内申点の価値 ~内申1点は都立入試の何点か?

2023年7月22日更新:
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 都立高校を目指す君が、夏休みが始まる頃に決まって気になるのは内申点。

受験戦争における防御シールドともいえる内申点を上げておくことは、心理的有利に立つ有効な方法です。

受験母集団の中で内申点が相対的に高いほど有利であることには違いありませんから、誰もができる限り高い内申点を確保したいと考えるわけですが、悩ましいのは定期テスト対策として入試科目である5教科を中心に定期考査対策すべきなのか、それとも内申点が2倍換算となる実技4教科を優先して勉強すべきなのか、ということではないでしょうか。

あるいは、定期考査対策と自校作成問題対策のどちらに時間を回すべきか、大いに悩む問題です。

結論から言ってしまえば、勉強時間の配分は、得意不得意や受験勉強の進捗具合など、受験生一人一人の状況により異なることですから、すべての受験生に当てはまる絶対的な正解はないと言えるでしょう。そして正解がないからこそ、先輩たちは皆、この悩みを抱えながら秋の大切な時期を過ごしてきたのです。

しかし定期考査対策は受験生それぞれ異なるにしても、その方針を決める際に、誰もが必ず知っておくべき情報はあります。
それは、内申点1点の合否に与える影響です。

4教科2倍という知識はあっても、実際に5教科と4教科それぞれの内申点がどの程度合否に影響するのか、大きいのか小さいのか、内申点が確定してから後悔しないためにも、試験対策を考える前にはっきり認識すべきだといえるでしょう。

そこで今回は、都立高校入試の基本中の基本情報である、主要5教科と実技4教科内申点の入試本番の得点価値について改めて考えてみたいと思います。 

今更ながらの基本情報ですが、ウェブ上には誤った情報も散見されますので、改めて確認してみましょう。

内申点1点の価値

 内申点は学科試験の何点分の価値があるのか?
まずは結論からご覧ください。

内申1点の学力試験換算点
  • 5教科内申1点 = 3.296... 点
  • 4教科内申1点 = 6.593... 点

はい出ました。以上終わりです。
内申1点は、入試の点数換算で5教科は3.3点、4教科は2倍の6.6点となります。

5教科内申1点は、漢字読み書き1問よりは大きいけれど小問よりは小さく、4教科は中問1問程度。共通問題で見れば、5教科内申は1問には達しないけれど4教科は1問よりは大きいという状況。

この数字が大きいと感じるか、小さいと感じるかは君の状況次第。

実技科目の点数確保に苦労している受験生にとっては大きいと感じるかもしれませんし、内申点で引き離したいと考える受験生には物足りない数字かもしれません。

いずれにしても、中には5教科=4.615...点、4教科=9.230...点と思っている方がいるかもしれませんが、学力試験の点数を意識した場合、これは明らかな誤りです。

学習塾等のサイトでも、こうした誤りを見ることがありますので注意が必要です。

誤りの理由は、内申:学力試験=3:7の評価が入っておらず、内申点が過大評価された数字になっているからです。

仮に5教科内申1点を試験本番の約4.6点と表記するならば、同時に学力試験の1点を1.4点であると併記しなければ誤解を生じます。

内申点の価値理解が大切な理由

 内申点の価値に敢えて光を当てるのは、入試における不確定要素を少しでも和らげることができればとの思いからです。

仮に受験者平均点を下回る内申点しか確保できなかったとしても、自分の置かれた現実を明確に知ることで、漠然とした底なしの不安から「得点差」という戦略上の数字の課題に置き換えることができる。

「不安」は理屈では解決できない感情の世界ですが、「課題」であれば受験戦略として論理的な解決策を見出すことが可能となる。

特に進学指導重点校を受験する君にとっては、自校作成問題本番で何点獲得できるか不確定要素が大きい中で、内申点のビハインドは大きな心理的負荷となるはず。

そして不安要素や不確定要素が多ければ、出願の際に安全志向に走ったり過大なリスクを背負ったり、感情に捕らわれ冷静な判断を失わせる。逆に現実を知れば、それがたとえ厳しい状況であったとしても、挑戦か撤退かの的確な判断を行うことができる。

だから今回は、内申点の影響について注目してみたいのです。

平均内申点との得点ギャップ

 都立受験生が内申点を気にするのは、もちろん入試本番の合否判定に影響するからですが、トップ校の推薦入試を受けない受験生であれば、必ずしも内申満点を取らなければならないとプレッシャーを感じる必要はないように思います。

なぜならば、多くの学校の一般入試の実質的な最終受験倍率は2倍を下回る水準です。

つまり、内申点も当日の試験も受験者平均点があれば合格圏内ということです。

ですから、内申点で意識すべきは内申満点である45からのマイナス部分ではなく、平均内申点との得点ギャップ。現実的なライバルと比較してどの程度貯金があるのか、あるいは借金を負っているのか、その数字を意識することではないでしょうか。

そしてその平均点ギャップは、都立高校普通科の内申換算ルールは全校同じですから、志望校の平均点情報があれば、どの都立高校であれ簡単に把握することができる種類の情報です。

日比谷高校内申点ギャップ

 では具体的な例として、わが家の長男が受験した当時の日比谷高校における受験者平均内申点との得点差を見てみましょう。

まずは過去の入試情報を確認します。

日比谷高校 換算点平均一覧

日比谷高校 換算点平均一覧

この一覧の素内申平均を見ると、男子は概ね41点を超える程度、女子は43点を下回る程度となります。

ただし、45点満点となる素内申の状態では、試験本番で有効となる実際の得点は確認できません。理由は以下の通り、同じ素内申点でもその内訳により換算得点が異なるからです。

4教科2倍換算の影響により、同じ素内申であっても、4教科の得点が高い点数構成の方が換算後得点も高くなるため、獲得可能な得点に上下幅が発生するのです。素内申41を例にとって具体的に記載すると、

上限 = 4教科が満点の場合
5教科21+4教科20=21+20x2=換算内申61点
 ⇒ 61x300/65=281.5点

下限 = 5教科が満点の場合
5教科25+4教科16=25+16x2 =換算内申57点
 ⇒ 57x300/65=263.0点

この上下評価差を考慮した300点満点換算の内申点が、先の一覧内の「300点換算内申上限」と「下限」です。そしてこの上下得点の間に、実際の平均点が存在しています。

この上下幅を意識しながら、男女それぞれの平均内申点からの得点差を示します。目安として、上下幅の中間値に色を付けて表示しています。
先ずは君が目標としている内申点周辺をじっくりご覧ください。

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 一覧の数字は、内申点を学力試験500点満点に換算した際の、平均内申点との得点差です。実際の平均点が不明な中、厳密な点数表示にはあまり意味がないので四捨五入して整数表示としています。
表内の破線はそれぞれ素内申40、35、30を示す参考ライン。例えば、

  • 5教科23(3教科x5、2教科x4)
  • 4教科17(1教科x5、3教科x4)

つまり素内申40の一例を確認すると、受験者平均点との得点差は、

  • 男子では、最大-14点、最低差-1点、平均値として-8点。
  • 女子では、最大-19点、最低-11点、平均値として-15点。

となることが分かります。
そしてこの一覧を確認する際の留意点として、

1)学校が発表する素内申平均点では、実際の平均点が上限値に近いのか下限値に近いのか分からないため、ここでは上下の中間値を目安として強調していること。

2)実質受験倍率は男女とも2倍を下回っているため、合格点の確保という観点で見た場合に、平均内申点を下回っていても必ずしもビハインドとは限らないこと。

3)一覧の数字は概ね毎年共通した傾向ですが、実際の平均内申点は未定であること。

ただし仮に正確な数字ではないにしても、判断の拠り所が全くない状況と比較すれば、目標内申点検討の目安としては十分参考になる値だろうということです。

その中で明確に言えることは、日比谷高校の場合、

  • 内申満点でも、合格を決定づけるほどの大きなアドバンテージは持たない。
  • 素内申30台でも、4教科内申次第では致命的なビハインドには至らない。

ということではないでしょうか。
入試難易度が上がっている現在、その傾向は強まることでしょう。

素内申で語ることなかれ 

 日頃より日比父ブログをご覧いただいている方であれば当然との認識があるかと思いますが、受験生にとって45点満点の素内申で合否判断や入試戦略を語ることに、あまり意味はありません。

なぜなら例えば、先ほど見た素内申40点の場合、その組み合わせは下図の黄色のセルの通り、 6つのパターンが存在します。そして同じ素内申40と一口に言っても、実際は合否判定への影響は大きく異なります。

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例えば男子の場合、

  • 4教科20、5教科20の内申40
  • 4教科15、5教科25の内申40

を比較すると、前者の平均内申点とのギャップは中間値で+2点、後者は-14点ですから、同じ内申40と言っても試験得点換算では16点の開きが生じます。女子も同条件で17点の開きがあります。 

ですから内申点を意識する場合は、5教科と4教科それぞれの点数を意識することが決定的に重要、ということが改めて理解できると思います。

冒頭で見た通り、5教科内申1点は試験の3.3点、4教科は6.6点となりますから、その差がそのまま得点ギャップとして現れるのです。

ですからこれから期末考査を迎える君は、素内申全体の合計得点ではなく、5教科および4教科それぞれに何点を取るかという点を具体的な目標として試験に臨むことが大切だということです。

そのために、9教科中どの教科にウエイトを置いて勉強するのか、長い受験期間の中で最初の決断の時が訪れます。

内申点価値の算出方法

 では最後に、冒頭に示した内申点価値の算出方法を記載しておきます。
都立受験生にとっては基本知識となります。

1)内申点と試験得点の割合
  • 内申 300点 + 試験700点 =1,000点満点

まず基本中の基本ですが、都立普通科であれば、すべての高校で上記割合となります。

2)換算内申点

 内申点は、主要5教科は1倍、実技4教科は2倍となりますから、内申満点となるオール5の得点は以下の通りとなります。

  • 5教科x5点 =25点
  • 4教科x5点 x2倍 =40点

ですから内申点満点は、25 + 40 = 65点となります。
この65点満点を「換算内申点」と呼びます。 

3)内申1点の300点満点価値

 合否判定得点である、1,000点満点における内申点の価値は以下の通りとなります。

  • 内申満点/換算内申満点 = 300/65 = 4.6153・・・点(5教科)

4教科は2倍となりますから、次の通りです。

  • 300/65 x2倍 =600/65 = 9.2307・・・点(4教科) 

つまり、1,000点満点における内申点は、概ね5教科4.6点、4教科9.2点 となります。

そして先に挙げた通り、この得点を内申点の価値とする情報が散見されますから、数字の扱いには注意が必要です。

4)内申1点の学力試験価値

 学力試験は、5教科500点満点が700点に換算されます。ですから学力試験の1点は、1,000点満点では700/500=1.4点に換算されます。

ですから、

  • 5教科内申1点 = 4.6点
  • 4教科内申1点 = 9.2点
  • 学力試験1点  = 1.4点

この結果、内申点1点の学力試験価値は、

  • 5教科内申1点 = 4.6/1.4 = 3.3点
  • 4教科内申1点 = 9.2/1.4 = 6.6点

冒頭に掲載した結論となります。

日比父ブログではこれまでも、合格に向けた内申点と入試試験の関わりを数多く取上げてきました。

都立高校の入試は、内申点と試験得点の合計得点で合否を判定するために、制度が複雑に見えるのです。だから不安に思う。

しかし、制度を把握してしまえば課題は見えてくる。

このため今回は、すべての都立普通科受験生に向け、内申点を決める大切な試験を前に改めて内申点1点の価値を確認することで、漠然とした不安を取り除き、冷静で戦略的に定期試験対策に向き合えるよう資料を提示してみました。 

誰かの意見に感傷的になったり漠然とした不安に怯えるのではなく、数字が示す客観的な価値と事実を知る。そして自分に必要な対策を考える。

内申点の絡む都立高校入試では、受験生一人一人が個別の課題を抱えていることになります。ですからライバルの結果に一喜一憂しても仕方ないのです。周囲に惑わされないために、まずは正しい情報の把握が必要ではないでしょうか。

その上で、内申点の価値が高いのか低いのか、ビハインドとなりそうな場合はどうすればよいのか、君自身で判断すればよいことです。

君の受験学力と、ライバルの受験学力は違う。

だから内申平均点を上回っているから安心とか、下回っているから不安とかは必ずしもいえることではない。

もちろん内申点は高いに越したことはありませんが、ライバルや志望校の平均点よりも低いからといって、直ちに悲観することでもないし、高いからと言って安心することもできない。

ですからなるべく高い内申点を取りたいではなく、君の定めた換算内申点目標の確保に向けて、冷静に各教科への勉強時間の割振りを行うことが大切ではないでしょうか。

定期試験や模試の成績により気持ちが揺れ動く中、君の希望する内申点が大きな変動なく目標通り確保できることを、一人の保護者として願っています。

ではまた次回。

内申点の影響しない入試制度の是非