中高一貫校からの受験者増加と、都立受験資格緩和の影響を考える

 自校作成問題の復活と並び、平成30年度都立高校入試における大きな変更点の一つが、都立高校受験資格の緩和です。

『特別の事情』がある場合に限りながらも、

保護者が父母の場合、父母どちらか一方が同居できないときは、都内に「父母のどちらか一方と同居」すればよい(東京都教育委員会)

平成29年度までは、父母との同居が必須要件だった状況から見れば、条件付きながらも確かな緩和措置と言えるでしょう。

今回の変更は、生徒や家庭の社会的背景の多様性に配慮したあるべき緩和であるように思う一方、都内に暮らす都立志望の受験生から見れば、受験者が増えることで受験倍率が高くなるのではないかとの懸念を感じていたかもしれません。

では実際のところ、資格緩和の影響はどの程度あったのでしょうか?

今回は、平成30年度日比谷高校入試において、都立応募資格の緩和が与えた影響や、その他最近の受験生の動向の変化について確認したいと思います。

 

学校別学力試験受験者の増減

 応募資格緩和の影響を見るために、まずは学力試験における過去4年間の応募者推移をご覧ください。

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この表は、国公立私立を問わず、出身中学校の「地域別受検者数」を示しています。

一覧からは、2018年入試において、都外からの受験生が大きく増加したという事実を読み取ることは難しそうです。むしろ2016年からの都内受験生の減少の方が顕著です。

都内受験生の減少は、2016年からの特別選抜枠の廃止と、年々高まる入試難易度の上昇による影響だと推測されますが、この変化と比較すると、都立受験資格の緩和については、少なくとも平成30年度入試においては大きな影響を与えなかったように見受けられます。『特別な事情』の運用が厳格に行われた結果でしょうか。

では上記内訳を細かく見てみましょう。

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先ほどの一覧について、国公立および私立毎の内訳を表示しました。

学校種別毎に見ると、今度は緩やかながら一定の傾向がみられるように思います。日比谷受験生の動向として、以下のことが言えるのではないでしょうか。

  • 都内  公立中学受験生は減少
  • 都内  私立中学受験生は増加

都内国立中学や都外国公立中学、および海外からの受験者も微増傾向にあると言ってもよい状況ですが、2016年の落込みが顕著なため、確かな上昇傾向とは言い切れません。

それに対し、都内公立中学受験者の減少と都内私立中学受験者の増加は明確です。

都内公立中学の受験生の減少は、先にも記載した通り、入試レベルが年々上昇している結果だと思われます。都立高校は一人一校しか受験できませんから、日比谷への強い憧れを抱きつつ、万一の結果に対するプレッシャーに打ち克った挑戦者のみが実際に出願し、最終的に受験する現状があるからではないでしょうか。

そして中学受験から中高一貫校に進学した生徒の内、何らかの理由により学校を変わりたいと希望する生徒は毎年一定数存在し、その中に絶対日比谷に入りたいと積極的に狙う中学生が増える傾向にあるように見受けられます。

2015年から16年にかけても受験者が落ちることなく、むしろ増加した点に、全体数としては微々たる変化ですが強い意志を感じます。元々の母数が少ないものの、2015年から18年への増加を割合でみれば、3割の受験者増です。

結果として、日比谷高校受験においては、都立受験の緩和による東京都外からの受験者の増加傾向は初年度には見られなかった一方、都内公立中学の受験生は減り、逆に私立中学からの受験者は増加傾向にあると言えそうです。

尚、この一覧に登場するのはあくまで卒業中学による分類ですから、都立高校受験のために予め私立中高一貫校から公立中学に転向した生徒の動向は含まれません。この点は、海外からの受験生も同様であり、わが家も含め実質的な帰国生は一覧の受験者数よりもずっと多いです。

事前の転校生を含めると、都内私立中学からの増加傾向はもっと顕著になりそうです。

 

都内私立中学からの受験者の内訳

 それでは東京都内の私立中学からの受験者の特徴について確認しましょう。

せっかく中学受験を経て入学した学校の内部進学を辞退してまで、外部の高校を受験する理由は何なのでしょうか。その答えを探るために、合格者の出身中学を確認してみましょう。何らかの傾向が現れるでしょうか。

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この一覧は日比谷高校合格者の内、都内私立中高一貫校から受験した生徒の、中学受験時点における偏差値分布表です。色付きのマスは合格私立中学が存在することを示します。偏差値は、2018年現在の中学受験偏差値を表します。

ネガティブ情報となる可能性があるため学校名は伏せてありますが、一覧から気が付くのは、

  • 女子中学および共学校が多い
  • 大学附属中が半数程度含まれる
  • 中学入学偏差値は広範囲に分布
  • 男子は2番手、3番手伝統進学校
  • 2018年度は女子御三家が2校含まれる

共学校も女子生徒が多いのでしょうか?残念ながらわが家は息子ばかりですので、女子学生の本音は分かりませんが、それぞれ複雑な事情がありそうです。

中学受験偏差値60未満の中学校は大部分が大学附属校です。大学附属校へ中学から入学することがまるで勝ち組のように言われる昨今、リスクを冒してまで大学受験進学校である日比谷高校を敢えて選択した理由は何でしょうか?

個人的な想像ですが、この偏差値60未満の生徒たちは、中学受験で本命の学校に叶わない中、両親の意向で一貫校に進学したものの、抑えきれない向上心から上位進学校を目指して高校受験を選択したのではないかという気がします。あくまで想像です。

大学附属校から日比谷を目指す受験生は、学校の水に合わないなどネガティブな状況以上に、大学受験で更に上のレベルの学校に入りたいという意思があるように感じるのは、私だけではないように思います。

男子校の場合は御三家に次ぐ2番手、3番手の100年以上続く伝統進学校からの合格者ばかりとなります。これらの学校も中学受験では簡単ではないレベルだとは思いますが、やはりより上位を目指したいという気持ちのくすぶりが原因でしょうか?あるいは共学校への憧れでしょうか。その辺りは分かりません。

そして平成30年度入試では、女子御三家の内の2校からの合格者がありました。

東大合格者で見れば、日比谷高校よりも多くの合格者を輩出するする状況がある中での高校受験です。学校や周囲に合わなかったのでしょうか、あるいは共学校を希望するに至ったのでしょうか?こちらも明確にはわかりません。

この女子中学受験最上位校からの受験は今年に限った結果だと考えるのが妥当のように思いますが、今までなかった傾向が今年突然異なる学校から現れたということは、もしかすると、偶然ではなく中学高校受験を巡る価値観や状況の変化を示す何らかのサインであるかもしれません。

女子学生特有の世界観もあり、受験最難関校であっても、全体としては毎年一定数の動きがある中で、日比谷高校が転校の対象として認知されたのかもしれません。

いずれにしても、これらの一貫校からの合格者に対して言えることは、卒業まで所属することとなった中学校が、ある程度公平に内申点評価を出してくれただろうということです。中には組織を去ろうとする者に対し、意地の悪い対応を行うことがあってもおかしくはない状況の中で、その対応からは本来良い学校に恵まれたといえるでしょう。

ですから日比谷を目指すと決めた私立受験生は、当初のきっかけはどうであれ、マイナスの感情よりも、上を目指す力強いプラスの心理により行動しているのではないかと感じます。

私立中学からの都立高校受験は、途中退学して公立中学から再出発する生徒も含めると、もちろんそれぞれ特別な思いや事情を持つ一部の生徒に限られたことではありながら、他校も含め毎年一定数存在することも確かです。

 

学校種別合格率に優劣なし

 感覚的には、公立中学から都立を目指す生徒よりも、先取り授業の行われる中高一貫校からの受験者の方が受験に対して有利ではないかという気がします。実際のところはどうなのでしょうか?

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この一覧は、都内外および学校種別毎の受験者数と合格者数を示したものです。

これを見る限りでは、予想に反して都内私立中学からの受験生の合格率が4年平均で最も低いという結果となりました。この状況の理由は確かなことは分かりませんが、一貫校を辞して外部受験するというある種の特殊な状況の中で、現実が見えなくなってしまったものなのか、あるいは一貫校に通いながら高校受験の準備を進めることの難しさを表した結果なのかもしれません。

もちろんご覧いただける通り、どの学校からも平均的な合格率57%に対して、上下共に大きな開きがあるわけではありません。ですから私立かどうかに関係なく、むしろその年毎の誤差の範囲といってもいいでしょう。都内国立中学からの合格率については、若干高いと言えるのかもしれません。

ここから理解できることは、日比谷高校を志す受験生は、出身校のステータスに関わらず、同じようにトップを目指して努力しているということでしょう。公立中学だから学力が低いとか、中高一貫校だから高いとか、所属組織による違いは認められない、受験生個々の資能力の問題だということです。

ですから公立中学から日比谷を目指す君も、附属高校への進学を辞して日比谷を目指す君も、都外や海外から日比谷を目指す君も、取り巻く環境は違えど学力の前提は変わらないということです。だから怯まずに、だから己惚れることなく、本番までの長い準備期間をしっかり悔いのないように過ごしてほしいと思います。

 

推薦入試の受験傾向

 では最後に、推薦入試における傾向を確認します。推薦の場合は明らかな特徴が存在します。

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学力試験と異なり一つ明確な点は、海外を含む都外および都内中高一貫校からの推薦入試受験者は、この4年間一人もいないということです。都内私立の数名は、高校のない私立中学からのものです。

つまり、何らかの規定なり協定により、上記種類の学校に通う生徒は都立推薦入試を受験する資格がないということです。不文律というよりはむしろ、所属中学からの推薦が受けられないということかもしれません。

ですから都立推薦入試を希望しており、上記種類の学校に所属する状況であれば、できる限り早く都内の公立中学に転校したほうが良いということになります。これは理屈や戦略ではなく、結果が示す事実です。

推薦入試における合格しやすさも、学校種別によって特別に大きな差はなさそうです。こちらも当然、個々の受験生の資質に依存するものでしょう。


今回は、都立受験資格の緩和を軸に、内申点不問の特別枠廃止から自校作成問題の復活となった本年度までの受験生の動向に着目しました。

特に私立中学からの受験者傾向を見る限り、中学受験における学校選びの難しさを感じずにはいられません。小学生が、自ら望む学びの環境をしっかりと見極めることの難しさを感じるとともに、高校大学受験における志望校選びの大切さを改めて考えさせられます。

日比谷高校も、誰にとっても良い学校であるわけではないでしょう。それはどんな学校でも同様に言えることです。偏差値や進学実績や周囲の評価を気にしすぎる学校選びとなり後からミスマッチを感じないよう、保護者としては志望校選びに多くの時間をかけてほしいと願わずにはいられません。

君にとってのベストな学校との素敵な出会いがありますように。

ではまた次回。


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