日比谷医学部現役合格急伸の謎

2020年4月29日更新:

 2020年度の大学入試において、日比谷高校の東大合格者数は現浪合わせて40人となり、公立高校全国トップは確保したものの、物足りなさが残る空気が漂いました。

世間では、日比谷もそろそろ頭打ちではないかという評価が散見される中、最終的には医学部合格と海外大学合格が大幅に増加する結果となり、生徒の中で東大一辺倒ではない進学先の多様性が広がるという状況が明らかとなりました。

直近の卒業生である長男も、東大に集中するこれまでよりも、合格内容がずっといいと評価しています。

学校ホームページで2020年度の合格実績が公開された今、本年度の医学部志向がどのように数字に現れたのか確認します。

 

医学部現役合格数の異常急伸

 まずは実際の医学部合格数の推移について確認してみます。

変化の状況を分かりやすくするために、日比谷高校の大学合格指標として毎年意識される東大合格数と合わせて直近6年間の数字を表示してみます。

尚、ここでは在学生の動向を明確化するために、現役生の結果のみを取り上げます。数字は学校ホームページ掲載の公開情報に基づきます。どのようになるでしょうか。

日比谷高校・東大+国公立医学部合格者推移

日比谷高校・東大+国公立医学部合格者推移グラフ

さてこの単純な一覧とグラフを見ると、2020年度の最難関大学に対する現役合格数の伸びが驚くほどはっきりと現れています。

東大のみに目を奪われると、2017年18年をピークに減少に向かっているように感じられますが、東大並みの最難関と言われる国公立医学部を重ねてみると、2020年度の伸びの異常さが際立ちます。

本年度の医学部合格数は過去5年平均の3倍程度に拡大していますし、何よりも、国公立医学部合格数が東大現役合格数を上回るのは近年初めてのことです。この点は一般にはあまり話題になっていませんが、ちょっとした事件ではないかと感じます。

こうなると、他の難関校の動向が確認してみたくなります。

 

東京一工+医学部合格数

 今見た実績が、東大や医学部に集中した結果なのかどうか、その他の難関大学合格の傾向を合わせて見るために、今度は都立重点校の指針となる東大、京大、一橋大、東工大に加え、国公立および私立医学部合格者の直近6年間の推移を確認します。

日比谷高校東京一工医学部合格者推移

日比谷高校・東京一工+医学部合格推移グラフ

やはり医学部志向と合格数の伸びが驚くほどはっきりと現れています。

難関大学の指標とされる、いわゆる東京一工の現役合計合格数は、近年概ね一定の傾向で推移してきましたが、今年は何故か医学部合格数が極端な異常値を示しています。

東大現浪合計の合格数が50人を超えて話題となった2016年度の結果と比較しても、全体としてはずば抜けた結果になっていることが明らかです。

合格校を見ても、国立の東京医科歯科大学が現役で4人(昨年2)、私立は慶應医学部が現役で2人(昨年1)となっているなど、難易度的にも悪くない状況です。

全国的に見ても、医学部合格数が上位に入る状況にあり、あまりの急激な傾向の変化に少し隔世の感すら漂っています。

参考として併記した海外大学の合格数も、総数自体は多くないですが、例年の2、3倍に伸びていますから、何か生徒の意識に変化が生じているのかもしれません。

国公立と私立医学部の合格者は多分に重複していることと思いますが、それでも学年の30人、1割以上が現役で医学部に進むのは、これまでとは明らかに異なる傾向だといえるでしょう。

 

現役国公立合格割合

 では次に、合格数の重複のない国公立大学の合格者を見てみましょう。 

日比谷高校・国公立大学合格者推移

日比谷高校・国公立大学合格者推移グラフ

さて国公立大現役合格数全体の推移を見ても、本年度は過去5年間と比較してやはり頭一つ抜けている事がわかります。

面白いことに、現役生だけを対象としても、隔年現象で毎年増減を繰り返しながら、じわじわと国公立現役合格数は伸びています。

日比谷の在籍生徒数は1学年320人程度ですから、学年のほぼ半数が現役で国公立大学に合格する状況に近づいています。

今年は1学年の約15%が東京一工、約10%が国公立医学部、約20%がその他の国公立に合格という状況です。

東大合格40人という数字が最初に独り歩きした結果、今年の大学合格実績は大したことがないというイメージが先行しているようにも思いますが、こうして数字を確認してみると、実際にはむしろ非常に伸びている事に驚きます。

 

他重点校との比較

 では今年度の日比谷高校の状況を、他の都立進学指導重点校と比較してみましょう。

数字は各校ホームページ掲載の公表値となります。

都立進学重点7校・2020年度国公立大学合格者

都立進学重点7校・2020年度国公立大学合格者グラフ

こうして並べてみると、各校の性格が現れており興味深いです。その中でも、日比谷高校の医学部合格数はやはり突出しています。

2020年度は実は日比谷と都立国立の東京一工の合計現役合格数は49人の同数でしたが、国公立医学部合格者数に大きな開きがあることが確認できます。

こうしてみると、少なくとも2020年度結果においては東の日比谷、西の国立という構図がはっきりとしており、中間の西高校は微妙な立ち位置にあるようにも感じます。

日比谷は東大・医学部志向、国立は一橋・京大志向が明確ですが、西高はその間にあって今年は存在感を十分発揮できなかったようです。日比谷の大学実績が低迷していた長い期間、都立を牽引してきた西高ですが、ここにきて都心の日比谷と多摩地区の国立に受験生が分かれているのかもしれません。

そして西高の陰で、戸山高校がトップ3に向けて台頭している様子も伺えます。西と戸山の今後の動向にも注目です。

尚、戸山高校は「チームメディカル」という医学部進学を意識した取り組みを行っていますが、国公立医学部現役合格数という視点で見る限りでは、重点校の中で大きな存在感を出すには至っていないようです。

また、青山と八王子高校は進学重点校として数は多くはないものの東京一工国公立医のすべてに合格者を出している一方、立川は国公立医学部も東大合格者も今年はなく、数字の上では進学指導特別推進校の新宿高校などに近く、重点校としては少し厳しい状況に陥っていることがうかがえます。

 

医学部志向は続くか?

 さて、本年度急激に実績が伸びた日比谷の医学部進学数ですが、来年以降も同様の傾向は続くのでしょうか?あるいは本年度に限っての特異値として、来年以降は再び例年通りの傾向に戻るのでしょうか。

これまでは過熱する医学部人気に対して平静を装っていた日比谷高校ですが、本年度突如として医学部戦線に名乗りを上げた以上は、高校受験生やライバル校からもそれなりに意識はされることになると思います。

従来通り東大への意識の回帰が見られるのか、あるいは医学部人気が継続するのか、新型コロナの影響もあり医療従事者が世の中で改めて大きく意識される中、来年の実績がどのようになるか興味のあるところです。

そして、本記事とは直接関係ありませんが、日々新型コロナと闘う医学従事者の皆様には、本当に頭の下がる思いです。

ありがとうございます。

ではまた次回。

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