次男が多摩科学技術高校に入学して間もなく1年が過ぎようとしています。
通学保護者の目から見た多摩科技は、学校のリアルな実態がほとんど理解されていない高校の一つというのが正直な感想です。
このため今回は、多摩科学技術高校への入学を検討している中学生とその保護者の方に向け、現時点でのリアルな感想をお届けしたいと思います。
理解されていない多摩科技
まず第一に言えることは、中学校の先生も塾講師も、多摩科学技術高校についてはほとんど何も理解できていないという事実です。
これは、
- 次男の受験を通じて得たリアルな体験
- 実際に入学した後で理解できた実態
- 多摩科技についての発信に対する周辺からの反応
により客観的に理解できる点です。
実際に公立中学の進路指導の先生も担任の先生も、多摩科技がどのような学校であるかは全く認識できていません。
ですので進路指導の際に学校に尋ねても、満足のいく回答を得ることは難しいと思われます。
また塾の講師の方についても、以下のような認識の方が大半だと思います。
世間的な評価とレベルから見た生徒への受験指導という観点から考えれば、理数のみが少し他よりできる偏差値55~60未満の生徒さんが行く学校ですね。
>塾講師さんコメント
このような評価を見る度に、専門科高校を理解していないのだなとつくづく感じます。
普通科高校ではない多摩科技
まず第一に、多摩科学技術高校は”普通科高校ではない”ので、
「理数のみが少し他よりできる偏差値55~60未満の生徒さん」
にはむしろ向いていない学校だということが言えるでしょう。
この点を理解できていないと、入学後に大後悔する生徒が量産される可能性が高まるのではないかと感じます。
そう感じる理由は、多摩科技の特殊な授業カリキュラムにあります。
多摩科学技術高校では1年次より、科学工業系の授業単位が必須となっているため、漠然と理系大学への進学を希望する生徒にとっては、むしろ鬱陶しい授業体系となる可能性があります。
1年次科学技術
- 工業技術基礎
- 工業情報数理
- 科学技術と人間
2年次科学技術
- 課題研究
- 科学技術実習
- 概論A
3年次科学技術
- 卒業研究
- 概論BT/概論ET//概論IT/概論NT
1年次は全員共通の科学技術の基礎科目が、2年次以降は4分野の中から希望した専門分野のカリキュラム単位を受講することが求められます。
しかも卒業研究はSSHと連動して必須となっており、日比谷高校や戸山高校など普通科高校のSSHカリキュラムでは希望する生徒のみが取り組む本格的な研究課題を、多摩科技高校では卒業要件として全員が取り組むことが求められます。
つまり、漠然と将来理系大学に進学したい、理系科目の方が文系科目より得意だという程度の意識の生徒が入学した場合、大学入試に直接帰依しない専門課程の履修に相当な時間が取られるため、後悔が生じやすいのではないかということです。
その様な生徒は普通科進学校に入学し、高校3年間を通じて進みたい専門分野を見極めるのが合理的と判断されます。
カリキュラムの詳細は、以下の学校HPで公開されています。
教育目標・カリキュラム | 東京都立多摩科学技術高等学校 | 東京都立学校 (metro.ed.jp)
多摩科技の良さ|専門科目
高校受験の段階で漠然と理系を志す中学生については、素直に普通科進学校に入学し、大学から専門課程に進むのがベターと思います。
ただし、高校から積極的に専門課程を勉強したいという生徒や、それ以外にも、中学の延長線上のような普通科の授業を受けるのが退屈だと感じる生徒にも、多摩科技はお勧めできる学校だと感じています。
その理由は先の専門課程のカリキュラムにあります。
1年生の12月に、2年次からの専門課程に対する希望を学校に提出するのですが、進路を選択する際に次男から相談を受けました。
何の情報も持たない私がまず初めに行ったのは、HPに公開されている先の学校カリキュラムを確認することでした。
まずは専門4分野のカリキュラム全部に目を通してみました。
その際に理解したことは以下の通りです。
専門4分野を漢字で記載すると以下の通りとなります。
- BT(バイオ)=生物系
- ET(エコ)=化学系
- NT(ナノ)=材料系
- IT =情報系
またこの専門4分野をグルーピングすると、以下の括りに分けられると理解しました。
- BT/ET/NT(科学専門系)
- IT(情報専門系)
BT、ET、NTの3分野は、生物、化学、物理など、それぞれがリアル系の学問分野を履修するのに対し、ITはそれ自体が一般用語として定着している通り情報技術系となります。
ITが他の3分野と決定的に異なる点は、実験などリアルな物質を扱うことがなく、全てPC上で処理される分野であると同時に、将来どの分野に進む場合でも、日常的に必ず関わることが求められる分野であるという点です。
リアル系3分野がそれぞれ特定専門分野を追求するのに対し、IT系は、これからの社会で生きるために身に着けるべき基礎教養を、高校で教えてくれるのだと理解しました。
ですので次男には、どうしてもやりたい専門分野がないのであれば、ITを選択するのが合理的だというアドバイスをしました。
もしかするとIT分野については、高校入学の時点で既にハッカー的に高度な知識を身に着けた生徒が存在する可能性もありますが、あくまで都立高校の授業であることを考えると、選択に際し、特に気後れする必要もないだろうと判断しています。
IT分野の専門カリキュラム
次男が最終的にどの分野を選択したかは別にして、個人的には多摩科技のIT分野のカリキュラムには、特に3年時の内容中心に非常に興味があります。
具体的には以下の通りです。
2年次科学技術実習(IT)
1学期
- HTML
- データベース
- SQL
- 電気磁気
2、3学期
- プログラミング
- Python
- OpenCV
- ラズベリーパイ
- Arduino
3年次科学技術概論(IT)
1学期
- システム開発
- システムのモデル化
- ヒューマンインターフェイス
- プロジェクトマネジメント
- ITサービスマネジメント
2学期
- システム監査
- 企業活動と経営組織
- 業績分析と業務計画
- 会計と財務
3学期
- 知的財産権、セキュリティ関連法規
- 労働関連法規、国際標準、国内標準
- 経営戦略マネジメント
- マーケティング
- 技術戦略マネジメント
- ビジネスインダストリ
- プログラミング①~④
これら一連のカリキュラムを見る限り、多摩科技のIT分野は単なる労働者としてのIT技術者の育成ではなく、将来的な理系プロジェクトマネージャーや経営者の育成を主眼に置いた、意欲的な構成になっていると判断されます。
3年生のIT概論は、あくまで高校で学ぶ程度の概論であることは承知の上で、私自身も受講してみたいと感じる内容であり、学校や教師の意気込みが感じられる非常にユニークで素晴らしい構成だと感じます。
ある意味で、上場企業の社員が入社後にeラーニングなどで学ぶマネジメント体系に近いものがあり、文系理系を問わずこれからの社会人全てが身に着けるべき内容ではないかとさえ感じます。
多摩科技ユニークさの理解
今回は、多摩科学技術高校の専門授業の一部、IT分野のカリキュラムを垣間見ながら、学校の特色について考えてみました。
こうして授業内容を確認してみると、偏差値や漠然とした理系思考で選択すべき高校ではないことが理解されます。
大学受験を優先したい生徒にとっては、学校推薦枠を利用しない限りは、むしろ受験の足枷となる可能性も否定できない授業内容になっているからです。
逆に見ると、将来の専門分野を高校の段階から学びたい学生や、普通科高校の大学受験を前提とした平坦な授業を望まない生徒にとっては、学力に関わらずなかなか面白い学校ではないかと感じます。
生徒指導などリアルな面倒くささはあるものの、N高等学校などを進学先の一つとして検討するような生徒にも、多摩科技は検討に値する学校の一つでしょう。
そうした点を十分理解した上で、日比谷高校を頂点とする普通科高校の序列とは異なる世界を体験してみたい中学生にはお勧めできる学と言えるでしょう。
それが次男が1年間通った現時点での評価です。
そして最後に一つ、そのような少し特殊な学校であるが故に、普通科高校進学時に期待されるような男女の淡い青春物語的な世界をあまり望めそうにない、ということは確からしいと言えると思います。
また、進学指導重点校のような伝統も、社会的評価もありません。
そして23区から通う場合には、それなりに通学時間がかかることも事実です。次男も毎朝7時前には家を出ますが、遅刻もなく通学を嫌がるわけでもなく、毎日文句も言わずに通っていることもまた一つの事実であります。
理系を意識する中学生の皆さんの、進路選択の一助になれば幸いです。
ではまた次回。