#CampusLivesMatter #大学生の日常も大切だ

東大駒場キャンパス正門

東大駒場キャンパス正門

 大学生の子を持つ親として感じることは、コロナ禍の現在、日本社会が大学生を犠牲にして成り立っているのではないかということです。

モラトリアムと形容されるなど、社会人として独り立ちする前のある種の社会的猶予期間とみなされることもある大学生が、この時ぞとばかりに社会から放置され、結果的に密を避けるための人口調整弁として利用されている現実を目の当たりにしていると、今の学生が本当に気の毒でなりません。

大学入試改革の影響を避けるために、2020年度入試では浪人を回避して大学進学を積極的に選択した学生も多いはず。

そのような中でいざ蓋を開けてみれば、新型コロナの影響により夢見たキャンパスライフも始まらず、新しい仲間との出会いの場も奪われるなど、むしろ入学を1年見送った方が賢明ではなかったかとさえ思えるような現在の状況は、将来の日本社会を背負って立つ若者を見殺しにしているのではないかという意味において、大きな社会的損失のように思うのです。

 

若年世代を攻撃するマスコミ

 現在マスメディアでは、執拗な若者いじめが続いているように感じます。

まるでコロナ感染拡大要因が若い世代のせいであるかのような演出は、本当に質が悪いように思います。

政府や地方行政をはじめとする、我々大人のミスリードによる感染拡大の責任を、若者に転嫁しているようにも感じる20代・30代の感染が7割を占めるといった報道キャンペーンは、若い世代が楽しく前向きに生きる力や外出の自由を奪うという意味において本当に止めた方がいい。

”7割キャンペーン”と”外出自粛”という言葉が共鳴することにより、事実上、若者に対して外出を控えるよう社会的抑圧と監視を促すマスコミは、独立した人生の基盤を育む大切な時期である20代・30代の成長機会を一方的に剥奪しているようにさえ感じます。

マスメディアの若者の感染に対する執拗なマイナス報道は、オールドメディアよりもネット世界に信頼を寄せることを通じ、マスコミの存在価値の低下加速に加担する若者全体へのこの期をばかりとの確信的な腹いせなのでしょうか。

 

厚労省は若者の外出自粛を求めない

 マスコミが若者ネガティブキャンペーンを行う一方、政府厚生労働省は若年世代に対して外出を控えるような呼びかけは行っていません。

出典:厚生労働省・感染症対策専門家会議見解

10代、20代、30代の皆さん。

皆さんが、人が集まる風通しが悪い場所を避けるだけで、多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます。

出典:厚生労働省・感染症対策専門化対策提言

政府や専門家委員会が強く求めるのは、あくまで感染症リスクの高い状況を回避することであって、外出や学生活動そのものを自粛するような要請ではありません。

政府は、”Go To キャンペーン”の積極的な実施方針からも理解できるように、移動や社会活動に対しては、むしろ引き続き積極的な立場です。

その一方、都内の大学はどこも足並みをそろえてキャンパスを閉鎖した状況が続いています。今年の新入生の中には、憧れの大学キャンパスに一度も足を踏み入れることさえできない学生が大勢存在するなど、地方からの下宿生を中心に、大切な自校の学生の夢と期待を奪いながら、半ば見殺しにしている状況です。

政府やマスメディアから独立した存在である知と反骨の集積地であるはずの大学が、今こそ日頃の研究の英知を結集して、積極的に学生にキャンパスを開放する施策を打ち出してほしいと思います。

少なくとも、広く緑豊かなキャンパスを持つ大学は、建物の中を除く限り「人が集まる風通しの悪い場所」とは対極にある公園のような場所であることから、学校法人であることにより日々恩恵を受ける税制優遇などの大きな利益を、少なくとも自校の学生に対し、仲間が緩やかに集う場所を提供するという形で還元してほしいと思います。

教室の閉鎖はやむを得ないにしても、キャンパスを学生に開放することで、所属する学生の信頼や喜びと、施設費の納付に対する前向きな支持が得られることでしょう。

そして若い人たちは、マスコミや大人たちの魔女狩り染みた若者外出敵視政策のプレッシャーに打ち克って、もちろん感染症予防対策はしっかりと意識しながら、もっと軽やかに、街に繰り出して青春の空気を思い切り吸ってほしいと思います。

 

サークル活動を再開する東京大学

 都内の大学が感染者拡大リスクの矢面に立つことを嫌いながら顔を見合わせる状況が続く中で、東京大学はいち早く大学解放に向けた一歩を踏み出しました。

新型コロナウイルス感染拡⼤防⽌のための東京⼤学の活動制限指針(抜粋)

7月13日より、東大の活動制限指針が1段階引き下げられ、レベル0.5となりました。

4月以降続いた対面授業の自粛やサークル活動の全面禁止を解除して、徐々に人と人の交流を促す方針です。

東京大学活動制限指針
  • レベル0.5:一部制限
  • 研究活動:感染拡⼤に最⼤限の配慮をして、研究活動を⾏うことができます。
  • 授業:感染拡⼤に最⼤限の配慮をして、対⾯授業、演習・実習を制限しつつ、オンライン講義を中⼼に授業を⾏います。
  • 学生の課外活動:感染拡⼤に最⼤限の配慮をして、一部の課外活動を許可します。

これを受けて新入生が通う駒場キャンパスでは、8月6日より「課外活動施設の利用制限の緩和」を行うこととなります。

 

東京大学の学生への想い

 一足先に活動が再開した本郷キャンパスに続き、駒場でもいよいよ学生生活が段階的にスタートします。

東大がキャンパスを開放することで、首都圏の他の大学や、広く全国の大学へも徐々にその動きが波及していくものと期待しています。

昨年長男が入学して様々な活動や情報に触れるにつれ、親として見る東京大学への印象は大きく変わりました。

これまでは、排他的で権威的なイメージを漠然と抱いていた東京大学ですが、むしろどの学校よりも前向きで明るい社会の実現に積極的で、かつ学生自身の成長を真剣に考えている学校ではないかという実感を持つに至っています。

教育関係者から時々耳にする、”東京大学は選択すべき意味のある本当に良い大学だ”という意味が保護者として内から接することで、初めて理解できた気がします。

7月31日付の駒場キャンパス再開にあたっての学部長のメッセージは、そうした東京大学の価値観や姿勢を端的に示すものであり、コロナ禍において閉塞的な日本社会の中で全ての学生と社会人が読むべき価値のある文章です。

課外活動の再開にあたっての注意(抜粋)
2020年7月31日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する大学のさまざまな対応に、これまで我慢強くご協力頂きありがとうございます。

8月6日以降、駒場キャンパスにおける「課外活動施設の利用制限の緩和」を行うことになりました。今回、課外活動の再開にあたって皆さんに是非理解してもらいたいことがあり、下記の文章を記しました。

COVID-19は現在第2の感染拡大の波が到来している段階です。また、複数の他大学で課外活動の再開後に感染クラスターが発生し、ほどなく再び厳しい活動制限に戻った事例が報告されています。このような中で、本学において課外活動を再開するのは、相当高いリスクがあります。

おそらく、駒場でも課外活動による クラスター発生の確率は高いであろうと考えており、何事もなく継続的に課外活動ができたとしたら、それは奇跡に近いことだろうと思います。

ですから、課外活動を始める皆さんには、まず、それだけ困難な活動を始めるの だという自覚を持ってほしいと思います。

また、課外活動での感染クラスター形成により、自分だけでなく友人や他の学生、ご家族にも多大な影響を与えることを想像し、自制を持って日々の活動を行って頂きたいと願っています。

(本学で 大規模な感染クラスター形成が発生すると、対面授業の再開にも影響が生じます。1年生になんとかして対面授業の経験をしてもらいたいと、教職員で必死に準備していますが、どうかこの作業を無駄にしないようにして下さい。)

課外活動を普通に行えば感染クラスターが生じるのは不可避だとわかると思います。長期間感染クラスター発生を抑制し、どれだけの期間課外活動を継続できるか、これは課外活動を開始する東大生に与えられたテスト(試練)です。基本的に課外活動を行う皆さん自身でこの問題を解決して下さい。 

加えて、万一感染した場合も事故に遭ったようなものであり、くれぐれもその当事者を責めないでください。やるべきことは、そこから感染を拡大しないように、隠蔽などせず迅速に感染拡大を阻止することです。

課外活動をコロナ禍の中で安定して実施できている大学など、世界のどこを探してもないと思います。そのような世界の先端を開拓する覚悟で、課外活動を行って頂きたいと思います。

私たちは、新型コロナウイルスが打撃を加えている 「人と人との交流・リアルなネットワークの形成」を、なんとしても守っていか なければなりません。

是非東大生の皆さんが率先して、その新しいモデルを作ってほしいと願っています。

なお、東京都・国内の感染拡大状況によっては、課外活動の制限を再び出さなければならない状況も十分あることを理解してください。

最後に、より長い期間、制限を強化せずに多くの学生が課外活動で青春を謳歌できることを願いつつ、筆を置くこととします。

東京大学・教養学部長 太田 邦史

現在マスコミや大人たちが、新型コロナを理由に打撃を加えている若い世代の「人と人との交流・リアルなネットワークの形成」再開に向け、東大が担うべき役割は大きいと思います。

東大生がコロナ禍におけるキャンパスライフの過ごし方を社会に例示し、いわれなき抑圧の中で本来の学生生活を自制している多くの賢明な大学生が、再びリアルなキャンパスライフを取り戻すことができるように期待しています。

新型コロナ感染クラスターの発生を抑えながら、どのように学生生活を充実させるのか、将来の日本を背負う若い人たちの対応力が試されます。

 

中高年は自粛し、若者は街に出でよ

 私自身は一人の親として、またベテランの社会人として、若い世代の人たちにはもっと街に出て活動してほしいと願っています。

その状況を実現するために、我々中高年はむしろリアルな社会活動を積極的に自粛して、若い人たちに公共交通機関や街を解放した方がいい。

会社の経営者や部課長は、もっと積極的に会社に行かない選択をした方がいい。

自分の居場所を確保するために、出社の過程で感染リスクを世の中にまき散らすのはやめた方がいい。

近い将来配偶者との間で生じる家庭内での軋轢を先延ばしするために、業務上の責任を理由に出社するのは止めた方がいい。

事業継続や会社利益の確保や経済活動の循環を免罪符に、ゴルフや会食を続けるのは止めた方がいい。

社会経験や事業経験豊かな中高年ほど、実際には外出することなく全ての業務に対応することができるはず。

中高年にとってはむしろ、社会活動の一線を退いた後の第二、第三の人生に備えるための予備演習期間として、積極的な外出自粛により将来の在り方を模索する方ががいい。

Campus lives matter.

それぞれの大学に、それぞれの大学生活がある。

それぞれの学生に、それぞれの学生生活がある。

その、それぞれの大学生活を充実したものとするために、大人たちが子供たちに外の空気を開放しよう。

街中の人口密度や感染リスクを回避するためのソーシャルディスタンスの確保が必要であるのなら、惰性のように繰り返される大人の時間を少し制限して、二度とは戻らないかけがえのない青春にその時間を回したい。

一人の大人として、保護者として、今そんな気持ちでいっぱいです。

学生や子育て世代の家族を含む若い世代の人たちが、生きる喜びや楽しさを、感じるべき瞬間に経験することができる社会となるように、そしてでき得ることならば、どの世代も制限することなく自由に街の空気を味わうことができる社会が再び訪れるよう、願ってやみません。

駒場キャンパスのサークル再開に期待しています。

ではまた次回。

 

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