置くかにもよりますが、各エリアに少なからず点在します。
意中の中学が不合格になった場合に地元の公立中学でよいと穏やかに考えられるのか、地元の公立中学など行けないと切羽詰まるのか、この差は大きいように思います。
そして後者の場合、自らが否定する公立中学を擁する地域を地元として住み続けることに対し、特に自らその土地を選んで転入した家庭であれば、自己矛盾やジレンマを抱えているという客観的な事実の前に、少し気の毒な気さえします。
ですから中学受験する教育熱心な家庭ほど、むしろ公立中学校区は積極的に選ぶべきものだと思うのです。
日比父ブログでは、麹町中学越境作戦を千代田区だけでないそれぞれの地域で実現するという前提に基づき、選ぶべき公立中学をスクリーニングするためのフィルターとして、日比谷高校への合格実績を採用しているのです。
そのような住まい選びを積極的に考えようとする家庭にとって、私自身かつてそれを求めながら得ることが非常に困難だった情報の提供について、日比父ブログが少しでもお役に立てるのであれば幸いです。
ではまた次回。
【動画】麹町中学への越境入学
千代田区のブランド小学校事情