開成高校 高入生の東大合格数

 2020年、開成学園の顔として親しまれた柳沢校長が退任しました。

私自身は、長男の開成高校合格者説明会に同席した際に、氏の話を直接聞く機会に恵まれたことがわずかな接点です。

当時校長のプレゼンの中で、開口一番にスマホは夜9時までとのメッセージを聞いて驚いた点と、開成高校は楽しいという入学者アンケートの結果を繰り返し強調していたことを今でも記憶しています。

開成に限らず、中高一貫校への高校からの入学を検討する際に受験生が気になることの一つに、学校全体の大学合格実績に対して高入生の実績がどうであるのかという点が挙げられると思います。

2020年度の開成高校の進学状況がホームページで公開された今、柳沢校長の退任に敬意を表し、新高生、つまり高校入学組の大学合格実績がどのようであるのか考えたいと思います。

尚、本記事は、学校当事者から公開された客観事実に基づく個人的な見解であることを予めお断りします。

 

中学受験と高校受験の東大実績

 開成高校は大学合格者数と進学者数の双方を現浪別に公表するなど、大学進学情報開示に関しては積極的な学校の一つです。

そんな開成でも、中学入学者と高校入学者別の合格実績は開示していません。

学校側からすると、どちらも同じ高校生であるため、そのような区別には意味がないという立場であるのかもしれませんが、高校受験生の意識からすれば、より自分の立場に近い生徒の動向が気になるということは自然な心理です。

もちろんどの中高一貫校であれ、まともな組織であれば中入生と高入生の大学受験結果について明確に把握しているのは当然のことでしょう。その点は、一貫校が高校募集停止を決定する際の判断基準の一つになっているのだろうと推察します。

ただし中高一貫校における高校入学者の大学合格実績については、一般には決して公開されない種類の情報のため、普通の受験生には推し量ることは容易ではありません。

 

柳沢前校長からの情報開示

 一般には秘密情報として開示されない一貫校の高入生母集団の大学合格実績ですが、柳沢前校長はかつて朝日新聞のインタビューに次のように明確に答えています。

――高校からの入学者は進学実績が低いように言われがちですが。

 全くそんなことはない。毎年の東大合格者の25%プラスマイナス2%は高校入学者。高1の1年間は高校入学組だけでクラスを作り、高2からは中学入学組と交じって刺激しあう。

朝日新聞デジタル:2017年2月25日

2017年に掲載されたこのインタビュー記事では、東大合格者に対する高校入学者の割合が明確に示されています。

もちろん主要新聞への回答ですから、虚偽ということはないでしょう。

記事は2020年5月現在もサーバー上に無料公開されていますので、気になる方は上記の情報を頼りに直接検索してご覧ください。

「東大合格者の25%」ということは、開成高校1学年400人定員の内、高校入学組(新高生)が100人(25%)、中学入学組(旧高生)が300人(75%)という比率を考慮すると、少なくとも東大合格者に関しては、中高入学者のどちらも合格率は変わらないということになります。

そこでこの発言に基づき、開成新高生の東大合格実績を推察してみます。

その際に一つ問題となるのは、校長が言及する対象が現役のみであるのか浪人も合算しての結果であるのかということですが、ここでは1学年の枠組が明確となる現役合格者に対して適用される割合であると仮定して話を進めます。

この仮定は、中学受験組の方が高校入試組よりも大学入試に対して有利という一般的な認識を前提とした場合、高校入学組の合格率や合格者数が実際よりも高い側に振れるという結果になりますので、恣意的に新高生の数字を小さく見せる意図がないことの間接的な表明ということにもなろうかと思います。

 

開成・高校入学組の東大合格数

 では実際に合格者数を確認してみましょう。

まずはベースとなる、開成の東大現役合格者数を確認します。2020年5月現在開成学園ホームページ上に公開されている、2012年度以降9年間の数字を参照します。

開成高校 現役東大合格実績

開成高校全体生徒数を定員の400人とした場合、9年間の平均現役東大合格数は119人、1学年の29.7%となります。

毎年概ね120人、3割の生徒が東京大学に現役での合格を果たしています。毎年100人を超える安定した実績に、中学受験の小学生や保護者の方の支持が高いのも頷けます。

ではこの内の何人が、高校入学組の実績であるか考えてみましょう。

ここで登場するのが先の校長の発言にある、「毎年の東大合格者の25%プラスマイナス2%は高校入学者」という言葉です。

この数字を、先に見た現役合格平均数の119人に適用してみます。

開成・高校入学生と中学入学生の東大現役合格比較

この一覧は、平均合格数119人に対する高校入学組と中学入学組の割合による合格実績バランスを表示したものです。柳沢前校長の言及した、高校入学者25%プラスマイナス2%、要するに新高生と旧高生が同じ合格割合となるのレンジを黄色で示しています。

結果的に、開成に高校から入学する生徒の東大現役合格数は、毎年概ね30人、定員100人に対して約3割ということになります。

 

日比谷現役東大合格数との比較

 では次に、都内高校受験で意識されることの多い日比谷高校との実績についての比較を考えてみます。

比較対象は、日比谷の東大合格数が安定して40名を超えることが期待されるようになった、2016年度からの5年間の実績を採用します。

日比谷&開成高校入学生の現役東大合格想定比較

こうして並べてみると、開成新高生と日比谷生の東大現役合格数はほとんど同じという結論が導かれます。

異なるのは、生徒数に対する合格割合です。開成の約30%に対し、日比谷は10%程度となり、開成高校入学者の方が高い結果となります。

この点は、長男が実際に開成と日比谷の両方に合格し、日比谷から現役で東大に進学したわが家からみると納得できる数字の差であると感じます。

なぜならば、開成高校の入学試験は学力のみの一次軸で評価しているのに対し、日比谷の場合は学年の2割が推薦入試で決まり、かつ一般入試でも内申点を3割加味する二次軸評価となっているなど、必ずしも学力の高い生徒のみを選抜する入試制度にはなっていないからです。

要するに日比谷の方が多様性を重んじた入学要件になっており、相対的に受験学力が必ずしも高くない生徒もそれなりに含まれるという学年母集団が形成されます。

当たり前のことですが、新高生は全員開成高校に合格しているのに対し、日比谷生の内、開成高校の合格者は、長男が入学した2016年当時はせいぜい20人に満たない程度ということですから、そもそも母集団全体の学力や性格は大きく異なります。

また日比谷の学年の半分が女子である点も、傾向の違いを生じる要因の一つになっていると考えられます。

逆に開成合格者のみに焦点を当てた場合には、むしろ日比谷進学組の方が東大合格率は高いという可能性もあるかもしれません。

なぜならば、仮に開成と同じ3割の合格率であった場合、長男の代の2019年度で見た場合、日比谷現役合格者29人中、開成合格辞退者はせいぜい5人程度ということになり、子や保護者ネットワークから伝え聞く情報よりも少ない気がしますし、日比谷の東大合格者はどうせ開成に合格したような層ばかりのはずというまことしやかな流言に反し、むしろそうではない高校受験母集団全体の学力の高さが際立つ結果となるからです。

今回の検証は数のみに焦点を当てたものですが、もちろん数だけでなく、合格学部にも傾向の違いがあると思われますが、どちらの学校も高校入学者のみの合格学部の情報開示は行われていないため、その結果は測り知れません。

仮に違いがある場合には、学校の影響というよりは、男子校か共学校かという母集団の違いによる相違が原因として大きいのではないかと感じます。

 

好きな学校が選択すべき学校

 理由は分かりませんが、ネット上では特定の中学や高校に対する優劣比較やランキングが、誹謗中傷を伴いながら日々猛烈に行われているような印象があります。

単純な結論ですが、全ての学生にとってよい学校など存在するはずがありません。

これは科学的根拠のないただの個人的主観にすぎませんが、半世紀も生きていれば当然の帰結として導かれる結論です。

どの学校が上か下かなどは、意味のない議論です。

仮に開成高校と日比谷高校のどちらがよい学校かと聞かれたら、君自身の好きな学校が君にとってふさわしい学校としか答えようがありません。宇宙の真理とは異なり、立場や考え方の異なる第三者に対する普遍的な答えなど提供できるはずもありません。

もちろん、学校を選ぶ際に明確な指標もつ受験生にとっては、その基準に対して学校別の優劣を示すことは意味のある事かもしれません。

ただし、こうしてSNSを通じて情報を発信する立場から世の中に溢れる情報を眺めてみると、ネットや雑誌の学校特集記事にしろ、テレビのニュースや新聞にしろ、YouTubeやツイッター上の意見も同様に、世の中には恣意性のない客観的な情報など存在しないようにも感じます。

この日比父ブログにしても、詠み人知らずの目的知らずの情報ですから、誰がどのような目的で情報を発信しているのかさえ分かりません。

ですから改めて、学校選びは自分の五感や感受性を頼りに進めるのが、相対的に正しい判断なのではないかと素直に感じます。

自分の好きが分からない場合には、ネット上の誰かに意見を求めるよりも、学校を直接訪ね、通学途中の風景や学校周辺の街並み、空気も含めた環境に対する自分の評価に直接尋ねるのが良いのではないでしょうか。

少なくとも、ネット上の掲示板やまとめサイトで誇示される主張の数々にまともに耳を傾けるべき意味があるとは思えません。

開成新高生の大学進学実績。

この非開示の情報は、実際にはどのようなものでしょうか。学力上位の男子高校受験生にとっては気になる数字に違いありません。

そしてもう一つ、

――今年の高校入試で受験者が113人減りました。高校入試は続けられますか。

 国立大付属など他校の入試日程の変更で併願パターンが変化した結果だと思う。はっきりしているのは、高校入試はやめないということです。

朝日新聞デジタル:2017年2月25日

柳沢前校長が明言した開成の高校入試の継続。

この4月の校長交代が、高校入試廃止に向けた布石の一つであるのか否か、新たな高校受験生を抱える一人の保護者としては気になるところです。

コロナの時代に高校受験を取り巻く環境は、どのように変わっていくのでしょうか。しばらくは目が離せません。

ではまた次回。

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