2020年9月8日更新:
東京で暮らす一般の子育て家族にとって、中学受験は頭の痛い問題ですが、受験するしないに関わらず、少しでも環境の良い地域で子育てをしたいと望むのが親心。
都心の一等地に建つマンションや住宅であれば、良好な生活環境を期待するのはある意味当然のように思いますが、大部分のビジネスマンにとっては現実的な選択とは言えません。
手の届く不動産エリアで、可能な限り良好な教育環境を確保したい場合に、何を根拠に判断すればよいのか明確な基準はないもの。
学生時代を都内で過ごした保護者であっても、子供の教育環境となれば初めての経験。
ましてや海外や地方から初めて上京する子育て家庭にとっては、どの駅前もそれなりに発展した見知らぬ土地で、生活基盤を決定するのは容易なことではありません。
そうした東京で初めて暮らす子育て家族への応援の気持ちを込めて綴った『日比谷高校の出身中学と住まいを考える』は、長く多くの方にご覧いただく記事となりました。
私立とは異なり、東京都民だけが入学可能であり、かつ大部分の生徒が都内公立中学出身である都立高校。
その中でも、日本を代表する名門校の一つであり、23区を中心に都内全域から出願のある都立日比谷高校の出身中学を確認することで、それぞれの収入に見合った地域の中でも、特に教育に熱心な家庭が集まるエリアを推し測ることができるのではないかと考え、不動産という視点から合格情報を俯瞰してみたのです。
ただし記事を書く時点から気になっていたことは、2年間のデータを頼りにした検証の場合には、特異値の影響を受けやすいということ。ですから最低3年分の根拠はほしいところです。
そんな折に、7月の学校説明会に参加した来年度日比谷合格を目指す保護者の方から、最新平成29年度の合格情報をいただきました。いつも誰かが必要な公式情報を送ってくださるので、本当に感謝しています。
そこで今回は、最新となる2015年から2017年の3年間の都立日比谷高校入試合格情報を垣間見ながら、どんな傾向が伺えるのか、広く考えてみたいと思います。
2017年日比谷高校合格実績
はじめに出身校別合格実績を掲載します。
都内エリアの傾向を見るために、ここでは公立中学のみを取上げています。実際には公立中学のほかに、国立、私立、都外転入、海外からの合格者が存在します。
そして特に今回は、特定のフィルターによる学校抽出を行わず、基礎データとして過去3年間に合格実績のある全ての中学校を表示します。3年間の合格校は合計336校ありますが、全部表示しています。
尚、本ブログで日比谷高校の合格実績を取り上げるのは、公立中学校の序列化や優劣を競うためではない事を予めお知らせします。
地域特性などもあり、日比谷高校への合格者が多くみられるエリア以外にも、もちろん学力面や教育環境に優れた地域は数多くあります。
見やすいように便宜上、336校を学校群制度時代の旧学区毎に分けて掲載します。
それでも縦に長すぎる場合は、途中区切りを設けています。
尚、一覧内の数字の内、
- 生徒総数:学校教育情報サイトGaccomの8月6日付け情報を利用し、3学年全体の生徒数を表示しています。
- 100人当合格数:各年度の入試で生徒100人当たりの平均合格数を表します。
では早速見てみましょう。
1.千代田・港・品川・大田区
学校群制度から日比谷高校指定区域であった第1学区で気が付く点は、3年間でほとんど全ての中学校から合格者が出ていることです。
これはやはり地域的に、日比谷高校受験が身近な存在であり、学習塾や周囲の環境も日比谷を目指すという雰囲気が高いためと考えられます。
こうして改めて見ると、学校群時代の日比谷高校は、本当にローカルな学校だったことが伺えます。
なぜならこの一覧の学校が、日比谷高校合格者のほぼ全てだったからです。現状では、第1学区に限らず一つの区市町村からの合格者は多くても10%程度。特定のエリアからの集中は見て取れません。
これに対して学校群当時は、城南地域と呼ばれるこのエリアの中でも、特に品川区と大田区民の専属に近い学校だった訳ですから、大学進学実績も学校の環境としても魅力的な環境にはなり得ないことは容易に想像がつきます。一貫校への中学受験が盛んになるはずです。
2.新宿・目黒・世田谷・渋谷区
第2学区以降は、学校群制度の中では日比谷高校への受験が不可能だった地域です。
その中でもこの第2学区の新宿、目黒、世田谷、渋谷区は、当時も現在も日比谷高校へのアクセスが抜群に良い地域の一つです。どの区域からも乗り換えなしの30分圏内ではないでしょうか。
行政区の規模もあり、現在は10学区中最も合格者総数が多い学区となっています。この第2区は、日本の誰もが知る、東京を代表する人気行政区でもあるでしょう。
3.中野・杉並・練馬区
第3学区は、都立西高を擁する杉並区を含む城西エリアと呼ばれる地域となります。
杉並区も家族にとって良好な住環境には違いありませんが、南北に隣り合った世田谷区や練馬区と比較すると、やはり日比谷志向はそれほど高くありません。
西高校は合格者の居住エリアを毎年公開していますが、例えば平成29年度の上記資料を見ると、西高のある杉並区からの入学者が突出して高いことが伺えます。
2017年度は46/327=14%、毎年概ね15%を超える合格者が杉並区に集中しており、この点が日比谷高校の傾向と大きく異なります。
日比谷高校と比較するために、地図に日比谷の合格数を合わせて表示しました。比較してみると、西高は隣接行政区からの合格者が50%を超えており、地元志願者が極めて高いということが言えると思います。
この理由の一つは、やはり交通の便が挙げられるでしょう。
東京の代表的な住宅エリアの一つである、城西、城南地区は、とにかく南北方向の公共交通機関の便が悪いのです。南北を結ぶ主な公共交通手段はバスになってしまいます。
このため、練馬や世田谷区に住む場合であっても、通学では一度新宿や渋谷経由で中央線や井の頭線に乗り換える生徒も多いのではないでしょうか。
これに対し日比谷高校の場合は、皇居および政治の中心である永田町に位置しているため、全ての路線は日比谷に通ず、ともいえる交通至便な状況です。
しかも地元の千代田区は、子育て世帯数も子供の数も著しく少ない政治や経済の街という特徴があげられます。
日比谷高校が日本を代表する高校であるのは、長い伝統や進学校としての実績だけではなく、元来が東京メトロポリタン高校とでも呼ぶべき地理的な条件もあるのでしょう。
都外道府県からの転入合格者も多く、広い地域から志の高い生徒が集まり、より刺激の高い多様性のある教育環境を実現しているのです。
4.文京・豊島・北・板橋区
第4学区は、日本を代表する文教エリアである文京区を擁した城北エリアです。一覧からはこの地区の多くの学校からも合格者出ていることが伺えます。
中でも特に文京区は、各校の100人当たり合格者数が他のエリアと比較して非常に高いことがうかがえます。区全体の学校数や生徒数は多くはないものの、日比谷高校志向が特に高い地域ということができそうです。
小、中学校受験も含めた教育熱の高さが伺えます。
5.中央・台東・荒川・足立
城東と城北エリアに跨る第5区は、23区内の学区の中では唯一合格割合が10%を下回るエリアです。
これは学区内最大のベットタウンである足立区からの合格実績が少ないことが他の学区と比較した場合の違いであるかもしれません。
足立区は、江戸川区や大田区と総人口や中学生人口が近い地域ですが、日比谷高校合格という視点で見ると規模の割に少ないということが言えそうです。
確かに、先の西高校の合格学区を見ても、この第5学区は毎年空白地帯のようになっていますから、もしかすると、23区の中では家庭の教育面での志向がそれほど高くないエリアであるのかもしれません。
6.墨田・江東・葛飾・江戸川区
第6学区は、城東エリアの誇る都心に向けた巨大ベットタウン。
ディズニーランドを千葉県側に見ながら、葛西臨海公園、若洲海浜公園、お台場へと続くウォーターフロント地域を中心に、自然豊かな新興住宅街が展開しています。わが家も時々このエリアでのバーベキューを楽しみます。
第6区は、1区、2区と並んで日比谷高校への合格者を多く輩出する住宅エリアです。
横浜方面へと続く西の大田区と並んで、千葉方面への江東区、江戸川区は、特徴的な形状のゲートブリッジで繋がる臨海エリアです。
余談になりますが、横浜方面と千葉方面の往来は、このゲートブリッジを経由すると首都高湾岸線を利用しない場合でも本当に近いです。
東京湾の下に潜ったかと思うと、そのまま一気に天に向かって駆け上がるように真っすぐブリッジへ向かい、まるで天空に続く一本道のようです。渋滞も少なく海の眺めも良いので、ちょっとした観光気分が味わえます。
7.八王子市・町田市他
第7学区からは、多摩地域と呼ばれる23区外エリアです。その中でも町田市は、23区に匹敵する合格者を擁する行政区です。
神奈川県に大きく突き出した孤島のような立地から、日比谷高校への志向が強い理由ははっきり分かりませんが、東急田園都市線と小田急線を中心に、途中神奈川県を横断しながら真っすぐ日比谷高校へ向かう路線であるのは間違いありません。
では最後に、第8学区から第10学区までをまとめてご覧ください。
8.立川・東大和・青梅市・西多摩郡他
9.武蔵野・小金井・国分寺・西東京市他
10.三鷹・府中・調布・狛江・稲城市他
これら多摩地区に共通する傾向としては、100人当たりの合格数から見て分かるように、合格者の絶対数は全体として少ないという現実です。
通学時間というハードルを含め、都立国立高校をはじめ、立川や八王子東といった地域の進学指導重点校を希望する生徒が多いのでしょう。
しかしまた逆に、これらの地域から受験する生徒については、合格率が23区の学校と比較するとむしろ相対的に高く、通学が困難な地域の生徒ほど出願してから実際に受験する割合である受検率も高いということが言えるように思います。
それは、地理的に不利な状況を推してまで、日比谷を目指す決意の強さと自信の表れの反映と言えるのかもしれません。地理的、経済的に受験へのハードルが高い地域の優秀な生徒が、志高く星陵の丘を目指して努力する姿は、日本の将来への力になるに違いありません。
では次に、上記の傾向の確認と合格のエリア別の傾向を見るために、行政区毎のまとめを見てみましょう。
行政区毎の日比谷高校合格状況
2015年から2017年3年間の、行政区別受検状況を掲載します。
この資料が貴重であるのは、合格数だけでなく、出願数や実際の受検者数も記載があることです。
では早速見てみましょう。
23区の日比谷受験状況
多摩地区の日比谷受験状況
2015~17年東京都全体の受験状況
先に記載した通り、受験者そのものの数が少ない多摩地区の方が、相対的な合格率は高いことが伺えます。
受検率に関しては、多摩地区の中でも23区に近い武蔵野市や三鷹市、調布市の影響を受け、全体としては23区より低い結果となりましたが、個別の学校を見れば、受験意思の高い受験生が出願している状況が理解できると思います。
日比谷合格336校の傾向
最後に、日比谷合格数の多い学校の検証のための基礎データを掲載します。
先に掲載した合格336校の実名一覧を見た際に、君が通う学校や、わが子を預ける学区の学校名がない場合には、おそらくは、多少なりとも漠然とした不安に駆られるのではないかと思います。
しかし上の一覧を見れば、そんな不安は根拠のない杞憂に過ぎないことが分かります。
そんな方がまず確認すべきは、3年間の総計で日比谷高校に1名のみ合格者を輩出する中学校が全体の4割であるという事実です。
3年間で2名を含めると、63%に跳ね上ります。そして毎年平均1名合格となる3年合計3名の学校を含めると、約8割がこれに含まれます。
つまり、大部分の合格者は、特定の中学校に集中していないという事実です。
現在一覧に名前がないといっても、7割以上の学校は毎年顔ぶれが変わるのですから、気にする必要はないのです。
いずれにしても大切なことは、住む場所によって合格の確実性が左右されるものではないということです。
本記事で確認していることは、マクロで見た際の傾向の確認であって、一覧の状況が受験生である君自身の受験結果には影響することはありません。
自分の通う学校の名前がなかったり、数が少なくて不安になる場合には、むしろ君自身が日比谷への合格の道を開くのだ、という気概を持てば良いのではないでしょうか。受験本番に近づくにつれ、実際に出願するためには、そうした強いモチベーションが求められることに気付くはずです。
されど存在する毎年合格校
都立トップの日比谷高校の合格中学の大部分が毎年入れ替わる中で、毎年継続的にの合格者を輩出する公立中学校が、一定数存在することも確かな事実です。
一覧で見れば10%の学校が、平均で見れば毎年2名以上の合格者を継続的に輩出していることになります。たかが2名、されど2名。
そして合格336校の平均的な100人当たりの合格者数は0.67名。しかし中には、100人当たり2名、3名と合格者の出る学校があるのもまた事実です。
そうした特異な傾向を持つ学校についての検証を求める方も多いでしょう。そのあたりについては、また別の記事で検証しようと思います。
わが家がそうであったように、一般サラリーマンの家庭が都内で子育てのための新居を決定するのは容易なことではありません。
最近雑誌やネット記事などでは、ブランド小学校と呼ばれる学区の特集を目にすることが増えたように思います。ただ、そんな特別な家庭のための住まい情報ではなく、公立中学への進学を検討するような、もっと幅広い層の子育て世代のための参考情報をお届けできればと思い発信を続けています。
改めて、平成29年度説明会資料を提供くださった保護者の方に、改めて御礼申し上げます。本当にいつも多くの方にご協力いただき感謝しています。
そして、4年実績、5年実績に基づく都内の教育に適した不動産評価を行った記事も、ぜひご覧ください。都内教育事情のより顕著な傾向が明らかとなります。
ではまた次回。
日比谷合格8年実績
比谷高校合格中学6年実績
2019日比谷5年実績からみる教育不動産
2018日比谷4年実績に基づく住まい
日比谷高校合格実績から見た住環境
海外から日比谷を目指す君に送るエール
都立進学校を受験する気にが知るべき真実