2018年2月12日更新:
2月12日は開成高校の合格発表日。
今回は、日比谷高校を目指す男子の併願候補の一つ、私学の雄である開成高校の、少しネガティブな話題についてお伝えします。
ネット上では、開成高校の入学辞退者が増えているという情報を目にしますが、何の根拠も示されていません。本当なのでしょうか?
開成といえば、都立入試とは比較にならないほど膨大な受験勉強を経てせっかく合格した受験最難関校の一つ。それにもかかわらず、日比谷をはじめ都立トップ校に進学する生徒はいるのでしょうか? 検証してみたいと思います。
日比谷の開成合格者は何人?
まず一つの事実として、わが子の1年生のクラスでは、お互い確認し合った中では少なくとも3人は開成合格者が在籍しているそうです。
日比谷男子は1クラス20人ですから、割合では15%ということになります。
案外多いという印象ではないでしょうか。
クラス編成時点では、学校は新入生の受験履歴を把握していませんから、意図的に特定のクラスに集めているということはありません。
そこで、ずいぶん大雑把な統計になりますが、これを1学年に適用してみると、
男子20人x8クラスx15% =24人
日比谷高校1学年男子160人の内、20人程度の開成合格者が在籍するという結果となります。
この結果がある程度確からしいと考えると、なかなか意味のある数字になります。
なぜならば、この状況は、平成28年度の入試制度改訂後、つまり、4教科内申点の比重がより大きく、また内申点に関係なく合否が決まる特別選考枠廃止後の状況です。
ネット上では、特別合格枠廃止後は内申点の影響の拡大により、都立トップ校に進学する学力最優秀層が減るという、根拠不明の想像情報が流れていました。
そういう意見のある中で1学年20人程度の開成合格者がいるというのは、そのそも開成の入学枠が100人ですから、定員のほぼ1/4の合格者、残念ながら不合格となった受験生も含めれば、いったいどれ程多くの受験生が内申点を苦にせず日比谷を第一志望にしていたことでしょうか。
本当にこんなに多くの合格者が入学してくるのでしょうか?
在校生の非常に大雑把な現場感覚にも関わらず、平成29年度入学者については、この数字は実際近いものがあるようです。
東大合格36年連続トップの開成高校を蹴って入学する生徒も20人近くいる。すでに入学時点で日比谷の成績上位層は、全国トップの学力レベルに達している。
出典:NIKKEI STYLE 2018年1月14日
学習塾の客観的データを調べてみる
今手元に、進学塾の成績上位者の合否判定および進学先を記載した実績一覧があります。上位クラスの学生の中から、ランダムに結果を抽出した平成27年度の資料です。
個人名は伏せてありますが、塾が保護者説明会用資料として配布した資料ですから、偽りのない正しい情報源とみていいでしょう。
一覧中、開成受験者は40人、合格者(補欠除く)は29人となります。
実際の合格公表値はこの数字を大きく上回る合格実績を謳っている塾ですから、資料の数字はやはり無作為に抽出したものとみなせます。
さて、開成合格者29人の内、日比谷高校進学者は3人(10.3%)です。先ほどと同じように、この数字を日比谷高校の男子1学年に適用してみると、
20人x8クラスx 10.3% ≒ 16人
約16人程度在席するということになります。
以上、限られた二つの統計からの推測ですが、実数に基づく考察結果であることから、日比谷高校には開成高校合格者が、男子の10~15%程度、1学年20人前後が入学するとみるのが妥当なように思います。
そして2017年の『世界一受けたい授業』にみられるような、各種メディアでの昨今の前向きな発信を見る限り、この流れは増加する傾向にあるのではないでしょうか。
開成高校第一志望は約半数
ところで、先に参照した学習塾の合否一覧ですが、開成合格者29人全員の進学先がどうなっているか、全部確認してみましょう。
1)開成 16人(55.2%)
2)筑波大附属駒場 5人(17.2%)
3)日比谷 3人(10.3%)
4)西 2人(6.9%)
5)筑波大附属 1人(3.5%)
5)学芸大附属 1人(3.5%)
5)慶應義塾 1人(3.5%)
開成高校入学者は合格者の約半数にとどまっています。
国立大附属高が7人(24.1%)、都立高が5人(17.2%)、私大附属高が1人(3.4%)となります。西高校へも進学しています。実際、入学金を納めた後に行われる、入学者説明会の最後には、入学保留者が志望校を書いて届けるということが行われますが、私が参加した際には前の生徒が西高と書いているのが見えました。
そしてこの表は、ごく限られた数字であるにも関わらず、現在の受験生の世相を反映するような示唆に富んでおり興味深いです。
そして上記は平成27年度のデータですが、直近平成29年度には、日比谷を選択する合格者の割合が増えているように思います。なぜならば、国立附属高校から日比谷への流れが確実に増加しているからです。
「筑波大学付属駒場高校(筑駒)や筑波大学付属高校、東京学芸大学付属高校など国公立大学付属校を蹴って、ウチに入ってくる生徒が増えましたね。今は入学者の2割ぐらいはいます」と話す。
出典:NIKKEI STYLE 2018年1月14日
いずれにしても大雑把に整理すると、開成合格者の約半数は、元々別の高校を第一志望にしている、つまり開成を併願校としてみている、ということになります。
これらの値を参考にして、実際の合格者の動向について考えてみましょう。
開成高校発表の合格実績をみる
まずは開成高校のHPより、高校入試情報として公開されている数字を確認します。
<開成高校入試結果(繰上合格除く)>
H24 H25 H26 H27 H28 H29
合格者 174 166 185 200 194 181
入学者 102 101 100 101 102 98
入学率 58.6% 60.8 54.1 50.5 52.6 54.1
となっています。
先ほどの進学塾のデータを裏付けるような入学率が並んでいますね。しかも平成29年度は定員割れとなっています。繰り上げ合格の調整など、なかなか難しいのでしょうか。
ではこの合格実数に、先ほど調べた日比谷入学率を摘要してみましょう。
<開成合格者の日比谷進学推定値>
H24 H25 H26 H27 H28 H29
合格者 174 166 185 200 194 181
10.3% 18 17 19 20 19 18
15% 26 24 27 30 29 27
中間値 22 20 23 25 24 22
ここでもやはり、20人程度という結果となりました。統計の力恐るべしです。
さて、下の写真は平成28年度の開成高校の合格者掲示板です。愚息の受験番号もしっかり掲示されています。
数えてみると、公表通りピッタリ194人の合格者ですので、学校が発表する平成28年度合格194人に、補欠や繰り上げ合格は含まないということが分かります。
撮影:mommapapa
ただし、最終的に繰上げ合格者を出しているかどうかは、学校が公表していないので分かりません。
ある大手進学塾の受験情報サイトでは、国私立各学校の過去の補欠・繰り上げ合格者について、独自に集計した数字を発表しています。これによると、開成高校は非公開としながらも、平成25年および26年度については、60~70人の繰り上げ合格を出していると、推測値を公表しています。27年度以降分は現在未発表です。
どのように集計しているかは分かりませんが、上場している社会的責任のある企業ですから、実際に繰り上げで合格した受験生について、かなり把握しているのでしょう。
そしてこの情報が正しいとすると、先ほどの開成高校が発表する一覧は、以下のように変わってしまいます。
<開成高校(繰上合格推定値含む)>
H25 H26
合格者 226~236人 245人~255人
入学者 101人 100人
入学率 44.7~42.8% 40.8~39.2%
実に、入学率が4割に下がってしまいます。
これが現実だとすると、ちょっとショッキングですね。
初めから、開成第一志望の方が少ないということになります。
どの学力層が入学を辞退しているかまでは分かりませんが、状況によっては進学校にとって深刻な問題です。どちらの数字が本当なのでしょうか?
一つ事実としていえることは、開成高校がホームページで自ら発表している通り、ここ数年は、入学定員100人に対して、初めから概ね2倍の合格者を出しているという事実です。
つまり、いずれにしても、正規合格者の半分は入学しない事実を、学校側が認めているということになります。
開成高校入学者説明会
ところで、現在のような状況に対して、開成高校側はどう感じているのでしょうか?
これはもちろん、学校側がコメントを公表している訳ではないので正しくは分かりませんが、平成28本年度の開成高校合格者説明会に参加した印象としては、正直以下のように強く感じました。
開成学園は、高校入学者の確保に対して、相当な危機感を感じていると。
わが家にとっては、都立の結果によっては入学する可能性のある学校です。
入学金を払い、正式に入学許可証を手にした上での参加です。しかも私立の雄と言われる開成高校の、初めての学校側との対面ですから、どれほど将来に可能性のある話が聞けるのだろうと、本人でなくともやはり心が躍ります。
しかし高ぶる期待とは裏腹に、説明会でのプレゼンは、入学後の学園生活を夢見るような心躍る内容とは言い難い、むしろ合格者を何とかつなぎとめようとする意図が見え隠れする、学校側の焦りが色濃く表れたものでした。
そして説明会当日は教科書などの販売日も兼ねているのですが、購入を保留するためには第一志望校を記載して提出しなければならないという、半ば強制的な情報収集方法を採るなど、詳細は記載しませんが、受験生や保護者の感情に対して配慮を欠くような対応もあり、同時に保留する者の多さにも圧倒され、正直予想しなかった驚きをもって帰ったのです。
その時の素直な驚きの意味は、機会があればいつかお話しできるかもしれません。
半世紀を経た価値観の変容
さて、後日妻が知人の一人に、息子が開成へ進学せずに、日比谷へ入学したと話しをした際に、相手が絶叫して目の玉が飛び出す程驚かれたそうです。その方の中ではあり得ない価値観だったようです。
しかし歴史を振り返れば、現役高校生の親世代が生まれる前後、ちょうど50年前、学校群制度が導入される以前は、逆に日比谷を敬遠して開成を選択する日がやってくるなどとは、確かに誰にも想像できない時代だったのです。
ゆく川の流れを絶えず見守る時の大きなうねりの中で、学校の体制や評価、そして社会そのものの価値観も少しずつ変わっていくのです。
そして現在では、都内の高校進学先として、日比谷をはじめとする都立高校を積極的に選択する事は、もはや景気の動向や収入とは関係なく、至極自然で全うな価観の一つであると思います。そしてそのために積極的に地元の公立中学の門を叩く。これも消去法ではない前向きな選択肢の一つでしょう。
もちろん、開成高校も国立附属の各高校も、どこも素晴らしい伝統を持つ名門校なのですから、最終的には、君自身の価値観や憧れで進学先を選択すればよいことです。
それぞれの学校がお互いに切磋琢磨しながら、受験生に多様な教育環境と選択肢を提供することができる状況は、社会にとっても望ましいことだと思うのです。
現在の都立高校回帰の流れが、引き続き世代を越えて続いてゆくのか、あるいは社会の状況や時の為政者の影響により再び大きく変わってしまうのか、今は誰にも分りませんが、都立高校が、学力上位の受験生の進学先として積極的に候補に挙がる現状は、社会基盤の充実という側面からみれば、大いに歓迎すべきことではないでしょうか。
今回は開成高校の合格者の現状を垣間見ながら、都内の高校選択に係る価値観の変化についてお話ししました。
ところで、開成学園は現在の状況下においても、高校入試を継続して行っていくのでしょうか?もし打ち切るとすれば、それはいつなのでしょう。
この話題については、また別の機会にお話したいと思います。
ではまた次回。
2016年9月18日追伸:
何と本記事を掲載したわずか2日後に、本記事と申し合わせたような内容の文章が、NIKKEI STYLEから発信されました。2016年時点では、学校側が把握している開成辞退者はおおよそ1学年15人、当記事の統計に基づく検証通り男子の約10%の数字となっています。ただし、日経記事では女子も含めた320人全体の割合として5%と表現しています。
2016年11月16日追伸:
週刊ダイヤモンド11/19号「最強の高校」によると、日比谷平成28年入学者の内、学校が把握する開成高校合格者は17人であると、武内校長自らが語っています。
従って、現在の1年生については、17/160=10.6%の開成合格者が在籍しているということで、ますます検証と一致しています。統計の力って本当に侮れません。
それでも日比谷を選ぶ理由
2018年2月12日追伸:
そして2017年度は、国立附属大合格辞退者も含めて、日比谷を選択する高校受験上位者が増加していることを、本文でも紹介したNIKKEI STYLEは紹介しています。
受験業界最大の関心、開成高校募集停止
中学受験組保護者の選択はどちら?