Z会で見る、都立トップ校受験のゴール設定

画像出典:Z会進学教室ホームページ

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 地元小学校を卒業すると、中学受験で一貫校に通う生徒と、地元の公立中学に通う生徒、それぞれの道へと分かれます。

4月から晴れて公立中学生となった生徒は、遅かれ早かれ高校受験を意識した生活を送ることになります。

高校受験事情を何も知らずに過ごした長男の中学時代とは異なり、日比父ブログを3年近く運営している現在では、一般的な保護者の方よりは都内の高校受験に通じている立場ではないかと自認しています。

思うに、都立上位高校受験に備える上で最も大切なことは、どのレベルまで学力を身に着けるべきかを予め設定することだと感じています。

それがどのような意味なのか、今回は具体的な指標として日比谷高校合格者数で上位に位置するZ会進学教室のクラス設定を例に挙げながら具体的に考えてみます。

Z会進学教室に見るゴールの違い

 公立中学から都立高校への進学を希望する生徒や保護者の多くが漠然と思い描くゴールとしては、日比谷、西、国立といった都立トップ校に入学できたらいいな、ということではないでしょうか。

そうした心情は、学力上位の生徒が集まるZ会進学教室のホームページやパンフレットに掲載された次の質問からうかがえます。

Z会進学教室(首都圏)高校受験Q&A

都内だけでなく、神奈川や埼玉にも展開するZ会教室が、日比谷高校の名前を挙げたQ&Aをわざわざ掲載しているのは、公立最難関を象徴する学校であると同時に、実際に同塾への通学を検討する多くの保護者の方に共通する質問だからでしょう。

高校受験向けのZ会進学教室は2段階クラス編成。上位クラスがVコース、標準クラスがKコースという位置づけです。

トップ校志望の場合、塾の上位クラスに所属しないと合格レベルに到達しないのか、あるいは標準クラスでも対応可能な生徒がどれほどいるのか、Z会に限らずどの学習塾を検討する場合でも、そうした疑問や悩みはあるものです。

注目すべきは、この質問に対するZ会の回答です。

Z会進学教室首都圏コース選択Q&A回答

Z会は、元来が相対的にハイレベルな生徒の集まる学力上位志向の塾だからでしょう。標準クラスでも日比谷高校への受験対策として十分対応しているという趣旨の回答になっています。

中3生への回答を見る限り、むしろ都立重点校であれば、標準クラスをお勧めするというニュアンスさえ感じます。

そのような中で、各クラスのゴールを端的に表しているのは赤下線部です。

  • Vコース(上位コース)
     国立大附属や早慶附属高校も受験したい
  • Kコース(標準コース)
     公立高校が第一志望

確かにこのような表現であれば、通塾を検討する側はコースの選択を行いやすいかもしれません。

しかしこの表現は、既に高校受験を経験した保護者から見ると、必ずしも受講者が求めている情報を与えているとは限らないように感じます。このため現在では、もっと直接的な以下の質問が掲載されています。

  • Q.コース選びに迷っています。コース選びのポイントを教えてください。
  • A.VコースとKコースでは、カリキュラムと進度が異なります。
    Vコースは難関私立高校の入試などを見据え、学習指導要領外の範囲も一部扱います。また、中3の夏で英数国は中学範囲を終了します。
    Kコースは自校作成入試などに備え、記述力を鍛える問題にも多く取り組みます。中学範囲は、中3の12月で終了します。

要するに、上位コースと標準コースの最大の違いは、受験目標校の違いというよりは、中学学習要領の範囲を超えた高校の学習範囲までを積極的に先取りするかしないかということだと解釈しています。

ただし、一般的な家庭や生徒にとっては、高校の範囲まで勉強するかどうかと問われても、却って理由や意図が伝わりにくいため、志望校や学校生活の状況によりコースを選択するような表現になっているのだと思います。

都立受験ゴールの考え方

 例えば開成高校を受験する際には、高校学習範囲まで勉強するのが必須になります。

その理由は明快で、高校入試の問題に、高校での学習内容が出題されるからです。

開成で高校範囲の出題がされる理由は、試験の難易度を上げるという理由以上に、中学受験で内部から進学した生徒の先取り進度に追いつくために、高校入学段階で最低限の高校学習範囲の土台を身に着けておく必要があるからでしょう。

つまり開成高校の入学試験は、先取り学習を行う内部生に高校から追いつく学力と、その準備ができているかどうかを確認するためのテスト、という性格を同時に持っていることになります。

このため、必然的に高校範囲の受験勉強が必要になるわけです。

これに対して、日比谷など都立トップ校を第一志望として受験する場合には、高校範囲までの勉強なしで合格に到達することが可能です。

その理由は当然のことですが、都立入試の場合は高校での学習内容が試験に出ることは絶対にないからです。英単語など、中学で習わない用語が出題される場合は必ず注記が振られます。

ですから先ほどのZ会のコース選択では、開成の場合は上位Vコースがマスト、都立トップ校の場合は標準Kコースでも必要十分という選択肢となるわけです。

しかしだからと言って、都立第一志望であれば、中学学習要領の範疇で難易度の高い勉強を行うのが最適かというと、物事はそう単純ではありません。

なぜならば、高校受験に向かう学力上位の生徒にとって、都立高校入試はゴール設定としては物足りないと同時に、高校受験に向けた学習プロセスは、その先の難関大学受験を目指す一連の過程の中で、大きな意味を持っているからです。

重点校対策の先へ

 日比谷を第一志望とする生徒の中には、自校作成問題で難易度が上がった入試問題さえ易しいと感じる生徒が大勢います。

そうした生徒が、自校作成問題をゴールに受験勉強することは、ある意味時間の浪費になりかねません。

つまり、目標設定が低すぎるのです。

ですから、たとえ都立を第一志望とする場合でも、学力上位の多くの受験生が早慶開成を始めとする受験最難関校への合格を目指すのです。

その理由は先述した通り、難関私立高校の入試問題の難易度が都立の試験問題よりも一段高いからであり、同時に都立トップ校受験母集団を意識しているだけでは、その先の大学受験で実際のライバルとなる、中高一貫校を中心とした本当の学力上位母集団の学力強度に接することができないからです。

中高一貫校が6年間の中で大学受験への到達点を意識するように、せっかくの高校受験を、その先の大学入試を意識した目標の通過点として考えることは、進学校に進むことを希望している生徒にとっては意味のあることではないでしょうか。

長男の高校受験では、そのようなことを全く意識せず、たまたま通った塾の言われるがままに開成高校対策の受験勉強を行っていました。

日比谷進学直後は、必要のない受験対策にお金を無駄遣いしたようにも感じましたが、大学受験で東大を第一志望とし、現役合格に至った今振り返って思うことは、あの時仮に日比谷高校の入試問題に照準を合わせた対策を最上位の目標として高校受験に臨んでいた場合には、長男自身も親としても、東大を実際に受験しようとする意識すら芽生えていなかったかもしれないということです。

高校受験段階で学力最上位の受験勉強を目指す過程の中で、駿台模試の上位常連となるような学力トップの生徒たちを間近に感じ、彼らと切磋琢磨することで、東大や医学部受験といった大学受験最上位に求められるレベル感やライバルの実像といったものを、高校受験を通じていつの間にか肌感覚として獲得していたのだと思います。

塾に通うかどうかに関係なく、そのような認識を予め持って高校受験に望むことは、その後の大学受験にとって小さくはない影響が生じるのだと感じます。

もちろん、重点校志望の生徒の中には、そこまで高い強度の勉強は逆に負担になりすぎたり、部活などの都合で敢えて求めない生徒も多く含まれるでしょう。そうした受験生は、最上位を意識することなく自分のゴールに向かって進めるのが賢明な選択です。

Z会を例にした場合、Kコースを選択するということになります。

5教科目標か3教科目標か

 都立進学指導重点校を第一目標とする受験生が、それでも敢えて難関私立合格を目標とする理由は、高い学力を身につけることによって都立合格の可能性を最大限引き出すことだけではありません。

先に見た通り、意識するにせよしないにせよ、その後の大学入試に向け、学力上位の中高一貫校生に追いつくための事前準備という性格もあるのです。

そして都立受験を目指そうとする場合に課題となるのが、開成のような5教科型の受験勉強を行うか、早慶のような3教科に絞った対策を行うかという選択です。

Z会の上位コース設定の通り、偏差値上位となる

  • 国立大附属や早慶附属高校も受験したい

場合には、多かれ少なかれ中学学習要領の範囲を超えた学習内容が求められます。

そしてその場合に悩みの種になるのが、5教科全体について強度の高い受験勉強を行うのか、都立全体の共通問題である理社はそれなりの対策に終始して、英数国3教科のみに集中して強度の高い受験対策を行うかということです。

この点は、重点校受験生にとっては大きな意味のある選択ですが、話が長くなるのでまた別の機会に考えたいと思います。

ではまた次回。

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