狭くも広い都立新宿高校

 都立新宿高校を訪問しました。

新宿高校は、進学校としては日比谷高校など7校が指定を受ける「進学指導重点校」に続くカテゴリーとなる「進学指導特別推進校」7校の一つであり、入試において男女枠の区別がない単位制の学校です。

新宿駅南口徒歩5分、伊勢丹2分

 新宿高校の特徴の一つは、新宿駅南口から歩いて5分となるその立地にあります。

新宿駅南口を出て左、バスタ前を通る甲州街道沿い、駅前のなだらかなスロープを下りた先に位置し、街道を挟んで学校正面に新宿バルト9の入る丸井アネックスを臨み、新宿御苑に隣接する都心の高校です。

伊勢丹新宿店のある新宿三丁目の交差点までも200mほどですから、前面に新宿東口の繁華街の喧騒を抱き、背面は新宿御苑の静寂に包まれた学校となります。

奥行きのあるキャンパス

 ネット上で見かける新宿高校の写真は甲州街道沿いの正門側から撮影したものが多く、大通りに面した狭い敷地ギリギリに建つビル型校舎の学校のように感じます。

ところが中に入ってみると、予想に反して奥行きのある長い敷地が広がっており意外性を感じるキャンパスです。

都立新宿高校敷地

都立新宿高校敷地

新宿高校敷地と全景

新宿高校敷地と全景

三角形を二つ並べたその敷地は、北東側の三角の中に7階建てのビル型校舎とテニスコートが、南西の三角は全面グランドとなっており、校舎とグランドを結ぶ三角形の接点となる狭い敷地には中庭があり、学校の中の新宿御苑といったオアシス的な場所となっています。プールは校舎棟の屋上にあります。

写真の通り、南東面全体が新宿御苑に面しているからか、都心型キャンパスとは思えないような開放感を感じる敷地だとの印象を持ちました。

上階の教室からは、新宿御苑の木々の緑の先に六本木ヒルズを望む眺めがあります。

ドコモタワーと新宿高島屋

都立新宿高校とグランドとドコモタワー

新宿高校とグランドとドコモタワー

 グランドに立つと、新宿のランドマークとなるドコモタワーが眼前に迫って建つ姿が目に入ります。ちょうど早稲田大学における大隈講堂のように、時計台がまるで学校の施設のような印象です。

実際に敷地からは時刻がはっきりと認識できるため、生徒も先生も、日々の学校生活の中で時計として利用しているということです。

そして新宿高島屋の入るタイムズスクエア上階もよく見渡せます。

逆に高島屋上階のレストラン街、例えば鼎泰豊などの窓からは、新宿高校の校舎やキャンパスを見下ろすことができるはずですが、今までそのような視点で外を眺めたことがなかったこともあり、すぐ横に学校が位置している事すら意識したことがないというのが正直なところです。

今度新宿高島屋に寄る機会があれば、上階の窓から新宿高校の敷地を眺めてみたいと思います。

ロの字型校舎と広い廊下

 7階建ての校舎棟は、各階への採光を確保するためかロの字型の配置となっており、中央の吹き抜けが光庭として機能するためどの階の教室も暗さを感じない印象です。

都立新宿高校1階アトリウム

都立新宿高校1階アトリウム

光庭は1階部分がガラス屋根のついたアトリウムとなっているため、正門から校舎までの窮屈さとは対照的に、校舎内に入ると柱のない多目的ホールが広がり狭小地であることを感じさせない明るく伸びやかな印象を受けます。

そして教室階に入って最初に気づくこととして、各階の廊下が広いということが挙げられます。教室自体は他の学校同様、特に特徴のない大きさと作りになっています。

臨海教室館山寮

 都心に位置する新宿高校ですが、学生生活を支える関連施設の一つとして注目されるのは、毎年夏の臨海教室を支える千葉県館山市の館山寮です。

日比谷高校をはじめ臨海合宿を行う都立高校はいくつかありますが、新宿高校の場合は1学年全員参加であることが特徴です。

1学年8学級320人程度の生徒全員が宿泊する施設として、新宿高校同窓会である一般財団法人朝陽会が運営管理するのが『館山寮(塩見寮)』です。

新宿高校朝陽会館山寮

新宿高校朝陽会館山寮

初代校長は、創立間もない大正11年の7月に、夏季休業に入ると同時に第一回の臨海教室を実施した。当初は千葉県安房郡西岬村塩見(現在千葉県館山市香谷区)付近の民家に分宿し、10日間の水泳訓練を実施した。

翌大正12年には、塩見に1600坪の土地を購入し、宿舎を建築し、「塩見朝陽舎」と名付けた。以降、同教室は戦時色が濃くなる昭和17年まで、毎年行われてきた。

昭和33年には一年生が全員参加する学校行事となり、以後、現在まで絶えることなく継続している。塩見朝陽舎は昭和42年に現在の館山寮に改築された。

出典:「伝統に根ざした臨海教室」新宿高校

画像出典:館山寮ホームページ

画像出典:館山寮ホームページ

都立伝統校のOBOG会は、それぞれが法人を設立し、現役生の学校生活を支える活動を続けていることが多いですが、新宿高校同窓会もその一つです。

2019年に房総半島を襲った台風15号により、館山寮の男子棟が倒壊したことがWEB上で報告されています。建物の特徴である赤い屋根が無残にもめくれ上がり、利用できない状況であることが伺えます。

画像出典:新宿高校朝陽同窓会ホームページ

画像出典:新宿高校朝陽同窓会ホームページ

この状況から、同年11月には館山寮再建専用のホームページが立ち上がり、臨海教室復活に向けた活動が始まります。2020年度の状況は明確に分かりませんが、2021年度はコロナの影響で臨海教室が中止となり、再建の時間が得られたものと考えられます。

新宿高校OB会である朝陽同窓会のホームページ上には、再建に対して3,400万円以上の募金が集まったことが書かれています。

新宿高校朝陽会ホームページ

新宿高校朝陽会ホームページ

そしてそれ以上に驚くべきは、新宿高校100周年記念行事に向け、再建とは別に8,100万円以上の募金が集まっていることです。

新宿高校100周年

 1922年(大正11年)、本校の前身となる東京府立第六中学校が開校されてから、いよいよ来年(2022年)には創立100周年を迎えることとなりました。

この節目の年に向かって、記念事業の展開を目指し、2015年には目標額を1億円とする創立100周年記念募金が開始されました。幸い、多くの同窓生また新旧教職員方のご賛同を得、累計約7600万円を超して目標額まであと一歩というところに迫りつつあります。

厚く御礼申し上げると共に、本年,明年の第Ⅳ期2箇年、一層のご協力をお願いいたします。

出典:新宿高校朝陽同窓会ホームページ

今年2022年は新宿高校100周年に当たるようです。

引続き制限下に置かれたコロナの中で、どのようなイベントが行われるのか分かりませんが、いずれにしても思うことは、第一中学である日比谷をはじめとする都立伝統校卒業生の並々ならぬ熱意です。

卒業生の平均寿命が70歳として、18歳卒業から52年、毎年320人のOBOGが誕生すると考えると累積16,640人の卒業生が社会で生活しているということになります。

募金総額8,140万円を頭数で割ると、単純平均で一人当たりちょうど5,000円となります。この募金が全て寄付で賄われたとすると、一般的な同窓会の募金事情から見て非常に熱心な母校愛集団ということになりそうです。

新宿高校は東京府立第六中学校がその前身ですが、かつての有力校であることを示すナンバースクールは、少し調べてみると今でも豊かな伝統行事が行われていることが発見でき興味深いです。

都立伝統校は立地の良さもさることながら、中高一貫校全盛期となった現在でもまだ、その教育へのたゆまぬ想いや伝統が途切れることなく脈々と続いています。

コロナの影響で自由な学校見学や学園祭への訪問が難しい中ですが、その様な伝統や学校の沿革を調べてみることは、志望校を選定する際の動機を裏付ける理由の一つになるかもしれません。気になる学校について様々検索してみてはいかがでしょうか。

機会があれば今年中に、青山高校や戸山高校にも是非訪問してみたいと考えています。そしてその際には、なかなか学校訪問が叶わない受験生や保護者の方に向けたレポートをお届けしたいと思います。

ではまた次回。