首都圏公立高校即興型英語ディベート交流大会

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PDA中川代表理事による大会ガイダンス

 主催者である、一般社団法人パーラメンタリーディベート人財育成協会(以下PDA)にお招きいただき、11月18日に日比谷高校で行われた、第5回首都圏公立高校即興型英語ディベート交流大会に参加しました。

首都圏の公立高校10校から生徒および教職員が多く集まる中、英語教育の現在位置を確認する大変よい機会となりました。お誘いいただきました協会に対し、この場をお借りして御礼申し上げます。

参加させていただいた意味でもあると思いますので、現在の首都圏公立高校の英語教育におけるアクティブラーニングの現状がどのような状況にあるのか、日比父流の観点から同大会について報告したいと思います。

 

即興型ディベートに込められた思い

 パーラメンタリーディベートとは、英国国会型となる、肯定派と否定派に分かれた論者が第三者を説得するパブリックスピーチです。その中でも即興型は、討論開始15分程前に論題が開示される形式のディベートです。

このため、予め論題について下調べを行って参加する準備型のディベートよりも、基礎的な素養と瞬発力が求められることになります。事前に準備した原稿を読み上げるのではなく、その場で発言内容や反証文を組み立てる必要があるため、外国語の修練に向くのだと思います。

PDA代表理事である中川智皓女史の冒頭あいさつで語られた言葉の中に、次のようなものがあります。

  • ディベートではネイティブレベルの英語ではなくても、適切な内容を最低限通じる英語で表現できればきちんと評価される。
  • フリーディスカッションの場合、十秒程度の受け答えになりがちだが、ディベートの場合はシステム的に数分間の発言の機会が与えられ、追い込まれる環境となり英語で発信する訓練となる。
  • 本大会は、英語好きやディベート好きのための集まりではなく、今後求められるスキルに対応した日本全体の活動としたい

要するに、今後様々な現場で求められる、道具としての英語のスキルを上げていこうというものです。

その裏には、学生時代に東京大学英語ディベート部を立ち上げ、世界大会で実績を上げて東京大学総長賞を受賞すると共に、後にPDAを立ち上げた女史の若いころの苦い経験がベースになっているのだと思います。

私自身の個人的なビジネス体験でも、英語に限らず外国語に関しては、上手い下手以前に、身振り手振りや図解を交えてでも、実際に口に出して相手に自分の意思を伝えようとすることが最初の課題となることは確かです。

相手がこちらの持つ技術なり商品なりを求めて会いに来たのでない限り、発言しなければ相手にされず、存在しないのと同じです。交渉では、お互い相手の英語能力を評価しているわけではなく、発言の内容を求めているからです。

そして実際に、世界の多くを占める非英語圏で交わされる英語については、日本人がビジネスシーンで想像するような流暢なものではありません。まずは臆することなく発言することが重要であることは、間違いないと思います。

読み書き中心の英語教育から、4技能を含めた発信型の英語教育への転換。

同協会が提供しているのは、そうした発信型英語教育の土俵となる環境づくりだと理解するに至りました。

初々しいディベート参加者

 個人的には協会から連絡をいただくまでは、PDAという団体も、即興型英語ディベート大会の存在も知りませんでしたので、実際に会合が始まるまでは、帰国子女や英語が得意な生徒が中心の大会ではないかと想像していました。

ところが実際に参加してみると、そうした事前の想像は、よい意味で裏切られました。

今回参加しているのは以下の通り、各地域で相対的に学力が高いとされる高校が多く含まれます。このため、大会やディベートにも相当慣れているのではないかと事前に感じていました。

  • 東京都立日比谷高校
  • 東京都立西高校
  • 東京都立三田高等学校
  • 東京都立八王子東高等学校
  • 神奈川県立湘南高校
  • 神奈川県立柏陽高等学校
  • 埼玉県立浦和高校
  • 埼玉県立浦和第一女子高校
  • 千葉県立千葉高校
  • 千葉県立船橋高校

大会は3ラウンド、つまり異なる学校との3回戦で行われるのですが、最初の第1ラウンドが始まるとすぐに、多くの参加者がそれほど英語での発言にもディベート形式にも慣れているわけではないことが理解できました。

参加者の口から吐き出される英語は、事前に想像していた英語圏からの帰国子女レベルというよりは、日本で後天的に英語教育を受けた者が発するものに近い状況だと感じたからです。

私自身はそうした状況を、むしろ大変好ましいものとして受け止めました。

なぜならば、もちろん大会に参加するのは各学校の中でもかなり積極的で、英語にもそれなりの自信をった生徒ばかりだとは思いますが、今回目の前で実際に繰り広げられた討論会は、事前によく訓練された生徒がしのぎを削るための場というよりは、初めて出会う者同士が、正にそこでリアルタイムに切磋琢磨しながら経験を積み、スキルを上げていくという学びの場だと感じたからです。だからこその交流大会という名前なのだと納得しました。

 

参加者の多様な背景

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多くの視線が論者に集まる中、3分間の肯定スピーチ

 そして多くのオブザーバーが参加する中で、私自身がまず最初に行ったのは、10校5つのバトルの島をそれぞれ回って、参加者の名札を確認することでした。

私自身の英語能力は大変低いものですが、生徒の口から出る英語を耳にすれば、それが日常的に英語を使って生活しているものであるか、あるいは授業の体験が大半の英語であるかという程度は判断がつくものです。

そして参加している生徒の名札には、日ごろ所属する部活動が記載されていますから、ESSや弁論部のような、英語やディベートに日常的に携わっている生徒であるかどうかが確認できるわけです。

そして、再びいいなと思ったのは、参加者の大半が、英語やディベートに関する部活とは縁のない生徒だったことです。

例えば日比谷高校の参加者は、

  • サッカー部
  • 卓球部
  • 演劇研究会
  • 茶道部
  • バドミントン部
  • そしてESS、などなど

他校も含めると、空手部、天文部、化学部、硬式テニス部、弓道部そして英語部など、背景の様々な生徒が集まっています。

話す英語もそれなりにこなれている生徒から、多くの視線が集まる中で、極度に緊張して何とか言葉を紡ぐ生徒まで、様々なスキルの生徒が集まっていると感じました。

ここは成果発表の場である以前に、積極的な学びの場なのだな、そういう実感を持つに至った第1ラウンドの50分間となりました。

 

自主的な参加と積極的な学びの場

 主催校となった日比谷からは2チーム構成の9名が参加していますが、よいなと感じたのはその選考基準です。

参加希望者は、3名チームを組み、グローバル事業部まで直接申し出てください。参加者が10名程度と限られているので、原則的に早く申し出たチームを優先とします。ご了承ください。

日比谷高校GLOBAL JOURNAL Vol.18

日比谷高校からの参加者は、選抜チームではなく希望者先着順となっています。大会は学校アピールの場ではなく、生徒の自主的な活動意欲を支援するための場として位置付けられている点が、自主自律を謳う学校の姿勢と一致しており潔いと感じました。

この首都圏高校即興型英語ディベート交流大会は、まだまだ一般にはマイナーな活動であるため、現段階では誰が出場しても恥ずかしくはない、自らの現在能力と経験値を上げるための公開道場という感じがします。

そして実際に、ラウンドが進むにつれ、参加者の英語発信能力とディベート能力は目に見えて上がることが第三者からも分かります。

発展途上のスポーツ選手が公式戦の中で自らの能力を覚醒させるように、英語4技能についても、五感と集中力がフル稼働する環境の中では、短期間に驚くほどの成果を上げることができるのだと思います。

英語4技能のアクティブラーニングが取りざたされる中で、例えばスピーキングに対する指導方法や到達目標が曖昧な中、こうしたパーラメンタリーディベートは、各学校内での発信型外国語教育におけるスキルアップの具体的な目標や手法として、また各校が集まる地方大会や全国大会は、授業の中で身に着けたコミュニケーション能力を確認する公の場として、夏の甲子園大会のように、教育関係者および生徒や保護者など、広く一般に認知される大会として定着していくのかもしれません。

 

高校生即興型英語ディベート全国大会

 実際この年末には、東京大学に全国64の高等学校が集まる、PDA主催の高校生即興型英語ディベート全国大会が予定されています。

PDA高校全国大会は、初年度2015年の記録は公開されていないようですが、

  • 2016年度:20地域40校
  • 2017年度:22地域59校
  • 2018年度:27地域64校(参加上限)

となっており、本年度は上限を超えた応募があったため、参加できない学校も多数あったようです。年々アクティブラーニングに取り組む学校の裾野が広がっていることが感じられる今年の大会です。

おそらく出場校も、日比谷のような一時的に集まる即興型のチームから、日常的に部活動などで訓練を行う準備型チームまで、現状ではスキルも経験も様々だと思いますが、いずれ47都道府県全体の大会となって、全国各地での4技能スキルの向上を支える学習指標の基準になるようにも思います。

学校案内やホームページでグローバル教育やアクティブラーニングを謳う学校は数多くある中で、こうした大会に積極的に参加しようとする学校は、英語を道具として使うということに前向きに取り組んでいる高校であるということができるかもしれません。

おそらくは、来年以降も参加希望校は増加していくことが考えられますから、審査側の能力確保も今後の課題の一つといえそうです。

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2018年PDA高校生即興型英語ディベート全国大会出場校

 

母語たる日本語と外国語たる英語

 今回見たような、英語でのパブリックコミュニケーションのスキルは、従来のような日本国外や外資企業で勝ち抜くための技術から、日本国内の多くの機会においても求められる能力となっていくでしょう。

その状況がよいことなのかどうか、私にはまだ判断がつきませんが、一つだけ思うことは、どれほど英語教育が盛んになっても、我々日本人にとって基本となるのは、あくまで母語である日本語であるべきだということです。

外国語での論理的思考や討論のスキルに長ける前に、母語である日本語における論理的思考能力やコミュニケーション能力を確立すること。これは日本国民が日本人として未来に向けて生き続けるための最低限の拠り所であるべきだと考えます。

その根本を飛び越えて英語教育に向かうのは、ある種英語覇権による被従属化を推し進めるものではないかという危機感を同時に感じてしまいます。一人の保護者としては、初等教育における公の英語教育の導入にはある程度の理解と同時に、強い抵抗感を感じることも確かです。

初等教育での英語教育の推進は、日本人が今後世界で活躍するための必要条件であるように感じる一方、日本という島国特有の外堀を、自ら埋めるような大坂の陣にもなり兼ねないと考える冷静な自分がいることもまた事実です。

中学受験に英語が課される日が一般的になる時、個人的には亡国への杞憂が現実の不安へと変わる節目になるように感じます。そうした極端な考えが、グローバル化と叫ばれる世の中にあって、あまりにも内向きで保守的な発想であるとして、いつまでも嘲笑の対象であることをただただ願うばかりです。

 

磨くべき道具としての英語

 初等教育での外国語の導入に対し、今回のディベート大会のように、道具としての後天的な英語スキルを磨くこと、すなわち中等教育段階での4技能教育の実践導入は積極的に行ってよい種類のものであると思います。

海外に対して日本の立場を国際共通語で明確に論ずることができる人材の育成は、東アジアという地政学の中に位置する日本という国を未来に向かって維持する意味においても、今後ますます重要になると考えるからです。 

ただし発信型の外国語教育を、入学試験の中に取り込むのは極めて難しい。こちらはまた別の議論として、あるべき形に向けて継続的に検討することが必要だと思います。

日本語に対して未熟な外国籍の労働人材が大量に日本の中に定着しようとするこれからの時代の中で、道具として使える外国語の基礎を身に着けることは、日本人側が日本語でのコミュニケーションを放棄する状況でない限り、英語に限らず円滑で安定的な社会を築くためのスキルの一つともなるでしょう。

今回参加した、PDA首都圏公立高校即興型英語ディベート交流大会では、我々の学生時代とは全く異なる実践的な語学教育の最前線を確認するとことができました。

こうした方法論は、英語に限らず全ての外国語および母語である日本語に対しても、短期間でのパブリックコミュニケーション能力の向上に有効に機能する手段の一つだと感じます。

今回貴重な体験機会を提供くださった、一般社団法人パーラメンタリーディベート人財育成協会の皆さまのご厚意に、改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。

ではまた次回。


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