都立受験 出題範囲縮小の影響

 東京都教育員会は、6月11日付で令和3年度(2021年度)における都立高校入試の出題範囲の縮小を発表しました。除外範囲は以下の通りです。

2021年度都立高校入試除外範囲

2021年度都立高校入試除外範囲/出典:都教育委員会

この発表を受けてどのように感じるかは個人や立場により様々だと思いますが、都立重点校を第一志望とする受験生にとっては大きな影響が出るとは思いません。

出題範囲に関わらず、従前計画した進度で勉強を進めるだけだと思います。

影響するのはむしろ、出題を考える学校側にあるといえるでしょう。

公表された通知には例外規定などは付記されていませんから、日比谷のような自校作成問題出題校であろうと、教育委員会の意向を無視して除外範囲の出題を課すことはできないからです。

特に英語の場合、関係代名詞の含まれない英文をどのように構成するかという点は、出題者にとっては悩ましい課題ではないかと感じます。

このため、問題の構成自体が大きく変わることはないと思いますが、個々の出題では例年とは少し傾向が変わる可能性はあるかもしれません。受験生としては、その辺りは予め留意が必要だと感じます。

 

 

重点校第一志望受験生の落とし穴

 日比谷など進学指導重点校第一志望の受験生の内、仮に出題範囲が狭くなったことで”やった”と思った受験生がいるとすれば、その生徒は危険な罠にはまる可能性があるので注意が必要です。

その油断が命取り、ということです。

仮に”ラッキー”と思った受験生がいるとすれば、その生徒は第二志望の受験科目に理社が含まれない私立3教科型入試の受験生か、第二志望は併願優遇で予め合格が決まっている受験生である可能性が高いのではないかと思います。

その理由は、高校受験に必要な理社の勉強が、都立共通問題に限られるからです。

理社の出題範囲が狭まれば、当然入試対策としての負担も軽減されますから、主要3科目に注力できる時間も増え、受験対策に有利な状況が発生するとの認識です。

しかしその発想は大きな矛盾を孕んでいます。

何故ならば、都立重点校を第一志望とする受験生の多くが、国公立難関大学受験を志向する生徒であるに違いないからです。

自校作成問題校のライバルの多くが、入試範囲に関わらず、というよりはむしろ中学の学習要領の範囲を超えた受験勉強をする中で、自分だけが本来やるべき範囲さえも真剣に勉強しないという状況をラッキーと感じるのは、自ら高校入学後の困難を作り出しているということになり兼ねません。

今回は、併願校がどこかにより影響が異なる可能性が高いように思いますので、この点について考えてみたいと思います。

 

開成・国立附属第二志望の受験生

 開成や国立附属など、5教科型の受験校を第二志望とする受験生にとっては、今回の都立受験範囲の縮小は全く関係ないといえるでしょう。

理由は単純で、これらの高校の試験範囲の縮小は予定されていないからです。

しかも5教科難関校は、元来都立重点校の入試問題よりも難易度が高く設定されていることが多いため、第一志望よりも第二志望の試験問題の方が難しく、学習範囲も広いという逆転現象が生じています。

長男が日比谷を受験した際も、第一志望であるはずの日比谷の過去問を解いたのは本番2週間前、第二志望の入試が終わってからという状況でした。

理由は開成の試験問題に焦点を合わせて勉強している受験生にとっては、理科社会が共通問題である重点校の入試問題は楽勝という感覚があるからです。英数も然りです。

ですから、5教科型の難関高校を第二志望とする生徒にとっては、今回の出題範囲の縮小は受験勉強に全く影響がありません。

 

早慶私立3教科型第二志望の受験生

 今回の出題範囲の縮小が影響しそうなのが、先にも触れた3教科型難関高校を第二志望とする生徒です。

実は都立重点校を第一志望とする受験生にとって、早慶などの3教科型難関高校は非常に相性が良い併願の組み合わせになります。

何故ならば、英数国は難関私立の入試問題の方が出題難易度は高く出題範囲もより広いという状況があると同時に、理科社会は試験がないため、3教科は重点校対策として十分な入試強度をもたらすと共に、理社の負担が少ないという、受験生にとっては非常に都合のよい状況が生じるからです。

しかし実はこの状況は、重点校から難関国公立大学を目指す受験生にとっては諸刃の剣ということがあります。

高校入試を考える場合には、理社の負担が減ることで英数国3教科に集中する状況を確保することが可能となるため最強の組み合わせである反面、3年後に迎える大学受験に対しては、少なくとも共通テストは最低限、難関大学を志望する場合は二次試験でも軽くはない理科社会への対応が求められるからです。

従って、都立重点校から難関国公立大学への進学を希望する受験生にとっては(重点校志望者の大部分がそのような希望で進学するのだと思いますが)、難関私立3教科型入試は高校入試の併願校としては最適最強の組み合わせである反面、高校入学後の学習面での余裕や大学入試に向けた対策としては脆弱という状況が発生しがちです。

そして今回の都立出題範囲の縮小により、3教科型受験生にとっては更に効率的な受験勉強が可能となります。

英数国の3教科の受験範囲は従来通り私立入試に合わせて変わらない反面、理社の負担が更に軽くなるからです。

その結果、高校受験を考える場合には更に都合のよい状況が発生する反面、難関5教科型受験生との学習面での潜在的な学力差はより広がる可能性があり、予めそうした状況がある点を高校入学前に留意して臨む必要があると思います。

 

併願優遇校第二志望の受験生

 これまで見てきた受験生は、重点校入試よりも難易度の高い受験勉強を前提とした生徒の状況ですが、重点校志望者の中には、重点校入試が最高難易度の試験である受験生ももちろん含まれます。

こうした生徒の多くが、第一志望の都立高校が不合格だった場合に、入学を確約する事とバーターで得られる併願優遇を利用する状況があるのではないかと認識しています。

併願優遇を利用する場合には、開成・国立附属・早慶といった国私立難関校は受験しないことになりますから、日比谷のような自校作成問題がその受験生にとって対策すべき最高難易度の試験になります。

この場合、入試範囲の縮小により、英国数理社5教科全ての出題範囲が縮小されることになりますから注意が必要です。

先に見た通り、高校入試偏差値上位校を押さえとするライバルは、入試範囲の縮小どころか範囲を超えた学習内容を先取りしている状況があることから、教育委員会の発表を文字通りに受け止めてしまうにはいささか弊害があります。

理社だけでなく、英数国も大きく水をあけられるリスクが潜んでいるからです。

もちろん、早慶の理科社会と同様に、初めから試験に出ないと分かっている範囲を受験対策として取り組むのは合理的な判断ではないため、どうしても対応が後回しになってしうのは仕方ない面もありますが、例えば関係代名詞を十分理解しないまま3月を迎えて本当によいのかという状況に対しては、十分危機感を持つべき必要があるだろうと思います。

少なくとも高校入学時点では、もちろん中学の学習範囲は十二分に理解されているということが前提で授業が始まりますし、多くのライバルはもっと先に進んでいるという事実を肝に銘じておく必要があるでしょう。

2021年度 併願校別・都立出題範囲縮小の影響

こうした状況は、実はコロナ前の例年の入試の時からあったのですが、出題範囲の縮小により学習進度の差異が生じやすくなっているため、よりシビアなリスクとして認識されるべき内容だと思います。

 

 学習塾による格差

 おそらく、開成・国立附属や早慶附属を受験する生徒の多くが学習塾を利用している状況があるのではないかと思います。

これらの難関校対策を行う塾であれば、まさか都立の出題範囲の縮小に合わせて学習範囲を狭めるということはないでしょう。

しかし、学力はそこまで高くはない生徒を、何とか重点校に滑り込ませようと考えるような学習塾では、受験効率を最大化するために、出題範囲の縮小をチャンスととらえて塾での受験対策範囲から除外してしまうということがあるかもしれません。

もちろんこうした対応は、第一志望に合格するために最短距離を歩むための合理的戦略であるといえるのかもしれませんが、先述の通り、少し長い目で見ると賢明な判断であるとは限りませんから、生徒自身が塾の対応方針を認識した上で、その方法を納得して受け入れるという意識が必要ではないかと思います。

一方、通信添削やタブレット学習を利用している場合には、全国的な標準カリキュラムがありますから、都立だけの範囲縮小に合わせた入試対策は行われないように思いますが、今後全国的に入試範囲の縮小が進むような場合には、もしかすると、通信教材でも入試対策として学習範囲を狭めるような対応が積極的に行われるかもしれませんので予め留意が必要です。

また、塾などを利用せずに独学で受験勉強に向かう受験生についても、上記のような状況があるという点について、しっかり認識しておく必要があります。

 

SNSや掲示板のウソに関わらない

 今回のような報道があると、SNSや掲示板では大々的なネガティブキャンペーンが展開されることが容易に想像できます。

例えば、都立受験生の学力が下がった結果、大学入試に不利だというような意見が登場する可能性があるでしょう。

でもそれは、重点校を受験する君にとっては関係ないこと。

ネット上には思い付きや特定の目的の遂行のために発信された、明らかなウソが蔓延していますから、そうした意見には耳を貸さないことが受験生に求められるSNSリテラシーです。

新型コロナによる長期の休校期間によって、難関高校受験生の受験対策はむしろ例年よりも進んでいる可能性さえあります。

その理由は皮肉にも、学校の通常授業が行われないからです。

中学受験生の親が学校を休ませようとするように、受験というイベントを考える上では、学習塾その他により授業の遅れの影響を受けない生徒にとっては、休校はむしろ受験勉強にじっくり取り組めるという意味において追い風となる可能性すらあります。

ですから都が入試出題範囲の縮小を宣言したからと言って、受験勉強をする上では何もそれに従う必要はないのです。

面白おかしく語られる情報に惑わされることなく、コロナ前の目標をしっかりと見据え、自信をもって前進することが今求められるのではないかと思います。

ライバルは止まることなく、むしろ前へ前へと着実に進んでいるのですから。

ではまた次回。

 

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