2022日比谷高校と都立重点7校の大学合格実績

 6月6日、学習塾対象学校説明会に合わせるように、日比谷高校のホームページに、2022年令和4年度の大学合格実績が掲載されました。

大学合格実績の伸長著しい日比谷高校について、その他の都立進学指導重点7校全体の状況と比較しながらお伝えします。

尚、合格実績情報は、各校がホームページで公表する学校公式データに基づきます。

東大+国公立医【現役】合格数

 まず初めに、最難関と評価される東京大学と国公立大学医学部医学科を合わせた[現役]合格数を確認します。

国公立の場合は後期日程での合格数が加算されるため、受験情報サイト速報値から数字が変動することとなります。

2022日比谷高校東大+国公立医[現役]合格数

このグラフを見ると一目瞭然、2020年度入試以降の合格実績の伸びが著しいです。

2020年度は特に医学部への合格が数が伸びたことから、最優秀層全体の合格牌が同じという前提で、今後は東大は30人程度で伸び悩み、医学部志向に移行するのかと思いきや、2021年、22年と続けて医学部合格は一定量確保したまま、東大現役合格も伸ばすという状況となりました。

今の勢いを見ると、東大現役合格水準は50人程度、国公立医学部は30人程度の最難関80人の現役合格を維持するのでしょうか。

いずれにしても現在の日比谷高校の合格実績は、東大合格ランキング10傑を狙う多くの中高一貫校にとっては、明らかな脅威になっていることは間違いありません。

東京一工+医学部医学科

 では次に、都立進学指導重点校の認定指針の目安となる、最難関大学の合格実績を確認します。

重点校が意識するのは、具体的には、東大、京大、一橋、東京工業大学の国立4校に、国公立大医学部を加えた数字となります。ここではこれらに私立大医学部合格数も加えて数字を確認します。

東大京大一橋東工大+国公立医学部合格実績

東大京大一橋東工大+国公立医学部合格実績グラフ

最難関大学に関しても、2020年以降の実績の増加が顕著です。

この中では特に、私立大医学部の合格数が伸びていることに注目したいと思います。私立の場合は複数校受験が可能ですから、国公立合格者と重なる生徒も多いと思いますが、それでも2021年までは国公立合格数と私立合格数がほぼほぼ同数であった状況が、2022年度については私立医学部合格の数が大幅に伸びています。

この状況は、国公立医学部に現役合格できる学力の生徒が増えた結果、押さえの私立医学部についても複数の合格を得ることができるようになった結果ではないかと思います。

それにしても、私立医学部を積極的に受験する生徒が一定数存在するということは、それなりに裕福な家庭が含まれるということになるかと思いますが、実際長男の同級生の中にも都心の医師の家系で私立医学部に進学した生徒はいましたから、日比谷の場合は都立高校というイメージで語る家庭像とは異なる環境があるのかもしれません。

私立医学部を含めると150を超える難関大学、国公立だけでも100を超える現役生が最難関大学に合格しており、現役生の3人に1人は最難関国公立に合格する状況ということになります。

重点校7校との合格実績比較

 ではここからは、他の進学指導重点校と比較しながら、日比谷高校の合格実績を確認してみたいと思います。ではまず国公立大学の現役合格数となります。

尚、本資料内では便宜上、八王子東高校を’八王子’と表現しています。

まずは国公立大全体の合格数を比較します。

2022年都立進学指導重点校国公立大【現役】合格総数

こうして重点7校を並べてみると、国公立大現役合格数は概ね2つのグループに分けられるように思います。

国公立大現役合格カテゴリ
  • 第1グループ|日比谷、国立、戸山、立川
  • 第2グループ|西、青山、八王子東

第1グループは現役合格140人と伺う状況、第2グループは110人を概ね伺う状況です。

こうしてみると、都立進学指導重点校に入学するということは、第1グループでは概ね生徒の1/2程度が、第2グループでは1/3以上は現役で国公立大学に進学が期待されるということになります。

合格総数で見るとそれほどの差がないように見える各校の現役合格数ですが、続いて合格大学の中身を確認します。

重点校7校難関大合格内訳

 国公立大の現役合格総数には大きな差が生じない状況がありましたが、その内訳を確認すると、各校大きな相違が見られます。

2022_都立重点7校難関国公立合内訳

2022_都立重点7校難関国公立合内訳グラフ

グラフを見ると、先の総数カテゴリとはまた異なる状況が現れます。

難関国公立大合格カテゴリ
  • グループA|日比谷
  • グループB|西、国立
  • グループC|戸山
  • グループD|青山、立川
  • グループE|八王子東

戸山と八王子東を単独カテゴリ分けすべきかどうかという議論はありそうですが、ここでは上記のように区別してみました。

こうしてみると、日比谷高校の難関大合格状況が突出しているのが分かります。東大合格数だけで、他校の難関大総数を上回る勢いです。

2019年辺りまでは、日比谷、西、国立がトップ3として並走している状況がありましたが、現在は日比谷を単独トップとして、2番手に西、国立、3番手に戸山、4番手に青山、立川、そして5番手に八王子東という状況が続きます。

八王子東に関しては、大学合格実績だけから見ると、むしろ進学指導特別推進校の新宿高校と入れ替わってもおかしくない状況にありますが、23区と多摩地区の重点校の所在地のバランスをとるための現在の指定なのかもしれません。

日比谷高校急進の理由

 では最後に、この数年の日比谷高校の大学合格実績の伸びについて考えたいと思います。この急激な変化の要因としては以下の2つが考えられると思います。

  1. 入学者の学力レベルの上昇
  2. コロナの影響

この内コロナの影響は、私立や国立附属を含めたすべての学校に共通する環境変化であり、仮にこれが主な要因だとすると、都立高校の方が3年生での学校行事への参加拘束時間が長く負担が大きいという判断につながるかもしれません。

確かに都立の進学校では、春先から秋にかけては学園祭を中心に、3年生が主役となる様々な行事が目白押しですから、受験勉強と学校生活を両立するのは容易でないかもしれません。

ただ、日比谷以外の重点校がそこまで著しい実績の伸長が見られないことから、単に勉強時間が増えた結果と考えるのは正確ではないように思います。個人的には1.の入学者の学力の上昇が主な理由ではないかと考えています。

入学学力上昇の理由

 ではなぜ入学者の学力レベルが上昇したか、という点ですが、この点については以下の2つの理由が挙げられることが多いように思います。

  1. 都立学力最上位層の集中
  2. 高校受験生からの再評価

1.の都立上位層の集中については、もっともらしい理由として指摘されることが多いですが、実際には西高や国立高校の実績を継続的に確認した場合にはむしろ緩やかに伸びている状況がありますので、こちらは必ずしも正しいとは言えない、むしろ安易な理由づけのために持ち出されたイメージのように思います。

実際には、2.の高校受験生からの再評価、要するに複数の上位進学校に合格した受験生が日比谷高校を選択するケースが水面下で増えたということが実際の状況に近いように思いますが、この点で注目すべきは、学芸大学附属高校のいじめ事件から続く同校の受験制度のドタバタ対応の影響が重なったことにより、日比谷志向が加速したのだろうということです。

現在50歳以下の保護者の方からすると、学芸大附属をはじめとする国立大附属高校が上、日比谷その他の都立高校は下という意識が根強くあるかも分かりませんが、その意識は歴史的に見れば、1967年に始まった学校群制度以降の評価となります。

日比谷高校の上昇トレンドは、学校群制度からちょうど半世紀を経た2017年頃から本格化していますので、教育界のトレンドも50年という大きな周期の中で動いているのではないかと興味深く見守っているところです。

合格実績上昇はいつまで続くか?

 日比谷高校の難関大合格実績の上昇に対し、いつ頃頭打ちになるかという議論が行われることがあります。

通常であれば、もうそろそろ頭打ちではないかという感覚もありそうですが、ここにきて、その時期を正確に指摘することは難しい状況にあります。

理由は都立高校の入試が、今後男女合同入試に変わっていくことにあります。

要するに、現在の大学合格実績は、入学試験が男女別枠で行われた中での実績であるため、現在の実績は必ずしも学力上位を寄せ集めた結果ではなく、まだ伸び代が残されているからです。

この状況が男女枠の撤廃により、より学力上位集団化が進む可能性があるということです。

男女枠の共通化は、今年2022年に初めてスタートして現在は10%、時期は未定ですが第2段階として20%、最終的には100%すべてが男女共通選抜となります。

この制度により、あくまでも内申点の評価や加算割合が現在のままという前提ですが、これから先数年、少なくとも2025年入学までは、まだまだ入学者学力の上昇が見込まれる状況が継続することから、2030年の大学入試辺りまでは、良好な大学実績を見た受験生が日比谷に集まり、また結果を残すという循環が継続する可能性があります。

男女合同枠の完全実施年度が決められていないことは、むしろ大学合格実績への期待感という点では、心理的にも前向きに働く可能性が高いです。

来年以降の日比谷の大学合格実績は、実際にはどのように変化するのでしょうか?

引続き観察していきたいと思います。

ではまた次回。