日比谷高校を志す君に贈る父の言葉

日比谷高校第一志望ながら、日比谷、開成、塾高のどこに入学すべきか、都立合格発表まで悩んだ父親が贈る、上をめざす君と家族を応援する徒然日記

東京医大だけではない。女子中学生の入学を阻む、中高一貫校の壁

2018年8月17日更新:

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メテオラ修道院/写真出典:トラベルザウルスドットコム ホームページ

 もし君が学力上位の女子中学生で、親の転勤で東京に引っ越した場合、きっとこう思うはず。

「東京には、どうして女子中学生を受け入れる上位高校が少ないんだろう?」と。

そう、都内に住み、高校受験を志す学力の高い女子中学生を持つ保護者の共通の悩みは、娘の学力に見合った入学可能な高校が本当に少ないこと。

東京医大の採点基準で女子学生が個別に受けた入学制限という扱いを、中高一貫校という大きな括りで、都内の女子中学生は社会的、集団的に受け続けているということ。

試験さえ実施してくれれば合格する能力はあるはずなのに、試験さえ受けさせてもらえずに門前払いされている多くの中学生

中高一貫校なのだから高校受験を行わなくてもよい、と当然視される風潮の中で、世間一般にはあまり認識されていない事実です。

実は女子に限らず、東京で高校受験を目指す中学生とその保護者は、多かれ少なかれ同じ気持ちでいるはずです。特に、中学受験を自ら回避したのではなく、受験期を過ぎた後に都内に転入した家庭にとっては、その思いが強いはず。 

高等学校であるにもかかわらず、高校から入学できない理不尽さ。

これは貧乏人の遠吠えという種類の意識ではなく、同じ立場であれば、年収の高低とは関係なく生じる状況です。

今回は、共学校における男女定員数や別枠試験の是非を問う以前に、都内で高校受験を目指す学力の高い女子中学生が受ける進学時の悩みについて考えたいと思います。

 

高校生徒非募集校の実態

 都内には、女子御三家をはじめ全国的に有名な女子高や共学校がごまんとありますが、上位校の多くには高校入学枠がありません。

平成30年度現在、高校入試枠のない完全中高一貫校は、東京都教育員会のホームページによると以下の通り48校あります。圧倒的に女子高が多い状況がうかがえます。

男子校 11校

暁星、麻布、芝、高輪、海城、早稲田、獨協、攻玉社、駒場東邦、東京都市大学付属、武蔵


女子校 34校

大妻、共立女子、女子学院、白百合学園、雙葉、三輪田学園、日本橋女学館、頌栄女子学院、聖心女子学院、東洋英和女学院、普連土学園、山脇学園、学習院女子、跡見学園、桜蔭、香蘭女学校、品川女子学院、鷗友学園女子、恵泉女学園、昭和女子大学附属昭和、聖ドミニコ学園、田園調布学園、田園調布雙葉、目黒星美学園、実践女子学園、東京女学館、大妻中野、光塩女子学院、立教女学院、女子聖学院、富士見、吉祥女子、晃華学園、大妻多摩


男女校 3校

三田国際学園、渋谷教育学園渋谷、穎明館


この結果、都内に住む高偏差値の女子にとって、望むべき高校入学枠は極端に少なくなります。

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出典:リセマム2017偏差値ランキング

上位学力高校を目指す女子中学生にとって、首都圏の状況は上記の通り。

上位と呼べる学校は、上の一覧から見ると都内6校。通うつもりがあれば、千葉、埼玉にも選択肢はいくつかありますが、中学受験時の選択範囲とは大きく異なります。

都内高偏差値女子入学枠

       一般   推薦   帰国枠

慶應女子    80  20  若干

早稲田実業   40 男女60 男女10以内

お茶の水女子 約60  -   -

学芸大附属  約53  -  男女15

豊島岡女子   45  40  5+若干名


男女共同枠を半分にして上記の入学定員を全部足すと、385+若干名となります。

中学入試の女子御三家の募集人員が三校だけで575名あることを考えると、女子中学生が受験可能な上位高校の入学枠が少ない状況が理解できます。しかも各校とも、中学からの内部進学が半数以上を占める状況です。

学力の高い女子生徒だからこそ、この状況は面白いものではないでしょう。多くの学校から門前払いされている上に、受験可能な学校は、どこも入学後にはマイナー扱いと感じるような人数構成なのですから。

実際には女子中学生だけでなく、男子中学生も含めてこうした状況に置かれているという現実があります。

 

高校入試排除の法的根拠は?

 個人的には、高校入学枠を設けるかどうかは、それぞれの学校の事情で決定すればよいと思います。

ただ同時に、釈然としない気持ちが付きまとうのも確かです。

学校経営者は、学校法人であることにより税制その他の恩恵や、国や地方公共団体からの潤沢な補助金を享受しているのですから、当然公共の利益に適うべきであると考えます。国立や公立の学校であれば、それは尚更のことです。

ですから当然私立も公立も、法的根拠に準拠する学校運営を行わなければなりません。そしてこの点が、釈然としない気持ちの中心にあるように思います。  

日本国憲法第14条1項

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

日本国憲法第26条1項

すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

高校入学枠のない完全中高一貫校は、個人的にはこの憲法26条の基本理念に反しているように感じてしまいます。「その能力」を確かめることなく入学を排除している状況がそこにあるのではないか、との解釈です。

そして憲法14条と26条の基本理念をそのまま受ける形で、教育基本法は、

教育基本法第4条1項(教育の機会均等)

すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

教育基本法にも、「その能力」に応じた教育を受ける権利があると書かれています。

高校は、中学とは異なる学校なのだから、その学校で学ぶことを希望するすべての中学生に対して、その能力が備わっているかどうか確かめる機会が与えられるべき。

憲法と教育基本法の条文からは、憲法や教育関連法案制定当時の人々の、そんな思いが伝わるように思います。

では一体、文部科学省や教育委員会は、何を根拠に中高一貫校での高校入学枠の排除を認めているのでしょう?

 

中高一貫教育制度の導入

 高校受験枠のない公立の中高一貫校の導入は、当時文部省の次の通知まで遡ります。

文初高第475号 平成10年6月26日

中高一貫教育制度の導入に係る学校教育法等の一部改正について(通知)

この通知では、第142回国会において「学校教育法等の一部を改正する法律」が成立し、平成10年6月12日付けをもって、法律第101号として公布され、 平成11年4月1日から施行されることが謳われています。

これにより、現行の義務教育制度を前提としつつ、中学校と高等学校の制度に加えて、学校教育法上、新たな学校種として中等教育学校を創設するとともに、 同一の設置者が設置する中学校及び高等学校において中高一貫教育が可能となったのです。

私立などでは、それまでも中高一貫教育が実施されていましたが、これを機に政府が公に中高一貫教育を認めることになります。

 

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出典:文部科学省資料(赤線はmommapapa)

法律の改正により、それまでなかった『中等教育学校』の設置が認められます。

中等教育学校は、上記通知で改訂が示された学校教育法 第63条~69条、および学校教育法施行規則 第105条~110条に規定されています。

これは上の図のように、従来の中学と高校が、6年制の一つの学校として存在するものです。一つの学校であるわけですから、途中の入学試験という概念自体が存在しないという建付けになります。

具体的には都立の中高一貫校である、小石川や桜修館、千代田区立の九段などが挙げられます。

これに対し、その他の形態の中高一貫校は、あくまでも、従来通り中学校と高等学校が独立して存在することに変わりがありません。

そして実のところ、先に掲げた高校入試を実施していない私立の中高一貫校の内、中等教育学校は一校もありません。

 

高校入試排除の法的妥当性はない

 中等教育学校は一つの学校であるのだから、途中の入学試験という概念自体が存在しない、という建付けの趣旨は論理的には理解できます。 

しかし個人的な感覚としては、そもそも義務教育である中学校と任意教育である高等学校を一つの学校として統合することには多少の違和感があります。義務教育期間である小学校と中学校を統合した、品川区のような小中一貫教育学校であれば腑に落ちるのとは対照的です。

冒頭に掲げた憲法第26条および教育基本法第4条の基本理念に照らし合わせた場合、義務教育期間の終了である中学校を卒業した者に対し、門戸を開かない教育機関があることには、やはり釈然としない感情が残ります。高校が義務教育であれば話は別ですが、これはまた別の議論になるのでここでは触れません。

ですから平成10年6月に改訂された学校教育法は、上位概念となる憲法および教育基本法の理念に反して制定されたものであるように思います。従って、中等教育学校の存在は、限りなく憲法違反に近い存在ではないかと感じます。限りなく黒に近いグレー。

中等教育学校であっても、高校入試を排除する法的根拠としては、危ういものがあるように思います。

 

私立一貫校の高校枠排除はアウト

 翻って私立の中高一貫校の場合は、高校入試を実施しないのは、もう完全にアウトではないかと思います。

そもそも憲法の理念に反して、それを認める法律自体が存在しないからです。

先に見た「中高一貫教育校の種類」の概念図で、「併設型の中学校・高等学校」は、『高等学校入学者選抜を行わずに、同一の設置者による中学校と高等学校を接続する』とあります。

これはあくまで、併設する中学校に在籍する学生に対して、無試験で該当する高校に入学させることを認めただけであって、高校入試を実施しないことを認めた条文ではありません。

併設型中学高校は、学校教育法 第71条および学校教育法施行規則 第114条~117条に規定されています。そこには、

学校教育法 第71条

同一の設置者が設置する中学校及び高等学校においては、文部科学大臣の定めるところにより、中等教育学校に準じて、中学校における教育と高等学校における教育を一貫して施すことができる。

学校教育法施行規則 第116条

第90条第1項の規定にかかわらず、併設型高等学校においては、当該高等学校に係る併設型中校の生徒については入学者の選抜は行わないものとする。

学校教育法第71条は、中等教育校以外のいわゆる中高一貫校において一貫教育を行う根拠となっていますが、中学と高校が独立していることに変わりはありません。

施行規則第116条でいう第90条1項とは、高等学校の学力検査の実施について定めた条文です。併設中学の生徒が高校へスライド入学できる根拠をを示してはいますが、やはり高校入試の排除を認めたものではありません。

つまり、中等教育学校以外の高等学校において、入学試験をしなくてもよい事を規定した法的文書自体がないということになります。これは、憲法および教育基本法の基本理念が上位に控えている以上は当然のことだと思います。

従って、多くの中高一貫校が高校入試枠を設けていない状況は、私の調べた範囲では、憲法や法律が定める「教育機会の均等」に完全に反していることなります。

いつの間にかこっこりと、さも当然であるかのように、多くの中学生の『その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利』を侵害しているのではないか。そんな疑念が浮かびます。

それでも、国や自治体の補助金を全く受け取っていないのであれば、心情的に納得する余地はあるように思いますが、

「公的資金はしっかり受け取ります。でも法律は守りません。」

では、少し都合が良すぎるのではないかと感じます。

 

中学生の静かな怒りと福音

 以上のことから、東京で高校受験を目指す中学生とその保護者の方は、高校入試を行わない中高一貫校に対しては、本来持つべき学ぶ権利を侵害する行為として堂々と非難してもよいと思います。

もちろんそうしないのは分かっています。

怒る代わりに現在の中学生たちは、合格後に入学を辞退するという行動によって、その怒りを静かに表現しています。せっかく高校入試を行っている学校が気の毒な気もしますが、そこは結果的に、外部中学生を第一に扱うことのない中高一貫校全体に対する態度の表明ということなのだと思います。

そして、そうした中学生の受け皿となるのは都立高校です。

都立高校は、定員すべてが高校スタート。

大人や学校側の都合ではなく、高校受験を選択する自分のために用意された学校だと実感することができるのではないでしょうか。憲法で保障された、教育機会の均等を最大限享受できる学校です。

中学受験の頭しかない方からすると、中学受験で全国的に有名な学校を辞して都立高校に進む学生が存在することは理解しにくいかもしれません。そうした状況に対しては、お金がないからとか、既存集団の中に入っていく勇気がないというような一方的な決めつけで語られることが多いように思います。

しかしながら実際には、都内の高校入試に向かう学力上位の受験生から、男女を問わず都立高校が強く支持されている理由の一つは、上記のような表面的なことではなく、むしろ人間の尊厳の在り方に関わるものではないでしょうか。これまでの状況を見ればその点は、容易に想像がつくように思います。

 

東京医科大問題への報道に思う

 今回の記事の趣旨は、中高一貫教育に反対意見を述べるためのものではありません。そのような教育は、むしろあってよいと思います。歓迎します。

ただその一方で都内には、東京医科大学で入学を制限された女子学生と同じように、憲法の基本理念に反し、希望する高校から受験さえさせてもらえない中学生が多く存在する事実を、社会全体で共有してもよいのではないかと思うのです。

私はこのような釈然としない思いを、長男が高校受験に臨んだ3年前から抱いていましたが、多くは語ってきませんでした。

その理由は先に述べた通り、そのような教育があってもよいと考えるからです。

ただ今回、東京医大の問題に乗じて、都立高校や共学校における男女定員枠のあり方などを指摘する論調も散見されましたので、もっと根本的な問題である、中高一貫校における高校入試枠の状況を取り上げることにしたのです。

もし高校受験を迎えた中学生が、

「私の能力を確かめることなく入学を拒否するのは憲法26条に違反します。貴校に入学するべき能力が備わっているか否か、確認してください」

と宣言し、高校受験枠のない学校を訴えた場合、裁判所はどう判断するのだろう?

それ以前に、名指しされた当の学校自身は、どのように答えるのだろう?

私自身は法律に精通した立場ではありませんから、今回掲げた条文以外にも高校入試枠の排除を定めた直接的な条文や、もしかすると、既に同様の争点を論じた過去の法的解釈があるかもしれません。

ただし、国や文部科学省や教育委員会がどのような法律や条令や通達を定めたとしても、義務教育を修了した者に対して、その能力を確かめることすらせずに入学を拒む高等学校の現在の状況は、やはり憲法の基本理念に反しているのではないかという気持ちは消えません。

中高一貫校にはカトリック系の高校も多くあるのですから、特定の人々の権利を守ろうとするのではなく、マザーテレサのような無償の愛で、門地を問わず、もっと多くの中学生の能力を確かめる機会を与えてくれればよいのにと思います。


最後に、今回の報道で面白いと感じることは、女性差別や共学校の男女定員等への批判的な論調とは対照的に、男子校および女子高そのものの存在の是非を問う批判や論調がほとんど見当たらないことです。

この理由は、現在社会の要職や言論の一線に立つような、識者と呼ばれる人々の多くが、男子高あるいは女子高の出身者であるという事実と無関係ではないように想像します。あくまで個人的な想像にすぎませんが。

今回は、書こうか書くまいか、この3年間静かに悩んだ問題について書いてみました。法的解釈などおかしな点があれば、ご指摘いただけると幸いです。素直に誤りを受け入れて、訂正文を掲載したいと思います。

ではまた次回。

一貫校が自分の殻に閉じこもる理由 

中学受験回避組の人数と実体

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