いじめ報道の影響か、直近3年間の入試では、制度や正規合格者数が変動するなどなかなか安定しない入試が続く印象の東京学芸大学附属高校。今年はコロナが重なり先の見通しにくい状況が続きます。
新年1月4日に同校ホームページ上で入試情報が更新されましたので、本年度の入試制度について確認したいと思います。
直近3年間の入試状況
学校が公表する直近の3年間の資料を見ると、一般入試の受験者数は100人程度増減しながら、平均的には男女合計で783人となり、都立高校と比較すると毎年かなり多くの生徒が受験します。
正規合格者数は、平成30年度には当時の定員106人の3倍以上にも及ぶ344人を出すと、翌年には半分以下の160人に絞り、令和に入った昨年は200人に増加するなど、試行錯誤が続いているように感じます。
本年度はどのような状況になるのでしょうか。
令和3年度一般入試変更点
ではまずは、入試スケジュールについて確認しましょう。
2017年度以降5年間の概要は以下の通りです。
2021度入試の基本スケジュールは2020年度入試と大きくは変わりませんが、繰上げ合格の発表日に微調整が見られます。
2021年度の繰上げ合格日は、2月20、26、27日および3月2、3日の5日間に限定されることとなりました。
2020年度入試では、2月20日から3月5日までの15日間にわたり繰上げの発表が実施される可能性がありましたから、正規合格が叶わなかった同校第一志望の受験生にとっては、つらい状況があったかもしれません。
そういう意味では前向きな改善だと思います。
募集人員の増加
2021年度入試では、これまで106人だった定員が120人程度に増加しました。
人数の増加だけでなく、106人と明記してあった表現が、120人’程度’と曖昧な定員数に変更となったのも変化の一つです。
本年度学校説明会には参加していませんのでその意図は分かりませんが、冒頭に掲げた入試選抜状況を確認すると、令和3年度は附属中学からの志願者が例年より30人程度減少していますから、その辺りの調整があるのかもしれません。
あるいはここ数年、学芸大附属中学の入試偏差値が下がっているという状況も見られますので、そうした状況が影響しているのかもしれません。
また入学定員数を特定しないのは、入学者の確定を安定させたいという気持ちの裏返しだと感じます。
実際の変更動機は分かりませんが、いずれにしても、ここ数年進学校の入学枠の減少傾向に悩まされている高校受験生からすれば、うれしい定員増化には違いありません。
一方でこの定員増加には、高校受験界隈を混乱させるリスクの増大に繋がる可能性がある点にも注意が必要です。
仮に今年も一定数の入学辞退が発生する場合で、学校側がそれに見合った正規合格者を出せない場合には、都立高校合格発表後に昨年までよりも多くの繰越合格が振り出される可能性が存在します。
その結果、再び都立進学校に欠員が生じ、二時募集が行われる可能性が潜んでいると言えるでしょう。コロナ禍の本年度、過去と同じような混乱が生じる場合には、混乱は混迷を深めることが懸念されます。
学芸大附属高校は、直近3年間で学んだ合格者確保の過程を十分に検証し、混乱発生の震源地として指摘されないよう、安定した入試運用を実現することが求められます。
出題範囲の縮小
そして2021年度で例外的な変更点は、公立中学校の授業進捗遅れに配慮して、出題除外範囲が設定されていることです。
出題除外範囲は、何と東京都立高校の除外範囲と全く同じです。
都立高校が除外範囲を設定したのは6月11日付、附高は7月30日付ですから、附高が都立の範囲に倣ったというべきでしょうか。
ちなみに同じ国立附属でも、筑波大附属高校の除外範囲は以下の通り一部異なります。
筑附の場合は、数学と理科は学芸大附属よりも除外対象が大きいですが、逆に英語は除外内容がありません。
英語については、関係代名詞を除いて論理的な文章の構成を確保することが難しい、あるいは中学英語学習の要の一つとして是非とも受験までに学習してほしいという判断ではないかと思いますが、個人的にはこの筑波大附属の判断が正しいように思います。
入試からの除外範囲が大きいほど、結局は、ツケが受験生本人に回ってくるからです。
内申点評価
国立附属高校入試における内申点の扱いは、都立高校と比較すると明確に開示されていません。
その中でも、学芸大附属の場合は開示の努力を続けているように感じます。
例えば平成28年、2016年度入試における募集要項には、選抜方法について以下のように記載されています。
学力検査・調査書・面接を総合的に判断し、合格者を決定します。
重大な合格判定について、たったこれだけの記載しかありません。
何点満点か、それぞれの得点の割合はどの程度か、また面接の評価の観点や基準はどうなっているかなど、まったく開示がありません。
その当時と比較すると、現在は客観的な得点換算基準が開示されています。
2021年学芸大附属高校入試選抜方法
- 学力検査:500点
- 調査書 :100点
(3年間の内申合計を100/135換算)を総合的に判断して合格者を決定。
これは、「学力試験と内申点の合計600点について、点数の高い順に合格とする」という意味でしょうか?あるいは、その他の判断基準が入る余地があるのでしょうか?
「総合的に判断」という曖昧な表現で終わっているので、結局どのような判定基準なのか明確でない点がやや残念です。
学校側からすると、何かに備え、主観的判断を許す状況に留めたいという気持ちがあるのは理解できますが、面接を廃止した以上、そうした甘えを残すよりは、客観的に判断可能なルールを明記しそれに従った方が、入試制度の透明性が高まり学校への信頼感も増すと思います。
ちなみに内申換算の100/135という部分は、9教科内申45点x3年分の135点を100点に換算するという意味だと思われます。
仮に、学力試験と内申点の合否判定評価が500:100だとすると、内申点1点の学力試験得点価値は単純に100/135=0.74点となり、都立高校と比較すると、内申点の影響は大きくはありません。
内申点と合格点の関係
ここでは先に見た通り、仮に学力試験と内申点の合否判定評価が500:100だと仮定した場合の合格に必要な試験の得点について考えたいと思います。
学芸大附属高校では、毎年の合格者の得点状況が開示されています。
この中で特に重要な情報は、合格者最低点です。要するに、受験生の誰もが知りたい合格点が公開されていることになります。
この中で、面接が廃止されてからの直近3年間は、試験と内申点の合計点で見た場合の得点として記載されています。(この一覧を見る限りでは、600点満点で合否判定されているように思います)
男女それぞれの3年平均合格最低点は以下の通りです。
学芸大附属高校 平均合格最低点
(試験+内申点合計)
- 男子 444点
- 女子 431点
そこで合格への最低目標点として、男子450点、女子440点と設定し、内申別に合格に必要な得点を算出したいと思います。
附高【男子】必要試験得点
この図は初めて目にする表ではないでしょうか。
内申点毎に、入試当日の試験で合格に必要となる得点との関係を示した一覧です。便宜上、横軸に5教科の3年間の内申合計点、縦軸に4教科の内申合計点を配置しています。
例えば、中学3年間9教科オール5の生徒の場合、
- 5教科:5x5x3年間=内申75点
- 4教科:5x4x3年間=内申60点
となりますから、一番左上で囲まれた枠を見ます。
各枠は4段で構成されており、
- 1段目:3年間内申合計75+60=135点
- 2段目:100点満点換算=135*100/135=100点
- 3段目:想定合格点から100点換算内申点を引いた得点
=入試当日の必要最低得点=450-100=350点 - 4段目:必要入試得点の5教科平均点=350/5=70点
を示しています。
3年間の内申点で見ており、合計得点の振れ幅が大きいため、内申点は5点毎に表示しています。記載のない間の数字も同じ計算で求められます。
こうしてみると、学芸大附属高校入試では、内申満点でも試験で5教科平均70点を確保しないと合格が難しいということになります。
例えば、3年間オール4だった場合は、一覧内の緑セルの数字ですが、
- 3年間内申点:4x9x3=108点
- 換算内申点:108*100/135=80点
- 入試必要得点:450-80=370点
- 5教科必要平均点:370/5=74点
となり、平均74点を獲得しなければなりません。
3年間オール3だった場合は、3年間内申は81点、オレンジセルの箇所となり、同様に平均得点78点を確保する必要があります。
別の見方で、3年間内申合計点が40だった場合は、
- 3年間内申点:40x3=120点
- 換算内申点:120*100/135=89点
- 入試必要得点:450-89=361点
- 5教科必要平均点:361/5=73点
となります。
3年間オール5の生徒でも、必要入試得点は350点で、オール4の生徒とは11点差だけですから、それ自体は大きな差ではないですが、元来の必要得点が70点を超える高得点争いですので、内申点は十分確保するに越したことはありません。
逆に言うと、ミスを減らして確実に得点を重ねる必要があるといえそうです。
男子であれば、5教科平均75点、合計375点を一つの目標とするのがよさそうです。
女子の場合も同様に掲載します。
附高【女子】必要試験得点
女子の場合も男子と同様の見方になりますが、合格最低点が男子よりも10点低い440点となりますから、その分単純に男子よりも10点低い得点で合格が可能ということです。
それでも目標としては365点、1教科平均73点が目安となりますから、やはり楽な入試ではなさそうです。
新型コロナ対策
さて、2021年度学芸大附属入試で一番情報が不足しているのが、新型コロナに対する扱いです。
都立高校入試をはじめ、同じ国立大附属の筑波大付属高校、あるいは大学入学共通テストの要項やホームページには、新型コロナに向けた試験当日および試験日前までの対応指針が細かく記載されているのとは対照的です。
2020年10月付の附高応募要項には、以下の一文の記載があるのみです。
注意事項
⑥新型コロナウイルス感染症への対応のため検査場が上記と異なることがあります。その場合は別途お知らせいたしますので、検査場については十分にご注意ください。
そして、緊急事態宣言が発令されることが予告された2021年1月4日には、以下の文章がホームページ上に追加されました。
今年度の学力検査は、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、特段の注意が必要となっています。
学力検査当日、受験生への感染予防のため、できる限り密な環境を避け、速やかに受験生が検査会場への入室が出来るよう、正門周辺における塾等の皆様による受験当日朝の応援については、お控えいただきますようお願い申し上げます。
なお、受験生以外は、本校の敷地には入れませんので、ご了承ください。受験生が少しでも感染の不安なく、学力検査において日頃の実力を発揮できますように、皆様のご理解・ご協力を心よりお願い申し上げます。
これを見ても、受験生本人に対する健康状態への対応などは記載されていませんので、試験当日に高い発熱や強い咳込みの症状があっても受験は可能ということになるのでしょうか。
1都3県に緊急事態宣言が発令された1月7日には、上記の運用指針で附属中学生徒の内部試験が実施されていますから、特に問題はないのかもしれませんし、もしかすると私自身が情報を見落としているだけかもしれません。その場合はご指摘ください。
入学確約書の継続
最後に、昨年までと制度変更がないことで懸念されるのは、「入学確約書」の提出が継続されることです。
一般入試の入学確約書は、入学辞退への法的拘束力を持たない点が一般的解釈とされているようですが、それでも同校を第二志望とする受験生からすると、すっきりしない気持ちの悪い状況が続きます。
今回の文章を書くにあたって状況をネットに当たったところ、入学確約書を提出して辞退した生徒の出身中学校に対し、学芸大附属高校から指導の連絡が入ったとか、中学によっては、第一志望でないと同校を受けてはいけないという指導や、入学確約書を提出したら絶対辞退してはいけないという指導を行っているという情報も散見されます。
そうした対応が事実かどうか分かりませんが、たとえフェイクであったとしても、そのような情報が発信され続けるのは同校としても本意でないことは確かだと思います。
ただでさえ入学枠の少ない都内進学校の受験枠に対し、第一志望でも第二志望でも、気持ちよく門戸を開放する姿勢が、逆に学校の評価を高め、むしろ第一志望の生徒が増える結果につながるということに早く気づけばよいのにと思います。
2021年度学芸大附属高校の入試はどのような状況になるのでしょうか。
本年度の受験生はただでさえ気苦労やストレスが大きいと思います。入試選抜だけでなく、コロナへの対応も合わせて、入試が滞りなく終了すればよいなと思います。
ではまた次回。
入学確約書を客観的に評価する
変わる附高
曖昧な国立附属の内申点取扱い