都立武蔵高等学校附属中学校の学校見学会に参加しました。
これまで23区内の都立中高一貫校は度々訪問しましたが、多摩地区の一貫校に足を運んだのは初めての経験です。
高校募集停止・中学1クラス増設
併設型の都立一貫校で現在話題となっているのが、2022年度までに高校募集を停止し、中学入学枠を増設するという都教育委員会の方針です。
今回の見学会では、学校の計画段階と前置きしつつも、校長先生が保護者の前でその点について明確に次のように述べました。
「2021年度から高校募集を停止し、中学入学枠を1クラス増設する」
学校長が自らの口で、公に方針を語るのは初めてではないでしょうか。
現状高校募集は2クラスですが、これを廃止し、中学1クラスを増設する。つまり2022年度、現在の小学5年生の入試から中学4クラス、男女80人ずつ160人の中学募集枠となります。
都立武蔵・現状
- 中学3学年x3組の9クラス
- 高校3学年x5組の15クラス
- 中高合計24クラス
都立武蔵・今後
- 中学3学年x4組の12クラス
- 高校3学年x4組の12クラス
- 中高合計24クラス
というクラス編成に3年かけて段階的に移行します。
武蔵では、現状でも中学1年生と高校1年生が同じ階に教室を並べるという教室配置となっているため、特に大きな混乱もなく移行が進むのではないかと思います。
ちなみに、高校募集を廃止することに伴い、「武蔵中等教育学校」に学校体系が変わる予定はないそうです。従来通り「武蔵高等学校と附属中学校」という立場が維持されるとの学校側の説明です。
ちなみに、『都立高校改革推進計画・新実施計画(第二次)』によると、併設型各高校の募集最終年度は以下の通りとなっています。
- 富士・武蔵高校は2020年度が最後
- 両国・大泉高校は2021年度が最後
- 白鷗高校は2021年度以降時期未定
本年度の見学会や説明会では、この辺りの情報が公表されるものと思いますので、特に塾に通っていない家庭で併設型の都立一貫校を受験しようと考えている保護者の方は、情報収集のために小学校4、5年生の頃から積極的に意中の学校イベントに参加するとよいのではないでしょうか。
武蔵のゆとりある郊外型立地
都立武蔵は、JR中央線武蔵境から徒歩10分ほどに位置する、郊外型の学校です。
武蔵境は三鷹の隣駅、平日朝のダイヤを確認すると、東京駅から中央線快速で34分、新宿からは20分、渋谷から30分となっていますので、主要駅へのアクセスがよい地域であれば23区からでもそれなりに通うことができると思われます。
生徒の居住地情報は一般公開されていないように思いますが、学校を案内してくれた在校生の話では、実際には23区の生徒は少なく、三鷹市を中心に周辺の多摩地域からの生徒が多いということです。
23区在住の保護者の方であれば、やはり都心の一貫校に通わせたいという思いが強いのかもしれません。
特に地方出身の保護者の場合、多摩地区の学校を選択する意向があれば、上京の際にも区部ではなく、初めから調布、三鷹、武蔵野、小金井、国分寺といった、都下の住宅地を積極的に選択するようにも思います。
都立武蔵は駅を降りた瞬間から、都心の一貫校とは異なる、空間的にも時間的にも比較的穏やかな空気が流れる環境にある学校であることが直接肌に伝わってきます。
多摩地区在住の家庭の場合はもとより、都会の喧騒よりも郊外の比較的のんびりとした空気の中で子を学ばせたいと考える保護者の方には、選択肢の一つになる学校であるかもしれません。
武蔵の地球学とSDGs
都立武蔵の学術面での特徴といえば、総合的な学習の時間を利用して取り組む『地球学』にあるといえるでしょう。
この地球学は、食糧問題や人口問題など地球規模の課題を「自分ごと化」することで課題解決に向けて学び、行動していく生徒を育成することが目的であると、学校案内には書かれています。
特に現在では、地球学が国連目標であるSDGs(持続可能な開発目標)と結びつき、17の目標を研究テーマとして設定するなど、SDGsを積極的に活用する姿勢が説明会でも強調されました。
SDGsについては、17色の環バッジをジャケットの襟に付ける企業も散見されるなど、世の中に急速に浸透しつつある新たな国連主導の社会的目標概念です。
個人的には、この17の目標は、これからの入試問題のテーマとして非常に馴染むものであるように思います。特に理数系科目と社会系科目双方を組み合わせた適正問題や、小論文のテーマとして設定されやすいのではないかと思います。
そういう意味では、少なくとも武蔵中学を受験する方は、必ずこのSDGsの内容について一度目を通した方がよいと思います。
理由は先に述べた通り、武蔵中学自身がこのSDGsの概念を非常に意識しており、特に独自作成問題の中では、学校が求める解答の方向性を示すと考えられるからです。
また武蔵中学の適性検査だけでなく、私国立の中学入試や高校大学入試などでも、今後これらの課題に関する設問が頻出となるでしょう。地球規模の社会的課題を問題に取り上げる場合、これらのテーマを外して問題を作成することははむしろ難しいほど、現代の社会的論点が整理されているからです。
都立の適性検査の場合は、SDGsの内容や語彙を知識として覚える必要は全くありませんが、現代人が直面する世界的な課題にはどのようなものがあるのか、全体を把握することは大いにプラスになると思います。
この点は、この夏休みの課題学習にとってもよいテーマとなるでしょう。
小石川の理数探求授業や、九段の企業本社や大使館との産学連携など、「総合的な学習」の時間は各学校の特徴や求める生徒像がはっきりと表れる科目となります。
武蔵の場合は中学3年間の中で、人類がこれからの持続的な発展を達成する上で、地球規模で解決すべき課題について自分なりに考え答えを導くということが、学びの根底にあるといえるのではないでしょうか。
武蔵の難関国立大学合格力
次に、保護者の方が気になる武蔵の大学合格実績を確認してみます。
比較対象として、都立中高一貫校から小石川と九段中等教育学校、都立重点校から多摩エリア代表の国立と日比谷高校を並べてみます。
各校生徒数が異なりますので、直近3年間の合格実績の平均を、生徒100人当たりの合格数で比較しています。
まずは難関国立大学の指標となる、東大・京大・一橋大・東工大および国公立大学の数字を確認します。
こうして並べてみると、武蔵は一見どの学校とも傾向が異なるように感じます。
都立一貫校同士の比較として、西の武蔵、東の小石川といった表現を見ることもありますが、最難関大学への合格力を見る限りでは、小石川の方にだいぶ分があるようです。
ただしここでの武蔵の生徒数は、高校5クラスの200人を基準としています。
同校が併設型高校であり、高校入試では人気校ではない現実を考慮した場合、仮に難関大学の合格実績の多くを中学からの入学者が占めると仮定した場合には、実質的な100人当たりの合格数はもう少し高い結果となります。
その場合には、都立重点校の国立高校の数字に近づくことになるでしょう。
武蔵も国立も、多摩地区の学校であることの影響か、どちらも一橋大学への入学志向数が総じて強いということが緩やかな特徴として言えるのではないでしょうか。
武蔵の早慶MARCH合格力
では次に、早稲田慶應およびMARCH校の実績を確認してみましょう。
こうして比較してみると、やはり同じ多摩地区の国立高校に比較的近い数字が並んでいるといえるかもしれません。
全体で見ると、日比谷の慶應大学と、国立の中央大学志向が特に目立っているように思いますが、それ以外では、各校それほど極端な傾向はないようです。
都立武蔵と都立国立高校
こうして大学合格実績を他校と比較してみると、次のような傾向があると言えるのではないでしょうか。
よく日比谷高校と小石川教育学校が比較対象として議論に上がることがありますが、多摩地区にあっては、少なくとも大学実績面では武蔵と国立高校がその関係に近いと言えそうです。
現在では、中学受験で小石川を目指し、不合格の場合には私立に通わず地元公立中学から日比谷を目指すという一定の流れができつつあるように感じていますが、多摩地区にあっても武蔵を目指し、残念な結果となった場合には、同様に公立中学から国立高校を目指すという志向があるのでしょうか。
その辺りの情報は手元にありませんが、いずれにしても武蔵と国立高校は、学校のカラーはそれぞれかなり異なるように思いますので、そうした選択がよいことであるかは、各家庭の価値観により異なるでしょう。
都立一貫校専願と出口戦略
いずれにしても、どの都立一貫校を志望するにしても、やはり大学合格実績などの数字や学校案内に記載されている情報、あるいは塾の学校分析などを鵜呑みにせず、自らの足で説明会や学園祭を訪れて、実際の環境や空気を感じることが大切だと感じます。
特に都立一貫校専願の場合には、大部分の家庭が不合格に終わるという現実を鑑みると、残念な結果となった場合の出口戦略を予め準備することが大切なように思います。
何のために一貫校に子を通わせようとしているのか、一貫教育が主なのか都立であることが主であるのか、不本意な結果となった後で慌ててしまわないよう、予め整理することが大切ではないでしょうか。
そして今回武蔵の学びの特色である地球学の説明に接して改めて感じたことは、やはり中高一貫校は中学でのカリキュラムが学習の肝だということ。
近頃では、国立私立都立を問わず、一貫校への高校からの入学が人気がないという話をよく耳にします。実際に、その結果としての高校募集枠の縮小があるのでしょう。
この傾向は、高校受験生が人間関係や自分が主役になれる環境を求めるということだけでなく、学生の本分である学業面からみた場合にも、自らの人生に向かい合う15歳の冷静で合理的な判断であるように思います。なぜなら例えば武蔵の場合であれば、高校から入学した場合には、学校の売りである地球学に触れる機会が得られないということになるのですから。
一貫校は中学が旬、高校単独校は高校が旬。
間もなく高校募集を停止する、併設型都立一貫校である武蔵の特徴ある中学のカリキュラムについての説明を聞きながら、改めてそう感じた次第です。
都立武蔵高校附属中学は、多摩地区の穏やかな環境の中で、地球学と称する人類の課題解決に向けた学びの姿勢に興味のある生徒や保護者の方に特に向いた学校であるように思います。
そして武蔵を含め、この数年の内に入試制度が変わる併設型の都立一貫校が、今後どのような学校環境や進学実績を実現するのか、しばらく注目したいと思います。
ではまた次回。
都立一貫校の改編と新しい国際高校
小石川と日比谷高校の学校比較
桜修館と白鷗にみる学校環境の違い
千代田区にある中高一貫校、九段の魅力
特色ある両国の英語教育校
小学校通信簿の入試への影響