桜丘中学と世田谷内申ランキング

2021年4月5日更新:

ちがいを知り、ちがいを示す/画像出典:TOKYO2020ホームページ

画像出典:TOKYO2020ホームページ

 人口90万人を超え、都内行政区の中で人口および転入者数共に最多となる世田谷区。私自身も馴染みある行政区の一つです。

世田谷区といえば世間では、世帯年収も教育水準も相対的に高く、都心よりも郊外型の環境を求める子育て家族に人気の街というイメージが一般的ではないでしょうか。

公立中学に着目すると、2020年9月現在、世田谷区には29の区立中学校が存在し、約1万1千人の生徒が通っています。

都内では八王子、足立、練馬、江戸川に次いで5番目に公立中学の多い行政区であり、総じて教育熱心な家庭が集う印象のあるこの地域について、各学校の教育環境を内申点という観点から考えてみます。

標準内申点という考え方

 東京都教育委員会では、都内公立中学校約600校の内、3年生の生徒総数が40人以下の小規模校を除く全ての中学校について、各校9教科の内申点の評定状況を毎年公開しています。

都教育委員会・中学校等別評定割合

ですから誰でもその気になれば、各学校の内申状況を比較確認することは可能です。

ところが実際には資料を眺めてみても、そこには内申点の割合が並ぶばかりで、どの学校の内申評価が高いのか低いのか、単純に比較することが難しい状況にあります。

そこで東京子育て研究所では、独自の内申評価の基準として、都立高校受験で利用される内申得点を算出することで、学校間の内申比較を行う方法を提案しています。

結局のところ、生徒や保護者が内申点を意識するのは、学校や教師からの評価を気にしているというよりは、高校受験への影響を懸念しているに他ならないからです。

2019年度全都公立中学校内申平均値

この一覧は、都内全域の公立中学の平均内申点に対して、加重平均から各教科の標準内申点を割出し、その値を基に都立高校受験1,000点満点における内申点300点分の得点として換算算出した指標となります。

中学全体平均では、一般入試の内申点300点満点中、199点が標準得点となります。

この評価基準を各学校について適用し、高校入試の合否判定に関わる内申点を算出し、その数字を比較することで、学校間の内申評価の差異を確認したいと思います。

世田谷区の標準内申点状況

 世田谷区では、公立中学29校の内、小規模校1校を除く28校の状況が公開されています。これを内申評価の高い順に並べてみると、以下のようになります。

2019年度世田谷区28校内申点ランキング

まず世田谷区全体としては、全都平均と比較すると内申得点は5.2点高いことが確認できます。区全体としてみると、全都平均よりは高い内申点を期待できる地域となります。

ところが個別の中学校に注目してみると、公立中学に通う生徒や保護者の方にとっては戸惑う状況があるかもしれません。

なぜならば、突出して高い標準内申点を示す中学校が存在するからです。

この特異な状況を実現しているのは、千代田区の麹町中学と並んで近年マスコミ注目度が高い桜丘中学校です。

  • 校則廃止
  • 宿題廃止
  • 定期テスト廃止
  • 服装髪型自由
  • スマホ持込み自由
  • 登校時間自由
  • 学習場所自由

など、生徒の自主性に任せた教育方針で、世間からの注目と支持を集めています。

都立高校入試の内申点300点満点を基準に換算した桜丘中学の内申得点は234.4点となり、先に見た都内中学平均の199点よりも35.4点も高い状況です。世田谷区だけでなく都内全体の中でも突出しています。

一方、同じ世田谷区内においても、都内平均よりも低い平均内申点の学校も複数あり、なかなか微妙な状況です。

標準内申点が中学平均より35.4点高いという状況は、都立高校入試において、同校に通う生徒一人一人に対し、予め35.4点分の潜在的なボーナスポイントが与えられていることと同義だと聞けば、その意味の重要性がはっきりするでしょう。

(誤解のないように念のため記載すると、試験の得点は500点満点が700点に換算されるため、試験の1点は1,000点満点中の1.4点となります。このため内申点35.4点は、入学試験の得点換算では25.2点差となります。それでも大きな差ですが)

この状況は、桜丘中学と学区が隣接する最寄りの中学校と比較しても、標準内申点に30点近い開きが認められることから、その差が家庭の教育意識や子どもの能力差ではなく、学校の内申点の運用方法にあると判断するのが妥当であるように思います。

桜丘中学は、9教科の平均的内申点について5の割合が最も高く、実に学年の1/3以上の生徒が内申5を取得する状況となっており、世田谷区内のその他の27校全ての内申の平均値が3であることと比較すると、やはり突出して高い値です。

2番目に内申評価の高い中学校と比較しても、その高さは一目瞭然です。

桜丘中学の内申状況

 では実際に、桜丘中学の各科目における内申状況を確認してみましょう。2019年度の状況は以下の通りとなります。

2019年度内申点の一般入試得点換算:世田谷区立桜丘中学

桜丘中では、国語、数学、英語、理科、音楽、技術家庭の6科目について、内申5が最多割合となっており、多くの科目で実に4割近い生徒が5を獲得しているという、他の学校の保護者としては何とも羨ましい状況であることが分かります。

そして桜丘中の東側周囲2kmの範囲には、世田谷中、鶴巻中、駒沢中、用賀中が位置しています。

この小田急線の梅が丘、経堂、千歳船橋と、東急田園都市線の駒沢大学、桜新町、用賀に囲まれたこのエリアは、都内でも若い子育て世代に屈指の人気を誇るエリアの一つです。暮らしを営むには、それなりの収入が求められます。

世田谷区立桜丘中学校周辺地図

世田谷区立桜丘中学校周辺地図

ところがこのエリアの公立中学を、内申点という尺度で眺めてみると、なかなか複雑な状況があります。

2019年度桜丘中学周辺校期待内申点

理由は、世田谷区の公立中学28校の中の標準内申点の高さについて、桜丘中学は1位、鶴巻中学は2位、用賀中学は8位、世田谷中学は9位であるなど上位を占めるのに対し、駒沢中学は28位の最下位で、世田谷区中最も内申点の渋い学校であるからです。全都平均と比較しても約10点もマイナスとなっています。

鶴巻中と駒沢中は学区が隣接していますが、道を挟んだ向こうとこちらで、期待される内申得点に26.3点もの差がある状況です。

概ね同じ環境と不動産価格であるにも関わらず、都立高校進学という目で見ると努力だけでは埋めがたい開きがあります。 

やり直しテストによる到達度評価

 桜丘中学の期待内申点が異常に高い理由は、同校のシステムを記載した以下の文章が明確に示唆しています。

積み重ねテストとは、100点満点の定期テストの代わりに、10点満点の小テストを10回、ないし20点×5回に分けて行うというもの。「ミルフィーユテスト」というかわいらしい愛称がつけられ、週3日程度(1日1単元)、始業前の20分間で実施している。

芳しい点数がとれなくても、後日、敗者復活の「チャレンジ・テスト」も用意されており、通知表の成績には良いほうの点数が反映される仕組みだ。

NEWSポストセブン:2019年10月21日

定期テストを廃止して、スモールステップ的な小テストを継続的に実施するのが子の教育にとってベターかどうかの議論は別にして、上記のやり直しテスト方式で内申点を評価していることが事実であれば、学校全体の内申評価が相対的に高止まりするのはある種当然と言えるでしょう。

他の公立中学校に通う子をもつ保護者の方は、少しやるせない気持ちになるのではないでしょうか。生徒や保護者の努力では如何ともしがたい、評価基準の差が存在するからです。

一部の学校は再試験が認められる複数テスト評価方式、その他大部分の学校は一発方式の学習到達度評価です。得点差が現れるのは、当然の結果といえるでしょう。

こうした方式の差は校長個人の教育理念で決まるものなのか分かりませんが、内申点が高校受験に影響を与えるという点においては、やはり心穏やかでない状況があります。

最近、都立高校の男女定員が槍玉にあげられることがありますが、入試における機会平等性を確保する意味においては、この評価方法の違いがもたらす内申点格差の方が大きな問題のように思ます。

定期テストを実施する学校においても、桜丘中学と同様に再チャレンジテストの機会を提供すべきではないかと感じます。

定期試験における新しい評価方式

 実際には定期テストを2回実施するのは教師の負担も大きく現実的ではないというのは容易に理解ができますので、例えば間違った問題を解き直して再提出し、正解であれば得点の半分を加算するなどの方法が運用上現実的かもしれません。

 

図らずも、実施が延期された大学共通テストにおける英語民間試験において、複数受験が可能であり、高い得点が持ち点となるという考え方が導入されようとしています。仮にこのような評価方式が今後の受験制度の主流となるのであれば尚更です。

あるいは桜丘中学の新しい取組が、明らかに生徒の自主性の涵養や能力の向上に寄与するものであれば、教育委員会は同校が採用する能力確認方式の導入について、むしろ全ての学校に対して進めるような方針を打ち出すべきであるように思います。

いずれにしても、都立高校受験という、ある種の都大会競技において、所属校により適用ルールが異なる生徒が同じ土俵で競い合う現在の状況は改善すべきだと感じます。

仮にルール変更が学校長の裁量で決まるならば、教育委員会や学校長は、現在の状況に対し、もう少し前向きな方向でギャップを埋める努力をしてほしいと思います。

「ちがいを知り、ちがいを示す」

だけではなく、

「ちがいを知り、ちがいを正す」

状況により、どちらも健全な社会に求められる資質だと思います。

内申点から見た住まい選び

 ここで見た通り、内申点の獲得しやすさには、世田谷区に限らず学校間による格差が存在することは確かなようです。

内申点の格差は、桜丘中学のように制度そのものに起因する特殊な理由による場合と、行政区間で比較するようなより広い居住エリアの特性の違い、例えば地域所得の大小、により生じる場合があることは確かだと思います。

いずれにしても、公立中学における標準内申点の高い地域は、教育に関心の高い家庭にとっては、ある種合理的な住まい選びの基準の一つになるように思います。

内申点がその学区内の生徒の資質に依存すると考える場合

高い内申点が期待できる地域には、教育意識の高い家庭で育てられた、相対的に能力の高い子どもが多く、周辺に良好な教育環境が育まれていると推察される。

内申点が学校の基準差によって生じると考える場合

子供の資質に関わらず、都立受験の際に高い基準点が享受できる

つまりいずれの場合でも、良好な教育環境を求める家庭にとっては、その学区を積極的に選択すべき理由の一つになると考えられます。

そのように考えると、中学校の標準内申点という数字には、単に満足感や不公平感といった感情に訴えかける以上の潜在的な社会的価値が伴うことが理解されます。

世田谷区だけを見てもこれだけの得点差がみられるということは、都内への転入と都立高校進学を希望する家庭にとって、公立中学校の内申点の動向は、敏感にアンテナを張って収集すべき情報であるに違いありません。

ただしその情報は、簡単には取得できるものでないこともまた確かです。東京子育て研究所では、そのような情報の提供を目指して、引続き内申点の状況に注目した発信を行いたいと考えています。

ではまた次回。

【動画】桜丘中学と世田谷内申ランキング


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