多摩科学技術高校の偏差値ギャップ

多摩科技理系人材の育成

 次男の高校生活が始まりました。

東京都教育員会HPによると、令和5年4月1日現在、都立高校は186校存在します。

この中でも、いわゆる進学校と呼ばれる学校は、現在以下の29校となります。

  • 進学指導重点校:7校
    日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川
  • 進学指導特別推進校:7校
    小山台、駒場、新宿、町田、国分寺、国際、小松川
  • 進学指導推進校:15校
    三田、豊多摩、竹早、北園、墨田川、城東、武蔵野北、小金井北、江北、江戸川、日野台、調布北、多摩科学技術、上野、昭和

都立高校から大学受験を目指す家庭にとっては、この29校のなるべく上位校に入学することが一つの目標ではないかと思いますが、個人的にはその都立進学校を特徴別に分類すると、以下の3校に分けられるのではないかと感じます。

  • 日比谷高校|普通科・重点校
  • 国際高校|国際科・特別推進校
  • 多摩科学技術高校|科学技術科・推進校

誤解を恐れずに言ってしまうと、日比谷高校は国際と多摩科技を除く26校と、進学指導指定を受けないそれ以外の大部分を占める普通科高校を代表する普通科高校群の代表、国際高校と多摩科学技術高校は、それぞれ専門学科の代表といったところではないかと思います。

ですので、いわゆる一般入試に基づく大学進学を目指す生徒は、日比谷高校を頂点とする偏差値ピラミッドの中から志望校を選択することになります。

多摩科技の大学進学課題

 そしてこれら29校の中でも、多摩科学技術高校は特に大学進学において特殊な立ち位置にあるのではないかと感じます。

その理由は、基本的に、生徒全員が理系大学に進学する前提の学校だからです。

その偏りはあくまで生徒自身の志望ですので問題ないことなのですが、その一方で進学校という視点で観ると、その学校の特色自体が他校にはない非常に厄介な課題に突き当たることが理解できます。

その課題とは、理系入試は、文系入試よりも一般的に難易度が高いという問題です。

つまり、理系進学実績だけで他の進学校と大学合格実績を競わなければならない、というハードルの高い成果が求められるということです。

同様に特色ある国際高校の場合は、基本的に大部分の生徒が文系進学を志望すると考えられることから、私大も含めると難関校への進学はそれほどハードルが高いわけではないと考えられます。

この点が、多摩科技の進学校としての矛盾点を生み出している課題ではないかと、次男が進学を決めた当初から推測していたことです。

そしてこの点は、進学校としての様々な制度矛盾を生じることになります。

大学進学偏差値と入学偏差値

 まず最初に感じる矛盾点は、理系国公立大に進学するために必要な出口偏差値と、多摩科技に入学するために必要な入学偏差値の間に、大きな乖離が生じているる可能性が高いという点です。

高校生活が始まったばかりの次男ですが、先週次のような話を教えてくれました。

それは、学校スタート早々に、数学が得意だと言って自慢していた生徒が、実際の数学のクラス分けでは上から2番目のクラスに振り分けられたという内容です。

これを耳にした際に感じたことは、あくまで想像ですが、その生徒は公立中学の数学内申点だけは常に5であるとか、都立共通問題の数学で常に満点に近い点数を獲得していたということではないか。

そしてその結果、その生徒にとっては、自分は数学ができるという誤認識を生じさせたのではないかということです。

私の感覚では、高校入試の段階で数学が得意と言うためには、少なく見積もっても日比谷高校や慶應義塾高校の数学の問題レベルを得点源にできる程度の実力、客観的な数字で言えば、駿台中学生模試の数学偏差値が、常にを60を超えるような実力が必要と思うのですが、一般的にはそうではないようです。

理系大学進学への制度ギャップ

 この実例で伝えたいことは、国立大理系への現役合格を目標にする学校である場合、本来は戸山高校程度の理系学力を持った生徒を対象にしないとなかなか成果を出すのが難しいということです。

逆に言うと、国立理系への現役合格を目標とする場合、本来は最低でも進学指導特別推進校に指定することが望ましいはずですが、逆に重点校や特別推進校に指定してしまうと、理系進学だけではその認定基準である難関大学合格実績に達しない結果となるため、進学指導推進校指定に留める必要が生じるということです。

そして進学指導推進校に指定した場合、基本的に数学をはじめ入試科目は全て共通問題となることに加え、重点校や特別推進校ではないという事実が、学力の高い受験生を遠ざけるという結果が生じている可能性が高いということです。

勿論、普通科高校ではないという点や、立地が都心から離れているという点は生徒募集の段階でそれ自体が対象生徒を絞る学校であるということは確かですが、それ以上に、今見たような学校制度上の設計により、入口水準と出口目標の偏差値ギャップが生じやすい状況を自ら生み出している学校であることは確かだと思います。

多摩科技の入試制度設計

 個人的には、多摩科学技術高校を全国の科学技術進学校のフラッグシップとするためには、次のような施策を同時に行うのがよいのではないかと感じます。

  • 進学指導重点校または特別推進校に指定
  • 重点校および特別推進校の認定基準において、理系進学校の場合の認定緩和措置を設ける(合格数に対する割増換算を行う、または基準値を下げるなど)
  • 入試数学について、自校作成問題を課す
    (共通問題数学の評価調整では不十分)

最近の例でいうと、立川高校の創造理数科は普通科の中に設置された特殊学科であるからこそ大学進学実績のハードルを意識することがないだけで、創造理数科単独の高校を設置する場合は、多摩科技と同様の制度ギャップが生じるものと考えられます。

重点校または特別推進校指定

 進学指導重点校または特別推進校指定を行うと、当然受験生と保護者の評価は大きく変わります。それまで見向きもしなかった学力上位の生徒が、進学対象として検討することにつながるのです。

勿論、多摩科技は普通校ではなく、実験や研究活動など大学一般入試に直結しにくい学び舎である以上、他の進学校と横並びで比較選択されることは少ないはずですが、それでも進学対象として目に触れ検討されるケースは確実に増加するでしょう。

また、本当は多摩科技のような特徴ある高校に進学したいと感じても、重点校や特別推進校指定がないことや、入試難易度が低いことに対して敬遠してしまう学力層も一定数いるのではないかと感じます。

つまり、難関理系大学進学を制度ギャップなく可能とするための入り口要件として、より上位の進学校指定は必要な対策だと考えます。

指定認定基準の緩和

 仮に多摩科技が進学指導重点校に指定された場合、以下のような実績を理系のみで実現しないといけません。

  • [基準2]難関国立大学等・合格者数15人
    東大、京大、一橋大、東工大、国公立大学医学部医学科

この内、多摩科技の生徒であれば一橋大は対象外となりますから、

  • 東大、京大、東工大、国公立大学医学部医学科

のみで合格15人以上の実績を上げる必要があります。

ちなみ浪人生を含む上記大学の合格実績は以下の通りです。

  • 東大|2021:0、2020:0
  • 京大|2021:1、2020:1
  • 東工大|2021:0、2020:0
  • 国公立大学医学部医学科
       |不明だが、0と推察

つまり、過去2年間どちらも実績1ということになり、重点校の基準クリアは夢のまた夢であることが伺えます。

とはいえ、重点校の中でも多摩地区の立川高校や八王子東高校は、文系進学を含めても以下の通り例年ギリギリ、あるいは年によっては基準に達しないということも散見されるため、多摩科技が推進校指定である以上、致し方ない状況ということになります。

進学指導重点校の選定基準適合状況

進学指導重点校の選定基準適合状況

要するに、難関大理系進学を促すためには重点校や特別推進校への指定は必要な前提条件で、理系特化型の進学校に対しては、その要件を継続維持するための認定基準の緩和が必要だということです。

自校作成問題の導入

 もしかすると、多摩科技の合格者の多くの生徒は、先の次男の同級生の例にあった通り、高校受験において都立共通問題以上の入試レベルの対策を行っていないのかもしれません。

その場合、高校入学以降のスタートで、難関国公立大学理系学部の一般入試における現役合格を勝ち取ることは、かなりハードルが高いことだと感じます。

具体的に言うと、高校受験でVもぎ、Wもぎレベルの勉強を行っていた生徒が、大学受験では駿台模試レベルの偏差値を気にしないといけないということになります。

先の数学が得意と言ってはばからない生徒は、おそらくは駿台中学生模試を受けたことがないのだと思いますが、仮に受験していれば、数学の偏差値は40台前半という結果に終わったものと思います。

そうした現実は、初めて高校受験に向かう生徒や保護者の方、特に高校入試において自校作成問題が課されない学校を志望校とする場合には、なかなか認識できない事実であると思います。

正直言って、現在の多摩科技入試においては、進学指導重点校の受験生であれば、例え数学や理科があまり得意ではない、駿台模試で偏差値50台に乗せるのがやっとという受験生や、あるいは文系大学に進学する予定の生徒であっても余裕で合格することはできるでしょう。

その意味で、学校全体として出口目標に対する満足のいく実績を実現するためには、入り口の数学と理科の学力向上は欠かせない対策となります。

そもそも都立共通問題のレベルでは、中高一貫進学校の内部進学で高校に進む生徒が中学卒業時点で完了している対応進度と比較すると、大いなる後れを取っていることを認識する必要があります。

このため少なくとも数学は自校作成問題として、高校入試において中高一貫校生に追いつくための最低限の素地だけでも身につけておくことが求められます。

その上で可能であれば、共通問題である理科についても、こちらは共通問題のままであっても、現在の数学のような得点の倍率調整を行うのがよいと感じます。

その様に、少なくとも入学時点での理系科目の学力の底上げを行わなければ、学校が目標として掲げる難関大学理系学部への進学について、現実と理想とのギャップがなかなか埋まらない状態が続くのではないかと感じます。

魅力ある学校制度とするために

 もしかすると、学校側は初めからそれらを理解した上で、SSHをベースに実験や研究課題に取り組むカリキュラムを進めているのかもしれません。

大学進学においても、一般入試ではなく選抜型試験を中心に実績を上げていくことを考えているのでしょうか。

もし仮にそうであったとしても、少なくとも、学校案内に校長の言葉として掲げる、

「未来の科学技術者の基礎をつくり、世界で活躍する科学者・技術者を志す生徒を育ててる」

この言葉を言行一致で実践し、全国の科学技術科を先導する学校となるためには、それを体現する生徒を確かに集めるために、入試制度を継続的に検証、改善する試みが必要ではないかと感じます。

そしてその点は、次男が入学後早々に肌で感じたことの一つです。

多摩科学技術高校は、普通科高校ではない科学技術系の学校である点が魅力の学校であり、偏差値序列に縛られないこれからの学びのモデルの一つであることは確かです。

そのカリキュラムの魅力を最大限に活かすためにも、学校制度上の特色だけに満足することなく、世界に向けた継続的な挑戦を続けてほしいと思います。

ではまた次回。