日比谷高校を志す君に贈る父の言葉

日比谷高校第一志望ながら、日比谷、開成、塾高のどこに入学すべきか、都立合格発表まで悩んだ父親が贈る、上をめざす君と家族を応援する徒然日記

都立高校受験がメンタルを強くする理由 ~厳しい都立入試に立向かう心

 長かった夏休みは今日で終わり。
2学期は内申点が確定する、都立受験生にとっては大切な時期。

そして2学期が始まる今だからこそ、受験生の君に伝えたい話があります。
それは、受験出願時期の不安な君を襲う、都立進学校入試の制度上の厳しさについて。

都立受験は、中学受験、大学受験と比較しても、強いメンタルが求められる厳しい受験機会だと思います。
ただしそれがわが身に実感できるのは、内申点が確定し、出願校を決定する時期。
今はまだ、その本当の意味は理解できないでしょう。

だからこそ、予めその事実を頭で理解して、この先に訪れるであろう精神的な葛藤の克服に早い時期から取り組むことが、心の余裕を保ち、第一志望を譲ることなく都立高校受験を有利に進めるための方法論となるのです。

今回は、都立受験を第一志望とする君の足元に、初霜のようにいつの間にか訪れる、メンタル面の葛藤が発生する入試制度上の要因を確かめると共に、その精神的な困難を乗り越えるために必要な心構えについて考えてみたいと思います。

 

都立進学校受験機会は一度限り

 教育委員会が公に指定する都立の進学校は、日比谷高校を含む進学指導重点校7校、進学指導特別推進校7校、進学指導推進校13校の合計27校といってよいでしょう。

そしてそれらは入試難易度を基準として、トップ校、2番手校、3番手校などと再分類されることがあります。呼び名は違えども、中学、高校、大学どの入試に臨む際にもこうした難易度によるランク付けが設定されるのは共通事項。

しかし世に数多ある受験機会の中で、都立進学校受験が特異なのは、君が実際に受験できる学校は、泣いても笑っても人生でたった1校だけ、という現実です。

1校一度限り。
諸矢を持つことも、お試し受験も、再受験もありません。
ここが他の受験機会と決定的に異なる点だと、個人的には思うのです。
だから合格を確認するまでは、強い不安に襲われる。

中学受験の私立御三家だって、人生で1校一度しか受けられない。
そう考える方がいるかもしれない。
そう、でも2番手校や3番手校も受けられる。

東大入試だって年に一度しか受験機会がない。
そう、でも望むのであれば翌年にまた受けられる。

国立附属高校も一生に一度切りのチャンスではないか?
そう、でも小学校や中学校から受験機会はある。

都立進学校への受験機会は、現実的に君の人生に於いて一度限り。
先の27校のどれか1校を選び、一度限りの試験に命運を託すのです。

もちろん推薦入試の機会はあります。
だから受験機会は2回と呼ぶべきかもしれない。制度上はそうでしょう。でも当事者になってみれば、一度きりというべき意味は深く理解できるはず。

推薦試験を受けることで、志望校への合格可能性が増加するならば、それは二度チャンスがあると呼べるでしょう。しかし推薦と学力試験は全く別物。現実的にはむしろ一兎をも得ずとなる可能性すらある。
だから学力試験に臨む者の多くが冷静に推薦を見送り、一度限りの受験機会にすべてを賭けるのです。

 

中学受験と高校入試を視覚化する

 言葉で表現すれば、都立高校受験は人生で一度きりということができるでしょう。
しかしそれは、受験当事者でなければなかなか理解できない状況です。
しかも、都立トップ校が私立高校の併願校ですらあった十余年程前までとは、全く状況が異なります。

そこでこうした状況を社会一般の情報としてお伝えするために、これまでの事実を見える形に置き換えてみました。
首都圏私立中学入試と都立高校入試における受験機会の制度上の違いについて、改めて確認してみましょう。

 

私立中学受験機会の見える化

 百聞は一見に如かず。まずは下の図をご覧ください。

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私立中学の受験であれば、経済力と体力気力に問題がなければ、例えば東京より先に始まる千葉県の進学校の1月下旬を皮切りに、2月1日解禁となる都内御三家と続く、首都圏の複数の学校を受験することが可能です。

そして義務教育における完全なるセーフネットとして、中学受験にことごとく嫌われた受験生のために、地元の公立中学校が両手を広げて待っている。
だから深い絶望は経験することがあっても、路頭に彷徨うことは決してない。

ある意味親のプライドさえ飲み込むことができれば、決して切れることのない100%安全な命綱付きの受験機会です。
もちろん、精神的にギリギリの状況が続くのは確かでしょう。
100%安全と書かれることに強い抵抗感を持つ方もいるでしょう。
しかし、成功や失敗という結果に対する評価はあるにせよ、制度面で社会的に安全な受験であることはまぎれもない事実です。
義務教育なのですからそれでよいのです。

これに対して都立進学校受験の場合には、中学受験とは異なる厳しい状況が現れます。 


都立高校受験機会の見える化

 まずは下の図をご覧ください。

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都立受験に関しては、推薦入試を除き、経済力や体力気力の如何に関わらず、異なるレベルの都立進学校27校の中から、志望校を1校に絞って受験しなければなりません。

もうこの時点で相当悩ましい。
しかも最終的な受験倍率は1.5倍から2倍近くあり、他府県の公立進学校の受験倍率と比較しても全般高い数字です。

そして万一、第一志望の合格が叶わなかった場合、次に受験可能な都立進学校はありません。

それでもどうしても都立高校を望む場合には、次のレベルの学校ではなく、残念ながら進学校を不合格となった受験生の獲得を狙って後期募集で門戸を開く、一部の一般校を選択することとなる。

例えば日比谷高校を受験する君の夢が叶わなかった場合、次に受験可能な都立高校は、進学指導特別推進校や進学指導推進校ではなく、後期受験を実施している都立一般校となります。

このため、都立進学校を希望する受験生にとっては、第一志望の学校が一生に一度切りの大切な試験となるのです。

だから誰もが受験校選定に際し、深く悩むのです。

トップ校がダメなら2番手や3番手校でもいい、そうした安易な戦略は成立しない。
だから受験生本人だけでなく、保護者も本当に悩まされるのです。内申点に敏感になるのも、これが大きな理由の一つです。
保護者にとっては、どこの高校か以前に、都立かどうかという線引きも大きい。
ですから白黒の決着がつくまでは、毎日が心配の霧に包まれた状態です。

そして君が培った受験学力という大切な知的資源を、どの都立高校に1点投下するのか、この2学期の終わりに決定しなければならない。
何しろどんなに豊かな学力があったとしても、伸るか反るか、1校に集中投資するしか方法がないのですから。

入学を夢見たトップ校を初心通りに受けるのか、あるいは合格を最優先事項として、2番手校、3番手校を受験するのか、いずれにしても一発勝負。結果の如何に関わらず、悔いることの少ない道を選択しなければならないのです。 
浪人という選択はない。

都立高校受験はその意味で、誰にとっても天下分け目の関ケ原。
自分や家族の歴史が大きく動くのです。

 

メンタルモンスター

 以上のような状況を考えると、都立進学校に通う先輩たちは、学力試験の合格者という以上に、青年期における精神面や戦術面での勝者ということができるのではないかと思います。
武士であれば元服を迎える15の歳に、天下を決する戦に望む。
東軍につくのか西軍につくのか、自ら見極めて駒を進めるのです。
そして潔く結果を受け入れ、将来に向かって歩き出す。

都立高校の生徒が、中高一貫校や大学付属校の生徒と比較してタフだと表現されることがあります。

その理由を、DQNを含めた多様な人種を抱える公立中学校で揉まれたことに要因を求める見解が多いように思いますが、個人的にはそれ以上に、思春期を迎えるその時期に、これまで見たような厳しい状況を乗り越えたことが大きいのではないかと思います。

一貫校生や附属高校生が中だるみさえ感じるその時期に、一方で命運をかけて関ケ原の戦いに一国一城の大将として参戦する。
小中学受験と高校受験の大きな違いの一つは、それを迎える年齢にあるでしょう。

中学受験は親の受験と指摘する文章をよく目にします。親が軍師です。
これに対して高校受験は、受験生本人が主体の受験。

勘定奉行である両親の財務事情を頼りに、兵糧不足や弾丸不足といった足元の状況に対応しながら、自ら軍師として戦略を練り、駒を進め、自ら結果への責任を負うのです。
厳しい状況を乗り越えたからこそ獲得できる経験値。

企業が出身高校を確認する。
その理由も同じではないでしょうか。

もちろん、都立高校進学にこだわる必要がなければ、難易度に応じた私立高校を複数受験することは可能です。
しかしその場合でさえ、なかなか難しい現実が横たわっているのです。

 

都立受験生にとっての私立高校受験

 首都圏には私立高校がごまんとありますが、高校受験生にとってはそれらの多くは絵に描いた餅にすぎません。
何しろその多くの学校には、高校受験枠がないのですから。

これを視覚的に見てみましょう。

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既にお話しした通り、都立進学校を目指す受験生にとって、併願校となり得るのは国立または私立高校しかありません。

渋幕、開成、国立附属、早慶附属など、トップ校受験生の併願校となる高校受験枠を持った有力高校は、数は非常に少ないとはいえ、確かに一定数は存在します。

しかし残念ながら、学力上位の受験生にとって併願校や抑え校となるのに適した、2番手校から3番手校辺りの高校入学枠が圧倒的に少ないのです。

だから万一の場合の確実なセーフネットを確保するためには、トップ校を狙う君自身の実力よりもずっとレベルを下げてみるか、一般に併願優遇と呼ばれる、第一志望が不合格だった場合に絶対入学を求められるバーター取引に応じるしかありません。
都立が1校しか受けられない上に、ちょうど感のある併願校が極端に少ない。

こうした状況は、特に女子受験生とその保護者が強く感じることでしょう。

この社会的な構図は、受験生にとって残念な状況であるばかりでなく、私立高校自身にとっても残念な状況といえるのではないでしょうか。

なぜならば、首都圏の高校受験生には、中学受験適齢期の網にかからなかった優秀な生徒がたくさん存在するからです。

それはある意味当然です。
東京は流動性の高い街。経済的理由で私立を回避した生徒だけでなく、内外大小様々な企業の本社や東京支局に栄転するような、意識の高い家庭で育った教育水準の高い生徒が、一貫校の入学準備に間に合う時期を過ぎた後にも、地方からも海外からも、後から後から大量に流れ込んでくるからです。

もちろん中高一貫校の中には、良質な生徒に対して良家の専属家庭教師や執事のように寄り添い成長を見守る、という教育に主眼を置く学校もあるでしょう。

その一方で、実質的に進学実績に主眼を置く学校も多い。
そうした進学校は、この数十年、逆に高校受験枠を廃止して、ある一定期間に首都圏に集まった優秀な生徒を刈り取って囲ってきました。
その影響を受け、東京で高校の門を叩こうとする者の利便性は著しく低下したのです。

中高一貫校の多くの学校において、公立中学校を卒業した能力のある者が、ひとしく教育を受ける機会がいつの間にか失われてしまったのです。

日本国憲法 第二十六条

すべての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
すべての国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。


高校受験機会を持たない中高一貫校は、どんな法的根拠に基づき高校入学枠を排除しているのだろう?
能力を有し、教育機会を求める者に受験機会さえ与えない状況は、ひとしく教育を受ける権利を阻害してはいないだろうか?
日ごろ漠然と感じていた、素朴な疑問が再び喚起される瞬間です。

 

都立受験機会は現状のままでよい

 以上、都立進学校受験生の置かれた状況について長々と書いてきましたが、それでも個人的には都立高校受験機会は一度切りでよいと考えています。
その理由は以下の通りです。

 1)入学枠が変わらなければ同じ
 2)実社会の現実に近い
 3)学校側の負担が大きい

入学枠が変わらなければ同じ

 例えばお隣の千葉県県立高校入試では、前期試験と後期試験の2回の受験機会が設定されています。
しかし正直に言うと、合格枠が同じであれば、受験機会が何回あろうとも結局は同じだと思うのです。分割すれば受験機会は確かに増えますが、それぞれの合格者数は減る。しかも入試制度がより複雑になると思うのです。
そして一発勝負とはまた異なる悩みが新たに発生する。

結局は、受験機会が増えただけでは受験生の利便性が増すとは思えません。もちろん、文科省が提唱するインフルエンザ対応などのセーフネットとしては有効かもしれませんが、受験生が手放しで喜べる制度とはならないでしょう。

この点は、過去の国立大学二次試験の制度変更の歴史を見れば明らかです。
一発試験であったり、AやB、前期後期に分割してみたりまた一つに戻してみたり。
離れたりくっついたり、それぞれ一長一短があるのでしょう。

実社会の現実に近い

 社会に出ればすぐに気がつくことですが、営業でもコンペでも、顧客や審査委員に対してプレゼンがが許される機会は本番一度限り。
天候も体調も、その他の内外環境要因も考慮してはもらえません。

諸矢を持つことなく一点集中により物事を突破しようと試みる。
それ自体はごく自然な、そして人を鍛える状況にあります。

だから敢えてそれを再構築するほど、複数受験制度が優位であるとは思いません。

都立入試の挑戦機会を考慮する以前に、中高一貫校の高校入学枠の拡大を改善する方が、東京における現実的な受験生支援となるでしょう。

学校側の負担が大きい

 学力試験を複数回実施する場合、当然入試問題についても回数分用意する必要があります。

これは学校側の負担が相当に大きい。
特に日比谷高校のような進学指導重点校の場合、自校作成問題を複数入試分準備するのは非常に負荷が高く、むしろ試験問題全体の品質が低下するでしょう。
学力試験の複数回実施は、入試選抜の質的向上とは反比例するように思います。

先生方にはとことん考え抜いた良問を、一度限りの試験に集中して作成してもらいたいと思います。

都立高校入試において学力試験は一度でいい、そう思うのです。

 

一生一度の都立受験に向かうために

 いかがでしたでしょうか。

2学期を迎える君に伝えたいことは、一度限りの受験機会に臆することのない強い気持ちを持つことの大切さ。

都立進学校受験の厳しは、誰の上にもひとしく降りかかる。
君だけ特別に不安ということはない。
まずはその事実を理解すること。

そのような中で、この先君が感じる不安や葛藤は、まずは次のような行為に対して集約されるでしょう。

どの学校に出願するのか決定すること。

そして更に悩ましいことに、あれほど時間をかけて出した結論を、受験生全体の応募倍率を見た後に変更する機会が訪れる。

その最後の瞬間に導き出した答えが、15歳の君が下した人生の決断となる。

 9回表3点先行2アウトランナー無
 2ストライク3ボール

でピッチャーが選択する最後の一球と、

 9回裏1点先行2アウト満塁
 2ストライク3ボール

で選択する一球は同じだろうか。

そして同じであったとしても、果たして同じ球が投げられるだろうか?

受験生の君が立つべきマウンドは、おそらく前者に違いない。
心に余裕を持ったピッチング。多少打たれても構わないという心のゆとり。

このためには、もちろん確かな学力と希望する最低限の内申点の確保が基本であることには違いありませんが、それと同時に、本命も併願校も叶わない結果となった最後の最後に初めて意識に登場する抑え校を、心の余裕のある今から少しずつ探すこと。

おそらくは君の人生にとって縁のない学校を、直前になって慌てて探すのではなく余裕をもってしっかりと準備することで、例え2アウト満塁のフルカウントからでも、切り札となるフォークボールを思い切り投げ込むことができる状況が生まれる。

それは憧れの第一志望を想うような、心ときめく時間ではなく、感情を挟むことなく無意識の内に進めるような、試合に臨む際に必要となるある種のルーティーン。
高所へ挑戦する際には必ず最初に確保する命綱を、高校受験でも予め準備すること。

もちろん、自分を追い込むことで初めて真の力が発揮できると断言できる君にとっては、都立第一志望一本、抑えどころか併願校さえ必要ないのかもしれませんが。

 

2学期は内申点の決定する大切な季節。
内申点の確保や学力の向上は、受験生の君にとっては当たり前の課題。
その課題をできる限り最良の結果で終わらせることと並行して、今から少しずつ併願校や抑え校の情報に意識を向けてはいかがでしょうか。

ではまた次回。

 

日比谷高校を目指す君の最初の一歩 

 適切な併願校がない!都立高校入試事情

 併願校について真摯に考える

 高校入学枠を排除する中高一貫校の行く先