日本で最も生徒数が多い高校であるN高等学校。その数2万人以上です。
もしかすると、その多くが不登校や引きこもりのような、普通高校に通うことができない生徒なのかもしれません。
それでもN高に関しては、他の通信制高校と比較すると、学力や心身共に健常で、一般的な高校に通うことができるにもかかわらず、敢えてN高を選択している生徒の割合も比較的多いのではないかという印象があります。
実はわが家も次男の高校受験の際に、実際にN高のリアルキャンパス説明会に参加し、通学を前提に、家から通える大小複数のキャンパス見学も行いました。
志望校に不合格となった場合の押さえとして、真剣に検討していたからです。
今回は、これから高校受験を迎える生徒や保護者の方に向け、N高等学校の仕組みを直感的に理解するための情報を簡潔にお伝えしたいと思います。
N高通学コースとは何か?
N高が通信制高校だということは概ね理解した上で、最近は「通学コース」なるものが大きく宣伝されているため、一般的な通学制高校と何が違うのか戸惑う生徒や保護者も増えているのではないかと思います。
実は両者は全く異なる学校形態なのですが、その点を理解せずにN高に進学して後悔するということが生じやすい状況が醸成されつつあるのではないかと、今の状況に対して一保護者としては少し懸念しています。
N高進学をより健全に検討するために、その点も含めて、ここではN高を調べる際に必ず疑問に思うであろう以下の点についてお伝えします。
- N高とS高は何が違うか?
- N高と他の通信制高校は何が違うか?
- N高通学コースと一般的高校は何が違うか?
- ネットコース、通学コース、オンライン通学コースは何が違うか?
N高とS高の違い
N高のホームページを5分読んでみても、N高とS高の違いを理解することは正直なかなか難しいです。検討する側が知りたい情報が記載されていないからです。
誤解を恐れずに個人的理解をお伝えすると、N高とS高は同じです。
ただ直感的理解を促すために、両者の違いは、修学旅行の行き先が、
- N高 ⇒ 沖縄県うるま市
- S高 ⇒ 茨城県つくば市
と理解すれば十分でしょう。
在学中に1度訪問する、あるいは1度しか訪問しない校舎をどの場所に登録するか、それがN高とS高選びの基準です。
行きたい場所で選ぶのか、あるいは金銭的負担で選ぶのか、いずれにしても実際に訪問する以外は、どちらに所属するかを意識することはないと思います。
尚、S高はN高スタート後に遅れて開講しています。
S高追加設立の理由は、国が定める通信制学校の上限生徒数の2万人を越えるため、というのが大人の事情になります。
ですので、今後生徒数が4万人を越える状況が見えた際には、E高かW高か名称は分かりませんが、3校目が登場することになるはずです。
N高と他通信制高校の違い
ではN高と他の通信制高校は何が違うのでしょうか?
誤解を恐れずに個人的理解をお伝えすると、N高とその他は、通信制高校という学校部分は同じです。
通信制高校は、文科省が定める以下のような法律に基づき設置されています。
- 学校教育法
(昭和22年3月31日法律第26号) - 学校教育法施行令
(昭和28年10月31日政令第340号) - 学校教育法施行規則
(昭和22年5月23日文部省令第11号) - 高等学校通信教育規程
(昭和37年9月1日文部省令第32号) - 高等学校の定時制教育及び通信教育振興法
(昭和28年8月18日法律第238号)
こうした法の下に定められた学校ですので、通信制高校としてはどの学校でも必要単位や卒業資格要件などは同じになります。
ただ各学校によって、その通信制学校部分以外のオプションやサービス、ブランディングやプロモーションに違いがあると理解すればよいと思います。
N高であれば、リアルプログラミングコースを用意したり、花形企業や有名講師が登場する講座を提供したり、学校以外のコンテンツ開発やマーケティング能力が他校と比較して圧倒的に高く、その結果、一人勝ちのような状況になっているのだと思います。
N高通学コースと一般高校の違い
N高を検討する方が、最も誤解しやすいのがこの部分かもしれません。
「N高通学コース」であれば、一般的な通学制高校と同じなのではないか?と考えてしまうかもしれません。誤認が生じやすいネーミングと感じます。
批判を恐れずに個人的見解をお伝えすると、N高通学コースは、「高校生の幼稚園」です。あるいは「高校生のためのカルチャースクール」という方がイメージしやすいかもしれません。
通信制高校で高校卒業資格を得るためには、それほどの時間を要しません。卒業単位を得るためだけであれば、日々1,2時間も学習すれば十分でしょう。
このため、高校3年間を通じて時間が大量に余るのです。
一般的な通学高校は、授業以外にも、通学時間をはじめ、ホームルームや部活動、様々な学校行事など、高校卒業単位を取得する以外の活動時間が多く盛り込まれています。
逆に、高校卒業単位取得には直接関係ない大盛りの時間こそが、青春の謳歌や対人コミュニケーション能力の向上、人格形成に寄与する思春期にとって大切な時間となるわけですが、単なる通信制ではその授業以外の活動部分が全く見込まれません。
コロナ禍のオンライン授業を思えば容易に想像できる事ですが、一般健常体の生徒が通信制高校に通った場合には、在宅時間が圧倒的に長くなるため、本人も親も家庭内でウンザリしてしまうことになりかねません。
こうした状況を保護者目線で見ると、在宅で時間をもて余す子供を預かってくれる施設、それがN高の通学コースです。”幼稚園”という表現は、何もN高を揶揄した言葉ではなく、修学カリキュラム以外の目的で子を預かりコンテンツを提供する場という意味を前向きに込めた表現です。
逆に生徒の側から見ると、スポーツや芸能、芸術など、自分が優先的に取り組むべき中心活動が先にあり、少ない時間の中で高校卒業資格を取得する場合を除き、有り余る時間を持て余すよりは、外に出て同世代の若者とゆるやかな接点を持ちながら、仲間と過ごしたり個人のスキルアップを促すリアルな活動機会を提供してくれるのが、通学コースということになります。
通学コースで提供されるコンテンツは、高校卒業資格を取るために必須の授業ではない反面、時間を充たすための活動の場、そいう言う意味でN高の通学コースはカルチャーセンター的ということになります。
N高、学びの3つの基本形態
一口にN高とは言っても、2023年2月現在では3形態4種類のコースが存在するため、どのコースを選択するか、出願時に決定する必要があります。
- ネットコース
- オンライン通学コース
- 通学コース
(通学プログラミングコース)
これらのコースは、その名称から受ける印象と実際の内容との間に乖離が生じる可能性があるため注意が必要です。
特に誤認しやすいのは、「オンライン通学コース」です。
「通学」という呼称を冠したコースですが、実際には「リアル教室への通学」を前提とするコースではありません。あくまでオンライン上で、ホームルームにアクセスするという意味での通学コースとなります。
そしてどのコースでも共通ですが、通信制高校としての授業はオンライン授業に限られます。
高校卒業単位取得のための授業はオンライン講座で受講し、それ以外の時間の使い方について、自宅でオンラインコンテンツの視聴とするのか、あるいはリアル教室へ通学して、その教室で提供されるリアル講座に参加するのかの違いとなります。
通学プログラミングコースは、特に昨今需要の高いプログラミングに特化した学びの場の提供となります。ただし、2023年2月現在、サービス提供は東西それぞれの大規模教室となる代々木キャンパスと梅田キャンパスのみでの開校となります。
そして実際の通学コースの場合でも、リアル教室に通う頻度に応じて、週1日、3日、5日の3段階の設定がされています。
それにしてもN高等学校は、生徒の平均年間授業料が35万円と見積もっても、毎年少なくとも70億円以上の授業料収入がありますから、学校としてではなく装置産業あるいは会費産業としてみても、潤沢な活動資金に支えられていることになります。
現在リアル教室を次々と拡大している背景には、そうした潤沢な資金事情があるのだと思います。
通学コース選択の理由
次男の万一の押さえとして考えたのは、週3日の通学コースです。
私立のいわゆる併願優遇校ではなく、敢えてN高を優先進学先として考えた理由は、次男にとっての高校3年間は、青春の謳歌や大学入試に向けた準備期間ではなく、将来の研究に向けた最初の一歩との認識が強いためです。
大学受験に向けたリベンジを誓い、併願優遇校で受験マシーンのようにひたすら大学受験を意識した高校生活を送るよりは、卒業単位取得のための授業は最小限にして、空いた時間で自らが望む学びの追求に時間と労力を投入する方が、次男本人が望む状況にあったからです。
N高は、通学コース選択の場合は出願時に面接と簡単な筆記試験は一応あるものの、普通の理解力のある生徒であれば特に不合格となる事はないようですし、早ければ11月中旬から順次合格が決定しますので、最終的な押さえとすることは可能です。
わが家の場合は都立推薦で合格を得たため実際には出願しませんでしたが、N高を都立や国立高校の一般入試の併願として活用するためには、入試前の事前準備が必要になるため注意が必要です。
セーフネットとは異なるN高
一般入試の併願先としてN高を検討する場合は、東京都内であれば都立や国立附属一般入試前に予め出願しておく必要があります。
N高の4月入学願書の最終締切は、令和5年2023年度であれば2月14日であり、国立附属や都立高校一般入試の合格発表前に終了します。
志望校の不合格が確定した後で駆け込み寺的に助けを求めても、4月新学期からのN高入学は閉ざされた状態にあります。
また、リアル教室への通学を前提とする通学コースを希望する場合には、各教室の受入れ生徒数の上限を意識する必要があります。
例年12月年末頃から徐々に満席となる教室が出始め、年明けの出願時期によっては、希望する通学キャンパスの空きが無くなってしまうリスクが少なからずあるからです。
つまりN高は、志望校に不合格だった後に仕方なく選択する学校ではなく、専願であっても併願であっても、予め計画的に準備し、出願すべき高校だということです。
N高での学び
高校3年間を通じて、学校の勉強以外に取り組みたい具体的な活動目標がはっきりしている生徒にとっては、N高は主たる活動時間を邪魔されることのない、効果的な学び舎であるかもしれません。
そうでない場合、まだまだ大部分の中学生にとってはそうだと思いますが、N高のプロモーションから受けるキラキラした印象とは異なり、実際には通信制高校であるということが入学後に理解され、後悔の気持ちが現れるかもしれません。
変わりゆく世界と日本社会の中で、これからの学び舎にに何を期待し望むのか、実際に入学するかどうかは生徒本人やご家庭の考え方次第。
大切な高校3年間をどのように過ごすのか、N高に限らずその進学目的と進学理由が何であるのか、志望校受験を前によくよく考えてみる必要がありそうです。
ではまた次回。