9月入学!日比谷仮想年間行事

 日比谷現役生のツイートでも話題の学校9月入学対応。

萩生田文部科学大臣が4月24日の記者会見で今後の選択肢の一つとして検討することに言及し、政治マターとして議論のテーブルに上がることとなりました。

この話題については様々な憶測や、賛否両論多くの意見が交錯するのは当然のことですが、なにわともあれ、今回は実際に9月新学期となった場合の学校行事や学生生活がどのようなものになるのか一足先に考えてみます。

 

9月入学国の年間スケジュール

 ではまずは9月入学を実施している国家の年間スケジュールを確認してみましょう。

一番身近な大国として、アメリカと中国を確認してみます。

アメリカ中国・9月入学一年の生活/出典:meijiホームページ

アメリカ中国・一年の生活/出典:meijiホームページ

この年間スケジュールは学生全体のざっくりとした情報です。米中ともに9月入学は同じですが、年間の休日数と休暇のタイミングが異なります。

アメリカは夏休みの長さを除いては、日本の年間スケジュールに近いように思います。

一方の中国は休日数は日本に近いですが、2月頭に春節休みが入ることが特色です。2月で前後期間を区切ることを前提に考えると、9月入学は馴染むのかもしれません。

日本が9月入学とする場合には、休みのタイミングは現状と同じアメリカ型を採用し、年間休日数は中国に近い現在の約2か月程度ということになるかなと感じます。

 

9月入学・日比谷の学校行事

 では今見たスケジュールに基づき、9月入学の場合の日本の年間スケジュールを検討してみます。

具体的な考察のために、日比谷高校の学校案内に載っている主な学校行事について考えます。現在のスケジュールを5ヶ月ずらし、夏冬を考慮した行事の組み換えを行うと、以下のようになります。

現状/9月入学 日比谷年間スケジュール比較

9月 入学式、遠足(前期開始)

 「台風一過の晴れ渡る空の下、本日はご入学まことにおめでとうございます」

残暑厳しい夏空の下、新学期の始まりです。新入生や入学式で着物を着る母親にとっては暑さだけでなく、式典の開催に影響する台風の発生状況が気にかかる新しい生活の始まりといえそうです。

桜色の入学カラーから、濃い緑色に染まった新学期への変更は、日本人にとっては民族の習慣や精神をも揺さぶるコペルニクス的大転換かもしれません。

入学後、健康診断をはじめ様々な入学ガイダンスを経た後に、初めての行事である遠足が行われます。

9月中旬以降であれば少しずつ秋の気配が顔をのぞかせる季節。春とはまた異なる行楽先で、新しい仲間との交流を楽しむことができそうです。

 

10月・11月 体育大会、合唱祭

 入学2か月目には3大行事の一つである「体育祭」が行われます。

10月は正に”運動の秋”、体育の日と重なる運動会にとってはベストシーズン。9月入学は、図らずも体育系行事にとっては意味ある変更となりそうです。

そして体育大会翌月の11月には「合唱祭」が行われます。

こちらも正に”芸術の秋”にふさわしい行事になりそうです。課題はこの季節、大ホールを押さえることがなかなか難しいことでしょうか。

日比谷合唱祭のメインホールとなる日比谷公会堂は、未だ改修工事中。

コロナが早期に落ち着き学校生活が再び日常を取り戻した後の、日比谷公会堂で行われる初めての合唱祭が今から待ち遠しく感じられます。

10月、11月は、むしろ本来の日本の習慣に行事が馴染むという結果となりました。

 

12月・1月 冬休み、スキー教室

 4月入学と異なり、入学後は冬に向かって寒い季節に突入します。

これまでの夏休みに代わり、冬休みが最初に訪れます。入学して直ぐに迎えるクリスマスや正月休みの機会に、志望校への合格と新しい学校での生活を家族や親族に報告するよい機会となりそうです。

これまでの臨海合宿や夏山キャンプの代わりに、雪山でのスキー合宿が行われます。

 

2月・星陵祭

 日比谷高校の学園祭である星陵祭は、2月に行われる想定となりました。

全学年が教室を締め切って行う演劇は、9月開催の現在は蒸し暑い密閉空間の中で団扇を片手に鑑賞する必要がありましたが、2月開催となることで、毎年の課題である暑さ対策は自然と解決に向かいそうです 

逆にこの時期は、インフルエンザをはじめ感染症が広がるリスクの高い季節。そうした時期に3密のお手本のような空間に閉じこもるリスクについては、様々な評価や判断はあるかもしれません。

これまでは、長い夏休みを利用して準備を進めることができた星陵祭ですが、正月休みが入ることで、基本的には準備期間というよりは準備が止まる時期となりそうです。計画的な準備が、作品の出来や完成度に影響しそうです。

 

3月・4月 後期開始

 後期の開始となる3月は、大きな行事がない<静の後期>の始まりです。後期の始まりと同時に、春の足音が少しずつ聞こえはじめます。

9月入学では、桜が満開となると、受験生にとっては間もなく訪れる入試本番直前のラストスパートの時期。従来の新しい生活への祝福を表すサクラサク季節から、試験本番での成功を応援する才能の開花を願う季節へと変わります。

これまでの風邪やインフルエンザを警戒する気持ちとは打って変わり、春の穏やかな陽気が受験生の集中力や体調をサポートします。9月入学でよく前向きな意見として話題に上る、受験シーズンのインフルエンザ回避の効果は確かにありそうです。

ただし花粉症の受験生にとっては、いずれにしても厄介な季節であることに変わりありません。鼻水と春眠に打ち克ちながら、受験勉強最後の追い込みへと向かいます。

冬が終わり、外出への気持ちを誘う啓蟄の穏やかな陽気を乗り越えて勉強に打ち込むことができるかが、志望校合格へのカギとなるかもしれません。

 

5月・6月 入試本番

 こうして実際に年間スケジュールを検討してみると、受験シーズンは5月、6月となるように思います。

9月入学の場合は学年の最後に夏休みが来ることで、現在の春休みよりも1か月休暇の始まりが早くなることから、長期休暇前に入学手続きを終えるために、入試時期も1か月早まりそうです。あるいは時期は早めずに、夏休み期間中に学校手続きが行われるかもしれません。

5月は年間通じて冷暖房が不要となる新緑の季節。受験生にとっては4月に引き続き体調管理が行いやすい時期となります。

5月中旬には新しく始まる大学共通テストが、後半には都立の推薦入試がそれぞれ行われ、受験がいよいよ本番を迎えます。

6月梅雨の始まりとともに、都立の一般入試と国立大学二次試験が行われます。

うっとうしい長雨の季節ですが、逆に受験生にとっては勉強に集中しやすい時期になるかもしれません。インフルエンザや極度の乾燥もむしろ気にすることなく、気持ちも体もしっとりと、受験本番に備えます。

 

7月・8月 合格発表、臨海合宿

 入試が終わり、合格発表の終わりとともに、いよいよ夏の気配が近づいてきます。

ここから先は期末テスト、3年生の卒業式、2年生の修学旅行、在校生の球技大会と怒涛の行事が続いて夏休みを迎えます。

夏休みに入れば臨海合宿や夏山キャンプ、海外研修や交換留学など、学年修了後の晴れやかな気持ちで迎える夏の大型行事に、心も体も気持ちよくリフレッシュできることでしょう。

ところで、灼熱の中に行われる夏の高校野球大会は、競技期間の長さから、引き続き夏休み期間に行われるのでしょうか?その場合は3年生は負ければ卒業のぎりぎりまで野球生活が続くことになります。あるいは、箱根駅伝やラグビー選手権のように、年末年始の新しいイベントとして生まれ変わるのでしょうか。

 

9月入学、学校行事から見た評価

 今回実際に学校スケジュールを確認してみるまでは、9月入学は日本の文化や習慣に合うはずがないと一方的に決めつけていました。

しかし実際に5か月スケジュールをずらして比較してみると、9月新学期の場合の学校行事へのマイナスの影響は、案外少ないかもしれないという思いに至りました。

もちろん、このような無責任で表面的な検証だけでは実際の課題や弊害は見えないものであることは確かですし、何より社会全体への影響を一切考慮していないという事実も残されます。

しかしながら、それでも学校生活を送る生徒の立場からしてみると、漠然と感じていた抵抗感を裏付けるような決定的な矛盾や障害があるようには感じられませんでした。

結局のところ、桜咲く季節に物事が始まることへの執着が、実は入学時期を変更することに対する日本人の最も大きな抵抗感の一つかもしれないと感じます。

私自身もアメリカや中国など諸外国のスケジュールに合わせるよりも、日本独自の習慣や文化を大切にしたい気持ちが強いです。夏入学によるグローバル化の推進などにも、賛同の気持ちには至らない方です。

それでも新型コロナによる未曽有の事態を考えるとき、よりよい学校生活の確保のためには、やはり今できる最大限の配慮を子供たちのために準備しなければならないという気持ちに至ります。

私自身は9月入学を推進する立場ではありませんが、少なくとも9月新学期の構想が、生徒たちの願いを離れ、政治家のオモチャや支持率回復の道具として弄ばれないように、保護者としてしっかりと見守っていかなければならないと思います。

緊急事態宣言は、実際いつまで続くのでしょうか。早期の学校生活の正常化を、切に願ってやみません。

ではまた次回。

 

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