学芸大附属繰上げ合格と日比谷二次募集

 日比谷入試速報の中で懸念をお伝えした、2021年度の日比谷高校二次募集発生の可能性について、ないとは思いつつも、数日たった現在も自分の中で完全には否定しきれない気持ち悪さが残っています。

実は二次募集が実際に発生した2019年入試の際にも、ある種の危機感を事前に感じてはいたのですが、記事にして発信するには突拍子もない考えのように思い、警告を発することはしませんでした。

コロナによる入試対応の負担が大きい中、数名の欠員のために二次募集を実施するのは、学校にとっても受験生にとっても避けるべき事態であることに違いありません。

そこで今回は、事態の発生を避けるべく、その要因を理解するために、学芸大附属高校入試と日比谷高校二次募集発生の関係性について考えてみます。

学芸大附属高校から見た要因

 まずは2019年度の日比谷二次募集発生の起点とされる、2019年前後の学芸大附属高校入試状況について確認します。

東京学芸大附属高校一般入試実施状況

都内学力上位層の中で、日比谷と学芸大附属を両方受験する生徒が相当数存在するという前提に立つと、この一覧から2019年度に日比谷二次募集が発生した一因を客観的に指摘することができます。以下のような内容です。

  • 2017年以降入学辞退者が増加
  • 2019年度から入学手続きを都立合格発表前に実施
  • 2019年度の正規合格者数の極端な抑制

辞退者の増加は、一覧からは直接的には確認できませんが、2017年度に入学者が定員割れした事実から確認することができます。

入学者が募集人員に達しなかったということは、2017年度は少なくとも合格余剰数の73人を超える入学辞退者が発生したということになります。同じ条件で辞退者が68人以下となった2016年と比較すると明確に辞退者の増加が確認できます。

そしてその結果、翌年2018年度の正規合格者は募集人員の3倍以上、合格余剰数を238人も出す結果となりました。この事実から推察すると、2017年度は入試要項には記載のない繰上げ合格を行ったにも関わらず、定員が確保できなかったことが伺えます。

何故ならば、そのような苦い実体験がない状況で、いきなり前年の3倍以上もの正規合格者を出すという考えには普通は到底至らないからです。

そう考えると、2017年度の繰上げを含む辞退者は、200人近い規模にも達するような数だったのかもしれません。

そして2020年度も、繰り上げ合格者が発生したという情報がある以上、少なくとも合格余剰数の94人を上回る辞退者が発生しているということになります。

要するに直近の学芸大附属の入試では、正規合格者の余剰人数は238人、充足率が定員の3.25倍では多すぎるものの、94人、定員の1.89倍ではまだ少ないということになります。

正規合格者を絞った2021年度

 ここで改めて先の一覧を眺めてみると、2021年度の正規合格余剰人員は101人となり、2020年度の94人を上回る数字です。

ただ、個人的にはこの数にやや不安を感じています。

何故ならば、2021年度の学芸大附属の募集人員が「120人程度」まで増加しているからです。

仮に定員が120人だった場合、合格余剰数の101人は、充足率でみると1.84倍となり、昨年の1.89倍を下回ります。前年の充足率を維持する場合でも、120x1.89-120=107人の余剰合格数を確保する必要があり、それでも繰り上げが発生する状況が考えられるため、本来はもう少し上乗せするのが妥当と感じます。

学校側が、単純に定員を20人増加するので合格者も20人増加したという発想であれば、さらに不安は募ります。

定員の増加に対し、合格者がどのような反応を示すのか未だ見えない状況の中、少なくとも直近の入試が不安定な状況を考えると、安心できる対応とは考えにくいです。

それにしても同校は、2017年度入試以降、5年経つ現在もまだ、一度も2年続けて同じ入試要項での運用が実現できておらず、なかなか落ち着かない状況が続いています。

日比谷高校から見た二次募集要因

 日比谷高校の二次募集発生の要因について、日比谷側に原因がないかというと、決してそんなことはありません。その点は以下の数字を確認することで理解できます。

日比谷高校一般入試実施状況

理由は定かではありませんが、2019年度の日比谷高校一般入試の合格余剰数は16人となり、例年と比較して僅かですが少なくなっているからです。

この年の入学辞退者が直近と比較して数名多くなっている理由は、学芸大附属の正規合格数が絞られた結果、同校への合格が叶わなかった学芸大第一志望の受験生の内、日比谷高校に合格した受験生が例年よりも増加し、最終的にそうした生徒の元にも繰り上げ合格の通知が届いたことが直接的な要因と考えます。

日比谷の合格余剰数が減少し、入学辞退者は増加した結果、募集人員に達せず欠員が発生することとなったのです。

辞退者が増加したのは先に述べた通り学芸大附属側の運用が要因だと考えられますが、日比谷の合格数が減少した理由は分かりません。この年はたまたま、合格点を1点上げると、合格者数が多くなりすぎるという状況があったのかもしれません。

いずれにしても、仮にこの年の合格余剰数があと5人、21人以上であったなら、二次募集リスクは認識されないままに過ぎ去ったということになります。あるいは学芸大附属の正規合格が実態に合う適切な数であったなら、初めから第一志望の受験生が納まるべきところに納まり、相互に辞退を促すような玉突きは発生しなかったかもしれません。

要するに、その程度の僅かな違いが、二次募集という重大な結果となって現れるということです。

今年気持ちが落ち着かないのは、そうした状況への懸念が拭いきれないからです。

2021年度については、合格数が昨年と同数だと仮定した場合、入学辞退者が2019年度と同じ21人以下に留まれば、日比谷の二次募集は顕在化しないということになります。

そうであれば逆に、日比谷高校は合格余剰数をもう少し多めに設定することで、自ら二次募集リスクを軽減させることができるはずですが、同校の入試説明会の担当教官の話では、都立高校の合格数は学校側の裁量で自由に決められないのだそうです。

従って、現在の入試運用ルールによる状況次第では、2019年度のような事態がいつ発生してもおかしくはない、微妙なバランスの上に両校の入試運用があるのだと思います。

学芸大附属/日比谷の相関関係

 さて、その微妙なバランスを見える化するために、双方の受験者確保に影響を及ぼす数字に着目して関係性を確認してみます。

これまで見てきた通り、学芸大附属入試と日比谷入試、それぞれの定員確保に影響を与える数字は以下の通りです。

学芸大附属高校
  • 定員充足率
日比谷高校
  • 入学辞退数

学芸大附属高校の正規合格者数が少な過ぎると、日比谷高校合格者の中に、学芸大第一志望の受験生が紛れ込む割合が高まり、結果的に学芸大の繰上げによって、それらの生徒が日比谷を辞退する可能性が高まるという因果関係です。

どのような相関関係が現れるか、数字を一覧にしてみます。

学芸大附属充足率/日比谷入学辞退数一覧

そしてこの一覧をグラフ化すると、以下のような関係性が現れます。

学芸大附属充足率/日比谷入学辞退数相関図

2017年から2020年までの限られたサンプル数ですが、少なくとも、学芸大附属高校の合格充足率が低いと日比谷高校の辞退者が増え、合格充足率が高まると辞退者は減るという傾向は確認できそうです。

このグラフの結果は、想像した以上に両校の入試に相関関係があることを示しているように感じます。それだけ両校を第一志望と第二志望で受験する生徒の数が多いのだと思います。

そして今年2021年度の学芸大の募集定員は「120人程度」です。

正規合格者は既に221人と公表されていますから、この「程度」が120人に近いか130人に近いかによって、今年の充足率は変わります。

結果的に120人の場合は1.84倍、127人の場合は1.74倍となり、グラフを見る限りでは、2021年度の日比谷高校辞退者は概ね14人程度と予測されます。

この数字であれば、今年の日比谷合格者が昨年相当の場合には、合格余剰数21人となりますから、二次募集は行われないと考えられます。

ここまで来て、やっと冒頭の落ち着かなさが少し緩和された気がします。

想像の世界ではなく、にわか統計学上の結論ですが、数字の上で欠員までまだ6名ほど余裕がありそうだからです。そしてその予測が正しいことを強く願います。

何故ならば理由は何であれ、コロナの中で、入試運用上の歪の中で生じる玉突き二次募集のような無為な行いは避けなければならないからです。

そういう意味では、学芸付属高校の入試運用が、同じ入試要項に沿って継続するように、一刻も早く安定することを願ってやみません。

明日は都立高校合格発表日。

多くの受験生が、初めから第一志望の学校に納まっているよう願います。

ではまた次回。

【動画】


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